エミュレータ(Emulator)とは、機械装置やコンピュータのハードウェア(PC、ゲーム機など)の構造を、別の装置やソフトウェアで模倣することで実現させたもの。
概要
エミュとも略される。語源のエミュレート(emulate)は英語で「真似る」という意味。エミュレートすることをエミュレーション(emulation)ともいう。
もっと簡潔に言い換えると「機械の仕組みを真似た、装置やソフト」。
装置としてのエミュレータは身近なものとしてプログラマブルロジックコントローラ(シーケンサー)
その他イン・サーキット・エミュレータ,オンチップ・エミュレータ等がある。
自動ドア・工場・発電所・テーマパークなど至る所で使用されており我々の生活に必要不可欠な存在である。
ちまたで言われているエミュレータとは、一般的にソフトのほうを指す。
最も身近な物ではスマホやタブレットのソフトウェアキーボードなど。
その他にはWOW64やWine等のエミュレーションレイヤーや仮想PC、アプリの開発環境などがある。
なお、ソフトウェア自体を新たに作り直して動作を真似たものは「移植」や「クローン」と呼ばれ、エミュレータには分類されない。例えば、「ファミコンのゲームをWindows向けに作り直したもの」がこれにあたる。
ちなみに、再現元は実在する物である必要はなく、CPU設計などの際に、設計途中の(テスト時点ではまだ架空の)部品をエミュレートしてテストに用いる、物理世界では実現不可能な機械をエミュレータで代用する等も行われる。
エミュレータの種類
具体的には、以下のようなものがソフトウェアのエミュレータとして挙げられる。
- ゲーム機(例:ファミコン)のソフトウェアを、PC上などで動作できるようにしたソフトウェア。
- 昔のPC(例:PC-9801)のOSやソフトウェアを、PC上などで動作できるようにしたソフトウェア。
- PC上に仮想的なPCを作り、その中でPC用のOSやソフトウェアを動かせるようにしたソフトウェア。仮想PCともいう(例えば、Windows上でLinuxや別のWindows、Mac OS上でWindowsを動かすなど)。
- そもそも、1~3 のエミュレータに含まれる、CPUやサウンド、グラフィック部分などのチップを再現したものも、それぞれがエミュレータである。すなわち、ハードウェアを再現したエミュレータは、実機がパーツの集まりでできているように、その主要パーツを再現したいくつかのエミュレータの集まりで構成されている。
※ 「オンラインゲームのサーバの動作を真似し、ゲームクライアントから本物のサーバと同じように接続できるようにしたソフトウェア」はエミュ鯖というがここでは解説しないので「エミュ鯖」の項目を参照して下さい。
エミュレータのあれこれ
技術としてはパソコン黎明期以前 (数十年前) からあったものだが、PCの急激な普及や高性能化により1990年代後半頃からゲーム機のエミュレータが開発・配布されるようになったのに伴い、一般ユーザーにもよく知られた技術となった。
しかし、詳しくは後述するが、エミュレータ (特にゲーム機を再現するもの) はその仕組み上、市販ソフトウェアの不正アクセス・不正コピー (著作権法違反) した物を容易に実行できてしまう問題点も孕んでいる。この為「エミュレータ自体が違法」と誤解される事が多いが、エミュレータ自体に違法性は全く無い。
また、エミュレータは実機との実行環境の差異やライセンス・特許を考慮しつつ開発されているので、一部では実機の複雑な仕様を完全に満たしきれずに実機とは違う挙動を起こす、全く動かないなどの不具合がある。すなわち、エミュレータは決して万能では無い。
ゲーム機のエミュレータ
ニコニコ動画でエミュという言葉が出てきた場合、多くはこれのことである。PC、ゲームハード、携帯電話やスマートフォンなど様々なハードで動作するものが開発されている。
復刻版ゲームソフト
おおよそ2000年代後半以降の「昔のゲームをベタ移植した復刻版ゲームソフト」の多くは、エミュレータ によって実現されている。たとえば、以下のようなソフト・サービス・復刻ハードはエミュレーションの技術によって支えられている。
レトロフリーク
レトロフリークは、15機種に対応した互換ゲーム機。ROMカートリッジスロットとエミュレータを内蔵しており、吸い出しから動作までをこの1台で行って、HDMI出力による高画質でプレイできる。詳しくは当該記事を参照。
PCで動作するエミュレータ
PC上で動作するゲーム機のエミュレータ本体の多くは個人の趣味や、オープンソースプロジェクトとして開発されたものであり、フリーソフトウェアとして無償で配布されている物が多い。前述の、公式の復刻版ゲームソフトにおいて、これらの個人開発エミュレータがベースとして用いられることもある。
アーケードゲーム機のエミュレーター (MAME)
アーケードゲーム機のエミュレーターであるMAME (Multiple Arcade Machine Emulator) は、メーカーやタイトルごとに異なり、多種多様に存在するアーケードゲーム機をサポートしている。もともとは家庭用ゲームや古いパソコン、電子ゲーム機(ゲーム&ウォッチなど)などをサポートする「MESS」が並行て開発されていたが、現在はMAMEに統合され、アーケードゲームに限らず、あらゆるマシンをサポートしている。
ソースコードが公開されているが、以前は商用利用を禁止するライセンスだった。2016年から正式なオープンソースのライセンス(GPL+3条項BSD)となり、商用利用が可能となったため、前述の復刻版ゲームソフトのエンジンとして明確に採用される例も出てきた (カプコンアーケードスタジアムなど)。
アーケードゲームタイトルのデータベースや、長年解析されてきた多数のハードウェアの資料としての役割もあり、アーケードゲーム基板の所有者が、基板の故障時などに参照する資料としても用いられる。
ピンボールエミュ
変わったところでは、本来アナログ式の機械で動作するピンボールを再現(模倣)した「ピンボールエミュ」というものもある。架空の台を再現したものも多い。「デジタルピンボール」などの商品名で市販されることもある。
ソフトウェアの扱い・準備
エミュレータでゲーム機のソフトを動かす場合、光学ドライブや吸い出し機で読み取り可能にする必要がある。吸い出し機は自作することも可能であるが、最近ではAmazonで売られており、数千円で入手可能。
「BIOSイメージ」は、本体内にROMチップとして入っており、コピーツールを作成または入手する必要がある。 ただし、元々BIOSが存在しない、BIOSもエミュレートしている、権利的に問題のない互換BIOSが付属している、など不要の場合もある。
アーケードゲームの場合、実機からROMチップを取り外し、ROMライタと呼ばれるROMを読み書きする汎用の機械で読み取り作業が必要である。別のゲームに交換するための「ROMチップのキット」が販売されていたほど多くの基板はチップの脱着が前提となっており、汎用の機械だけで作業できる。
しかし、以下のようなコピー基板対策が施された基板も少なくなく、一筋縄ではいかない。
- カスタムICチップ搭載。白物家電などに「マイコン」として搭載されているのと似たような物。汎用の機器で読み書きできず複製が困難だが、ゲームのデータの一部がここに含まれ、ないと動作できない。「デキャップ」といってチップ表面の保護層だけを剥ぎ取って中身を顕微鏡で見る作業が必要になる場合も。
- ゲームのデータがROMではなくバッテリーバックアップされたRAMに書き込まれており、電池切れやチップの脱着でデータが消滅する。この場合は普通の方法では吸い出しできない。
レアなケースでは、メーカーが直々に市販ソフトのエミュレータ用イメージが配布される場合もある。
過去の例では、シャープのパソコンX68000のBIOSおよびシステムディスクや、株式会社ズームの古いPC用ゲーム (現在は配布終了)、Exidy社の古いアーケードゲーム基板のデータなど。
著作権的な問題点
ここで問題となるのが、「ROMイメージファイルは、唯のファイルであり、複製やアップロードが容易」という点である。
つまり、実機やソフトを持っていなくても、非合法に配布・コピーされた物が簡単にエミュレータで動かせてしまう。
この一点がエミュレータがグレーなイメージとなっている最大の理由である。
当然、上記のことは実機を所有していても違法でありエミュレータの使用の有無に関わらず著作権法違反にあたるのでやってはいけない。
吸い出した後に実機のソフトを売却するのも当然ダメである(ただし例外として、焼失、故障、紛失など吸い出し後に「滅失」にあたる事由で手元から失った場合は違反ではない)。
そのような問題点を抱えたエミュレータであるが、後述の利点に魅力を感じてエミュレータを使用する人も多い。
しかし、残念ながらエミュレータを「タダでゲームができる道具」としか見ていない人は少なくないのが現状である。詳しくは「割れ厨」を参照して下さい。
エミュレータをタダゲーの道具として使ってはいけない。
また、「エミュレータ紹介ブック」だとか「禁断のエミュレータ解説」などと題して、エミュレータをタダゲーの道具のように紹介している書籍があるが、決して手を出しては(そういう出版社に利益を与えては)いけない。
そんなお金があるならソフトを買いましょう。
ゲームメーカーの立場
製品のリバースエンジニアリングによる解析結果からの情報を元にプログラムを開発するのは原則的には合法行為であり、著作権侵害を理由にメーカーが訴訟を起こしても勝訴することが難しい。
特許技術を侵害しているプログラムは特許侵害を理由に勝訴する可能性があるが、特許を侵害しないようクリーンルーム設計のような手法で開発されている場合は同上である。
例としてソニーがPlayStationエミュレータの"Virtual Game Station"について開発企業の米Connectix社に対し訴訟したが敗訴し、最終的に企業を買収することで開発を停止させた経緯がある。これは1999年、まだPlayStationが現役ハードだった頃の出来事で、この時期はゲームボーイアドバンスの発売前にエミュレータが公開されるなど、最新ハードの再現のしやすさから、ゲーム機メーカーにとって脅威となりかねない状況であった。
しかし、2022年時点で現行のハードはエミュレーションでは到底再現できないので、エミュレーターによって最新のゲームの購入機会が奪われそうな状況下にはなく、近年ではゲームメーカーとエミュレーター開発者が対立することはほとんど見られなくなっている。
誤解されやすい点
ちなみに、ハードウェアに関しては実機を所有していなくても、エミュレータで再現させることに問題はない。
つまり、周辺機器やハードの本体は、所有していなくてもエミュレータの使用は違法ではない。
また、吸い出し行為が違法だと思い込んでいる人もいるが、「コピーガードまたはコピープロテクトの解除」を伴わなければ違法にはならず、著作権の効力が及ばない「私的使用のための複製行為」の範囲となる。
例えば、昔のゲーム機のほとんどは、ゲームデータにコピーガードやコピープロテクトが施されていないことが多く、吸い出し行為は違法ではないケースがほとんどである。
CD-ROMから仮想CDを、音楽CDからmp3ファイルを作るのと同じような状況(コピーコントロールCDは除く)と認識すればよい。
またニコニコ動画では無許可配信されているプレイ動画の一部にはエミュレータを用いた物もあり、 これらに対して削除の申し立てなどが行われる場合があるが、そもそも無許可配信自体が著作権法に触れる行為であり、エミュレータに関わらず全て削除対象になりうる。詳しくはプレイ動画の項目を参照して下さい。
利点
エミュレータの利点は決してタダゲーでは無い。こういった、実機にはない利点が生じる。
- 古いハードウェアでも故障によって機能が失われることがない。
- 日本製のPCで遊べる。
- 動作環境の制限がなく、さまざまなデバイスで動作させられる。
- 専用の周辺機器をエミュレータの機能でカバーできる (メモリーカード類や専用コントローラなど)
- 実寸大の解像度で綺麗なキャプチャができる。
- 動画のキャプチャがPCだけで完結するので、キャプチャ機材不要。つまりプレイ動画の制作が容易。
- ノートPCやモバイル機器に入れれば、持ち運びが可能になる。
- セーブが消えることがない。またセーブデータのバックアップが容易。ぼうけんのしょもこれで安全。
- どこでもセーブや速度の変更、コマ送りなどが可能 (これをふんだんに利用したのがTASとTAP)。
- チートが容易で、インチキプレイやオワタ式が実現可能。
- データの書き換えが容易。つまり改造が可能(改造マリオなど)。
- ソフトを自作して動かすことも可能(簡単なのは「動かす事」で、「作る事」では無い)。
- ゲーム開発の現場において、PC上で作成したプログラムを開発用実機に移行させて動作検証を行うのは非効率であり、PC上に実行環境がある事で時間的ロスの短縮につながる。
ニコニコ動画と相性の良い利点が多く、エミュレータを使って作られたプレイ動画を見かける機会はなにかと多い。
もっとも、チートやTAS先生の力を容易に借りられる環境のため、画質の劣るデジカメ撮影でないと正規のプレイ動画が(プレイの正統性に関して)信頼されなくなってるという弊害も生んでいる。キャプチャ動画だとプレイ動画に「どうせチートだろ」なんて心ないコメントが付くことも…。
昔のパソコンのエミュレータ
昔のパソコン(「パソコン」の項目の「ニコニコ動画におけるパソコン種別」を参照)のエミュレータも多く存在する。
これらは、ソフトウェアがカセットテープやフロッピーディスク、CD-ROMといった吸い出しに特殊な機材を必要としないメディアだったり、BIOSの取り込みが比較的容易であるという理由から、実行環境の準備はゲーム機のエミュレータよりも敷居が低い。
X68000のように、メーカーが直々にエミュレータ向けのBIOSイメージファイルやOSが入ったフロッピーディスクのイメージファイルを無償公開しているケースや、MSXのように、公式エミュレータが存在するケースもある。
昔のPC用のエミュレータも、以下のような利点があるため愛用者は多い。ニコニコ動画にもエミュレータを使った動画が多数投稿されている。
- 画面の出力規格が統一されていない昔のPCの動画キャプチャを行いやすい。
- 実機をしまったまま場所を取らずに使える。
- 所有していなかった周辺機器、増設ボードなどをエミュレートし、擬似的に使うことができる。
- メモリ増設、オーバークロックといった性能アップが簡単。
- 機器としての寿命がない。
今時のPCのエミュレータ(仮想PC, エミュレーションレイヤー)
PCのOS上で別のOSが稼働するエミュレータもあり、VMWareやVirtualPC、VirtualBox、QEmu等がある。
CPUをエミュレートしていない物はエミュレータより仮想PCや仮想マシンと呼ばれる事が多い。
商品として数万円で販売されているものもあるが、最近では無償版も配布されているので敷居は非常に低い。また、BIOSは専用に作られたものが付属しており、著作権的な問題は少ない。(実機のPCとほぼ同じ条件である)
HDDはイメージファイルで作成されて扱いが容易であり、メモリやHDDの容量を増減させることも簡単である。
「パソコンの中でパソコンが動いて何が楽しいの? ばかなの?」と思う人もいるだろう。以下のような活用例がある。
- 最新OS上で古いOSを動かす。もしくはその逆。
- Windows上でLinuxなど他のOSを動かす。
- ベータ版のOS (最近ではWindows 10 Insider Previewなど) を気軽に試す。
- 32bitOSの中で64bitOSを動かす。もしくはその逆。
- ソフトウェアの開発者が、動作確認用として古いOSを動かす。
- 現在のOSで対応していない古いソフトウェアを使うために動かす。
- 再インストール必須な状況になっても痛くも痒くもないテスト環境としても活躍。
64bit版Windowsは、WOW64というWin32アプリケーションを実行するエミュレーションレイヤー・サブシステムが標準搭載されている。
Windows 7の上位エディションでは、「究極の互換モード」として、Windows XPがインストールされたVirtual PCが標準で用意され、マイクロソフトからダウンロードしたうえで無償で利用できた。
また、Parallels DesktopやVMWare Fusionなど、Mac OS上で動作する仮想PCも存在する。Windowsなんかメインで使いたくないというマカーの人でも安心である。その他、Classic環境が廃止されたIntel Macおよび、Mac OS X Leopard以降では、Basilisk IIやSheepShaverなどの、旧Mac OSエミュレータを利用することでクラシックアプリケーションを利用することができる。
これと似ているが仕組みが異なるものとして、オープンソースで開発されているWineは、Windowsの互換レイヤーとしての機能を持っている。このレイヤーはWineのために独自に実装されたものであり、Windowsの本体やライセンスを一切間借りすることなく、LinuxやMacOSの環境で、Windowsのアプリケーションやゲームをある程度の範囲で動作させられる。
その他のエミュレータ
- 開発環境の一部として、エミュレータが提供されることがある。わかりやすい例で言えば、Androidの開発環境には、Androidのエミュレータが付属していて、開発したソフトを実機に転送せずとも動作確認することができる。
- オフコンやワークステーションなど業務用コンピュータのエミュレータも存在し、業務システムの再開発を行うことなくハードウェアのみリプレースが行われる場合がある。
- WindowsのコマンドプロンプトやMacのターミナル等の端末エミュレータ
- 一部のHDD/SSDケースの光学ドライブエミュレーション
- PS2やPSXのPS互換機能の一部
- PS3のPS2/PS互換機能の一部
関連動画
関連項目
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- 0pt