MERSとは (マーズとは) [単語記事]

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MERS（中東呼吸器症候群、Mid East Respira tory Syndrome）は、中東と韓国を中心に蔓延している伝染病。黄熱病並の致死率40％とインフルエンザ並の感染力（基本再生産数2.0〜6.7人）^[2]を兼ね備えた脅威の疫病である。数値的には天然痘（CFR 30%^[3], R₀ 5～7人^[4]）に近い。感染経路は飛沫感染と考えられているが、濃厚接触なく伝播する空気感染（飛沫核感染）も疑われている^[5]^[6]。

概要

病原体は、重篤な市中肺炎を引き起こす新種のヒトコロナウイルス「MERS-CoV」^[7]。ラクダを媒介者としつつ、ヒト・ヒト間感染も確認されている。致死率は40％、感染力は基本再生産数2.0～6.7人。基本再生産数は、流行初期の2013年末頃では0.6～0.69人^[8]や0.8～1.3人^[9] とされていたが、その後の2014年中東流行で2.0～6.7人に上昇、更に2015年の韓国流行では7.0～19.3人に跳ね上がっている^[10] 。また、当初ヒトからヒトへの持続的な感染は見られないとも言われていたが^[11] 、2015年の韓国流行では「4次感染」（ラクダ？→ヒト→ヒト→ヒト→ヒト）までもが認められており^[12] 、その感染力は侮れない。

流行地の拡大

国別MERS発生数 (最近：2015年 3月8日～6月10日、累計：2015年 6月10日時点)^[13]^[14]
	最近		累計
	感染者	死者	感染者	死者
韓国	107	9	107	9
サウジアラビア	90	49	1028	451
カタール	3	1	13	5
アラブ首長国連邦	3	0	77	10

韓国感染者の内訳と生還率 (2015年 6月19日時点)^[15]
感染総数	治療中	治癒	死亡	生還率
166	112	30	24	56%

2012年末頃からサウジアラビアで猛威を振るい、中東を中心に欧米亜各国で発症者が出つつも各国懸命に対策に取り組み、第三国間での飛び火は起こさずに封じ込めていた。しかし2015年 5月、韓国で発症者と濃厚接触のあった韓国人が医師の制止を無視して出国し、中華人民共和国（中国）に初めて感染を広めたことをきっかけに、世界的な流行が始まることが懸念されている。韓国人によってMERSを持ち込まれた広東省は、21世紀初頭に蔓延したSARSの感染者が中国で初めて出た地であり、「SARSの震源地」に続き「MERSの震源地」の汚名を着せられては堪らないとの思いがある^[16]。

韓国は既に中東以外で最もMERS感染者の多い国となっているほか^[17]（図表）、1800校以上がMERS休校になるなど院外感染・市中流行が強く疑われており^[18]^[19]^[20]、韓国への渡航の延期や自粛を求める勧告が相次いでいる^[21]^[22]^[23]。一方で日本政府は6月11日現在では韓国への渡航禁止や入国禁止といった勧告は行なっておらず^[24]、各企業レベルでの韓国渡航禁止が拡大している^[25] 。一説には、韓国への配慮から一部野党や日韓議連の議員が渡航制限勧告に反対しているとも言われる^[26]。また、中東各国と異なりビザなしで往来が盛んな韓国に高致死率の伝染病が侵入したにもかかわらず1週間もの間テレビ報道しなかった点や、TV 報道を始めても神田うのの芸能の話題を優先するなど、日本のマスコミ特にテレビ局のMERS韓国流行に対する消極的な報道姿勢には批判がある^[27] 。なお、韓国では致死率が低いとの報道もあるが^[28] 、感染者の多くは未だ治療中であり、死亡数との和に対する治癒数の比率（生還率）は56％である（右表）。

韓国におけるMERS感染者数の推移 (2015年 5月以後) ^[29]^[30]^[31]^[32]^[33]^[34]^[35]^[36]^[37]^[38]^[39]^[40]^[41]^[42]^[43]^[44]^[45]^[46]^[47]

5/20 　1 |
5/21 　3 |||
5/25 　4 ||||
5/28 　7 |||||||
5/29 　8 |||||||| （中国渡航者1名）
5/30　13 |||||||||||||
6/02　25 ||||||||||||||||||||||||| （2名死亡、3次感染）
6/04　36 ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
6/05　41 ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||| (初の完治者1名)
6/06　50 ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||（釜山伝播^[48] ）
6/07　64 ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
6/08　87 |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
6/09　95 |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
6/10 108 ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
6/11 122 |||||||||||||||||百|||||
6/12 126 ||||||||||||||||||||||百||||
6/13 138 ||||||||||||||||||||||||百||||||||||||||
6/14 145 ||||||||||||||||||||||||百|||||||||||||||||||||
6/15 150 ||||||||||||||||||||||||||||||百||||||||||||||||||||
6/16 154 ||||||||||||||||||||||||||||||||||||百||||||||||||||||||
6/17 162 ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||百||||||||||||||||||||||||
6/18 165 |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||百||||||||||||||||||
6/19 166 ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||百|||||||||||| (疫学調査ギブアップ。自己申告制へ^[49] )

感染危険者が5万人を超えて疫学調査をギブアップした6月19日以後、自宅隔離者は減少の一途を辿っている一方で、施設隔離者はギブアップ前後に急増し、以後700人前後で推移している。韓国の隔離病床は579床、陰圧病床は105床、その和は約700床である^[50] 。感染経路の分からない感染者は20名にも上っており、もはや院内感染ではなく市中流行しているとも考えられている^[51] 。今後は中東のラクダに代わる、朝鮮半島生息の中間宿主動物への感染定着による風土病化も懸念される。

韓国流行の背景

韓国政府や自治体、国民のMERS対応については、韓国メディア発の嘆きの声が聞こえてくる^[52]。韓国初のMERS感染者が発覚した2015年 5月20日、疾病管理本部は運動会を開催。職員140人余りで球技に興じていた。初の死者が出た6月1日、流行地である京畿道の地方議員はフィンランドのフィヨルド観光へ。MERSコロナウイルスの消毒法がわからず、殺虫剤を撒く航空会社^[53]。感染がわかっても消毒もせず中部国際空港へ飛ばす韓国アシアナ航空^[54]。300万人感染しないと非常事態ではないと言い放つ韓国行政^[55]^[56]（シエラレオネはエボラ出血熱600人感染で非常事態宣言を発令している^[57]）。韓国政府は対策として「ラクダ肉を食べるな」「ラクダ乳を飲むな」を呼びかけ、「ここはアフリカか」といった疑問が投げかけられている^[58]。

政府が政府なら国民も国民で、5月29日には隔離対象者が医師の制止を振り切って出国し、更に入管に嘘をついて入境、中国で初の感染者となっている^[59]。ゴルフに出かけた隔離対象者までおり^[60]、路線バスや地下鉄等を闊歩して街にゴルフに通学に勝手に出掛けた隔離対象者は6月2日～10日にかけて実に133人にも上るという^[61] 。知識人なら大丈夫かと思いきや、ある医師は自覚症状があったにもかかわらず公共交通機関を利用して1500人もの人が集まる会議に出席し、出席者を中心に隔離対象者を一気に増大させている。6月6日にも自宅隔離対象者指定に強く反発していた医師が夫婦でフィリピンに出国して外交案件となっており^[62] 、中国では「韓国はＭＥＲＳ輸出国」という非難世論が形成されている^[63] 。

以上原因は幾多挙げられるが、とりわけ最初の感染者を当局が放置したことが、感染拡大の主因と言われる^[64] 。

日本への拡大

各国の韓国出入国制限勧告（2015年）
	勧告	発出日
台湾	渡航延期勧告^[65]	6月2日
香港	渡航自粛勧告^[66]	6月8日
マカオ	渡航自粛勧告^[67]	6月8日
アラブ首長国連邦	旅行自粛勧告^[68]	6月8日
ロシア	観光自粛勧告^[69]	6月8日
マレーシア	渡航自粛勧告^[70]	6月9日
フィリピン	観光自粛勧告^[71]	6月9日
ベトナム	観光自粛勧告^[72]^[73]	6月13日
米国	渡航警戒区域指定^[74]	6月22日
日本	なし	6月22日

2015年 6月15日、韓国在住の日本国籍者数人が隔離対象となっていたことが判明している^[75] 。同日までに感染者や感染の疑いのある人は出ていない。韓国出入国制限は未だ勧告されない。

感染症法では結核や鳥インフルエンザなどと同じ二類感染症（危険度が上から2番目に高いグループ）となっている。また、検疫法による検疫感染症の一つでもある。

症状

典型的な症状は発熱、咳、息切れ。下痢や吐き気、嘔吐などの消化器症状を示す患者もいる。肺炎や腎不全を起こして重篤となる場合がある。軽い風邪のような軽症や無症状のまま、無症候性キャリア（ウイルスの運び屋）として感染を広げる感染者も見られる。潜伏期間は通常5～6日間。2～14日間のケースも見られる^[76]。

韓国や中東からの帰国後にこのような症状が現れた場合は、病院や診療所ではなく保健所に連絡して助けを求める必要がある^[77] 。保健所の検索は以下より。

予防・治療

2015年 6月現在、ワクチンは存在しない。手洗い、手指消毒、マスクのほか、風邪様症状者との直接・間接の接触や接吻を避けたり、ドアノブの消毒などが有効と言われる^[78]。MERSコロナウイルスは、アルコールや塩素系消毒剤で不活化することができる^[79]。言うまでもないが、殺虫剤でウイルスは殺せない^[80]。

2015年 6月現在、特効薬は存在しない^[81]。対症療法のみが施される。

外務省渡航注意情報より具体的予防策

中東や韓国などの流行地では、

感染者の約15％が医療従事者であり、救急外来での院内感染が問題となっているため自宅療養が可能な場合は救急外来の受診を控える。
50歳以上の感染者は重症化するリスクが高く、注意が必要です。
慢性疾患（糖尿病、高血圧、喘息、腎障害、心疾患、呼吸器疾患等）を持っている場合は重症化するリスクが高く、注意が必要です。
感染源である可能性が高いラクダとの接触を避ける。

このほか、休息・栄養を十分に取り体に抵抗力をつける、手指等の衛生保持に心掛ける、できるだけ人混みを避けるかマスクの着用を励行する、咳やくしゃみの症状がある患者とは可能な限り濃厚接触を避ける、温度の変化と乾燥しすぎに注意する、高熱・咳・呼吸困難等の症状が見られた時は適切なタイミングで専門医の診断を受ける、といったごく一般的な注意が呼びかけられている^[82]。