ローレルゲレイロ(英:Laurel Guerreiro、中:桂冠戰士)とは、2004年生まれの日本の競走馬。青鹿毛の牡馬。
1歳上のカワカミプリンセスと並ぶキングヘイローの代表産駒であり、なんというか、あの父にしてこの子ありという感じの馬であった。馬名の意味は「冠名+ポルトガル語で『戦士』」。
主な勝ち鞍
2008年:東京新聞杯(GⅢ)、阪急杯(GⅢ)
2009年:高松宮記念(GⅠ)、スプリンターズステークス(GⅠ)
概要
父キングヘイロー、母ビッグテンビー、母父*テンビーという血統。2004年5月3日、新冠町の村田牧場で誕生。
父は世界的超良血ながらクラシック戦線ではスペシャルウィークやセイウンスカイといった同期に苦渋を舐めさせられ、5歳、11度目のGⅠ挑戦でようやく高松宮記念を勝った「不屈の塊」。手頃な種付け価格の丈夫な良血馬として種牡馬としては人気を集め、芝ダートを問わず短距離から中距離まで活躍馬を出した。ローレルゲレイロはまだ種牡馬評価が未知数だった3年目の産駒である。
母はデビュー戦を楽勝したが脚部不安でまともにレースに出られず4戦1勝で引退、ローレルゲレイロが初仔である。
母父はアイルランドからの輸入種牡馬だが、中央重賞馬は障害を含めて3頭のみとあんまりパッとせず、アイルランドに返却されてしまった。母母モガミヒメは最上牧場にて生産されたが縁あって村田牧場にて繋養された。
7代母に第4回阪神優駿牝馬(現在のオークス)勝ち馬テツバンザイ(繁殖名は英月)、5代母に1962年の天皇賞(秋)を勝ったクリヒデがいるという戦前からの歴史ある牝系だが、ぶっちゃけパッと見の血統は父の超良血ぶりとは比べるべくもない。
しかし本馬の活躍を始めとして、母ビッグテンビーはその後産駒14頭中10頭が勝ち上がり未出走は0という仔出しの良さで牧場を代表する繁殖牝馬となり、母母モガミヒメから連なる牝系は村田牧場を支える存在となっていく。
なお村田牧場によると、モガミヒメ牝系は全体的に気性が荒い馬が多いとのこと。モガミは血統に入ってないのに。ローレルゲレイロ自身もかなり気性は荒い方だったようだ。
ちなみに近親にディープボンドがいる(同じ村田牧場の生産)。同じ母母モガミヒメをもつ、人間で言えばいとこ同士なのだが、ディープボンドの母ゼフィランサスは父キングヘイロー。つまりローレルゲレイロから見ると、父親が母方の祖母との間に産んだ娘の子がディープボンドということになる。競走馬の世界ではよくあることだが。
近親には他にも2022年エプソムC勝ち馬ノースブリッジ(母アメージングムーンがローレルゲレイロの半妹。こちらももちろん村田牧場産)がいる。
オーナーは一口馬主クラブのローレルレーシング。1口5万円×200口(=1000万円)という募集価格からも、父と違って決して最初から期待されていたわけではないことがわかるだろう。しかもデビューが早かったこともあり、噂ではこの募集、ほとんど埋まらなかったらしい。後のことを思うとなんとももったいない話である。
王の血を継ぐ戦士
2歳~3歳春・「最強の1勝馬」
栗東の昆貢厩舎に入厩。仕上がりは早く、2歳の6月、この年最初の新馬戦である函館競馬場の芝1000m戦でデビュー(鞍上は本田優)。単勝1.8倍の支持に応え、逃げて3馬身半差の快勝、同世代の勝ち馬第1号となる。ちなみに2着マイネカンナも後にGⅢ福島牝馬Sを勝つ実力馬だった。
この1ヶ月前には1歳上の同じキングヘイロー産駒、カワカミプリンセスが同じく本田優を鞍上に無敗でオークスを制しており、それに続くキングヘイロー産駒の注目株となった……のだが。
7月のラベンダー賞(OP)は先行したものの一緒に先行した2頭に直線で競り負け3着。
8月の函館2歳S(GⅢ)は直線で粘ったがニシノチャーミーにかわされ2着。
10月のデイリー杯2歳S(GⅡ)は中団から最内を突いて上がったがオースミダイドウの2着。
12月の朝日杯FS(GⅠ)は直線で抜け出したが最後方からきたドリームジャーニーに差し切られ2着。
明けて1月のシンザン記念(GⅢ)はアドマイヤオーラとダイワスカーレットに突き放されて3着。
2月のアーリントンカップ(GⅢ)はトーセンキャプテンとの熾烈な叩き合いに競り負けて2着。
と、3歳2月までに7戦して[1-4-2-0]。間違いなく重賞級の実力はあるのに、なぜかあと一歩勝ちきれない。なんか3歳(旧4歳)の頃の親父を見ているようである。
ともあれ重賞で4回も2着を獲っているので収得賞金は充分すぎるほどあり、2000mどころか1800mの経験すらない(出走馬中唯一)のに皐月賞に挑戦(ここからは主に藤田伸二が騎乗)。さすがに距離が長いと見られて9番人気だったが、中団から内を突いて徐々に押し上げて6着。着外とはいえ、勝ったヴィクトリーとは0.3秒差。ここまで1600mまでしか走ってないのにドリームジャーニーやアサクサキングスに先着しての6着は大健闘であろう。
続いてはここまで本線の1600m戦、NHKマイルカップへ向かう。本命不在の混戦模様で、ここまで1勝のローレルゲレイロは押し出される格好で1番人気(単勝5.5倍)に支持された。雨の降る稍重の馬場の中、直線で横に広がりオッズ通りの大混戦模様になる中、人気に応えて僅かに抜け出し押し切ろうかとした瞬間、最後方からカッ飛んできた17番人気の牝馬ピンクカメオに差し切られまたまた2着。3着にも18番人気ムラマサノヨートーが突っ込み、3連単973万馬券というJRA重賞史上最高配当(当時)の大波乱となったのだが、このレースについて詳しくはピンクカメオの記事に譲る。
続いて日本ダービーに挑戦。鞍上は池添謙一がテン乗り、いくらなんでも距離的に無理だろうという13番人気。中団前目でレースを進めたが直線入口でもう馬群に沈み、ウオッカの快挙の後ろで特に見せ場なく13着。14着だった親父には勝った。
かくして3歳春まで10戦1勝、2着5回、うちGⅠ2着2回。
晴れてローレルゲレイロには「最強の1勝馬」の称号が与えられたのであった。
3歳秋~4歳・やっぱりキングヘイローの子だ……
3歳春までで10戦もした疲れなのか、勝ちきれないストレスなのか、どう考えても長い2400mを走らされて歯車が狂ったのか、このあとローレルゲレイロはスランプに陥る。適距離の短距離・マイル戦線に戻ったが、8月のキーンランドカップ(GⅢ)は11着、10月の富士ステークス(GⅢ)は10着、11月のマイルチャンピオンシップ(GⅠ)は16着と、3戦続けて二桁着順の惨敗。
ここまでのローレルゲレイロは道中中団前目、4番手あたりでレースを進めることが多かったが、どうも上手くいかない。ということで年末の阪神カップ(GⅡ)では逃げの手を打つ。すると最後はかわされたものの掲示板確保の4着に粘り、以降は逃げに活路を見出すことになった。その点はあんまり親父に似ていない。
そんなわけで明けて4歳初戦は9年前に父が勝った2月の東京新聞杯(GⅢ)。アポロノサトリと一緒に逃げ、直線でアポロノサトリが沈むと先頭に抜け出し、そのまま最内で後続の追撃をクビ差凌ぎきってゴール。「もう2着はいらないというローレルゲレイロ!」(by矢野吉彦アナ)はデビュー戦以来1年8ヶ月ぶりの勝利でようやくの2勝目、重賞初制覇。「最強の1勝馬」を無事に脱出し、父キングヘイローとの親子制覇ともなった。ちなみに4歳以上の1勝馬が重賞を勝ったのは、90年以降では4頭目だったそうな。
続いて3月の阪急杯(GⅢ)。鞍上はここから翌年の東京新聞杯まで四位洋文となる。高松宮記念連覇をめざすスズカフェニックス、前年のオークス馬ローブデコルテ、3年前の朝日杯FS勝ち馬フサイチリシャールとGⅠ馬が3頭揃う中、ここでもローレルゲレイロは逃げを打ち、直線で猛追するスズカフェニックスをアタマ差凌ぎきって逃げ切り勝ち。
「この強さもう本物です! 重賞2連勝! 高松宮記念親子制覇が見えてきました!」(by岡安譲アナ)と覚醒の気配を見せたローレルゲレイロ。
しかし忘れてはいけなかった。4歳となって初戦と2戦目で重賞連勝という流れは、1999年に東京新聞杯と中山記念を連勝した父キングヘイローと全く同じ。そしてそのあとキングヘイローの4歳(旧5歳)は6戦して一度も勝てなかったということを……。
そう、ローレルゲレイロは父と全く同じルートを辿るのである。面子を見て勝ち目アリとみて挑んだという高松宮記念(GⅠ)は、逃げて直線で抜かれても踏ん張ったものの4着まで。その後、右橈骨遠位端骨折で7ヶ月休むことになり、復帰した11月のスワンS(GⅡ)はハナを奪ったマイネルレーニアを捕らえきれず2着。マイルチャンピオンシップ(GⅠ)もマイネルレーニアにハナを奪われ逃げられず、内から追い上げるも伸びきらず5着。年末は初の海外遠征で香港スプリント(GⅠ)に挑んだが全く歯が立たず8着。
GⅡGⅢでなら勝ち負けなのに、GⅠになるとどうにも足りない。8回挑んで跳ね返され続けるGⅠの壁。親父と違って適性は最初から短距離~マイルと解っていても、やっぱり親父の血を感じる子ローレルゲレイロであった。
5歳春・やっぱりキングヘイローの子だ!
さて5歳となった2009年。今度は最初から目標を高松宮記念と定め、前年と同じ東京新聞杯→阪急杯というローテを組む。しかし初戦の東京新聞杯は逃げたが不良馬場で消耗し、直線で沈没し13着惨敗。おいおい大丈夫か。
続く阪急杯は鞍上が久々に藤田伸二に戻ると、かなり後ろを突き放して逃げ、ビービーガルダンに差し切られたが2着に粘り込み、前走は道悪に泣いただけで力が衰えているわけではないことを示す。
そして迎えた本番高松宮記念(GⅠ)。ローレルゲレイロは3番人気。積極的にハナを切って単騎逃げに持ち込むと、前半3Fを33秒1というペースで飛ばしていく。残り200mで1番人気スリープレスナイトに一度はかわされるも振り落とされることなく二枚腰を発揮、残り100mで力強く差し返し、逆に半馬身振り切ってゴール板に飛び込んだ。
父と同じ5歳、9度目のGⅠ挑戦で、父と同じ高松宮記念、同じ7枠13番でのGⅠ初制覇。親子制覇はGⅠとなって以降では初である。
後方から大外末脚一気でまとめて撫で切った父とレースぶりは全く違うものの、父の軌跡をなぞるように手にした栄冠。これまで苦笑交じりだった「キングヘイローの子」という言葉が、父と同じ不屈の称号に変わった瞬間であった。
5歳秋・そして父を越えてゆけ
ところが高松宮記念勝利のあと、ローレルゲレイロはまるで燃え尽きたかのように2戦続けて大敗する。安田記念(GⅠ)はウオッカの劇的な勝利の後ろで15着。9月のセントウルステークス(GⅡ)も直線で沈没して14着。
まあ親父も高松宮記念勝ったあとはあんまり見せ場なかったしなあ、やっぱりそんなところまで親父に似るんだなあ……と思われたかどうかはさておき、秋のスプリント王者決定戦、スプリンターズステークス(GⅠ)を迎える。2戦続けての大敗、馬体重も落ちており6番人気まで評価を落としたローレルゲレイロだったが、好スタートでハナを切ると、前半3Fを32秒台で飛ばして単騎逃げに持ち込み、レースを引っぱっていく。
直線でも粘り腰を発揮するローレルゲレイロ。そこに外から襲いかかるのはビービーガルダン。2頭が抜け出し一騎打ちの追い比べになる。一完歩ごとに縮まる差。それでも必死に粘るローレルゲレイロ。迫るビービーガルダン。最後は完全な横並びでゴール板。
写真判定は12分に及んだ。ローレルゲレイロの藤田騎手とビービーガルダンの安藤勝己騎手も「同着でいい」と思い始めた頃、出た結果はハナ差1cmでローレルゲレイロの逃げ切り勝ち。1996年の同レース、フラワーパークとエイシンワシントンの死闘と並ぶ史上最少差の決着で、ローレルゲレイロは史上3頭目の春秋スプリント連覇を達成したのだった。
3歳までの勝ちきれない日々、4歳で見せた覚醒の気配と伸び悩み、そして5歳で手に入れた栄冠。父の軌跡をなぞってきたローレルゲレイロは、とうとう父を乗り越えるGⅠ2勝目を手にした。
ウオッカとダイワスカーレットが君臨し、牝馬の世代と言われた2007年クラシック世代の牡馬で芝GⅠを2勝以上したのは彼とドリームジャーニーだけである。
JRA-VAN広場の名馬メモリアルで彼に贈られた言葉は「父の足跡をなぞり、父に並び、父を越えたスプリンター」。父キングヘイローの代表産駒、春秋スプリント連覇、高松宮記念親子制覇、そして2009年のJRA賞最優秀短距離馬。スプリントの逃走者ローレルゲレイロの名前は、父の名とともに競馬史に刻まれたのであった。
その後
……って、これで終わりみたいな書き方になってしまったが、別にローレルゲレイロはこのスプリンターズSで引退したわけではない。とはいえ、父キングヘイローの高松宮記念以降があまり書くことがないように、ローレルゲレイロの2009年スプリンターズS以降もあんまり書くことがない。
2年続けて挑んだ香港スプリントは13着に惨敗し、翌年はなんとドバイゴールデンシャヒーン(GⅠ)を目標に定め、フェブラリーステークス(GⅠ)に挑戦。そして7着。親父(13着)よりマシな結果とはいえ、そんなところまで親父をなぞらなくてもいいのでは……。
本番のドバイゴールデンシャヒーンは逃げて直線で抜かれてからも粘っての4着。帰国後はキーンランドカップ8着、そして連覇を目指したスプリンターズSを14着に敗れて現役を引退した。
通算31戦5勝。勝ち星こそ少なかったが、GⅠ2勝を含む重賞4勝、2着7回、3着2回で、稼いだ賞金は実に4億9172万円。これは2022年4月現在、ローレルレーシングの所有馬ではトップである。
募集価格1000万円の50倍近く稼ぎ、回収率4917%というのは、クラブ馬としてはクロノジェネシス、エスポワールシチー、アーモンドアイ、ジェンティルドンナに次いで歴代5位だそうである(2021年終了時点)。まさしく一口馬主史上に残る夢のある馬だった……のだが、前述の通り彼の募集は全然埋まらなかったそうで、本当にもったいない話である。
引退後は父と同じ優駿スタリオンステーションで種牡馬入り。最初の数年はそこそこ人気を集めたが、結果は振るわず地方重賞馬を数頭出すに留まり、現在は故郷の村田牧場でプライベート種牡馬をしているそうである。
血統表
キングヘイロー 1995 鹿毛 |
*ダンシングブレーヴ 1983 鹿毛 |
Lyphard | Northern Dancer |
Goofed | |||
Navajo Princess | Drone | ||
Olmec | |||
*グッバイヘイロー 1985 栗毛 |
Halo | Hail to Reason | |
Cosmah | |||
Pound Foolish | Sir Ivor | ||
Squander | |||
ビッグテンビー 1998 黒鹿毛 FNo.1-b |
*テンビー 1990 鹿毛 |
Caerleon | Nijinsky |
Foreseer | |||
Shining Water | Kalaglow | ||
Idle Waters | |||
モガミヒメ 1992 黒鹿毛 |
*カコイーシーズ | Alydar | |
Careless Notion | |||
モガミポイント | マルゼンスキー | ||
ポイントメーカー |
クロス:Northern Dancer 4×5(9.38%)、Nijinsky 4×5(9.38%)、Sir Gaylord 5×5(6.25%)
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関連リンク
村田牧場は血統・配合の研究に詳しく、ブログにて「キングヘイロー×モガミヒメ牝系」と題して配合パターンの解説を行っている。中々に濃い内容なので血統・配合好きにはおすすめ。
- 【血統・配合】キングヘイロー×モガミヒメ牝系 ①キングヘイロー:(有)村田牧場通信
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- 【血統・配合】キングヘイロー×モガミヒメ牝系 ③キングヘイロー×モガミヒメ牝系の配合~ローレルゲレイロ編~:(有)村田牧場通信
関連項目
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