タガノエスプレッソ(英:Tagano Espresso)とは、2012年生まれの日本の競走馬。鹿毛の牡馬。
2歳重賞を勝ち、三冠を皆勤し、適性探しの旅を経て障害の絶対王者の歴史を止めた愛され障害馬。
主な勝ち鞍
2014年:デイリー杯2歳ステークス(GII)
2020年:阪神ジャンプステークス(J・GIII)、京都ジャンプステークス(J・GIII)
2022年:京都ハイジャンプ(J・GII)
父ブラックタイド、母タガノレヴェントン、母父キングカメハメハという血統。
父はあの無敗の三冠馬ディープインパクトの全兄。同期の産駒にキタサンブラックがいる。
母は3戦未勝利。母父はNHKマイルCと日本ダービーの変則二冠馬で、一時代を築いた大種牡馬。
半兄に2016年の武蔵野ステークス(GIII)をレコード勝ちした直後に不慮の事故で夭折してしまったタガノトネール、半弟に2019年のクラシック三冠を皆勤し屈腱炎を乗り越えて長距離重賞戦線で頑張っているタガノディアマンテがいる。
馬主は生産牧場の新冠タガノファームを持ち、「タガノ」冠名を使用する八木良司。
馬名の意味は「冠名+イタリア語で『急行』」。コーヒーのエスプレッソではない。
愛称は「おじじ」。厩舎の五十嵐調教助手がそう呼んでいたそうである。
おじじはもうひとりの担当である坂田調教助手のことが大好きで、しきりにじゃれつき、放牧から帰ってくるとのしかかりに行くほどだとか。
競走馬としてはかなりの高齢まで走り続けたが、引退まで見た目からはとてもそうは見えない、小柄でつぶらな瞳のベビーフェイスであった。
栗東の五十嵐忠男厩舎に入厩し、2014年8月に新潟の新馬戦でデビュー(石橋脩騎乗、3着)。2戦目から鞍上が岩田康誠に替わり、3戦目で未勝利戦を勝ち上がると、GIIデイリー杯2歳ステークスに参戦。好位で先行して直線で抜け出し押し切り勝ちという王道の勝ちっぷりで重賞初制覇を飾る。……だが、ここから彼の苦難の日々が始まることとなる。
次走の朝日杯FSからは菱田裕二に乗り替わり、GI朝日杯FS→GII弥生賞→GI皐月賞→GI日本ダービー→GII神戸新聞杯→GI菊花賞とクラシックの超王道ローテを突き進み、同じ父を持つあのキタサンブラックにも一度は先着した。嘘は言っていない。
……なお、着順は6着→3着→13着→13着→8着→13着。弥生賞こそ10番人気で3着と健闘したものの、クラシック三冠は全て13着という、珍しいんだろうけどなんともコメントのしようがない記録を残す。ちなみにキタサンブラックにはダービーでクビ差で先着している。
ちなみにデビュー時点で500kgを超えていた大型馬のキタサンブラックと違い、タガノエスプレッソは450~460kg程度の比較的小柄な馬である。菊花賞のときはキタサンブラックが出走馬中最大の530kgあったのに対し、タガノエスプレッソは最小の442kgだった。
ともかく、2歳にマイル戦のデイリー杯を勝ってるわけだし、クラシックはやっぱり距離が長かったんじゃ? と4歳となってからはマイル路線に転向したが、夏に降級直後の1600万下条件戦を勝っただけで、オープン特別以上では全て着外とやっぱりいいところなしに終わる。
2016年末の2016ファイナルステークス(OP)から、今度はダートに転向。するとこの転向初戦を12番人気で勝利。なるほど適性はダートだったか! と思われたが、この勝利以降はダートで14戦するも、オープン特別で2着2回があった以外は全部着外。
クラシックディスタンスでもマイルでもダートでも、オープンまでは行けるもののそこから先に進めない。キタサンブラックより先に重賞を制覇しながら、キタサンブラックの華々しい活躍と有終の美を遠くで見送るばかり。完全に頭打ちになってしまったまま、気付けば7歳を迎えていた。
2019年3月、7歳にして障害競走に転向。障害では8歳馬9歳馬もそれほど珍しくないとはいえ、7歳で転向というのはかなり遅い。それでも腐っても平地重賞馬ということでその平地力を買われて転向初戦から3番人気に推され、3着。そして転向2戦目で1番人気に応え、2年半ぶりとなる久々の勝利を挙げる。
なおその次の12月の中京のOP戦はゲートが開いてから3秒ほど経ってようやくゲートを出るとんでもない大出遅れで10着に敗れた(なんとそんな大出遅れしながらビリではない)。
明けて2020年、8歳となって2戦目の三木ホースランドジャンプステークス(OP)で障害オープン初勝利。このレースでは同じタガノ冠名のタガノアンピール(2着)・タガノグルナ(3着)とともに八木オーナーの馬で馬券圏内を独占した。
続く5月の京都ハイジャンプ(J・GII)は障害重賞初挑戦ながら2番人気に支持されたが、最後の直線で突き放され3着。
そして、9月の阪神ジャンプステークス(J・GIII)。京都競馬場改修の影響で中京競馬場での開催となったこのレース、タガノエスプレッソは2番手で先行すると、3コーナーで先頭に立ち、あとは後続を突き放す一方で8馬身差の圧勝。2014年のデイリー杯2歳S以来、実に5年10ヶ月ぶりの重賞制覇。重賞勝利のJRA史上最長間隔記録となった。また、平地と障害の両方で重賞を制したのは史上13頭目。
続いては11月の京都ジャンプステークス(J・GIII)。阪神競馬場開催、僅か6頭立てのこのレースには、今までの対戦相手とは別格の大物が出走してきていた。そう、障害競走の絶対王者・オジュウチョウサンである。近年は平地に行ったりしていたものの、この年も4月にはJ・GI中山グランドジャンプを制し5連覇、障害競走では目下13連勝中。当然ながら単勝1.1倍という圧倒的1番人気であった。
単勝6.8倍の2番人気タガノエスプレッソはこのレース、スタートから果敢に先頭で逃げを打つ。2番手で追走してくるオジュウチョウサンに並びかけられても粘りに粘るタガノエスプレッソ。オジュウチョウサンにとっては完全ないつもの勝ちパターンのはずが、最後の直線で伸びを欠き、逃げるタガノエスプレッソの背中を捉えきれない。
MBS・河本光正アナは「タガノエスプレッソがんばっている、タガノエスプレッソがんばっている、オジュウチョウサンはちょっと脚色厳しい!」と信じられないものを見るような声色で叫び、関西テレビ・岡安譲アナは「ああー!オジュウチョウサンが負ける!」と悲鳴をあげ絶句する中、タガノエスプレッソは外のオジュウチョウサンと内のビッグスモーキー、そして猛然と追い込んできたブライトクォーツを振り切って先頭でゴール。
タガノエスプレッソが、歴史を止めた! ゴールイン!
2着争い接戦! 6番ブライトクォーツ4番オジュウチョウサン内2番ビッグスモーキー!
タガノエスプレッソ大金星!
オジュウチョウサンが障害で負けたのは、2016年3月の障害オープン(2着)以来、実に4年8ヶ月ぶり。長年障害競走に君臨してきた絶対王者の敗北に阪神競馬場は騒然。
歴史的な大金星を挙げたタガノエスプレッソ。奇しくもこの日の阪神メインレースは、6年前に自身が勝利したデイリー杯2歳S。平地でクラシックを目指した6年前から、障害で絶対王者を下した現在までの道のりに、はたして彼は何を思ったのであろうか。
また実はこの前週、金沢競馬場で行われた重賞・北国王冠で、同じタガノ冠名の兵庫総大将・タガノゴールドが2着入線後に馬場に倒れ、そのまま急死してしまっていた。同冠名の地方の名馬に捧げる勝利ともなり、障害レースの世代交代をも予感させるレースであった。……まあ世代交代と言ってもタガノエスプレッソはオジュウチョウサンの1歳下。9歳馬から8歳馬へは世代交代と言えるのだろうか……。
12月。重賞連勝、絶対王者撃破の勲章を掲げ、いよいよ年末の大一番、中山大障害(J・GI)に挑戦。オジュウチョウサンは回避で不在となったが、タガノエスプレッソは大障害コースの経験がないことが不安視され3番人気。レースでは6~8番手を進み、直線で大外に持ち出して追い込んだが、1番人気メイショウダッサイには届かず3着。
明けて9歳となる2021年は中山グランドジャンプ(J・GI)へ直行。主戦の平沢健治騎手が当日の4Rで落馬負傷したため植野貴也騎手に乗り替わりとなる。新王者メイショウダッサイと6連覇を目指すオジュウチョウサンの二強ムードの中、3番人気のタガノエスプレッソは逃げを打ち、最後のハードルまで先頭で粘ったが、直線でメイショウダッサイに振り落とされまたも3着。
次走は昨年制した11月の京都ジャンプステークス。鞍上も平沢騎手に戻り1番人気に推されたが、直線で逃げ粘る2番人気ケンホファヴァルトとの熾烈な追い比べの末、差し切れずに2着。
そして年末の中山大障害。新王者メイショウダッサイは中山GJの後に繋靭帯炎を発症して休養中、前走で敗れたケンホファヴァルトも左後管部裂創で休養。前王者オジュウチョウサンは3連敗中とさすがに10歳ともなれば衰えを隠せない。これはもうタガノエスプレッソにとっては千載一遇の大チャンス! というわけで単勝2.0倍の1番人気。J・GI制覇待ったなし!勝った!勝った!ばく進Vロード!
そしてレース本番。ファンの期待に応えて、直線を先頭で駆け抜けたのは――
……あれ?
そう、勝ったのは復活のオジュウチョウサン。タガノエスプレッソはといえば、道中6~7番手のまま特に見せ場もなく7着。新王者がいなくなったと思ったら前王者の復活を後ろで見届ける羽目になってしまった。
10歳となる2022年も中山グランドジャンプを目標に現役続行し、3月の阪神スプリングジャンプ(J・GII)から始動。得意の阪神コースということもありオジュウチョウサンに次ぐ2番人気だったが、スタートから積極的に前に行こうとするもすぐに先行集団に呑まれて4~5番手あたりでの追走になり、最後は直線で完全に置いていかれ、1着エイシンクリックから20馬身以上離された5着。
2戦続けての凡走に、鞍上の平沢騎手も「年齢的な衰えだと思います」とコメント。陣営は引退も含めて今後を検討したが、脚元に疲れが見えるものの検査の結果故障はないということで、中山GJを回避して休養し様子を見ることになった。
休養中は初めてのプール調教にビビりまくったりしていたようだが、幸い懸念された脚元は問題なし、元気いっぱいということで、5月の京都ハイジャンプ(J・GII)へ向かうことに。鞍上は障害転向以来の相棒・平沢騎手から乗り替わりとなったのだが、その相手がなんとオジュウチョウサンの主戦・石神深一。オジュウの連勝を止めた彼に石神騎手が乗るということで「呉越同舟」なんて記事も出たりした。
レースは9頭立てのうち重賞馬はタガノエスプレッソだけ、障害オープン勝ち馬も他に1頭いるだけというメンバー。距離不安も囁かれる3900mだが、さすがにこの面子相手に負けるわけにはいかなかった。道中一時は10馬身以上の差をつける大逃げを仕掛け、飛越でちょっと躓くところもあったが、最後はワーウルフの追撃からしぶとく半馬身粘りきって1着でゴール。障害重賞3勝目を挙げた。
ちなみに京都競馬場改修のため、2022年の京都ハイジャンプは中京競馬場での開催。これでタガノエスプレッソの勝った障害重賞は、
・阪神ジャンプステークス(中京)
・京都ジャンプステークス(阪神)
・京都ハイジャンプ(中京)
という代替開催ばかりという珍記録に。また、2歳重賞を勝った馬が10歳以上で重賞を勝ったのは史上初だそうである。
重賞勝ちでまだまだ現役でやれることを示したタガノエスプレッソ。暑さに弱いので夏場は放牧で休養、秋へ向け英気を養っていた……のだが、放牧先で故障を発生してしまい、8月に現役引退となった。残念な結末ではあるが、既に10歳、何が起こるのかわからない障害競走、重賞勝ちを花道として無事に現役を全うできたことを幸いと捉えるべきだろう。
2歳から10歳まで8年にわたり、元気に跳んで走り続けたタガノエスプレッソ。悲願のJ・GI制覇には届かなかったが、タガノ軍団では最大の稼ぎ頭ということもあり、障害馬としては非常に稀なことに、今後は生まれ故郷のタガノファームで種牡馬となる予定とのことである。
ブラックタイド 2001 鹿毛 |
*サンデーサイレンス 1986 青鹿毛 |
Halo | Hail to Reason |
Cosmah | |||
Wishing Well | Understanding | ||
Mountain Flower | |||
*ウインドインハーヘア 1991 鹿毛 |
Alzao | Lyphard | |
Lady Rebecca | |||
Burghclere | Busted | ||
Highclere | |||
タガノレヴェントン 2006 鹿毛 FNo.9-f |
キングカメハメハ 2001 鹿毛 |
Kingmambo | Mr. Prospector |
Miesque | |||
*マンファス | *ラストタイクーン | ||
Pilot Bird | |||
フィバリッシュ 2000 鹿毛 |
*トニービン | *カンパラ | |
Severn Bridge | |||
*ヘバ | Nureyev | ||
Likely Exchange |
クロス:Nureyev 5×4(9.38%)、Northern Dancer 5×5(6.25%)
掲示板
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最終更新:2024/04/26(金) 06:00
最終更新:2024/04/26(金) 06:00
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