住宅問題とは、住宅に関連する諸問題である。
住宅に関連する問題は全て「住宅問題」であり、文明の始まりから現在に至るまで、歴史上多種多様な問題が生じて人類の頭を悩ませている。
特に、産業革命が起こって都市に人口が集中するようになると住宅問題は深刻化することになった。
人口密集による住宅不足
人間が都市を築いて生活するようになると周辺地域から人口が流入して人口密度が上昇し、住宅の供給が追い付かなくなることがある。住宅は必然的に土地が付属するものであり、どうしても絶対数に限りができてしまうのが原因である。
これは古代ローマの時代以前から存在する問題であり、ローマでは『インスラ』と呼ばれる集合住宅を建設し、住宅需要を満たした。この時代ですでに6階建て以上のアパートが存在していたのである。
この傾向は近代になって産業革命がおこるとより深刻化するようになった。産業革命により工業が発達するにつれて都市では労働力の確保のために大量の労働者が必要になったのに、彼らに供給すべき住宅が全く足りなかったのである。結果、イギリスのロンドンでは流入して住宅を得られなかった者たちによって住宅環境が非常に悪烈な貧民街が乱立することになり、都市全体の治安や衛生環境の悪化をもたらした。
この住宅問題の解決法としては少ない土地の有効活用(=高層住宅による住居の確保=高層建築の技術が必須)や郊外の開発や地方への人口誘導(=交通インフラの整備が必須)などがあるが、達成するには産業革命時点から更なる技術革新が必要である。また、個人で対応できる問題でもないため、地方自治体や政府による政策と長期的視点による対応が必要である。
日本の場合
江戸時代には江戸は世界でも有数の大都市になっていたが、当然供給不足による住宅問題も発生していた。その結果として生まれたのが時代劇でおなじみの長屋である。最低レベルの長屋では4畳半の部屋一つに家族4人が暮らし、薄い壁と障子ではプライバシーも全くないという状態であった。
明治維新を経て工業が発達してくるとやはり諸外国と同じく労働者の都市集中による住宅不足が深刻になっていく。その行く末はやはりイギリス・ロンドンと同じく掘立小屋などによるスラム街の形成であり、戦前にはすでに問題になっていた。昭和2年には「不良住宅地区改良法」という法律が作られ、これら問題のある住宅地区への対応ができるようになった。この法律は戦後にも「住宅地区改良法」と名前を変えて受け継がれた。
高度経済成長期には郊外のニュータウン建設が進み都市の過密対策となったものの、現在では高齢化と人口減少による空き家の増加といった問題がみられる。これらは空き家問題の項で触れる。
自然災害・戦争による住宅不足
太平洋戦争による住宅不足
日本の場合、太平洋戦争での空襲による住宅の焼失と海外からの引き上げ民による住宅不足が戦後大問題となった。当時の日本では420万戸の膨大な住宅不足が発生していたといわれ、政府は対策に追われた。
住宅ローンを受け付ける住宅金融公庫(現:住宅金融支援機構)などもこの問題に対応するために1950年代に作られたものである。
震災による住宅問題
震災時には仮設住宅の一時的な供給不足による長い避難所生活や、住宅再建による二重ローンや大規模補修による莫大な出費が問題になることが多い。地震保険においては損害の100%が補償されないこともこの問題の主原因といえる。
2011年の東日本大震災では全半壊合わせておよそ30万の住宅が被害を受け、東京電力福島第一原子力発電所の事故により避難を余儀なくされ住まいを追われる人が大量に発生した。特に津波の被害を直接受けた地域では住宅がほぼ全壊したのに加えて再び同程度の地震と津波が起こった時の対策として、かつて住宅地だった場所にそのまま再建するというわけにもいかず、土地のかさ上げ工事などを先に行うなどの対策を先に行うことになった。
あるいは元の場所での再建を完全にあきらめて、高台移転という選択を迫られた場合も多かった。高台移転の場合、まず住宅を建てられるだけの広さの土地の取得から始める必要があり、さらに地域の繋がりを維持するために地域ぐるみでの移転が推奨されたため住民同士の話し合いにも時間が取られることになった。
難民による住宅問題
中東地域などで紛争などにより故郷を追われた難民が大量に発生するようになって以降、難民が暮らす住宅の供給不足も大きな問題になっている。難民キャンプは生活環境全体が劣悪であるが、住宅もその一部である。
ドイツの難民の住宅問題
2015年にはシリア内戦で発生した難民が大量にヨーロッパに流入したが、その受け入れ国となったドイツでは難民のための住宅が不足する事態に陥った。一時的な収容場所として体育館などの公共施設が使われたり、廃校になった校舎が使われたりしている。しかし、これらはドイツ政府や地方自治体にとって大きな負担になっており、ドイツ国民の難民に対する不満の一因となっている。
空き家問題
都市部では住宅の供給不足が起こり易いが、逆に農村など地方では住宅の過剰が発生することがある。
住宅を過剰に建設した結果、住民がいない住宅、いわゆる空き家が発生する。当然のことながら、これはあまり望ましい状態ではない。人が住まないことによる家の急激な劣化とそれによる資産価値減少、手入れをしなくなったことによる草木の肥大化や、スコッターといわれる不法滞在者の発生や、犯罪の拠点化による近隣環境悪化のような点が心配される。
この問題もやはり都市に人口が集中する近代以降になってから発生しやすくなっている。
「空き家」の記事も参照。
日本の空き家問題
戦後日本では年に人口が集中し、地方では過疎化が進み空き家が増えている。本来なら空き家はそのまま放置せず新しい住民を迎え入れたほうがよい。しかし現代の地方で大規模な人口流入は起こりにくく、放置されてしまうのが現状である。
更地のほうが税金が高くなる日本の固定資産税のシステムも問題である。実際には家屋にかかる固定資産税がなくなるため、トータルで見れば低くなるというケースも多いが、空き家解体にかかる費用のことも考えると躊躇してしまう人がやはり多いようだ。
これらの空き家対策として国は2015年から「空き家対策特別措置法」を施行している。
都市の衰退による空き家
アメリカのゼネラルモータース破綻によるデトロイトの空き家増加が顕著な問題としてあがっている。
日本の場合、都市の空き家問題として真っ先に挙げられるのが各地のニュータウンあるいは住宅団地である。上記した住宅不足の解決策として高度経済成長期に作られたニュータウンや団地では、作られて数十年が経過した現在、住民の高齢化や建物の老朽化が進んでおり空き家が増加傾向にあるといわれている。
需要を無視した供給
いわゆる土地バブル、住宅バブルというものが発生すると、実際の需要や将来の維持費などを無視してとにかく目の前の利益優先で住宅が供給されてしまうことがある。日本の場合、上記の空き家問題の主原因の一つにもなっている。
分かりやすい例が近年の中国である。新しいマンションやビルを無数に建築したはいいものの、明らかに需要にたいして供給過多であるため町に住む人間が居らず、完成した時点から鬼城(中国語でゴーストタウンの意)になっているという。
こういったことが起こるのは住宅の需給調整を完全に自由に委ねてしまっているために起こる。ドイツやフランスなどでは家の購入はかなり厳しく規制されているため、手軽に住宅をもてないという問題がある。しかし一方でが空き家が問題になるといったことはおきていないため一長一短である。
金融に関する住宅問題
上記の住宅の供給不足にも関連することであるが、住宅というものはとにかく値段が高い。日本の場合土地代を除いても新築思考が強いためより費用がかかりやすい。そのためローンを組むのが一般的であるが現状の日本の経済状況では長期ローンを組んだ場合予期せぬ事態で破綻する可能性が低くない。
また住宅に限らず建造物は完成した瞬間から減価償却で価値は減っていくものであるが、景気動向によっては住宅の不動産価値の下落が当初の予想より早いということが起こる。今住んでいる住宅を処分して新しい住宅を探すときなどには予想より下がってしまっていると、計画通りに住み替えができないということになってしまう。
現代日本の技術的住宅問題
最近の日本の住宅問題に限って雑多ながら例を挙げると
- 絶対的な断熱&暖房不足による不健康住宅
- 緩い耐震基準
- 建材の揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds)によるシックハウス症候群
- 換気不良必至の低気密住宅
- 手抜きやミスによる欠陥住宅
などなど。
断熱不足+暖房不足=健康被害
室内での大きな温度差による健康被害としてヒートショック(急激な温度差による血圧の上昇によっておこる脳卒中や心筋梗塞の総称)を主とした冬季における各種病気の患者数増加がある。特に日本の場合住宅での溺死者数の多さは先進国と比較した場合や断熱の進んでいる北海道と比較した場合特に顕著である。世帯換算で2.7万円が毎年断熱と暖房不足で医療費として消費されているという論文もある。原因としてドイツやイギリスのように最低限18℃以上に全室の温度が保たれていないためである。
上記の局所暖房器具はきちんと断熱がされた家ほど使われない。事実北海道は札幌市が独自の基準で補助金を出すほど断熱が進んでいるが、セントラルヒーティングの割合が高くこたつ使用率は全国最低である。石油ストーブにいたっては給排気装置もつけずに室内で使用する住宅が多い。しかしディーゼルの排気ガス問題がかわいいレベルで室内の空気環境が悪化することを考えると、健康を考えて素直にエアコンを使ったほうが得策であるといえる。
断熱しなくても風呂場やトイレ、居室だけ暖房すればいいのでは?
きちんと断熱と防湿をしないで冬季に暖房をした場合、窓ガラスに起きる結露が壁の中において発生する。寒さは問題なくとも今度はカビに悩まされることになってしまう。また断熱せずにまともに暖房した場合、東京以西であっても年間数十万といったかなりの金額が灯油換算で必要になってくる。
Q.ヨーロッパと日本では気候が違うので断熱不足は当てはまらないのでは?
上記サイト3つの表(建築技術2010年1月号 南雄三氏の表から作成)を比較してもらえばわかるが同じレベルの暖房日数で比較しても日本のレベルは低いと言わざるをえない。さらにいうとフランスやドイツにいたっては現在、Q値でいうと1以下の家でなければすでに新築住宅は建てられないほど基準が強化されている。
さらに上記2サイトとこれまでのデータを元に判断すると、日本人は暖房費をケチって命や健康を削っているという見方もできてしまう。もったいないと思う気持ちもわかるがきちんと暖房しよう。
緩い耐震基準
日本の住宅で耐震基準というと、建築基準法、及び、品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)が挙げられる。現在では2000年に改正された建築基準法が耐震の基準となり、さらに建築基準法よりも品確法に基づく住宅性能表示制度の耐震等級の方がより厳しい基準になっている。
耐震等級は1~3に分かれており、建築基準法を満たせば得られる等級1で数十年に一度起こるレベルの地震(東京で震度5強)に対して大規模工事が必要になるほどの損傷をしない、数百年に一度起こるレベルの地震(東京で震度6強以上)に対しても倒壊しない、というものであり等級1でおおよそ震度6弱(400cm/s^2)、等級2で震度6弱~震度6強(500cm/s^2)、等級3で震度6強の中間(600cm/s^2)までの揺れには倒壊・崩壊しないことが基準とされている。また品確法では「数百年に一度クラスの地震(東京では震度6以上)で損傷しない住宅を作るのは難しく、高額になる」「たとえ住宅が壊れたとしても人命は守る」と謳っており、人命優先の基準であることが伺える。
現在のハウスメーカーや中規模以上の業者では耐震等級3当然、複数回の阪神淡路大震災程度のゆれ(約800cm/s^2)ならば2階建てであっても耐震実験で無損傷というのは基本となっている。
耐震基準の問題点
上記の耐震基準を満たした住宅は大地震が来ても安心だろうか。いや、そうではないという意見が存在する。具体例として2016年4月に起こった熊本地震におけるもっとも揺れの激しかった益城町の例を取り上げて説明する。
- 耐震等級3をぎりぎり満たす程度の家で数百年に一度起こるレベルの地震に遭遇した場合、「倒壊」しないだけであって大規模な「損傷」は起こってしまう可能性が高い。熊本地震の益城町の調査では同じ2000年以降に建てられた現耐震基準の木造住宅であっても、半数は無被害であっても半数は一部損傷以上の被害を受けている。小破程度であっても外壁一面を修理(これだけで約150万はかかる)しなければならないことを考えると、地震被害において大きな金銭的格差が生じてしまう危険性が高い。
- 熊本地震では前震と本震で2度の震度7クラスの揺れに襲われた。現行の法律では1度の大地震に耐えられれば良いことになっており、再度の強い地震により倒壊、崩壊した場合は法律上問題なしとなってしまっている。
- 構造計算をしなくても戸建てであればほぼすべての家が建築できてしまうため、同じ耐震等級であっても安全性に差が出る可能性が高い。構造計算がされない場合、地震時においてどこに力がかかるか正確にわからないため、無駄な損傷を受けたり、最悪倒壊する危険性すらある。さらに構造計算しているといっても安易に信用してはいけない。ただ壁の量を計算しただけの可能性があるからだ。
国土交通省では今回の熊本地震の調査結果を踏まえて2度の大地震で倒壊しないためには最低耐震等級3程度は必要との調査結果もあり、基準見直しの声が上がっている。
以上のことから耐震等級3だから安心というのは間違いである。よってできうる限り耐震性を高めることが重要となる。具体的には瓦をやめてガルバリウムにする、外壁のサイディングをやめてガルバリウムにするといった住宅の軽量化、極端に大きな開口部や吹き抜けをやめるといった間取りの変更、制震・免震といった装置の導入(ただし免震装置は1階面積20坪程度でも200~300万はかかる)等がある。
シックハウス症候群
家の気密性が高まるに連れ発生する病気であり、欧米ではシックビル症候群として認知されている。現状部材の原因物質の規制がはじまってはいるものの、日本では海外に比べて明らかに規制物質数が少なく、また室内の基準値が設定されているものの測定義務がないため実際に室内空気が正常値におさまっているかは保障されていないのが現状である。
関連商品
- 0
- 0pt