寺生まれのTさんとは、一般人である。「寺生まれの先輩Tさん」と呼ばれたりもする。
夜釣り
俺は夜釣りに出かけた
ある日、遊びの予定がキャンセルになった俺は秘密の釣り場で夜釣りを楽しむ事にした
街から少し離れた所にある橋で、静かでよくつれる俺の穴場
その日も良く釣れ、しばらくした頃、全身に寒気が。
何か恐いな・・・そう思いつつも入れ食い状態のその場を離れる気にもならず夜釣りを楽しんだ
「あなたも釣りですか?」後ろから声をかけられた、振り返るとそこにはサラリーマン風の中年男性が
「えぇ、ここよく釣れるんです」「えぇそうらしいですね」
「あなたも釣りですか?」「・・・まぁそうですね」話していくうちに段々と俺は違和感を感じた
男性はどう見てもスーツ姿、とても釣りを楽しむ格好じゃない、こんな所でなにを・・・
「あなた、つらないんですか・・・」男性の声・・・いやおかしい、明らかに上から聞こえてきた
「つりましょうよ、あなたも・・・」俺は恐怖に震えながらも上を見上げた・・・
そこには、今話をしていた男性の首吊り死体が!!男が言っていたのは「釣り」ではなく「吊り」だったのだ!!
気が付くと俺の目の前には無数の人影が「吊ろう・・・一緒に吊ろう・・・」と俺に囁いている
「そこまでだ」聞いたことのある声、寺生まれで霊感の強いTさんだ
影によって今にも吊り上げられそうな俺の前に来ると、自前の釣竿を振り回し
「破ぁ!!」と叫ぶ、すると釣竿の糸が眩く光り、振り回した糸が剣のように次々と影を引き裂いてゆく!
ある程度影を振り払うと、Tさんの呪文によって周りには光が走り、アッー!と言う間に影は全滅した。
「Tさんも夜釣りですか?」そう尋ねるとTさんは俺を指差し「まあな、随分と小物を釣り上げちまったがな・・・」
帰り道で聞いた話によるとあそこは自殺の名所で首吊りが首吊りを呼ぶ恐怖の橋らしい。
「すっかり日も上がっちまったな、どれ、街で女の子でも釣りに行くか」
そう言って車に飛び乗り爽やかに笑ってみせるTさんを見て
寺生まれはスゴイ、俺はいろんな意味で思った。
悪夢
俺は
久々に
嫌な夢を見た
ノコギリを持った男が
俺の
部屋に立っている・・・
俺は
恐怖のあまり動くことが出来ず、ただその男を眺めている。
すると男は
突然ノコギリで
家の柱を
切り出した!
思わず「
やめろ!!」と叫ぶ
俺
すると
ゆっくりこちらを振り返る男
その顔は、見るも
無残に潰されて顔中に釘が打ち付けてある
「
お前もこうなりたいのか?
お前もこうなりたいのか?
してやろうか?してやろうか?」
ゆっくり俺に近づく男・・・
俺は
金縛りにあったように動けず、そして・・・
男の
ノコギリが
俺の顔に・・・
そこで
目が覚めた
嫌な夢だ、後味が悪い・・・
俺は
水を飲もうと立ち上がった
俺の
目に飛び込んできたのは、
無残にも傷つけられた
家の柱!
俺は
恐怖で
腰を抜かしてしまった、あの男は
現実に!!
そして次はホントに
俺の顔が刻まれてしまうのではないかと
その日の
バイトで、
俺は寺生まれで霊感の強い
Tさんにその
夢を相談してみた
しかし、
Tさんは「しょせん
夢だろ?」と冷たい対応
なんとしても引き下がれないので
必死に何とかしてください!と頼み込むと
「それじゃあ
俺の作ったお守りやるからそれを
枕元に置いて
寝ろ、
そうすりゃ
大丈夫だ」とお守りを渡してくれた
次の日、不安ながらも
朝の
早かった
俺は床に付いた、そこでまた
夢を見た
「つづき、つづき、つづき!つづき!つづき!つづき!」
またあの男だ!!
俺は
夢の中で
Tさんのお守りを探した
しかしどこにも見当たらない・・・
「これ?これ?これ?」なんとお守りを男が持っている!もうおしまいだ!!
だが次の
瞬間、お守りが
眩い
光に包まれ、どこからとも
無く
Tさんの
声が
「
破ぁ!!」
お守りは
光と共に飛び散り、男の半身を吹き飛ばした。
「
あああああああああ」
半身でのたうつ男を
尻目に
俺は
夢から
目覚めた
枕元にあったはずのお守りはどこをどんなに探しても見つからなかった・・・
その話を
Tさんに話すと
「半身を吹き飛ばした?
やれやれ、威
力は
親父の作った
奴の半分か・・・」と
呟く
Tさん
寺生まれはスゴイ、
俺は
感動を覚えずにはいられなかった。
赤いワンピースの女
初めての彼女
俺にもやっと
彼女が出来た
彼女は
色白で背も低く
病弱で、
学校でもよく
虐められていたそうだ
俺はそんな
彼女の事を
守ってあげたいと思い、
告白し、付き合うことになった
付き合いだしてから1ヶ
月後、
彼女が初めて
家に止まりに来た。
だが
童貞で
奥手な
俺は
彼女に
キスすることすら出来ず、
酒を飲むとそのままソファーで眠ってしまった
夜中に妙な音がしたので
目が覚めた
誰かがブツブツ何か言ってる・・・
俺は
彼女が
電話しているのかと隣の
部屋を覗き込んだ
するとそこには恐ろしい顔をした
彼女が
「おうち、おうち、あたらしいおうち」と
呟きながら
自分の
髪の毛を
壁とタンスの隙間や戸棚の下に押し込んでいる姿だった。
俺はあまりの
恐怖に言葉を出すことも出来ずそのまま
朝を迎えた。
何事も
無かったかの様に眠る
彼女・・・
俺はどうしていいのか分からず
寺生まれで霊感の強い
先輩の
Tさんに
電話をし、ワケを話した
黙って
俺の話を聞いた
Tさんは「よし、待ってろ、すぐ行く」と言ってくれた
俺は
彼女に気付かれないようにこっそり
Tさんを上げると、
彼女を見た
Tさんは「これは・・・」と
呟き
「
俺の後ろに下がってろ、絶対に前に来るな・・・」と言い
彼女の前に立った
Tさんは何か
呪文のようなものを唱え「
破ぁ!!」と叫んだ
すると
部屋中に仕組まれていたであろう
髪の毛が
いっせいに燃え上がり
彼女の
髪の毛までもが燃え上がった!!
「姿を見せな・・・」
Tさんがそういうと長かった
彼女の
髪の毛が
バサリと抜け落ち、女の
生首になった!
「こんな
女の子に取り付いて、自分の
結界を広げて他のかい、この小悪党め!!」
生首をガシリと掴む
Tさん
次の
瞬間
生首は
断末魔をあげながら燃え上がり、
灰になって消えた。
しゃがみ込んだ
Tさんは
無残に抜け降ちた
彼女の
髪の毛に触れると
「
お前たち、元の場所に帰りな・・・」と優しく
呟き
フワフワと浮かび上がった
髪の毛は
彼女の頭に生え移り、元どうりになった。
「二人に『カミ』のご
加護がありますように」
Tさんは笑いながらそう言って帰っていった。
寺生まれってスゴイ、
改めてそう思った。
海水浴
俺は
バイト仲間5人と
海へ行くことにした
しかし、
海岸は物凄い人で、とても遊ぶことが出来ず、
俺達は
目的を
ドライブに半ば
無理やり変更し
海辺の
道路をひたすら走っていた。
すると
友人のYが「
あれ?この辺り人全然いないよ」と言った
見てみると確かにこの辺りだけ人がポ
カンとおらず、5人で遊ぶなら丁度いい広さがある
浜に降り、
ビーチバレーをしたり
砂のお
城を作ったりと楽しい時間を過ごした
するとYが「私元
水泳部なんだー
あの
ブイまで泳ぎきったら
かき氷おごってね!」と言い出した
俺が返事をするより
早く
海に飛び込むY
なるほど
水泳部だけあってか綺麗な泳ぎで
ブイまでたどり着くY
沖で大きく手を振るY
俺達も浅瀬から手を降って返すが、どうも様子がおかしい
「あれ
!?溺れてるんじゃない
!?」
誰かが叫んだ
確かに今にも沈みそうだ!
俺達は急いで救助に向かった
しかし、
水泳部のYと違い泳ぎの遅い
俺達は中々たどり着くことが出来ず
代わりにYは今にも沈みそうに・・・
「おかしい・・・」
そう思った
俺は
水中に潜った、するとそこにはYの身体にしがみ付き、
引き込もうとする
黒い
影が
無数に蠢いていた!!
このままじゃ
俺達も・・・
そう思った
瞬間、大波の向こうから一人の
サーファーが!!
寺生まれで霊感の強い
Tさんだった!
Tさんは
板を
華麗に操りYを抱き上げるとそのまま波に乗って陸地へ
「
破ぁ!!」
振り返らずに
Tさんが叫んだ
すると
Tさんの
板が起こした
無数の泡が
ボコボコと集まり
浮き輪状に、
俺達もそれにつかまって陸までたどり着くことが出来た
「
ありがとうございますTさん、でも何でここへ?」
そう聞いた
俺に
Tさんは
「なぁに、この辺りは毎年
水難
事故が起こってるっていわく付きの
海岸でな、
こんな事もあろうかとな・・・」
そういいながらYの胸に手をあて
呪文を唱える
Tさん、
するとYの口から汚れた
水が吐き出されYは意識を取り戻した。
「きっと死者が死者を呼ぶ潮の流れなんだろうぜ、ここは・・・」
海岸線を
見つめて呟く
Tさん
顔を
赤くしながら
「あ、
あんたなんかに
助けてもらうくらいなら
死ねばよかった
わ!」
と大げさに言い放つYを見て
寺生まれはスゴイ、
俺はまたもやそう思った。
殺人サイト
足長男
当時
俺は
バイト先までは
車で通ってた。
家までの
道に
トンネルがあるんだけど、
いつものように
深夜3時位にその
トンネルを通りがかった。
すると
トンネルのはじっこを男が歩いてる。
歩行者用の
道なんて
無いから思
いきり車道だし、時間も時間。
ちょっと気になって見てた。
進
行方向は同じだったから、始めはその人の
後ろ姿を見たわけね。
だんだん近付くにつれて、異様な事に気付いた。
時期は
冬だし外は寒い。
なのにその人は半そで、
短パン。
別にランニングしてるようでもなかった。
一番気になったのが、その人、足が長いんだ。
いやもう
モデルとかそんな
レベルじゃない。
明らかにおかしい長さ。
鬼太郎にでてくる
妖怪で、手長、足長、てわかるかな?
あれの足長のほうに似てたって。
(うわー、気味悪いなあ…)
まあ
深夜にそんな人見たら
誰だって嫌だよな。
俺はあまり見ないようにして
アクセルを踏み込んだ。
んで、通りすぎた後にチラっと
バックミラー見たわけ。
ここからは
お約束。
も の す ご い 勢 い で 走 っ て 追 い か け て き て た 。
目は今にも飛び出すんじゃないかって位ひん剥いて、
狂ったように腕を振ってる。
まあ
バックミラーでカオが見えるくらいだから、すぐそこまで迫ってたんだろな。
俺は気が動転して、めちゃめちゃな
スピードで飛ばして
逃げた。
しばらく走るとどうやら振り切ったっぽい。
家も近くなってきて、だんだん落ち着いてきた。
疲れてたし見間違いだろうと。
次の
角を曲がると
家・・・だったんだが
その
角を曲がった
瞬間信じられないものを見た。
門の前にあの男がいる!
俺は
車だし自分
家に帰るには当然最短
ルートを通ってる。
俺より先に
家に着くなんてありえない。第一なんで
俺の
家知ってるんだよ!
怖くなった
俺は
朝までで
コンビニに居ようと思った。
でもU
ターンするには
道も狭いし、逆に気付かれると思い
家を通り過ぎて
コンビニに行こうとした。
それがいけなかった・・・
ちょうど男の前(実際には足しか見えなかったが)
を通り過ぎようとした時だった。
「みつけた」と言う
声がした。
実際には「ミヅゲダ」が近いと思う。
フロントガラスには男のカオがあった。
深夜で
街灯の明かりだけなのに男のカオはハッキリ見えた。
一部分を除いて・・・それは・・・
目。
両の眼だけは、まるで
コールタールを塗った様に
真っ
黒だった。
男は
ニヤリと笑い、再びこういった
「ミヅゲダ」・・・。
男のカオは
フロントガラスを
すり抜けて
俺に近づいてくる。
「そこまでだ」
聞いたことのある
声、寺生まれで霊感の強い
Tさんだ
Tさんは
俺の
車の助手席に乗り込むと、男のカオに両手を突き出し
「
破ぁ!!」と叫んだ
すると
Tさんの両手から
青白い
光弾が飛びだし、男を包み込んだ。
男
はみるみるやせ細り、やがて消えていった。
「なんでここに?」
「
コンビニ行くのに
アシが必要でな、さあ行くぞ・・・」
そう
呟いて片手で
タバコに火をつける
Tさん。
寺生まれってスゲ
ェ・・・その時
改めてそう思った。
シャムネコ
飼い犬
俺は
彼女から深刻な相談をされた。
最近、自宅の老いた
犬が
誰もいない玄関に向かってけたたましく
吠えるというのだ
俺が
彼女の
家に
挨拶に行った時も、
俺を見ても全く
吠えなかった人なつっこいあの
犬が
突然もの
すごい剣幕で
吠えるのだという、しかも時間を問わず。
不安がる
彼女が霊を引き寄せやすい体質だったことを
思い出し、
俺は
寺生まれで霊感の強い
Tさんに相談する事をすすめた
ファミレスで3人で
食事をしながら事の話をすると
Tさんは
「
大丈夫、その
犬は
帰ってきた先祖に
挨拶してるんだよ、この時期だし」とのこと
すっかり安心した
彼女を送り返すと、
Tさんから連絡が・・・
「
彼女の言っていた事だが、確認したい事がある
あの子の
家の前まで案内してくれ」
深夜2時、
彼女の
家の前に行くと
確かに
駐車場に繋がれた
犬が
吠えている。
「やはりな・・・」
そう
呟いて
Tさんは
彼女の
家の向かいにある
電柱に手を添えた
するとそこからスッと
青白い
光が走り
幾つもの亡者が
彼女の
家を通り抜けようとしているのが見える
しかし
犬の
抵抗に遭い、上手く通り抜けられない模様
「大した
犬だ・・・ずっと
家を守っていたのかい」
そういいながら
犬の頭を撫でる
Tさん
「
破っ」
Tさんの
声と共に
道は
家を避け
天に伸び、
虹のように遠くの
空に伸びていった・・・
「何故
彼女に
嘘をついたんですか?」の問いに
「他人の女とはいえ、
可愛い子を
無駄に恐がらせるのは男の
仕事じゃないぜ・・・」
寺生まれはスゴイ、
俺は久しぶりにそう思った。
・・・数日後、
彼女の
家の
犬が老衰で亡くなったと聞いた。
悲しみにくれる
彼女を励ましてやると
「
ワン!」と
元気なあの
犬の
声が聞こえた気がした
きっと
犬はまだ
家族を守っているんだな・・・
線香をあげながら
俺は思った
家族を見守る
犬はスゴイ、
俺はその
夜ちょっと
泣いた
概要
このように、いかなる場所においても颯爽と登場し心霊現象を解決していく。
Tさんの武勇伝は本人からではなく、助けられた人からの証言として語られる(助けられた人はTさんの後輩・同僚・ただの通りすがりなど様々)。寺に生まれた者の宿命として無償でお祓いをして廻っているらしい。生まれた時から修行をしておりたいていのことは「破ぁ!!」で解決する。
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