11件
の二種があるが、この記事では2. について記述する。
なお、「翔鶴」の名がつく海軍艦艇としては、他に江戸幕府海軍由来の運送船「翔鶴丸」が存在する。
概要
1937年の③計画で、第三号艦の仮称を与えられて建造が決定。同年12月12日に横須賀工廠で起工し、1939年6月1日に進水。進水した際、翔鶴は軍艦としか公表されなかったため外国では翔鶴の正体を巡洋戦艦か戦艦と推測した事がある。ちなみに進水式には伏見宮が臨席されたが、突然の荒天により予期せぬ状態で進水してしまった。また直前に艦橋の位置を左中央から右へ改めたため、進水式で配られた文鎮には左艦橋の翔鶴が刻まれていた。1941年8月8日に竣工し、城島高次大佐が艦長に着任。翔鶴型はハワイ作戦遂行において必須の存在である事から、工期を繰り上げての完成となった。
ワシントン海軍軍縮条約離脱後に設計、建造された艦であるため軍縮条約の縛りが無く、また、これまで赤城、加賀、飛龍などの建造で得られた空母のノウハウをふんだんに盛り込んだ結果、翔鶴型は帝國海軍会心の出来と言える完成度の高い正規空母となった。実際その性能は高く、米海軍のエセックス級が就役するまで世界最高の空母とされた。
真珠湾攻撃以来、僚艦瑞鶴とともに第五航空戦隊を編成し日本海軍機動部隊の主力を担ったが1944年撃沈された。
設計
設計上の特徴としては、飛龍の設計をより発展させた凌波性に優れた艦首に、日本海軍初のバルバスバウ[1]を採用し、機関出力16万馬力（チハたん1067台分。大和型戦艦の機関定格出力15万馬力すら上回る[2]。）と合わさって最高速度34ktを出すことができた。
木製飛行甲板は長さ242m、エレベータの数は3基、艦載機は二段式の格納庫に常用72機、補用12機が搭載可能で、常用の数だけであれば翔鶴型航空母艦以前で日本海軍最大級の航空母艦である加賀と同等であった。艦橋は初期設計では左舷中央部に配置する予定であったが、用兵側からの要望により右舷配置に変更されている。
武装は40口径12.7cm連装高角砲を8基、25mm3連装機銃12基で、高角砲は5基の射撃管制装置（右舷2基、左舷2基に加えて、艦橋に設置された全ての高角砲を管制可能な1基）により指揮された。
防御に関しては、機関部、弾薬庫、航空機用燃料貯蔵タンクを収める部分には巡洋艦の砲撃にも耐えられる装甲（垂直防御215mm）が施され、船体にも炸薬量450kgの魚雷（参考：アメリカ海軍の艦上攻撃機用Mk13魚雷の炸薬量は600ポンド＝約272kg）に耐えられる防御力が与えられた。
緒元は公試排水量2万9800トン、全長257.5メートル、搭載機84機、乗員数1660名。
戦歴
1941年8月8日に竣工した後は、連合艦隊に所属。翔鶴型はハワイ作戦への参加が内定していたため、一刻も早い戦力化が望まれた。8月23日、横須賀を出港して訓練地となっている有明海へ回航。現地で第一航空戦隊の旗艦となり、血の滲むような訓練を始めた。9月6日、有明海を出港して横須賀に回航。ここで第一航空戦隊の旗艦から外された。諸説あるが、波浪に対する傾斜が大きかった事が旗艦に不適と見なされたようだった。代わりに姉妹艦（翔鶴型二番艦）の瑞鶴、護衛の駆逐艦朧、秋雲とともに新設された第五航空戦隊（五航戦）へ編入され、その旗艦となる。10月4日、横須賀を出発して大分へ移動。10月7日より翔鶴航空隊は大村飛行場で訓練を開始。11月14日、旗艦の座を瑞鶴へ移譲。11月18日、佐伯湾を出港。ハワイ作戦に参加する艦艇の集結地となっている単冠湾へ向かい、11月22日到着。翌日入港してきた加賀から浅瀬用の浅沈魚雷を受け取った。11月26日、赤城率いる南雲機動部隊の一員として出撃。一路ハワイへ向かった。翔鶴は大型だったため燃料搭載量が十分であり、危険な洋上補給を行う必要が無かった。
12月8日午前1時(日本時間)、艦隊はオアフ島の北方230海里に到達。午前1時30分、風上に艦首を向けるため反転し、第一次攻撃隊として26機の九九艦上爆撃機と5機の零戦を発進。フォード飛行場とカネオヘ飛行場を爆撃し、第二次攻撃には27機の艦上攻撃機を出撃させた。この攻撃の結果、戦艦4隻、標的艦1隻、機雷敷設艦1隻を撃沈。航空機231機を撃破した。作戦終了後踵を返し、12月24日に呉へ帰投。年内の戦闘を終えた。
年が変わって1942年1月8日、ビスマルク諸島攻略作戦（Ｒ作戦）に参加。呉を出撃した機動部隊はトラックを経由し、1月20日にオーストラリア軍の拠点であるラバウルに対し空襲を仕掛ける。10時、翔鶴は九九艦爆を19機放ち、ラバウルを攻撃。他の空母からも艦載機が飛び立ち、オーストラリア軍を攻撃する。対するオーストラリア軍はワイラウェイ練習機を改造した戦闘機7機とロッキードA28ハドソン爆撃機4機しか持ち合わせておらず、機動部隊の敵ではなかった。翔鶴の艦爆隊は砲台や港湾施設、停泊中の艦船に対し急降下爆撃を敢行している。各隊、少ない獲物を奪い合うかのように次々に戦果を挙げた。現地のオーストラリア軍は蹴散らされ、もはや死に体であった。これを見た帝國海軍は翌日、機動部隊を二分し、翔鶴と瑞鶴はラエ、サラモア、マダン攻撃に回された。
快勝した翔鶴は3月26日、スターリング湾を出航。加賀を除く正規空母とともにインド洋へ進出。セイロン沖海戦が生起する。4月5日、イギリス軍の拠点コロンボを空襲し輸送船を攻撃。その後、味方の偵察機が英巡洋艦ドーセットシャーとコンウォールを発見。翔鶴はただちに攻撃隊の発進準備に取り掛かったが、先発した第一次攻撃隊がその2隻を撃沈してしまったため発進を取りやめた。次に翔鶴はツリンコマリを攻撃する。
索敵中の戦艦榛名の搭載機より英空母ハーミス発見の報が届き、5隻の空母は早速攻撃隊を飛ばす。わずかな護衛しか率いていなかったハーミスは護衛ともども撃沈され、海の藻屑となった。この戦闘で翔鶴隊は18発中13発の命中弾を与え、イギリス軍はインド洋から駆逐される事となった。
その一か月後の5月7日に生起した珊瑚海海戦において米空母ヨークタウンとレキシントンの艦載機の猛攻にあい、3発の直撃弾により飛行甲板使用不能などの大損害を受けた。黒煙が吹き上がり、かなりのダメージを負ったが、幸い、機関部は無事だったため独力で横須賀へと帰還。しかし横須賀のドックは大鯨の改装工事に手一杯だったため満身創痍の翔鶴は呉へ回航されて修理を受けることとなる。ちなみに、この時は翔鶴の艦載機が間違って米空母に着艦しそうになったり、米軍の攻撃部隊が殺到したときには行動を共にしていた瑞鶴はスコールの中に逃げ込んで無傷だった、炎上する翔鶴を見た瑞鶴の見張り兵が翔鶴撃沈を報告するなど、翔鶴にとって踏んだり蹴ったりな戦いであった。しかし、この損害によりミッドウェー海戦には不参加となる。ただやられっぱなしのように見えるが実はそうではなく、瑞鶴と共同で米空母レキシントンを撃沈し、ヨークタウンにも損傷を負わせている。
余談だが、横須賀に向かう途中の5月16日、米潜水艦トライオンに捕捉されている。が、攻撃はされなかった。
太平洋戦争の転換点と言われるミッドウェー海戦で帝國海軍は空母4隻を一度に喪失する。翔鶴と瑞鶴は日本海軍に残された数少ない正規空母として機動部隊の中核を担う戦力となる。
修理が完了した後、喪失した空母の穴を埋めるべく7月14日に再編成が行われた。翔鶴は、瑞鶴と一緒に栄光の第一航空戦隊へ転属。8月16日、米軍のガダルカナル島襲来に伴って柱島を出撃。24日に第二次ソロモン海海戦に参加。瑞鶴と敵空母を求めてガダルカナル島北方で遊弋。艦爆18機と零戦4機を放って、エンタープライズに攻撃を仕掛けたが、護衛艦艇の熾烈な対空砲火により艦爆17機と零戦3機を失う大損害を受けた。その犠牲と引き換えに、エンタープライズへ2発の命中弾と2発の至近弾を与えて火災を発生させる。このダメージによりエンタープライズは戦線離脱を強いられる事となった。翔鶴では続けて索敵が行われたが日没までに発見する事ができず攻撃は打ち切られた。
戦闘終了後の9月5日、トラックへ帰投。
10月11日、トラックを出撃し再びガダルカナル島北方で作戦行動。24日、瑞鶴や瑞鳳とともに南太平洋海戦に参加するが、敵艦載機の猛攻で6発の爆弾を受けて再び飛行甲板大破（ちなみに瑞鶴は翔鶴からかなり離れていたため攻撃されなかった）。また不幸に見舞われる。しかし翔鶴らが放った攻撃隊は米空母ホーネットを大破させ、沈没に追いやった。これらの戦いの後、トラックを経由して横須賀に帰投。11月6日より修理を受け、1943年3月19日に出渠する。
1943年中は特に大きな海戦は発生せず、呉やトラックを転々とした。
9月12日、トラックにて爆撃訓練中に搭載機が標的艦矢風のマストに衝突する事故が発生する。機は墜落しパイロットは死亡した。
9月17日、神出鬼没で各拠点を空襲しに来る米機動部隊と艦隊決戦をするため海軍はZ作戦を企図。翔鶴はその決戦戦力に加えられ、トラックを出撃するも敵艦隊とは会敵せず空振りに終わってしまった。それでも諦め切れない海軍はウェーキ島への空襲を予想し先回りしたが、これも空振り。貴重な燃料を浪費してしまったため「連合艦隊の大散歩」と揶揄されているとか。
11月1日にろ号作戦に従事。搭載する航空部隊が陸上基地からの敵攻撃に転用された。翔鶴（あと瑞鶴も）が出撃することはなかった。11月26日、千歳とともに岩国へ寄港。第二航空戦隊別働隊搭載機を積載し、駆逐艦秋月、玉波、島風に護衛されて12月1日にトラックへ到着。
1944年1月17日、横須賀を出て柱島に向かう。2月13日、シンガポールのセレター軍港に寄港する。以降はリンガやタウイタウイといった東南アジア方面の各拠点を転々とする。6月13日、あ号作戦準備のためタウイタウイを出撃。翌日にギマラス泊地へ入港。15日、マリアナ諸島西方へ出撃した。第一航空戦隊の数少ない正規空母として本隊に配置され、虎の子の扱いだった翔鶴であったが・・・。
6月19日11時20分、マリアナ沖海戦において航空機発進中（風上に船首を向けないといけないため、空母が最も無防備になる瞬間である）にガトー級潜水艦カヴァラの雷撃を受け、最新鋭のHBX爆薬を使用した魚雷4本が右舷に命中。船体が右へと傾き始め、ただちに注水作業が始められた。しかし今度は逆に左に傾斜し始める。そして被雷の影響で艦首が沈降、前のめりになっていく。さらに漏れた航空燃料が艦内に気化・充満して引火。大火災を引き起こし、エレベーターが吹っ飛んでしまう。船体は垂直に近くなり、乗組員は燃え盛る大穴へと飲み込まれ多くの犠牲者を出した。乗組員が甲板を滑り落ちる音は周囲の艦艇にまで聞こえたという。
そして14時10分に沈没。1272名の乗員が死亡した。この数は空母史上最悪の被害であった。
これ以降、日本海軍は空母艦隊の編成が困難となり、翔鶴の沈没が実質的な日本海軍機動部隊の終焉と言っても良い・・・・・・かも知れない。ちなみにカヴァラは海戦前の17日から本隊を付け回していた。
ちなみに、翔鶴の後に建造される装甲甲板を装備した航空母艦「大鳳」は翔鶴型をベースにしているため、資料によっては改翔鶴型と呼ばれることがある。さらに余談になるが、この大鳳もマリアナ沖海戦においてガトー級潜水艦アルバコアの雷撃により撃沈されている。しかもこのアルバコア、カヴァラの増援要請によって現れている。こりゃ海上自衛隊が潜水艦狩りに躍起になるのも仕方ないね。
関連動画
関連項目
脚注
- *水面下にある球状艦首のこと。通常、船が航行するときに水をかき分けることで作る波は大きな抵抗（造波抵抗）となるが、バルバスバウは水面から上の船体が作る波と逆位相の波を作り出すことで、波同士を打ち消し、結果としてこの造波抵抗を大きく下げることで高速化が可能となる。
- *ただし大和型は信頼性向上のため、わざと機関出力を落としており、この制限を外すと機関出力は16万8千馬力になると言われる。
- 0
- 0pt
