武田勝頼単語

• 前半生：信玄の庶子として
• 後半生：信玄の死後～長篠の戦い
• 晩年：転石の如く
• 傾国の愚将というレッテル
• 信長の野望における勝頼
• 関連動画
• 関連項目
• 掲示板

「武田勝頼」（たけだ・かつより　1546年 - 1582年4月3日）とは、日本の戦国大名である。甲斐国を中心に関東甲信越地方に広大な勢力圏を保持し、織田信長や徳川家康、北条氏政などと戦った。

『甲斐の虎』の異名を取った名将、武田信玄の四男。
側室（諏訪御料人）の息子だったために当初は母親の生家である諏訪家の名跡を継ぎ、諏訪勝頼（すわ・かつより）と名乗っていた。だが、兄達が信玄との関係を壊して廃嫡だったり、盲目だったり早逝したために後継者のお鉢が回ってくる。信玄の死後、甲斐武田家の家督を継いで第20代当主となる。

名将・信玄の跡取りとして、武田家を雄飛させるという宿命を背負った男だったが、宿敵・織田信長との決戦である長篠の戦いに大敗。信玄時代の宿将や有能な部下、友好国人達の多くが戦死して統治体制に亀裂が生じ、甲斐武田家を崩壊させるきっかけを作ってしまった。

前半生：信玄の庶子として

1546年（天文１５年）に、武田信玄の四男（庶子）として生を受ける。母親は、信玄が特に寵愛したと伝わる絶世の美女・諏訪御料人（乾福院）。幼名は士郎四郎。

川中島の戦い以後の信濃平定事業の一環として、1562年（永禄５年）に母の生家である諏訪家の名跡を継ぐことになり、諏訪勝頼を名乗る。（同年には、異母弟の盛信も仁科家を継いでいる。）

1563年に、上野箕輪城（城主は長野業盛。長野業正の子）の戦いで初陣を飾る。勝頼はこの戦いで曲輪の１つを攻め落とすという大功を挙げ、従弟である武田信豊（川中島で戦死した武田信繁の息子）と共に御親族衆となり、名実共に信玄の家臣団に組み込まれることになる。
だがその一方で、勝頼は武田家の通字である『信』の字を、成人後の名前に与えられなかったことに、密かな不満と焦りを抱いていたという。だがそもそも、四男であり庶子である勝頼にとって、信玄や武田家中からの扱いがどうであろうと、あまり重要ではなかった。当時の常識で考えれば、彼が武田家の後継者になることはないはずだった。

ところが、彼の人生に決定的な影響を及ぼす出来事が、1565年（永禄８年）に発生する。信玄の長男（勝頼にとっては異母兄）だった武田義信が信玄と対立して幽閉され、廃嫡された（2年後に病死）のである。次男は盲目で、三男は早世していた。これにより、勝頼に後継者の器が回ってくることになった。
だが、勝頼に対して家中の者達が好感情を抱いていないことを熟知していた信玄は、勝頼を中継ぎの当主とするつもりだったらしく、勝頼の嫡子である信勝の元服後は彼に家督を継がせるように、言い含めていた。
当然、勝頼がこの処遇を喜んだはずはなく、後の武田家の指導に関して徐々に影を落としていく。

後半生：信玄の死後～長篠の戦い

1573年（元亀４年）、かねてより西上作戦の真っ最中だった武田信玄は、その途上で持病だった肺結核が悪化して病臥。そのまま死去する。これにより勝頼は家督を継ぎ、武田勝頼を名乗った。（信玄は死に際して、「我の死を３年は隠せ」と遺言したが、これは勝頼のことが頼りないことを自認したに等しかった。）

信玄の死によって、それまで包囲網下に置かれていた織田信長と徳川家康は息を吹き返した。武田家の同盟者だった浅井長政や朝倉義景、一向一揆衆などが次々と撃破され、その勢力を落としていったのである。また、信玄存命中は守勢に徹していた徳川家康も、三河の奥平貞能を寝返らせるなど、攻勢を強めていった。
特に、奥平貞能の調略は勝頼にとってこれ以上ない挑発行為であり、また家中をまとめるために戦功を欲していた勝頼は、三河国への大規模遠征を企図した。

1575年（天正３年）、勝頼は１万５０００の大軍を率いて、寝返った奥平親子の籠もる長篠城を包囲した。（従来、武田軍は攻城戦が不得手とされており、信玄も攻城戦は避ける傾向があった。だが、勝頼はこの前年に堅城として知られていた高天神城を落としていたため、自信過剰になっていたと言われる。）
武田軍は長篠城を猛攻するが、籠城していた奥平信昌（貞能の子）が予想外の抵抗を見せたために城攻めは難航してしまう。この間に、援軍として現れた織田信長と徳川家康の連合軍３万８０００が到着。設楽原に馬防柵を中心とする野戦築城を開始した。
兵力数では織田・徳川連合軍側が圧倒的に有利だったが、当時の織田軍の主力だった尾張兵は弱兵とされており、対する甲斐兵は強兵として知られていた。勝頼は織田軍との決戦に臨むと決し、騎馬隊を中心とした正面攻撃を命令した。（これに、信玄時代の重鎮達は反対したとされる。）

織田軍の急造の野戦要塞に対して、武田軍は正面からの突撃を敢行。これに対して、織田軍は後世にも名高い鉄砲三段撃ちで対抗し、武田軍の騎馬隊を次々と討ち取っていった。
この戦いで、馬場信春や山県昌景、三枝守友や土屋昌次、内藤昌豊、川窪信実、原昌胤といった武田家の宿将や猛者達が次々と戦死し、また真田昌幸の兄達（真田信綱、真田昌輝）や浅利信胤など武田軍に付き従ってきた有力国人達も死んでしまう。
これにより戦闘の継続が不可能となった武田軍は、長篠から撤退する。勝頼自身も、わずか数騎の味方に守られただけの無惨な退却行だったという。一説によると、武田軍の死者は１万人を超えたとされ、特に指揮官クラスである足軽大将や譜代衆の死傷率は桁違いに高かったとされている。

以後、武田家はこの戦いの損害を補填することはできず、衰勢の一途を辿る。 

晩年：転石の如く

長篠の大敗以後、勝頼はそれまで対立していた越後の上杉謙信との和睦を図り、同時に北条氏政と婚姻関係を結んだ。（氏政の妹を後室に招いた。）

だが、1578年（天正６年）に謙信が死去し、その後継者の地位を巡って御館の乱（謙信の養子である上杉景勝と、同じく謙信の養子となっていた氏政の弟・上杉景虎の争い）が勃発する。
これに勝頼は領国事情もあって積極関与はしなかったが、和睦交渉の相手として景勝側を選んだために、北条家は「武田勝頼は景勝の味方をした」と思い込んで激怒。せっかく軌道に乗り始めていた武田・北条間の同盟関係（甲相同盟）は雲散霧消してしまった。
またこの最中も、勝頼は織田家との和睦について模索し続けており、常陸の佐竹義重や安芸の毛利輝元などを頼ったが、当の織田信長は既に武田家を滅ぼすことを決めていたため、無駄な努力に終わった。

1581年（天正９年）、遂に織田信長と徳川家康による武田領侵攻が始まる。徳川軍に高天神城が攻められたが、しかしこれに勝頼は後詰めを行うことができず落城を許してしまった。これにより領国は更に動揺し、御親族衆や譜代衆の中にすら不穏な動きを見せる者が出始めた。
1582年（天正１０年）２月、信玄の娘婿だったはずの木曽義昌が、勝頼の開始した新府城建設による課役増大に不満を抱き、織田側へ寝返った。これを機に、織田信長は嫡子の織田信忠に大軍を預け、甲斐侵攻を開始。これに勝頼は反撃するも、既に内情はボロボロだった武田軍に組織だった抵抗はできなかった。ほぼ唯一、果敢に抵抗していた高遠城主の仁科盛信も戦死し、勝頼は築城したばかりの新府城を捨てて落ち延びた。

勝頼は嫡子の信勝、後室の北条夫人（先述の氏政の妹）と共に甲斐山中を逃避行するが、一門衆だった小山田信茂の裏切りに遭って道が塞がれ、滝川一益の部隊に追いつかれてしまった。
勝頼は、信勝や旗本達と共に応戦するが、衆寡敵せず敗北、奇しくもかつて上杉禅秀の乱に敗北して追い詰められた先祖・武田信満が果てた天目山にて自刃することとなった。享年37歳。この勝頼最後の戦いのことを『天目山の戦い』と呼ぶ。（余談だが、この時に勝頼に従った家臣の１人が、声優・生天目仁美の先祖だと言われており、名前もこの天目山に由来するものらしい。）

おぼろなる　月もほのかに　雲かすみ　晴れて行くへの　西の山のは

勝頼の辞世の句。武田家を、夜明けには消えていく雲や霞に例えている、物悲しい句である。だが、彼の人生をここまで悲惨なものにしたのは、決して彼自身だけの失策ではなかった。詳しくは後述する。

傾国の愚将というレッテル

名将・武田信玄が、甲斐山中という厳しい地理条件を克服して育て上げた武田家と精強な家臣団。しかしそれをむざむざ長篠で死なせ、最終的には滅ぼしてしまったという結果が残っているため、現在の戦国界隈でもネガティブなイメージが定着している。それが武田勝頼という男である。
だが、彼にはそういった人生を辿らざるを得ない、ある種の宿命というか、舞台装置が既に組み上げられていたと言うこともできるため、一概に彼が愚将だったと評価することはできない。

その舞台装置は、誰が作ったのか？　もはや言うまでもない、父・信玄本人である。先述しているが、勝頼はそもそも武田家の当主となるべき人物ではなかったのだ。

勝頼の母親は、諏訪御料人と呼ばれる女性である。彼女は、1542年に信玄が滅ぼした諏訪の豪族・諏訪頼重の娘であり、信玄は彼女と頼重の遺児（千代宮丸）の身柄を確保することで、諏訪家の遺臣達の取り込みを行った。信玄の冷酷な所作に、当初は諏訪御料人は嫌悪感を抱いていたとされ、反乱計画に関与していたともされるが、定かではない。
また、そんな彼女と、彼女の産んだ勝頼に対して、武田家臣達もまた距離を取っていたらしく、中には信玄が諏訪御料人を娶ることに強く反対する者もいたという。こうした出生に関する良からぬ事情と、それに由来すると思われる勝頼と武田家臣団との間の『見えない壁』が、後年の武田家に暗い影を落としていったとされる。

元々武田家中の者達から『所詮は外様』もしくは『敵将の血を引く息子』として認識されていた勝頼は、しかし信玄の後を継ぐために信頼を得る必要があり、そのためには大きな武功が必要だった。だが、新時代の寵児である織田信長や、謀略に優れる徳川家康は相手が悪すぎた。
また当時、土着豪族の連合体という側面の強かった武田家の統治体制は、既に時代遅れとなりつつあったという点も考慮しなければならない。甲斐や信濃国内の国人衆や豪族達との複雑すぎる主従関係と指揮系統は、父である信玄ですらも把握と統率に一苦労していたのである。
ましてや、庶子という政治的ハンデを背負っていた勝頼にとって、信玄時代の宿将や譜代衆は、むしろ敵以上に制御の難しい存在であった。

そしてその統治体制の弊害と脆さは、長篠の大敗と、それ以降の武田家の凋落という形で顕現した。
ただし、勝頼は長篠以降も上杉や北条、佐竹や蘆名といった東国の諸大名、追放された足利義昭と彼を保護する毛利家と誼を通じ、織田家との和睦を模索するなどしており、決して無為無策ではなかった。だが、長篠の戦いで被った軍事的・政治的ダメージを回復させるにはあまりにも非力だった。
結果、勝頼の器量が信玄には及ばない、と察した各地の国人や豪族達が、相次いで離反していった。信玄個人の器量とカリスマによって辛うじて保たれていた武田家の勢力圏は、残念ながら脆くも崩れ去ってしまったのである。だがこれはむしろ、勝頼の失策というより信玄自身の失策と言うべきだろう。

自身の死後、自国の体制や天下の潮流がどのように変質していくかを見通せなかった、あるいは見通せていたとしても、それに関して何ら効果的な施策を行わなかった信玄自身の手落ちであり、勝頼はそのワリを食っただけと言うこともできるのではないだろうか。
１人の武将として非力ではなかったが、父親を超えることを宿命づけられて疲弊していき、それを叶えることなく衰亡していった悲劇の名将、と呼べるのではないだろうか。英傑の２代目というのは、やはり苦労が多いのである。

信長の野望における勝頼

「信長の野望」（PC）シリーズにおける武田勝頼の能力一覧。

戦闘力だけなら信玄と並ぶものがあるが、知略と政治面はからっきし、という脳筋設定が貫かれている。天道では改善こそされたものの、軍師や参謀無しで前線へ出すには厳しいものがある。

関連動画

余談だが、大河ドラマ『信長 KING OF ZIPANGU』では、声優でもある黒田崇矢氏が演じている。（当時はまだ黒田隆哉名義。）

関連項目

• 武田信玄
• 上杉景勝
• 織田信長
• 織田信忠
• 徳川家康
• 北条氏政
• 滝川一益
• 戦国時代の人物一覧

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