保護貿易(protective trade)とは経済学の用語であり、自由貿易の反対語である。
保護貿易とは、関税などの政府の介入を実行して経済活動の自由を制限し自国産業または外国産業を保護しつつ貿易を行うことをいう。
保護貿易は様々な形態を持っているので、本記事の『形態』の項目で解説する。
保護貿易は様々な長所を持っているので、本記事の『長所』の項目で解説する。
保護貿易は様々な短所を持っているので、本記事の『短所』の項目で解説する。
保護貿易はいくつかの性質を持っているので、本記事の『性質』の項目で解説する。
保護貿易を支持する経済理論で最も有名なものは幼稚産業保護論である。
幼稚産業保護論とは、18世紀のアレクサンダー・ハミルトンや19世紀のフリードリッヒ・リストが提唱した考え方で、国際競争力がつくまで幼稚な国内産業を保護貿易で守りつつ育成すべきという主張である。
18世紀のアレクサンダー・ハミルトン、19世紀のフリードリッヒ・リストやトマス・ロバート・マルサスなどが保護貿易の提唱者として知られる。
17世紀のトーマス・マンやジャン=バティスト・コルベールなどが重商主義の提唱者の代表格であるが、重商主義は保護貿易の典型である。
16世紀から18世紀にかけてヨーロッパ諸国で重商主義という思想が重視された。重商主義は重金主義と貿易差額主義の2つに分かれるが、とくに後者の貿易差額主義は保護貿易を大いに支持して純輸出を増加させて自国の富を増やすことを優先する思想であった。
1945年に第二次世界大戦が終結し、1948年にGATTが発足した。GATTは自由貿易を推進した機関として認知されているが、実際は保護貿易を大いに認める機関だった。
GATTの体制では、農業・金融・電力・建設などの分野は貿易自由化の交渉から基本的に外されていた。貿易自由化の対象とされたのはもっぱら工業分野だったが、その工業分野においても様々な例外措置や緊急避難的措置(セーフガード)が設けられていた。例を挙げると、1956年から1981年の頃の日米両国はどちらもGATTに加入していたが、米国の要求により日本が綿製品・鉄鋼・繊維・カラーテレビ・自動車といった工業品の対米輸出を次々と自主規制することになった。GATTの体制における貿易は「管理された自由貿易」「マイルドな保護貿易」と言っていいようなものだった[1]。
GATTの時代において輸入代替工業化の政策を実行する発展途上国が多く現れた。輸入代替工業化は、高率の関税を掛けて外国からの工業製品の流入を阻止し、自国で工業製品を生産することを奨励するものであり、保護貿易の典型例である。
アメリカ合衆国は世界最強の覇権国家であり、他の国への影響力が大きい。
19世紀から20世紀にかけ、アレクサンダー・ハミルトンの影響もあり、アメリカ合衆国は関税の高い保護貿易の国だった。
1994年にNAFTAが発効してから2017年まではアメリカ合衆国でも自由貿易が支持される時代だった。
しかし2017年になってドナルド・トランプ共和党政権が始まり、それと同時にアメリカ合衆国は保護貿易の国になった。ドナルド・トランプ共和党政権はTPPを離脱し、2018年7月から多数の中国製品に高率の輸入関税を掛け、バイ・アメリカンと呼ばれるような大統領令を発して政府購入の際に自国製品を優先して選択するようになり、NAFTAを廃止してメキシコやカナダ経由で安価な外国製品が流入することを防いだ。そうした保護貿易の政策はすべてジョー・バイデン民主党政権に引き継がれた。
輸入関税(import tariff)は、外国産の物品を輸入する輸入業者に対して政府が税金を課すものである。
輸入関税が掛けられると、輸入業者が輸入品を国内業者に販売するときに輸入関税の分を価格転嫁するので、輸入品が高額になる。そうなると、国内で類似品を製造する業者は価格競争しやすくなり、国内産業が保護される。
外国産の物品の輸入が急激に増えたとき一時的に輸入関税を引き上げることを緊急輸入制限とかセーフガードという。
輸入割当制度(import quota)は、外国産の物品に関して無税または低率輸入関税で一定量または一定金額までの輸入をすることを許可し、それを超えた量または金額の輸入を禁止し、割り当てを受けた業者にのみ輸入を許可することをいう。IQ制ともいう。
外国産の物品を輸入したいと思った輸入業者たちが政府に届出をして、それに対して政府が「輸入業者Aに10トン、輸入業者Bに9トン、輸入業者Cに5トン、・・・」といった具合に輸入量を割り当てる。
輸入割当制度が実施されると、市場において輸入品の需要が一定であるのに輸入品の供給が少なくなるので、輸入品が高額になる。そうなると、国内で類似品を製造する業者は価格競争しやすくなり、国内産業が保護される。
外国産の物品に関して輸入量をゼロにまで制限したら、禁輸と呼ばれる。
関税割当制度(tariff-rate quota)は、外国産の物品に関して無税または低率輸入関税で一定量または一定金額までの輸入をすることを許可し、それを超えた量または金額の輸入に対して高率の輸入関税を掛け、割り当てを受けた業者にのみ輸入を許可することをいう。
輸入割当制度によく似た制度である。
政府購入における国内企業の優先とは、公共事業や軍需などの政府購入において国内企業の財・サービスを優先する制度をいう。
この制度を導入した国では、政府購入の分野において輸入品への需要が減って輸入品の競争力が落ち、自国生産品への需要が増えて国内産業が保護される。
アメリカ合衆国がたびたびこの政策を採用していて、バイ・アメリカン(Buy American 米国製品の購入)という名前で呼ばれている。1933年にバイ・アメリカン法を制定し、2017年1月発足のドナルド・トランプ共和党政権や2021年1月発足のジョー・バイデン民主党政権も数々の大統領令でバイ・アメリカンを強化した(記事)。
輸入補助金(import subsidy)は、外国産の物品を輸入する輸入業者に対して政府が補助金を払うものである。
輸入業者は輸入品を安価に国内へ販売することができる。つまり輸入補助金は、輸入関税や輸入割当制度や関税割当制度と正反対の政策である。
A国が巨額の貿易黒字になったする。それを見たB国政府は、A国政府に対して外圧をかけ、A国政府が輸入補助金を払って輸入を増やして貿易黒字を削減するように誘導することがある。
輸出関税(export tariff)は、自国産の物品を輸出する輸出業者に対して政府が税金を課すものである。
輸出関税が掛けられると、輸出業者が輸出品を外国業者に販売するときに輸出関税の分を価格転嫁するので、輸出品が高額になる。そうなると、外国の国内で類似品を製造する業者は価格競争しやすくなり、外国の国内産業が保護される。
輸出自主規制(voluntary export restraint)は、自国産の物品に関して無税または低率輸出関税で一定量または一定金額までの輸出をすることを許可し、それを超えた量または金額の輸出を禁止し、割り当てを受けた業者にのみ輸出を許可することをいう。
輸出自主規制が実施されると、貿易相手国の市場において輸出品の需要が一定であるのに輸出品の供給が少なくなるので、輸出品が高額になる。そうなると、貿易相手国の国内で類似品を製造する業者は価格競争しやすくなり、貿易相手国の国内産業が保護される。
輸出関税も輸出自主規制も、貿易相手国の国内産業を保護するものである。
A国がXという物品の輸出攻勢を行い、B国においてXを製造する企業が価格競争で苦しんだとする。B国政府は、自国産業を保護するためにA国政府に対して外圧をかけ、A国政府がXを輸出する業者に輸出関税や輸出自主規制を掛けるように誘導することがある。
日本は米国からの外圧を受けて様々な輸出自主規制を行ってきた過去がある。1971年の繊維、1972年の鉄鋼、1977年のカラーテレビ、1981年の自動車などである。
輸出補助金(export subsidy)は、自国産の物品を輸出する輸出業者に対して政府が補助金を払うものである。
輸出業者は自国産の物品を安価に輸出することができる。つまり輸出補助金は、輸出関税や輸出自主規制と正反対の政策である。
貿易相手国の国内産業にとっては不当廉売であり、略奪的ダンピングであり、「過剰安売りをして競争相手を全滅させて市場占有率を高めてから好き放題やる作戦」と認識すべき行為であり、脅威である。このため、ある国が輸出補助金をするとその貿易相手国が輸入関税や輸入割当制度で対抗することが多い。
輸出補助金によって安価に輸出された物品について輸入関税を掛けることを相殺関税という。
人件費の水準が高い国において、農林水産業の分野で保護貿易を実行すると、農林水産業で生活できるようになる。農林水産業を主力産業にしている地方は製造業やサービス業が発展していないことが多い。このため、農林水産業を主力産業にしている地方は農林水産業が維持されることで人口を維持することができ、人口空白地帯を発生させずに済むようになる。
人口空白地域は草ぼうぼうの荒れ地になるので、凶悪犯罪者が凶悪犯罪の証拠品を隠滅するのに最適の場所である。それが発生しないと凶悪犯罪者が凶悪犯罪の証拠品を隠滅しにくい状態になり、凶悪犯罪者が凶悪犯罪を犯しにくくなり、治安が維持される。
A国で治安が良くなると、A国のカントリーリスクが減少する。そうなると国際的投資家が「A国における投資は確実性が高く、実質利子率に上乗せするリスクプレミアムはわずかで良い」と判断するようになる。
治安が良化した国において、企業はリスクプレミアムが少しだけ上乗せされた低い実質利子率で借り入れをするようになり、設備投資の量を大いに増やせるようになる。企業の設備投資の量が増えると、将来における資本ストックが増え、将来において国家の供給能力が増え、実質GDPを伸ばしやすくなり、経済が発展する国になる。
人件費の水準が高い国において、農林水産業の分野で保護貿易を実行すると、農林水産業が維持され、地方に人々が拡散するようになり、「点と線」を支配する都市国家にならず、「面」を支配する領域国家であり続ける。人類の歴史は、中国でもインドでもメソポタミアでも地中海沿岸でも、都市国家から領域国家へ発展していった点が共通している。このため、領域国家であることを維持する保護貿易は人類の歴史の流れに乗っかる政策と言える。
人件費の水準が高い国において、製造業やサービス業の分野で保護貿易を実行すると、製造業・サービス業の企業において労働者の賃金が増えやすくなる。
そうなると労働者の可処分所得が増えるので労働者が消費に積極的になる。また、労働者は激しい消費を伴うことが予想される結婚に対して前向きに考えるようになり、結婚率が上昇する。結婚率が上昇すると人口が維持される。
人口が維持されると、政府は移民の導入をしなくなる。移民の流入によって国家における言語や文化の統一性が弱まることがなくなり、国民どうしが意思疎通を入念に行いやすくなり、国家において情報が十分に流通しやすくなり、消費者から生産者へ商品の善し悪しの情報を伝える機能が強まって企業の生産技術が上昇し、消費者から生産者へ感謝の気持ちの情報を伝える機能が強まって企業に内発的動機付けが掛かるようになり、有利な供給ショックが起こる。
人口が維持されて移民の流入が止まると、国家における言語や文化の統一性が強まり、ヒステリシス(経済学)が十分に発生する国になり、正の需要ショックを起こすと有利な供給ショックが発生する国になる。
人件費の水準が高いA国において、製造業やサービス業の分野で保護貿易を実行すると、保護貿易に伴って国際的資本移動の制限が進む。それによりA国の企業は自国よりも賃金水準の低いB国の土地や建物を購入して海外に工場を移転させることが難しくなる。
そういう状況においてA国の企業の経営者は労働者に向かって「我々経営者は、君よりも安い賃金で君と同じ働きをする労働者を、B国においていくらでも見つけることができる」と言ったり「B国の労働者に君たちと同じ賃金を支払うと、君たちよりもずっと活発に働いてくれる」と言ったりすることが難しくなる。
こうした言葉を浴びせられない労働者は自信を維持する。自信を維持した人は自分以外の誰かを攻撃することで自信を取り戻す行動を行わなくなるのだが、保護貿易によって自信を維持した先進国の労働者たちもそのようになる。ネット上で、あるいは政治活動で、もしくは経済論議で、対立相手を過度に攻撃せず、おっとりした雰囲気で協調をするようになる。
保護貿易の国では労働者が攻撃的言動を支持しなくなるので、攻撃的言動を繰り返す政治家が出現しにくくなる。
保護貿易の国では労働者が攻撃的言動を支持しなくなるので、名誉毀損罪や侮辱罪で訴えるスラップ訴訟をして相手の「表現の自由」を攻撃する政治家が減り、「権力者というものはそういうことをすべきではない」などと自重する政治家が増える。
また、保護貿易の国では党派対立が減り、超党派の合意が行われやすくなり、党派を超えた交流が行われやすくなる。
人件費の水準が高い国において、製造業やサービス業の分野で保護貿易を実行すると、労働者の賃金が増える。そうなると使用者は労働者に対して残業を依頼しにくくなり、労働者は残業を行って生活費の足しにしようと考えなくなり、両者の思惑が一致して残業が減り、長時間労働の少ない国になる。長時間労働が減った労働者は、休みの時間に政治について考えたり活動したりする暇を得るようになる。
また、人件費の水準が高い国において、製造業やサービス業の分野で保護貿易を実行すると、労働運動が活発化し、労働組合が労働者に投票をしつこく呼びかけるようになる。
以上のような要因が重なって、選挙において投票率が上昇していく。
投票率が上がると、無党派層の浮動票の影響力が高まり、組織票だけで勝てなくなるので、立候補者は無党派層の浮動票を狙うようになり、「無党派層にすら嫌われるような初歩的な悪行をすることをやめよう」と思うようになり、自浄作用を身につけていく。
保護貿易が促進されると、企業は海外の安価な製品に対抗することを強制されなくなるので、複数の企業が合併してスケールメリットを生かして低価格の製品を生産することを目指すことがあまり流行らなくなる。企業の合併が進まず規模の小さい大企業が分立するようになると、その大企業は協力企業(下請企業)に対して価格交渉しにくくなり、協力企業からの値上げ交渉を断りにくくなる。
大企業Aと大企業Bが合併して巨大企業Cが誕生すると、巨大企業Cに納入する協力企業は巨大企業Cに値上げ交渉をして断られたときに「我々には巨大企業C以外の大企業に納入するという選択肢がある」と言いにくくなり、値上げ交渉の気力を維持できなくなる。
しかし、大企業Aと大企業Bが分裂したままなら、大企業Aに納入する協力企業は大企業Aに値上げ交渉をして断られたときに「我々には大企業Bに納入するという選択肢がある」ということができ、値上げ交渉の気力を維持できる。
保護貿易が促進されると大企業の巨大化が進まなくなるので、大企業の協力企業は大企業に対して価格交渉しやすくなり、価格転嫁しやすくなり、収益を上げやすくなり、従業員の賃金を増やしやすくなる。そしてごく一般的にいうと、大企業の協力企業は中小企業である。ゆえに保護貿易が進展すると、中小企業の労働者の賃金が増えやすくなり、大企業の労働者の賃金と中小企業の労働者の賃金の格差が小さくなり、平等社会に近づいていく。
政府にとって保護貿易は簡単に実行できるものではない。保護貿易の代表例というと輸入関税と輸入割当制度であるが、このどちらも人的資源とノウハウを必要とする。
また、輸入関税や輸入割当制度で保護すべき産業はどれなのか判別すること自体が難しい作業であり、人的資源とノウハウを必要とする。
保護貿易が世界の主流になると、企業が自国の比較的に小さな市場に専念することになり、海外の巨大な市場に商品を売り込みにくくなり、企業の収益が増加しにくくなる。
保護貿易になると海外の安価な製品を購入できなくなり、原材料費や消耗品費といった企業の費用が減少しにくくなる。
保護貿易を促進すると、労働運動が強くなり、労働者の賃金が上がりやすくなり、人件費という企業の費用が減少しにくくなる。
A国の企業は、A国よりも賃金水準の低いB国で生産された製品との価格競争にさらされなくなる。そしてA国の企業の経営者は労働者に向かって「B国で生産された製品と価格競争するには、賃金を削減するしかない。さもないと企業が倒産する」と言って不安を煽ことができなくなる。そうした言葉を聞かされなくなったA国の労働者は「自分たちが賃上げを求める労働運動をしても会社が倒産してしまうわけではない」と思い込むようになり、労働運動に対して罪悪感を感じにくくなり、労働運動をする気力を持つようになる。
保護貿易が伸展すると極めて高い確率で国際的資本移動の制限が進んでいく。国際的資本移動の制限が進むと、A国の企業は自国よりも賃金水準の低いB国の土地や建物を購入して海外に工場を移転させることが難しくなる。そういう状況においてA国の企業の経営者は労働者に向かって「我々経営者は、君よりも安い賃金で君と同じ働きをする労働者を、B国においていくらでも見つけることができる」と言ったり、「B国の労働者に君たちと同じ賃金を支払うと、君たちよりもずっと活発に働いてくれる」と言ったりすることが難しい。そうした言葉を頻繁に聞かされなくなったA国の労働者たちは「自分たちは高い賃金をもらう資格がある」と自信を強めるようになり、労働運動をする気力を持つようになる。
保護貿易を促進すると、労働運動が強くなり、御用組合が戦闘的労働組合に変化していき、労働者の賃金が下落しにくくなって上昇していく。そうなると企業は、費用の大部分を占める人件費を削減しにくくなる。
人件費の水準が高い国において、農林水産業の分野で保護貿易を実行すると、農林水産業が維持される。
そうなると農林水産業に従事していた労働者が製造業・サービス業に流入しにくくなり、製造業・サービス業の企業において労働者の需要が一定で労働者の供給も一定になり、賃金が低下しなくなる。製造業・サービス業の企業は、費用の大部分を占める人件費を削減しにくくなる。
農林水産業は都市化が進んでいない田舎で行われることが多く、製造業・サービス業は都市で行われることが多い。つまり農林水産業の保護を進めると都市への人口流入が進まなくなる。
保護貿易になると海外の安価な製品を購入できなくなり、食費などの家計の費用が増加する。
保護貿易になると、企業は海外の安価な製品に対抗することを強制されなくなるので、複数の企業が合併してスケールメリットを生かして低価格の製品を生産することを目指すことが流行しなくなる。
保護貿易になると、企業の合併が進まなくなる。企業の合併が進まず大企業が分立すると、大企業は協力企業(下請企業)に対して価格交渉しにくくなり、外注費のような「協力企業に支払う費用」が減少しにくくなる。
大企業Aと大企業Bが合併して巨大企業Cが誕生すると、巨大企業Cに納入する協力企業は巨大企業Cから値下げを求められたときに「我々には巨大企業C以外の大企業に納入するという選択肢がある」と言いにくくなり、値下げ要求に対する対抗力が弱体化していく。
しかし、大企業Aと大企業Bが分裂したままなら、大企業Aに納入する協力企業は大企業Aから値下げを求められても「我々には大企業Bに納入するという選択肢がある」ということができ、値下げ要求に対する対抗力を維持することができる。
保護貿易になると、自分の産業を輸入関税で保護してもらうために政党に献金をしたり国会議員に会って話したりして国会議員に意向を伝えようとする企業が増える。つまり、レントシーキングに励む企業が増える。
保護貿易になると、企業は政党や国会議員にレントシーキングをするようになり、交際費などの費用を増やしてしまう。
貿易とは国境の垣根を越えて外国と交渉する行為を積み重ねるものであり、国際的に活躍する人が存在することで成り立つものである。そして、保護貿易はそうした貿易の量を縮小する政策である。
このため保護貿易を支持すると、「自分は国際的に活躍する人を尊重している」という気分になれないし、「自分は国際的に活躍する人の仲間である」という気分になれない。
その気分は「自分は国際的に活躍できておらず、国際的に活躍する人たちの仲間に入れていない」という劣等感を持つ者にとって癒しの効果がある。保護貿易はそうした癒やしの効果を持たない。
日本の公用語の日本語は国際的言語ではなくローカル言語である。そのことは日本語話者が日本で大学教育を受けると強く実感することができる。日本に住む日本語話者の大学生は、英語で書かれた論文を読むことや英語で論文を書くことをしばしば強制される。
日本に住む日本語話者の知識人は、多かれ少なかれ「自分は日本語という国際的言語ではないローカル言語を使っていて、国際的に活躍できておらず、国際的に活躍する人たちの仲間に入れていない」という劣等感を抱く傾向があるのだが、保護貿易を支持するとそうした劣等感を癒すことができず、劣等感を抱えたままになる。
「保護貿易は戦争を生み出すという短所を持っている」と言われることがある。
「1930年代の世界恐慌によって主要国が保護貿易を重視してブロック経済を作り上げたので、日本やドイツが無謀な戦争に突入することになった」という主張がその典型例である。
それに対して「保護貿易の体制になったとしても必ず戦争が起こるわけではない」という反論が寄せられることがある。
たとえば太平洋戦争の直前の日本にはハル・ノートが突きつけられたが、それは「通貨基金を設立して米ドルと日本円の固定相場制を確立することを受け入れる代わりに日独伊三国同盟を破棄してフランス領インドシナや中華民国から撤兵せよ」という要求だった。このハル・ノートを受諾してアメリカ合衆国の経済的・軍事的な勢力圏に入っていれば戦争は起こっていない。
『孫子』の謀攻篇には「故に、用兵の法は、十なれば則ち之を囲む。五なれば則ち之を攻む。倍すれば則ち之を分かつ。敵すれば則ち能く之と戦う。少なければ則ち能く之を逃る。若かざれば則ち能く之を避く。故に、小敵の堅なるは大敵の擒なり」という文章があり、「自軍の兵力が敵軍の10倍なら敵軍を包囲し、自軍の兵力が敵軍の5倍なら敵軍に攻めかかり、自軍の兵力が敵軍の2倍なら敵軍を挟み撃ちし、自軍の兵力が敵軍と互角なら敵軍と頑張って戦い、自軍の兵力が敵軍よりも劣勢なら戦わずに必死に逃げ、自軍の兵力が敵軍に全く及ばないのなら戦わずに必死に隠れるべきである。少数の自軍が大敵に挑んでも蹂躙されるだけである」という意味とされる。歴史を振り返ると『孫子』が説くように強大な敵に対して戦わずに降伏した例はいくらでも見られ、1586年の徳川家康の豊臣秀吉に対する降伏が典型例である。
「強大な相手と戦うな」という初歩的な兵法を知らなかった暗愚さが日本を戦争に突入させた。そのことを重視するのなら「保護貿易が日本を戦争に突入させた」という主張はあまり説得力を持たなくなる。
変動相場制を採用する国で輸入関税を高くして輸入を減らして保護貿易を推進すると、それに応じて名目為替レートが下落して自国通貨高になり、短期で物価が硬直的なので実質為替レートも下落し、輸入が減った分だけ輸出が減り、純輸出が一定を保ち、実質GDPが一定を保つ。輸出と輸入が減るので貿易量が縮小する[2]。
タテ軸名目為替レート・ヨコ軸実質GDPのマンデル=フレミングモデルでいうと、輸入関税の上昇で純輸出需要が増えるのでIS*曲線が右に平行移動し、均衡点が垂直のLM*曲線に沿って真下に移動する[3]。
固定相場制を採用する国で輸入関税を高くして輸入を減らして保護貿易を推進すると、それに応じて名目為替レートが下落して自国通貨高になりそうになる。中央銀行が自国通貨売り・外国通貨買いをして名目為替レートに上昇圧力をかけて、名目為替レートを一定に保つので、輸出が一定になる。以上から、純輸出が増え、実質GDPが増え、マネーサプライMが増え、中央銀行の外貨準備高が増える。輸出が一定で輸入が減るので貿易量が縮小する。
タテ軸名目為替レート・ヨコ軸実質GDPのマンデル=フレミングモデルでいうと、輸入関税の上昇で純輸出需要が増えるのでIS*曲線が右に平行移動し、名目為替レートを保つため中央銀行が自国通貨売り・外国通貨買いを行ってマネーサプライMを増やすのでLM*曲線が右に平行移動し、均衡点が右に移動する[4]。
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最終更新:2024/05/25(土) 07:00
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