概要
四方を陸に囲まれ、外に通じる海がない国家を指す。対義語は海洋国又は島国。
この場合の外に通じる海がないとは、いわゆる大洋(太平洋・大西洋・インド洋・極海)に通じているかどうかを意味し、それらの大洋に直接通じている必要はない。黒海に面したウクライナやルーマニア、地中海に面したイタリアやギリシャなどは大洋に直接は接してないが、それと繋がる海に面しているので内陸国とは呼ばれない。
一方で、外に通じていない海は、海と呼称されていても、この定義の上では海とはみなされない。典型例がカスピ海であり、我が国の面積に匹敵する世界最大の内陸の水域で、海に近い組成を持ちながら、海とは直接つながっていないため、これは湖と定義されている。その為、カザフスタンやアゼルバイジャンなどの国々は内陸国に分類される(近年では油田やガス田の権利関係からカスピ海を国際法上の海にしようという動きもあるらしいが……)。
世界には完全な内陸国が44(国連非加盟国のバチカンを含めると45)、回廊(後述)などで辛うじて海に通じている事実上の内陸国が4カ国の48カ国存在し、有名所ではスイスやモンゴルあたりが知られているだろうか。
海というものは魚や塩などの恵みを与え、また遠距離交易の主要ルートにもなる大変ありがたいものである。しかしその反面、津波や海賊、外国・反乱勢力からの侵攻に使われるなど災いとなる部分も大きい。中世ヨーロッパや地中海世界にその名を轟かせたヴァイキングや、15世紀から16世紀にかけて跋扈した倭寇などというものはその災いの典型例といえるだろう。その為、ロシアのモスクワや、フランスのパリ、我が国の古都であった京都など、海洋を有していても宮殿を置く首都は内陸部に置く例は少なくない。
河川の水利さえ確保できれば、山岳から取れる鉱物や森林を使った鉱業や林業、寒暖差を利用した農業などの産業が育成しやすいので、内陸国でもやっていけないことはない。しかし、交易が比較的小規模で、国家運営に必要なモノが少なかった前近代ならばともかく、グローバル化が唱えられて久しい現代において敢えて内陸国であることのメリットは乏しいと言わざるを得ない。2022年のGDPランキングを見ると、内陸国で一番高いのはスイスで21位(7990億$)、次はオーストリアで31位(4770億$)、ヨーロッパ以外だとカザフスタンで55位(1970億$)と海洋国に比べ非常に厳しい現状である。国連による開発途上国の分類においても内陸開発途上国として指定されているのは、完全内陸国44ヶ国のうち32ヶ国と深刻な実態をのぞかせている。
内陸国の中でも、その国から海岸線に至るまで陸路で二か国以上通過しなければならない国は二重内陸国と呼ばれ、これは現在ではスイスの隣にあるミニ国家・リヒテンシュタインと、中央アジアに位置するアフガニスタンの隣国、ウズベキスタンしか存在しない。
また、海岸線を有していても陸の国境に比して極端に短い場合は準内陸国と呼ばれる。どれほど短いと準内陸国に該当するかは決まっていないが、Wikipediaでは5%未満としているため、この記事でもそれに従う。
内陸国の苦労と打開策
交易の不利
まずなんといっても交易面で不利である。如何にモータリゼーションが進んだ現代とはいっても、陸運は海運に比して効率面でも価格面でも大いに負けている。一般に自重に対して積載できる荷物の重さは、飛行機は1.2倍、トラックで1.8倍、鉄道(貨物列車)でようやく6倍といったところであるのに対し、船舶は7倍以上の重さを運ぶことができる。
鉄道と船舶が見た目上では大差ないようにみえて、船舶は一般的に鉄道より巨大な乗り物なので、実際に運べる量は大差がついてしまう。例として我が国で用いられる貨物列車、EF210(桃太郎)が運べるのが650t程度なのに対し、一般的なコンテナ船が運べるのは8万tと100倍以上の物が運べてしまうのである。
また、トラックにしろ貨物列車にしろ、陸路交易には道路、線路や駅といったインフラ開発を事前にしなければいけないのに対し、海路は海そのものが道な為、港湾だけ整備すればよいのでその点においてもコストパフォーマンスに優れた輸送手段といえるだろう。
内陸国はこの海運がもつメリットを享受することはほとんどできない。一応河川舟運(川を使った物流)というものがあるにはあるが、内陸国に流れる河川の深さは知れている上に高低差もある為、自ずと乗り入れられる船の重さは限られており、非常に限定的なものとなってしまう。
物流に不利ということは、海に面している国に比べて諸々のモノのコストが高くつくということを意味し、歴史上でも内陸の国家や諸侯が海に面している所に対して関税や諸経費を多く支払っており、その分国際的な競争力が低下し、経済がなかなか上向かないという現象が発生してしまうのである。このコストの差異はアジア地域では3倍にものぼると国連貿易開発会議では2010年に推計をだしている。
人流の点でも、空路が出来る前は鉄道や馬、人の足で長い距離を行かなければならないので、その点でも不利であった。また、飛行機ができてもコストは比較的高額なのでやはり不利である。ちなみに人口では、エチオピアが2022年7月時点で推計約1億500万人と我が国に迫るほど(世界13位。日本は2022年12月時点の推計で約1億2500万人、世界11位)の規模を有しているが、内陸国の特性というだけでないにせよ、海洋国よりは人口は少ない傾向にある。
打開策
このような内陸国の不利を改善するため、様々な措置が設けられるようになった。
条約
第二次世界大戦後、国際連合をはじめとする国際社会においては内陸国の経済上の不利を改善すべく様々な条約が締結された。最初に内陸国と海洋国の権利衝平がはかられたのは1958年の公海に関する条約で、ここで相互主義(双方の国が相手の国に対して自国と同等の権利を与える考え方)に基づいた、内陸国と海洋に面した国の領域の自由な通過が定められた。
次に挙げられるのは1965年に締結された内陸国の通過貿易に関する条約である。これは、通過国(沿岸国)が、内陸国と自国の港湾間での物流に関する協定を作ることや輸送物資の原産地や到着地について差別を行わないことを了承するかわりに、内陸国側は輸送物資の管理監督や保護について応分の費用負担をすることを了承するという内陸国・沿岸国双方に義務を課した条約である。関税を取ることを禁じるかわりに費用負担を求めた点が画期的といえ、内陸国の負担が軽減された点が注目される。
現在ではこれらの条約は、海洋法に関する国際連合条約(国連海洋法条約)に集約され、役目を終えている。国連海洋法は事実上国際慣習法と化している為、批准してない約24か国も遵守している。
回廊
しかしそうはいっても、やはり海には面していたほうがなにかと便利である。その為、回廊地帯という領土から海洋に無理やり国境をつなげるやり方も行われることがある。
典型例が1919年のヴェルサイユ条約によって、ドイツ領の東プロイセン地方とプロイセン地方を分断したポーランド回廊である。グダニスク(ダンツィヒ)を中心都市とするこの地域は、ポーランドを内陸国ではなく、バルト海に面する沿岸国としたが、当のドイツからは通行と交易を分断される怒りを買い、第二次世界大戦の原因の一つとなってしまった。
現在ではコンゴ民主共和国が、1885年に行われたベルリン会議の結果として与えられた、現在ではアンゴラを二分する土地を回廊として現在まで所持(コンゴ中央州)していることが知られている。
国際連合の行動計画
国際連合では、内陸開発途上国における開発の遅れを改善するため、2003年にカザフスタンのアルマトイにおいて内陸国と通過国における輸送システムの効率化を行うことや、そのシステム開発のグローバル的な枠組みを策定している。
具体的には税関事務の合理化や手数料の節減、鉄道網や空路の充実、内陸国製品のキャンペーンなどがあげられている。2014年にはその10年間の進展の確認と、次の行動計画の策定を行い、ウィーン行動計画として新たに歩みだしている。
内陸国の一覧
アジア
アフリカ
ヨーロッパ
南アメリカ
関連項目
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