古くから創作の中で広く扱われており、現代のサブカルチャーにおけるジャンルの一つでもある。
概要
自分たちが生活しているこの世界ではない別の世界を異世界と呼ぶ。
異世界を扱った物語の中では、異世界は現実とは違った法則や常識に従っていることが多く、また、その世界の住人も人間ではない別の種族であったり、現実とは違った時代背景や技術体系を持っていたりと、千差万別な異世界が作られている。
古い話よりは近代になって登場した話の手法である。それまでのお伽話や昔話はあくまで(物語の中の)現実の延長線上であり、どこか別の『異世界』にでかけるよりも『異国』といったイメージの場所に出かける話のほうが多い(浦島太郎や桃太郎、おむすびころりんなど)。
『異世界』に出かける話が増え始めるのは大航海時代終焉以降であることを考えると、『まだ見ぬ異国』が無くなってしまったあたりと深い関係があるかもしれない。『ガリバー旅行記』(1720~)が両者の中間ぐらいの作品であろうか。
『オズの魔法使い』『不思議の国のアリス』『青い鳥』などが異世界ものが流行りだす皮切りとなった作品であると思われる。いずれも1860年以降の作品である。
創作における異世界
上で挙げたとおり、異世界での冒険譚は物語の類型として非常によく使われる。
代わり映えのしない日常から離れ、非日常の世界に飛び込みたいという欲求は日常に疲れた人間ならば誰でも空想することであり、その需要を満たすため異世界物は長く愛されてきた。ここではないどこか、というキーワードは人の想像をかき立てる物であり、それを実現してくれるのが異世界なのである。
もちろん、『非日常』というだけであるならば、異世界である必要は全くない。現実世界であっても恋愛沙汰や事件・事故などで非日常を演出することはできる。ではなぜ異世界という舞台が必要かといえば、物語の自由度を非常に高くすることができるからだ。異世界という世界を丸ごと一つ創造するハイ・ファンタジーの利点として、魔法に代表される現実世界では実現不可能な技術や、モンスターに代表される現実には存在しない生物も抵抗なく登場させることができる点は見逃せない。現代ファンタジーでも魔法やモンスターを出すことは可能であるが、現実世界と地続きなロー・ファンタジーではどうしても現実世界との折衝が必要になり、当然、自由度は低くなってしまう。
科学技術が全盛を極め、世界の隅々まで探索が進み、未踏の地が残っていない現実世界ではもはや実現できないファンタジーいっぱいの物語を描くためには、異世界という設定は非常に便利なのだ。
異世界とのかかわり方
異世界が登場する物語はいくつかのパターンに分けられる。大きく分けると最初から最後まで異世界で話が展開する完全な異世界物と、現実世界と異世界が交わり、その結果発生する事態を描いた交錯物がある。交錯物の場合、現実世界の人物が異世界に行くか、あるいはその逆に異世界の人物が現実世界に来るかでさらにパターンが分かれる。
完全な異世界の物語の代表として『指輪物語』などが挙げられる(※『指輪物語』の舞台は厳密に言えば異世界ではない)。主人公は異世界の若者であり、彼と仲間たちの活躍を描いている。当然そこに現実世界のしがらみは存在しない。
現実→異世界のパターンの代表として『ナルニア国物語』などが挙げられる。異世界を舞台にするのは同じでも主人公は現実世界の少年少女であり、現実世界から異世界へ連れてこられた彼らは当然のことながら現実世界の知識や常識を持ち合わせている半面、異世界の知識や常識に疎い。現実世界の知識や常識は主人公たちの強力な武器になることもあるが、逆に行動を縛る枷にもなる。また、異世界の知識を得て新しい力に目覚めたり、あるいは異世界の常識に悩むこともある。これらのさじ加減が物語の肝であり、作者の力量が問われる部分でもある。このパターンでは現実世界から異世界への移動方法にもさまざまな手段(タンスが異世界への扉、異世界の人物に召喚される、目が覚めたら異世界の人物に転生していた、etc)がある。
異世界→現実のパターンでは異世界から少人数が現実世界に迷い込むことが多い。異世界から来た主人公、あるいは異世界から来た何者かによって異世界の力を手に入れた主人公の物語もまた、異世界物の一種である。いわゆる魔法少女ものが当てはまることもある。魔法少女本人が異世界からやってきたり、異世界から来た淫獣妖精・マスコットに魔法のアイテムなどをもらって魔法少女に変身する作品というのは枚挙にいとまがない。このパターンの場合、異世界の力で現実世界の問題を解決したり、あるいは異世界から流出してしまった異分子を除去するのが目的となることが多い。しかし、異世界と物理法則などが違う現実世界では本来の力を出し切ることができず、苦戦していく姿が描かれることもある。
現代の創作において
近年では現実世界→異世界のパターンでの創作作品が多くなっている。いわゆる異世界チート物と呼ばれることもあり、現実世界での知識を異世界に持ち込み、それによって活躍する主人公を描くことが多い。場合によっては転生チート物と呼ばれることもある。
大きくわけると転生ものと転移ものがある。転生ものの亜流として憑依ものというものもある。
転生もの
転生ものは元の世界で死亡した主人公が異世界で別の人間あるいは人間以外の種族として生を受け、新しく人生をやり直すことになる。転生後については赤ん坊から始まるかある程度成長しているかは作者により分かれる。転生後が長寿種族であった場合はいきなり100歳を超えていることもある。また、転生に際して、元の肉体から容姿が著しく変化したり、性転換する場合もある。
このパターンでは現実世界の知識の継承のみが行われ、容姿や年齢、肉体的成長はすべてリセットされる(必然的に精神年齢も死亡時のものが引き継がれるため、やたら大人びた子供になることが多い)。また、元の世界の便利な道具も持ち込めない。その反面、異世界での生活基盤や社会的地位が確保され、異世界の常識や法則もすでに身についているため、安定した状態から物語を始めることができる。
異世界転生の記事も参照。
転移もの
転移ものは元の世界に生きていた人間がある日突然異世界に迷い込んでしまう、ある意味伝統的な異世界物語である。前述した「現実→異世界」のパターンと大筋は変わらない。
よくあるパターンとしては勇者召喚と呼ばれるものである。異世界を救う勇者を召喚した結果、元の世界にいた主人公が召喚されてしまった、というプロローグで始まる物語は古くからいくらでも存在する。
これらと一線を画す現代の転移ものの特徴は、現代技術の持ち込みが物語に与える影響が非常に大きくなっていることである。
身の回りの便利グッズから始まり、懐中電灯や通信機などの電子機器、果ては自動小銃などの現代火器、あるいは戦車などの兵器の異世界への持ち込みはごく当たり前に行われるようになっている。多くの物語で転移先であるファンタジー世界では人間の技術はせいぜい中世レベルであることが多い為、これらの技術は圧倒的アドバンテージを誇る。反面、転移した先で補給が受けられず、弾薬切れ燃料切れになってしまうとこれらのアドバンテージはあっという間に失われてしまう。そうなってしまうと転移した人間には拠るべき基盤も社会的地位も残らないことが多く、牙をむいた異世界に逆襲されてしまうこともある。
これらの描写は、異世界物ではないが、『戦国自衛隊』で既に描かれている。現代の転移ものではそのような結末に陥らないように、工夫を凝らして生きていく術も描くようになっている。道具に頼らず、格闘技や科学知識など補給に困らないような技術を持ち込んだり、あるいは異世界で元の世界の技術を再現したり、あるいは転移者によって世界を征服してしまったりと様々なパターンがある。
異世界転移の記事も参照。
憑依もの
異世界の登場人物に、いわば乗り移るような形で入り込む作品。憑依された人間の人格は消えることもあれば、共存することもある。元々は二次創作でよく見られたパターン。
作中内作品(ゲームや漫画など)を異世界に見立て、その作品内キャラクターに憑依するものがパターンとしては多い。この場合先の歴史を知ってることも多く、知識を先取りして世界内を動くことが出来る。この場合、例えば物語上死亡確定するキャラに憑依した場合、その回避に動く事になり主人公をスムーズに逆境に陥れ、動かしやすいなどの利点もある。
種類としては転生の亜流で、その世界の生活基盤や人間関係などを引き継げることがメリット。それに加え、転生と違い憑依時期を選べるので、赤子や幼児から物語を動かしたく無いときに、キャラを動かしやすい年齢にしてから物語を開始したい場合もこの手法は使われる。
ただし傍目からはいきなり別人格のようになるので、整合性を取らなければならなかったりすることも多いため、そこが転生との使い分けとなる(人格が同居する場合はこの限りではない)。
憑依の記事も参照。
なお、これら3つはあまり明確に区分けされてはいない(ゲーム内のキャラとして、ゲームの中に入り込みました、というのは転移でもあるし憑依でもあるし転生ともいえなくもない)。細けぇことはいいんだよ!な精神が大事である。
関連動画
現実→異世界もの
異世界→現実もの
関連項目
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