【速報】劇場版アイドルマスター【世界同時公開】

31 ちひゃー
2010/08/08(日) 17:52:16 ID: yZOZ077QLN
その姿を見て少年は吐き捨てるようにく。

「応じなければ、らも、彼らも、
 それまでだ。も助かりはしない。」

「ですなぁ。」

紳士は穏やかな表情で少年の意見に同意しつつ
ゆっくりと頭を上げる。
そのには鋭いきがあった。

「ですが、坊ちゃん水瀬男子たるもの、
 いかなる窮地にも怯まぬ意思だけはお忘れなき様に。」

「そうだな。」

紳士の意思が伝わったのか、少年の顔から不安の色が消え、
決意の色を帯びた。

再び計器に視線を戻しながら、艦長に示を発し、
コンソールに向かう少年の背を眺めながら、
大地震によって崩壊していく造所から息子を救い、
この新造潜水艦へと送り出す際に命を落とした、
先代である水瀬総帥の代から
水瀬大家を努めていたこの老執事は思う。

旦那様、宗久様はご立な跡継ぎになられますよ。」

と。
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32 ちひゃー
2010/08/08(日) 22:37:26 ID: yZOZ077QLN
畜生ぉ、今日天気だけはいいなぁ。」
縒れた白衣を着た青年ひとつない蒼空を見上げいた。

しかし、そこにはではない何かが
人のをしたような姿で横たわっている。
眼下にはて「麗しの天国」「豊富な穏」と呼ばれた都市が、
今や瓦礫の塊と化した廃墟の姿で広がっている。

かつて「常楽園」と呼ばれたそのは、
今や全に孤立していた。

く砕け逝くを見上げた「あの日」から、
大小の地震が連日続き、津波外を洗い流してなお、
高台に軍が保有していた研究施設は
その機を何とか維持して緊急事態を発し続けてはいるが、

頼りとなってくれるはずの衛星網は、
「最初」の数時間、世界中の絶叫を伝えた後は
徐々に沈黙していき、

その後は情報を受ける事は出来ても
からの示も他からの要請もなく、

台は気圧の急な高まりを観測し、
辛うじてを飛び立つことができた飛行機
そのほとんどが消息を絶ち、

音もなく襲い続ける自然の猛威になす術がなかった。
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33 ちひゃー
2010/08/08(日) 22:44:20 ID: yZOZ077QLN
それでも彼らはデータを集め続け、一つの結論を導き出した。

消失

後に - ロストアルテミス - と呼ばれる終末の始まりである。

7360トンにも及ぶ質量を持ったが突如崩壊し、
その質量によって保たれていた地球との重力均衡が崩れた結果、

地球規模の災害が今、地上にある全ての生命を
滅亡の淵へと叩き込もうとしている最中であると。

崩壊の原因は何か解ったかね?天海君。」

「いやぁ、さっぱりですよ教授
 外因的な要因、潮力やらなんやらでは
 なんとも説明がつかんとですわ。」

潮に焼かれ、ボサボサになった頭を掻きながら、
教授」と呼ばれた壮年の男に振り返った天海は、
屈託のない笑顔

物理常識えちゃってますよ。あの一つ野郎は。」

そう言い放つと、再びを見上げ、自嘲気味にく。

「解ってるのは、らの先行きくらいですかネ。」
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34 ちひゃー
2010/08/08(日) 23:27:38 ID: yZOZ077QLN
彼の言わんとしている事は「教授」にも理解できた。
が持つ巨大な質量の喪失によって生じる脅威は、
その欠片地球引力に捕われる事によって引き起こされる
災害だけではない。

には、その質量が生み出す重力によって
地球の自転速度に「ブレーキ」を掛ける作用がある。
それは潮を適度に攪拌し、地球の生態圏の「揺り篭」を
揺らし続ける力としても作用していた。

消失と、その力の分散によって、
既に地球の自転速度は少しづつ加速され始めている。
それがを生み、更に破片の落下によって大気が掻き乱され、
まだ破片の落下による直接的ながない地域の気圧にまで
を与え始めている。

それも僅か数週間で。

地球の長い生命の歴史の中で、
それは一と呼ぶにしてもあまりに短いものになるだろう。

しかし、その一の間に、どの生命は滅亡する。

遠からず、このにも大気の暴威はやってくるだろう。
そうなれば最望みはない。

「何、それまで精々しぶとく生きてやるさ。」

を見上げる天海の横に立ち、教授はそういた。

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35 ちひゃー
2010/08/08(日) 23:29:03 ID: yZOZ077QLN
「さて、ひとまず、メシにしよう。研究所のプラント製だが、
 が収穫できた。旨いもあるぞ。
 ニホンことわざでなんと言ったか、
 そう、コメが減ってはを食え。だからな。」

「それを言うなら、が減っては戦は出来ぬ。ですよっ、
 ロ・ウ教授。」

破顔一笑して、天海も後に続いた。
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36 ちひゃー
2011/02/28(月) 14:28:14 ID: 025ydLa41N
静寂に包まれた深い深海の底で、それは始まった。
水瀬宗久という極東の小さなの富の忘れ形見となった、
僅か12歳少年の呼びかけに、世界が応じ始めていた。

衛星を経由したレーザー通信網の拡大によって、
21世紀半ばに忘れ去られていた
その海底ケーブル網に乗せられた情報は、
僅かに生き残った古い有線ネットワークに接続する
幸運を掴んだ人々に、まず一つの提案を持ちかけた。

海底に沈む少年潜水艦と電を、
中継サーバー兼解析施設として、
の半径1000kmを囲むように荒れ狂う
地球規模の暴圏によって全に孤立したハワイ
生き残っている文台と通信施設を経由して
生き残っている衛星網をリンクさせ、

有線ネットワークが放置された頃に封印された、
旧時代の戦略大量破壊兵器を使って、
砕け散った欠片の軌計算を行いながら、
な限りの迎撃網を短期間で組み上げようというのだ。

「今の時点で取れる方法が他にありますか?」
宗久は静かに、
モニターの向こうにいるであろう大人たちに語りかけた。
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37 ちひゃー
2011/02/28(月) 14:30:23 ID: 025ydLa41N
「だが、放棄された核兵器が安全に作動する保障も、
 燃料を満載したミサイルが飛ぶ保もない!」

々がいるこのサイロすら、
 稼動するかどうかわかったものではないのだぞ!!」


「それより近くに艦はいないのか!?
 通信を行える深度まで浮上してみたらどうだ!?

大人達は矢継ぎに反論を繰り返す。

「途中で合流した艦が、それを試そうとして沈みました。
 変温層の周辺はもちろん、上は既に地獄ですよ。
 達もいつまでここで踏んれるかはわかりません。」

半分は真実であるが、半分はでまかせである。

宗久がいる深度5000mをえる深海には、
今のところそこまでの危機はない。

ワルター機関と小のレクテナを複合した集電、
発電装置は艦内に酸素を十分に供給し、

食料さえ補給できれば
少なくとも数年間この深海にとどまり続ける事が出来る力を、
少年潜水艦は有していた。
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38 ちひゃー
2011/02/28(月) 14:36:22 ID: 025ydLa41N
しかし、途中で合流し随伴した他の艦が、
の状況を探る為に浮上を試みて、
見えない濁流と化した上層の流に挽き潰されたのは事実だった。

12歳とは思えないあまりにも冷厳な少年の言葉に、
大人達は沈黙する。

「電磁投射も、レーザーも、
 巨大な電力がなければただのガラクタでしかないでしょう?」

「そんな事はやってみないとわからない!!」

「・・・やってみたのでしょう? 
 でなければ、そもそもの言葉にを傾けている理由がない。」

その通りだった。

前時代に核を放棄した人類は、
それでも兵器を手放すことはできなかった。

理由はいくらでもあった。
思想のため、社会のため、の為、人のため。

そうして核の代わりに用いられたのが大質量兵器や、
衛星粒子ビームといった現代科学の生み出した怪物だった。
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39 ちひゃー
2011/02/28(月) 14:39:57 ID: 025ydLa41N
それを可ならしめたのは
衛星上に浮かぶ太陽光発電所と送電を受ける、
広域電磁受電システム都市「レクテナ」群だったが、

崩壊による地球の自転の急な変化は、
その生命線とも言えるレクテナの受電層を
地球規模の地震による地殻変動でませ、によって破壊し、

太陽光発電所の姿勢制御や、送電停止命よりもく、
彼らのを受電都市ごとっ先に機不全に陥れていったのだ。

そして今や、その発電所すら、失われたとの重力均衡と、
飛来した数のの破片によってその機全に喪失していた。

逆に都市を維持できたのは、
時代に取り残された前時代の都市群だった。

炭化水素燃料で火をおこし、発電まで行える施設は少なかったが、
そうした設備を保存していた場所に
生き延びた人々は集まり始めていたのである。

そうした都市群の中には、限りある電力で
マスドライバー」と呼ばれる、
電磁力を用いた質量兵器を稼動させ、
落下してくる巨大な欠片の迎撃を試み、
成功した地域も確かにあった。

しかし、そうして砕かれてなお、
その破壊力は想像を絶するレベルだった。
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40 ちひゃー
2011/02/28(月) 14:40:59 ID: 025ydLa41N
限られた範囲と限られた力で出来ることは、
また、限られてしまう。

その上、分厚いに阻まれ、衛星の位置どころか、
自分達が本当は今「どちらの方向に向いているか」すら、
全には把握できない状態なのだ。

「・・・それで、君達の条件はなんだ?」

回線の向こうから重いが届く。

宗久は答えた。
らが望む条件は、あなた方が出来ることを、
 今まで通りやっていただく事です。この先もずっと。

 そのために必要な情報
 この回線につないでいる全ての人へ送ります。
 可であれば、それに協力していただきたい。」

「つまり今々が持つ全力を、隕石対処に振り向けろと。」

「そうです。レクテナからの電力供給がなくなった今、
 らは今残された全てを賭けるしかない。
 大衛星や軌基地はもう使えないでしょう。

 しかし、あなた方は互いの軌施設を監視している
 マイクロ衛星を保有している。
 その全ての管制コードと軌データ
 こちらに送信していただきたい。」
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41 ちひゃー
2011/02/28(月) 14:42:04 ID: 025ydLa41N
マイクロ衛星とはスパイ衛星とも呼ばれる、
が敵対・競合国家企業間で、
互いの宇宙開発情報を監視する為に用いていた
十数センチメートル人口衛星であり、
その位置情報は機密とされる事が多かった。

「なんだと?
 君達が把握している観測施設へ直接送信するから、
 その施設へつなげはいいではないか!!」
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42 ちひゃー
2011/02/28(月) 14:44:32 ID: 025ydLa41N
らがここで回線につないでいる以上、
 あなた方がらの先にある施設へ
 データを送信してもどの同じですよ。

 既にロストした軌データも、
 変化していく地球の自転情報ければ
 宝の持ち腐れでしょう。

 それに大なデータリアルタイムに照合し、
 迎撃ポイントを割り出す為の電は不可欠です。

 少なくとも初動に関して

 それは可な限り安全が維持できる場所で
 行う必要がある。

 あなた方のデータがなければ
 あなた方に送る情報も限られる。

 握している施設と衛星だけでは
 あなた方のほとんどを救うことはできない。

 そして、あなた方の中で対立が起きた時、
 その情報に不信が起きれば、

 どうなるかはお分かりのはず。」

その全てが正しく思われた。
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43 ちひゃー
2011/02/28(月) 14:46:57 ID: 025ydLa41N
その上で、例え頭越しに
情報をやり取りしたとしても、データモニターされ、
場合によっては情報を操作される可性すらある、
と、少年摘している訳だ。

欺瞞情報は観測者も利用者も等しく混乱させる。
それが致命的な結果を招く危惧さえあった。

そして少年達を排除する実力が、
今の彼らにいこともまた、事実だった。

長い沈黙があった。
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44 ちひゃー
2011/02/28(月) 14:48:07 ID: 025ydLa41N
それは、この期に乗じて
世界導権を取りたい者がいたということ意味する。

世界が滅んでしまえばどの導権など意味を成さない。

今は可な限り正確な情報を掴み、
少なくとも自分達の命を守る事を優先したほうが良い。

送信情報を手がかりに、
自分達の生存に問題のない施設を破壊したり、
奪取して譲歩を迫る手もある。

その上で、
後々都合が悪い者を処分する方が合理的だと思われた。

その為には必要最低限の情報を与え、
最大限の譲歩を引き出す。大人達はそう考えた。

「・・・では、々が君達に対して持つ不信はどう処理する?」

「あなた方の情報と引き換えに、
 それを要される方へはこの艦の自爆コードを送信します。
 定期的更新させてはいただきますが、
 その都度連絡させていただきます。」

ひどく単純なブラフである。
そのコードが本当に機するかどうか明する手段はく、
それが本当であろうとかろうと、
生死を分ける情報の糸は切れるのだ。
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45 ちひゃー
2011/02/28(月) 14:55:21 ID: 025ydLa41N
相手が大人であればブラフとして処理したかもしれない、
だが、相手は子供である。

回りに狡猾な大人たちがいて、
彼らに操られているだけかもしれない。

しかし、今のところ、
金や分を弁えぬ権力を要している訳ではない。

互いに不信を抱えながら、
それを許容し、信頼できる部分で共闘する。

その中で落する者は容赦なく切り捨てる。

政治的な駆け引きは常にそうした側面を持っていた。
全てのカードを切る必要はいのだ。

「わかった。手を組もう。」

感謝します。」

しかし、宗久もまた、
全てのカードを切って見せた訳ではない。

スパイ衛星には
おそらく軌上で相互に連携を保つ為の
ネットワークがあるはずだった。

一つのスパイ衛星特定できれば
周辺の衛星情報走査する事も出来る。
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46 ちひゃー
2011/02/28(月) 15:00:14 ID: 025ydLa41N
そこから明らかに誤った情報だとわかれば、
そうした相手への情報提供は「加工」する事になるだろう。

仮に自爆コードを送りつけてきた場合は、
その回線を切るだけの話だった。

逆に初めから正確な情報開示する人間は、
自爆コードを送りつけてこない限り、
この危機の中で最も警しながらも
「守るべき友人」としていくべきだ。

互いが生き残る為に、全力で守り抜かなければならない。

そんな政治的な駆け引きが
12歳子供に行えるはずがないと高を括った者は、
後日自身の観察眼のさを、
自身の血との痛みを味わう中で呪う事になる。

しかし、そうした「み」の中に、
回線で繋がった人々全ての中で、
かすかな希望を感じはじめたのも事実だった。
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47 ちひゃー
2011/02/28(月) 15:43:39 ID: 025ydLa41N
ロ・ウ教授は静かに眼を閉じ、こう言った。
「なるほど。わかったよ。少年。」

そこはマウナケア中にある
際共有研究施設の地下だった。

ハワイ火山脈は
前世紀の後期にバイパス工事が成功し、
海底に侵食防護アンカーが設置され、
最新科学研究拠点となっていたが、
それでもなお高地は地震によって、
低地は津波による被災を免れなかった。

ハワイ付近のジェット気流が大きく北へと逸れ、
大気の大変動に巻き込まれていないのは
奇跡といってよかった。

それでもなお旧時代の地下施設は
いつ崩落してもおかしくはい。

逃げ延びた人々や研究者によって
ピッチで補強工事が行われており、

屋外の静寂と打って変わって
あわただしい事この上ない。

日本を含めた環太平洋共同体人間も多く、
水瀬財閥の人間も参加していた。

少年は、その水瀬の後継者を名乗った。
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48 ちひゃー
2011/02/28(月) 15:45:01 ID: 025ydLa41N
「申し訳ありません。
 先生方の安全を最大限保障する為の措置として
 仕方なかったのです。」

宗久は謝罪した。
彼は先だって教授に説明した提案を、数時間掛けて耐強く、
他所の場所にいる多様な大人達に説いて聞かせたところだった。

教授との対談は数分で終わったが。

「ああ、いいさ」
教授は笑い飛ばした。
「それで々は具体的に何をすればよいのかな?水瀬君。」

「各から寄せられる衛星データ
 制御コードを全てそちらにお預けします。

 現在の自転のズレを星座太陽の位置から補正して、
 衛星データと照合し、
 可な限り衛星握してください。その上で・・・」

「うーむ、人間が生み出した馬鹿げた花火大盤振る舞いして、
 落っこちてくる隕石をはじき返すってのは判った。
 しかしだ、」

間によった縦皺をで揉みながら
教授は言葉を折る。

「スマンが私の専門はもっぱら生物学でな。
 そっち方面に強いのを出すから、しばらく待ってくれ。」
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49 ちひゃー
2011/02/28(月) 15:46:07 ID: 025ydLa41N
急く子供をあやす様に
ロ・ウ教授はのんびりした口調でそう答えた。

今度は宗久の方がなんとも困った表情になる。

「頼みますよ、先生、事は一刻を争うので。」

「あぁ、判った判った。年寄りを急かすな、少し待ってくれ。」
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50 ちひゃー
2011/03/09(水) 03:50:37 ID: 025ydLa41N
しばらくしてが入れ替わった。
何かをるようなくぐもったく。

「もごもど・・・どーも」

何かを飲み込んだような音の後、
東洋系だが陽気なが宗久のに届く。

「はじめまして、環太平洋文台、ハワイ研究所の天海です。」

水瀬財閥当水瀬宗久といいます。」

宗久が応じる。

「ほぉ『むねひさ』たぁ、また、古名前ですねっ。」

教授といいこの男といい、
ハワイの人材に危機意識があるのかどうか、
宗久は若干不安になった。

「亡きがつけてくれた名前です。は気に入ってます。」

「いぃ名前だと思いますよ。とっても。」

軽快な調子天海が返す。
名前の事をからかわれた様で、
宗久は天海に苛立ちを感じそうだったが、
それが子供じみた感情の様な気になって少し照れくさくなった。
歳相応の子供らしい感情ではあるのだが、
それを今は忘れたい気持ちだった。
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51 ちひゃー
2011/03/09(水) 03:52:13 ID: 025ydLa41N
速ですが、話を始めさせていただいていいでしょうか?」

そう話を切り出す。冷静さを意識しながら。
しかし、次の言葉を発する前に天海はこう切り替えした。

「いやぁ、あらかたの話はスピーカーで聞かせてもらいました。
 ウチの研究所は政治だとかナイショ話が嫌いでしてね。」

陽気さは変らないが意志の強さを感じさせる
しっかりした音だった。天海は続ける。

教授も言ってた通り、結論から言えば協力しますよ。
 ここが持つ限りね。」

天海がそう言い終えるよりく艦内電アクセスアラートが点り、
宗久がいるコントロールルームの艦内モニター上におびただしいデータコードが流れ始め、
凄まじい勢いでデータがやり取りされ始めていく。

「なっ!?

「軌計算ログの書き換えとアップと・・・
 自転速度ピコ単位以下のスクリーニング過程は省略して・・・
 お、あったあった。これとこれとこれと、
 レーザー通信コードはこれかな?
 お、成功マイクロ衛星了。っと。」

あっけに取られる宗久の向こうで、
天海は見る見るうちに衛星を支配下に治め、
宗久の艦のモニターにその位置データを表示させていく。
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52 ちひゃー
2011/03/09(水) 03:53:15 ID: 025ydLa41N
やがて地球とその周辺の衛星情報
ネットワーク情報つきで全て映し出された。

続いての破片の軌情報が次々と書き込まれていく。

「さすが軍用電ボクの処理速度にバッチリついてきますね。」

と言うと同時に宗久のの前のモニター
日焼けした活発そうな青年の顔が映し出される。

ブレインシンクロティ・・・ですか。」

驚きからつぶやくように宗久が話しかける。
それはこの時代のサイバネクスが生んだ
生物そのものを情報処理装置とする技術だった。

ただ、倫理上の建前と、
政治的な問題から生身の人間
これを施す事は際的に禁止されている。

「世の中こうなっちまった以上、
 カタいことはいいっこナシですよっ、御曹司
 うちのロ・ウ教授は『そっち』の方に強い方でね。
 神経端末は外頸静脈からの術式だったんで
 肩につけてもらってますが、
 っと、ややこしい話はともかくも、
 この通り、元気なものです。」
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53 ちひゃー
2011/03/09(水) 03:54:28 ID: 025ydLa41N
モニターに写る天海の言葉も表情も溌剌としているが、
切開をせず血管からナノカテーテルを挿入し、
幹にチップを取り付けると言うのは、
返って危険な手術と言えた。

しかし、成功すれば較的短時間で意識を取り戻し、
-コツ-さえ掴めば
すぐにでも端末を行使する事が出来るメリットもあった。

それでも、本来ないはずの
領域への情報伝送や伝達の負荷の為、
精神崩壊を誘発したり、生命維持機に不調をきたしたりと、
の方が過剰な処理に耐え切れなくなることも多いと言われる。

だが、この一連の危機において、
強力な処理力者の存在には大きな意味があった。

宗久の艦の電を補助的に使っているとは言え、
会話しながら大なデータ処理と演算を、
強力なアンチハックを施された
軍用電を支配し示している時点で、
既に天海は常人とはいえなかった。

「・・・端的に、
 これでこの艦はあなたの支配下に置かれた。
 と言うことですね。」

宗久は静かにそう言った。

「そうとも言えます。」
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54 ちひゃー
2011/03/09(水) 03:56:05 ID: 025ydLa41N
天海が答える。
宗久は肘掛においた握り締めた手が、
ばんでくるのを感じた。

「ただネ、たちとしてもあなた方とはうまくやりたい。
 なにせからの粒子が思った以上に曲者でね。」

「というと?」

「どうやらの内外縁に妙な磁性粒子を含む層がっあったようで、
 そいつが破片と一緒に地球に溜まってきてる上に、
 多様なイオン粒子で上層のリングカレントが
 飽和して電波がうまく通じなくなってるんですよ。

 おかげで地磁気や電離層の減衰で強い太陽放射が
 地球に降り注ぐって事も今のところ心配ないんですが、
 って解りませんよね・・・

 要するに、
 宇宙空間にばら撒かれた電気や磁力を帯びたが、
 放射線から地球を守ってくれてる反面、
 何十年かは電波が使えなくなってきてる。って事です。
 いや、どっちみちわからないかぁ。

 ただネ、あなた方が中継してくれなければ、
 ボクは、ここに繋がる世界中のネット
 直結されちゃうんです。

 今ならボクの干渉から逃げるのは簡単ですよ。
 回線から物理的に離れればいいんだから。
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55 ちひゃー
2011/03/09(水) 03:57:33 ID: 025ydLa41N
 でもこれ、結構怖くありません?
 自己決定意思を持ったノイマンコンピュータ

 ボクにとっても、みんなにとっても。」

「つまり、
 あなたの思考が全部垂れ流しになるということですね。」

宗久が間にをあてながらそうつぶやく。
実際、モニターの一部には
色々と天海の思考情報が映し出されていた。

「まあ、そういう事です。」

青年が笑って答える。そうしたやり取りが行われている間に、
宗久の艦の電は迎撃点を割り出し始めた。

「さて、ここからは御曹司の領分。
 気良くり切って行っちゃいましょう。」
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56 ちひゃー
2011/03/09(水) 03:59:37 ID: 025ydLa41N
同志殿、来ました!!」

中国インドにある嶺山脈。

太白山系の地下に広がる
人民軍臨時部の核戦略揮所のスクリーンネルに、
破片の詳細な軌データが送信されてきた。

落下予測日時と予測される被害の規模、
迎撃の為のタイムシフト
攻撃に使用すべき弾頭とミサイルの管理番号付きで。

解放軍の情報も筒抜けですな。」

揮席に座る壮年の人民軍将官のが細くむ。

「その上で、他への落下予測まで
 合わせて送ってくるというのは、
 が共和への恭順の現れと見るべきでしょうか」

傍らに立つ政治局員がそうつぶやく。

「あからさまな脅しでしょう。
 他にも当然、これと同じ情報が送られているはず。
 自の利益のみを優先するのであれば、お好きにどうぞ。
 ただし、その先に未来などありませんよ。
 といったところでしょうか。」

そういいながら揮卓の端をトントンく。
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57 ちひゃー
2011/03/09(水) 04:01:12 ID: 025ydLa41N
「いいでしょう。ひとまず共闘と言う事で。
 239戦術室、834揮室へ22基地より達する。

 67番、77番、87番を
 これより導する座標にて0603時射撃
 その後の導も順次行うので、そのように行動せよ。」

独り言の様なその言葉が次々と復唱され、
揮所に伝達されていく。

「あと・・・」

「はっ。」

「登瀛に伝を出して、残っている元級4隻に進出命を。
 標は第3太洋横断ケーブルの側線上。
 おそらく大潜水艦

 発見し、2週間の期間監視の上でこれを殲滅せよ。
 この導に関し、通信機器の使用は一切禁じます。

 遂行力ありと認める士官を10名選出の上、
 それぞれに部隊を召集させ、作戦文書を人数分起し、
 早急に提出させなさい。署名しますから。」

復唱を続けてきた士官がやにわに問いかける。

「つまり、自力でチンタオまで行き、導を実行せよと、
 この異常の中をですか!?
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58 ちひゃー
2011/03/09(水) 04:03:54 ID: 025ydLa41N
時ならその場で警備に拘束される所だが、
官はこう返答した。

「なに、上手くいけば共和理念新世界の中で達成され、
 悪くしても々の犠牲をもって、人類共存のは開かれる。
 国家人民として最後の勤めを果たせるなら、
 本望ではありませんか?」

そう言いながら、
士官を詰問しようと口を開きかけた政治局員を振り返る。

そのの眼の鋭さに、局員は口を閉じざるを得なかった。

その様子に満足げな微笑みを湛え、
指揮官は士官に再度、下知を下す。

「では、そのように。」

こうして、の崩壊から26日後、
奇跡と幸運の中で生き延び、
この終末に抗う力を得た人々の「反撃」は開始された。

ドロップ」と名付けられたの破片は、
その危険度に応じて等級付けされ、それを打ち砕くべく、
人類に残されたあらゆる兵器が行使された。


それは約1世紀に及ぶ、地球の命運をかけた、
長い闘いの狼煙となる。
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