89式小銃とは、陸上自衛隊など日本の自衛隊、警察、海上保安庁で使用されている自動小銃である。
概要
89式と書いて「はちきゅうしき」と読む。64式小銃の後継として89年に正式化された。愛称はバディ(相棒)。しかしこれまた隊員の間にそう呼ぶものはおらず、「ハチキュー」と呼ばれる。固定式ストックのほか折曲銃床式などのバリエーションが存在する。
陸自(約100,000丁)だけではなく、海自の特別警備隊、警察の特殊部隊(SAT)、海上保安庁向けなどにも配備されており、わりと調達数は多い。
2019年末に、89式を更新する新小銃として豊和工業の「HOWA5.56」を選定、翌年に「20式5.56mm小銃」の制式名称が発表された。[1]
特徴
スペック | |
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全長 | 916~920mm 670mm(折り畳み) |
重量 | 3.5kg |
発射機構 | ガスピストン方式 (ロングストローク) |
弾薬 | 5.56mm x 45 NATO弾 |
有効射程距離 | 約500m |
64式小銃は所謂"当たり"のものであれば、出来も良く狙撃銃としても使えるなど評価が高かったが、部品が脱落しやすい(少ない予算のせいで消耗部品の交換すらままならないため)ため黒ビニールテープが必需品だったり (これは自衛隊の銃器管理が徹底しているせいでもあり、その名残で89式小銃にも現場では黒ビニテを巻き付ける)、内部構造が複雑で作動不良が多く、またその重量がネックとなって取り回しづらいという点もあった。
こういった点を踏まえて、89式小銃では80年代にほぼ西側諸国の標準となったNATO規格5.56mm弾を用いる一方、部品構成を減らすプレス部品や強化プラスチックなどを用いて軽量化(M16と同等の重量)などを盛り込んだ小銃として開発されている。
89式小銃 通常分解特徴は64式小銃からおなじみの、アタレ3のセレクター。つまり、ア(安全装置)、タ(単射…セミオート)、レ(連射…フルオート)、3(3ショットバースト…3連射)と刻印されたセレクター装置。実際は、ア→レ→3→タとレバーをまわしてセットする。
諸外国に配備された小銃では通常、グリップから手を離さずに(親指だけで)操作できるよう左にセットされているが、自衛隊では右側にセットされている。これは匍匐前進などで誤ってセレクターが動かないようするためで、セレクターをセットする度に一度握把から手を離してセットするなりする必要がある。あまり実戦を考慮にいれていないと指摘される点でもある。(「誤ってセレクターが動かない」ことをアピールしなくてはいけないという政治的な事情もある。また右側にセレクターがある銃は日本のライフル以外にも存在し、右側のセレクターを握把から手を離さずセットすることも可能であるためこの指摘は誤りという意見もあるにはある。)ただしこの点については後述のように改良が進んでいる。
調達コストと評価について
上記の実戦を考慮にいれてないような過度の安全対策、またその値段の高さ(30万後半)とアメリカのM16(一丁6万円)を比較して、よく一部の軍事評論家のネタとして海外から購入したほうがよいとされる装備の筆頭でもある。
確かに輸出を前提としないので生産数はおのずとコストに跳ね返るので致し方ない点もあるが、最近は色々と調達方法も柔軟になったためか一括購入で値段も29万と30万を切った(それにしても5倍近いのは事実だが)。ただ実銃の評価として見るならば当初から日本人の体格にあわせて作られているため、取り回ししやすく、なおかつ発射時の反動が少ないとか意外と部品数が少ないので整備がしやすいという評価もあるので使いやすいのだろう。
某軍事評論家への反証
さて最近では某軍事評論家から「89式小銃はグレネードランチャーを装着できず、ナイトスコープ等の照準装置の使用を考えていない上に装填不良が発生する」という指摘があるが、その点について触れておきたい。
まず照準装置の点と装填不良の件だが、関連動画にある動画をご覧になっていただきたい。イラク派遣時の射撃訓練シーンも中に含まれているが、現地での射撃訓練の映像を見るかぎり反動も極めて少ないのがうかがえるし、開発時まったく考慮にいれてないだろう中東地域での射撃ではあるものの動作不良(ジャム)ったりしているシーンもない(英国のL85A1のように訓練シーンでジャムってばかりで使えないなどということはないようだ)。
また、当然のごとく光学照準器(ダットサイト)などを装着しているシーンがあるので、この意見はまったくの見当ハズレであるといえるだろう。ナイトビジョンに関しては自衛隊は頭に装着するタイプを配備しているので問題はない。(アメリカ軍の基本的に同様)
また、グレネードランチャーを装着できない点についても誤解があるようなので書いておく。89式小銃ではM4などにつけているM203グレネードランチャーのようなことを指していると思われるが、なにやらM203などのアドオン(後付)タイプのランチャーはテストの結果不発率も高く、また取り付けの有無でグレネードの射手が固定化されるのを嫌った陸自としては、ライフルグレネード(小銃擲弾)というカテゴリーのグレネード弾を「06式小銃てき弾」として導入済み。
って、これぐらいWikipediaにも記述されてるんだから、こんなヨタな嘘を飛ばさないでいただきたいものなんですがキヨ・・・いや、某軍事評論家さん。
イラク派遣時、当地では一日の訓練で国内の通常一年分の弾を発射したこともあるというが、特に動作不良で使い物にならなかったという話も伝わってこない。また共同訓練で89式小銃に触れた米軍兵士からも高評価を受けたという話もある(バイポッド [※1] 装備が意外とウケたというのも・・・)この他、このような漏れ伝わる評価を聞く限り、すくなくとも値段相応の性能はあると見るべきだろう。
[※1] 二脚。89式小銃では標準装備。なお、取り外しも可能。
改良について
イラク派遣時や陸上自衛隊が急速にCQB(近接戦闘)訓練に力を入れだした関係上、89式小銃も適時改良を受けているようだ。前述のセレクターレバーも、実は部品を付ければ左側に取り付けられることがイラク派遣時の改造で判明した。
目的は通常の右構えから左構えになった場合のセレクター操作のためとのことで、部隊帰還時に元に戻すよう指示があったようだが、国内部隊からもCQBに必要という声が上がり、現在は順次改造がすすられている。
その他、光学照準器(ダットサイト)、CQBに便利な前方握把(フォアグリップ)…ハンドガード下に付けられたグリップなどの本来の装備品ではないものが取り付けられているのが軍事系雑誌での訓練風景写真の中で見受けられた。
ただし、実はこの手の追加装備品の購入は一部を除いて部隊隊員の自費だったことが判明。隊員達が自腹、あるいは金を出し合って部隊単位でミリタリーショップや海外のショップから購入して改造していたらしい。
なんというか、献身的というかいじましいというか・・・なんとかしましょうよ、偉い人。
さすがにダットサイトやフォアグリップまでつけた有様を見た防衛省の偉い人が制式装備品を勝手に改造するなと激怒してこの手の改造ブーム?はナリを潜めたらしく最近は軍事系雑誌にもあまり載ることはないが、実際は継続しているとかしないとか。とはいえ、さすがに現場の声を無視できず光学照準器については国内装備品が配備されるようになった。
次世代ライフル「先進軽量化小銃」
次世代ライフル特徴まとめ |
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また、最近の防衛省技術研究本部(TRDI)では、公開時に自衛隊ガンダムと呼ばれた先進個人装備システム「ACIES」の一環として、89式小銃をベースにより実戦的な仕様に改良したものを公開。
エアガンのメーカーである東京マルイの協力により、防衛技術シンポジウム2007、2008と連続して試作モデルのエアガンを用いたデモンストレーションが行われている。
これは、銃身を20cm短縮してカービン型にし、オプション取り付け用部品「ピカティニー・レール」をつけたうえにヘッドマウントディスプレイ用の赤外線暗視カメラをセット。フォアグリップに個人装備コンピューター操作用としてトラックボールとボタンをつけているモデルとなっている。
当初はマルイのエアガンから改造されたが現在は実銃をベースに改造がスタート。部隊評価も始まるとか。あまりに先進的なスタイルなので、よければ関連動画「次世代ライフル」を見て欲しい。89式の面影は機関部にわずかにあるかぎりである。
しかしアンサイクロペディアに言わせると「最も破損しやすい前方握把にコンピュータ操作装置を配置する、装備の総重量を要求に合わせるため内部にチタン合金を多用するなど、方向性を根本的に間違った試作品」とか。
利点と欠点のまとめ
さて、ここでいろいろ言われることの多い89式の利点と欠点をわかりやすくまとめてみよう。
利点
- 日本人の体格にあわせた形状
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地味に大きい利点である。どんな銃でも使いやすくなければ当てることは難しい。流行のスライドストックなどは採用されていないが、実際にエアガンを購入するとなかなか構えやすい。また、ストックが左右非対称で左側が若干えぐれているためサイトが非常に見やすい。
- 少ない反動
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もしも反動が大きい暴れ馬であったら、連射の際に弾を命中させることは厳しい。89式は手間のかかった形のフラッシュハイダーと内部構造の優秀さのおかげでこのサイズの銃としては反動がかなり抑制されている。その結果が前述の通りの射撃姿勢に表れていると言える。これに起因して命中精度も高い水準である。
- 汚れに強め
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内部機構の話になるが、89式はガスピストン式の作動方式を採用している。これはM16系列に採用されているリュングマン方式に比べ汚れに強く、作動不良に強い。実際米軍のM4は意外にジャムに悩まされることが多いらしく、米軍の次期主力小銃候補はどれもガスピストン式を採用している。
ただし、89式特有であるマガジンの残弾確認用の穴からゴミが入り作動不良を起こすなんて話もある。もっとも、この穴が「ゴミが抜けるよい構造」なんて言ってる資料もあるので真相は不明である。 - 分解が簡単
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もしもトラブルがあった際に重要な点である。実際の戦場では道具がそろっているとは限らないため、必要な道具は少ないに越したことはない。89式はパーツ数が少なめで、かつ内部構造の分解に工具がいらない、あるいは特殊なものがいらない作りになっている。
欠点
- 値段が高い
- セレクターの操作性
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前述のとおり。改良によって右にしかセレクターがない問題は解決しつつある。しかし、セレクターの問題は実はこれがメインではない。これも前述しているが、89式のセレクターの順番はア(安全装置)→レ(連射…フルオート)→3(3ショットバースト…3連射)→タ(単射…セミオート)である。そう、セミオートが一番最後でありこれが厄介なのである。
普通、アサルトライフルは安全→セミオート→(バースト)→フルオート、である。なぜならCQBや正確な命中弾が欲しいといった場合、セミオートの方が有利だからである。また、迅速な切り替えのためにセレクターの作動角はある程度小さい方がいい。例を挙げるならばM16系列は一つ切り替えるのに90度、安全→セミ→フルまでなら180度セレクターを回す必要がある。G36系列ならば一つ切り替えるのに45度、同じく安全→セミ→フルならば90度で済む。
では89式の場合はどうかというと、一つ切り替えるのに90度。これ自体は普通だがセミにしたい時は270度もセレクターを回す必要がある。その差は一目瞭然と言える。事実、自衛隊の中でもCQBを念頭に置いた部隊では安全からセミに一気に回すよう訓練で叩き込まれる。さすがに問題となったのか、現在開発中の次期主力小銃では安全→セミ→フルに改良されている。
……しかしこれも「緊急時に狙いなんかつけてらんないだろ、すぐ弾をばら撒ける安全→フルの方がいい」なんていう中の人の意見もあるので一概には言えない……のかもしれない。ただ世界の主流と違うのは確かである。
- 拡張性が小さい
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設計の時点で考えられてこなかったのだろうが、拡張性は高いと言えない。M4のみならず、G36、HK416、SCAR、一部のAKなどの最近の小銃はマウントレールを装備し、様々なアタッチメントを任務に合わせ容易に脱着できる構造にするのが主流となっている。
対して89式は、光学サイト用マウントベースはあるものの、マウントレールがないためその他の特殊装備の装着は難しい。もっとも、運用上特殊装備が必要でなければそこまで拡張性はなくても問題はないし、拡張性が少ないと言ってもフラッシュライトやレーザーサイト、ドットサイトなどは装着できるのであまり問題にならないのかもしれない。
余談ではあるが光学サイトを載せているマウントの基部は、本来照準器を載せるためのものではなく排出した薬莢を貯める袋を装着するための金具を転用している。
- 防衛省が常に予算不足
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これは銃の欠点というよりはもっと上位の問題なのだが、なんといってもこれに尽きるだろう。上に挙げたフラッシュライトやレーザーサイト(ナイトビジョン用の不可視タイプは採用されている)は隊員の自費、ダットサイトの配備が進んでいるとはいえ数が足りないんで自費で買う隊員もいるという。歩兵は戦闘の基本であるんだし、もうちょっとお金を回してほしい気もする。もっともこれは89式に限ったことではないし、国の在り方そのものの問題かもしれない。まあ、自衛隊の真の敵は財務省だって話もあるし・・・
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関連コミュニティ
関連項目
- 軍事 / 軍事関連項目一覧
- 銃の一覧 / 銃器関連項目の一覧
- 自衛隊 / 陸上自衛隊
- アサルトライフル
- 64式7.62mm小銃 / 20式5.56mm小銃
脚注
- *陸自新小銃、制式名は「20式5.56mm小銃」に 2020.05.19
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