この記事では両方について記述する。
1.の概要
悪霊(悪魔)にとりつかれた人から悪魔を追い出す儀式(エクソシスム)を執り行う者を意味する。
その語源はギリシャ語の「εξορκισμός (exorkismós) 」に由来し、「厳かに問いかけること」とされる。これが転じて「高位の霊的権威の力を借り、悪しきものを追い出す儀式」を意味するようになった。
カトリック教会の儀式(準秘跡)であり、『ローマ・ミサ典礼書』に則った教会法に沿って行われる。
旧約聖書においては『サムエル記』でイスラエル王サウルが悪霊に操られてダビデを殺そうとしたが、ダビデは竪琴をもって悪霊を祓ったとされる。
また『トビト記』では悪魔アスモデウスによって伴侶を次々と亡くして絶望する寡婦サラの祈りに対し、主が天使ラファエルを遣わして追放したという。
新約聖書においては『マルコによる福音書』に記述がある。
イエス・キリストがガリラヤ湖の東岸、ゲラサ(ガダラ)において悪霊に憑依された男に出会い、悪霊に対して退散を命じた。悪霊は「我らはレギオン、大勢であるから」と名乗り、イエスの許しを得ると二千匹ほどの豚の群れに憑依し、ことごとく海に飛び込み溺死したという。
『ルカによる福音書』『マタイによる福音書』にも短縮されて記述されており、これらの記述に基づいて教会は主からの権能と職務を受けているとされる。
精神疾患を悪魔憑きとして捉えられがちな事もあり、エクソシスムについては、過去にいくつかの悲惨な事件が起きている。
古くを紐解けば、1634年のフランスにおいて起きた「ルーダンの悪魔憑き(Loudun possessions)」が有名。
フランス南西部の地方都市ルーダンにおいて、女子修道院で集団ヒステリーが発生した。公開形式の悪魔祓いにおいて修道女達は裸になって暴れ狂い、悪魔に取りつかれていると告解したばかりか、その原因が同地の主任司祭であったユルバン・グランディエであると告発したのである。
悪魔と取り交わした契約書を決定的な証拠としてグランディエは拷問の末に火刑となったが、その背景には様々な政治的思惑があったという説もあり、その後も集団ヒステリーは暫く続いたという。
この事件を題材とした小説は多く、そのうち映画化された作品に『尼僧ヨアンナ』(1961年)『肉体の悪魔』(1971年)がある。
現代に目を向ければ、1976年にドイツで発生したアンネリーゼ・ミシェル事件が挙げられる。
長年精神疾患で治療を受けていたアンネリーゼに対し、カトリック教会教区から正式な依頼を受けた司祭が悪魔祓いを実行したが、その最中に彼女は栄養失調と脱水によって死亡してしまう。死亡時のアンネリーゼの体重は僅か30kgで、儀式で跪き続けた脚は骨折を起こしていた。
州当局はアンネリーゼの両親と司祭を過失致死傷害罪で起訴して裁判となり、世間の耳目を集めた。当時の儀式の様子は写真や録音が遺されており、結果として執行猶予つきの有罪判決が下る事となった。
この事件を元にした映画『エミリー・ローズ』が2005年に製作・公開され、被告となった司祭の弁護を担当する弁護士の視点から物語が展開する。
なお、現代のカトリックでは、悪魔憑きの症状に対する充分な検査が行われた上で、厳格な儀式と知識を学んだ司祭が、教区司教の特別な認可を受け、医師を帯同した医学的支援を前提として行うものとされる。
また洗礼式に際して信仰宣言の前に「神の子の自由に生きる為、罪を退けますか」「罪に支配されることがないよう悪を退けますか」「神に反するすべてのものを退けますか」という3つの問いを全て肯定する事でエクソシスムが行われている。
ローマ教皇庁の聖職者省により、2014年に公的認可を与えられた「国際エクソシスト協会」がある。
1990年にこの組織を設立した6人の聖職者は何れも高名なエクソシストであり、そのうちの一人ガブリエーレ・アモルトは悪魔学研究と悪魔祓いに生涯を捧げた人物である。
彼が執筆した回顧録に基づく映画『ヴァチカンのエクソシスト』が2023年に公開され、ラッセル・クロウがアモルト神父を演じて話題となった。
創作におけるエクソシスト
前述の映画や小説とは裏腹に、『D.Gray-man』や『青の祓魔師』などのファンタジー系作品では、圧倒的な力をもって悪魔を退散(物理)させるエクソシストがほとんどである。
海外ではDCコミックの『ヘルブレイザー』が有名で、こちらも悪魔を退散(物理)させる型破りな私立探偵兼エクソシスト、ジョン・コンスタンティンが主人公。2005年に『コンスタンティン』と題して映画化され、キアヌ・リーブスがジョンを演じた。
2.の概要
1973年のアメリカ合衆国のホラー映画。
この作品によって、エクソシストという存在が世に広く知られるようになった。
原作者のブラッティは、1949年にメリーランド州マウントレーニアで起きた悪魔憑き騒動を新聞記事で知り、教会関係者からの緘口令で情報が少ない中で小説を執筆。これがベストセラーとなり、映画化を受けて脚本も担当した。
ちなみに当該の事件では少年が悪魔に憑依されたが、映画では少女に書き換えられ、また映画本編のような超常現象は実際には起きなかったという。
公開に際しては「悪魔が映画を作った」とキリスト教原理主義者から攻撃を食らい、映画の宣伝も兼ねてフリードキン監督が撮影中に起きた事故を大袈裟に語った事で、そこそこな騒動が起きた。
確かに撮影所が火事になったり、スタッフの身内に不幸が起きたりといった事はあったが、メリン神父を演じたマックス・フォン・シドーは「撮影は長期間だったし、関係者は大勢いた。そりゃ事故も不幸も起きるさ」とコメントを残している。
当時としては過激な恐怖描写で、映画館の観客の中には失神する者も少なくなかった。同年のアメリカ国内興業収入1位を記録し、第46回アカデミー賞にも複数部門でノミネート。そのうち脚色賞と音響賞を受賞しているほか、同年のゴールデングローブ賞でも四冠を獲得している。
テーマ曲の『チューブラー・ベルズ(Tubular Bells)』は、音楽を担当したマイク・オールドフィールドの作品。ちなみにチューブラー・ベルズとは管状の鐘を音程に沿って並べた打楽器の事で、日本では『NHKのど自慢』で使われているアレとして知られている。
別にこの映画の為に作られた曲ではないのだが、神秘的な響きも相俟ってじんわりとした恐怖を連想させがち。2012年のロンドンオリンピックの開会式において「ゆりかごから墓場まで」と表現されるイギリスの福祉サービスをモチーフとしたパフォーマンスの冒頭で流れ、ぎょっとした人は結構いたりする。
あらすじ
イラク北部の古代遺跡が、全ての始まりとなる。
調査に参加するメリン神父は、古生物学者とカトリックの神学者という2つの顔を持っていた。そんな彼は、獣とも鳥ともつかぬ異形の石像を発見して顔色を変える。それは古代の悪霊パズズを象ったものであり、メリンは過去に浅からぬ因縁を持っていたのだ。戦慄しながらも、彼は近い内にこの悪魔と再び対峙する事を予感する。
女優のクリス・マクニールは、映画撮影の為にワシントン近郊のジョージタウンに家を借りる事となった。多忙なスケジュールの中、愛娘のリーガンとの暮らしが僅かな癒しとなっている。
リーガンは内向的な性格の少女だった。父と母は協議離婚中で、その母も女優業で忙しい。寂しい気持ちを堪えて母に贈り物をする優しい気質の少女は、しかし屋根裏で響く異様な物音に悩まされる──それが異変の始まりだった。
ジョージタウンに住むカラス神父は精神科医でもあり、望めば認知症を患う老母に楽をさせられる立場にあった。しかし教会の援助によって一流の大学で学んだ恩義と、信仰から清貧の誓いに縛られている身ではそれも叶わず、引け目を感じる日々を送っていた。
マクニール家では各界の名士を招いて、華やかなパーティーが開かれていた。寝ていたリーガンが起きて会場に下りてくると、客の一人であった宇宙飛行士に「あなたは宇宙で死ぬわ」と告げて失禁し、会場を白けさせてしまう。寂しさから来る異常行動と考えて悩むクリスだったが、数日後、リーガンが悲鳴を上げる中で寝室に入った彼女は、誰もいないのに激しく揺れるベッドを見て目を疑う。
意思に反した異常な挙動を見せるリーガンだったが、最先端の医療施設でも原因は解らない。遂にはカウンセリングを担当する医師に暴力を振るうと、リーガンは野太い声で「触るんじゃねえ!このメス豚は俺のものだ!」と吠え、恐ろしい形相に一変した……
スタッフ
続編・リブート
1977年の『エクソシスト2』は『1』から4年後、16歳になったリーガンを再び主人公としているが、ホラーというよりはSFの趣が強く、これに不満を感じたブラッティが正当な続編として『エクソシスト3』を1990年に製作。こちらは連続殺人事件を描くサイコスリラーとなっており、『1』で起きた悪魔憑きとの因縁を描きつつ、『1』の登場人物が複数登場している。
2004年の『エクソシスト ビギニング』ではメリン神父の過去が描かれるも、同年のゴールデンラズベリー賞の最低監督賞と最低リメイク及び続編賞にノミネートされている。何というかお察しください。
2016年には『1』から40年後を描く続編『エクソシスト』がテレビドラマ化された。しかし以前に公開されたナンバリングタイトルをなかった事にしており、結局シーズン2で打ち切りとなってしまった。その一方で、Rotten Tomatoesなどのレビュー集積サイトでは概ね肯定的な評価が為されている。
2023年に『エクソシスト 信じる者(原題:The Exorcist: Believer)』が公開。元々はリブートと称した全三部作の構想だったが、評価は低く興行成績も振るわなかった。監督のデヴィッド・ゴードン・グリーンは続編の製作前に降板してしまい、企画は延期されるに至った。
その後立て直しの為に『ドクター・スリープ』でメガホンを取ったマイク・フラナガンを監督に迎え、本作の続編ではない「根本を覆すアプローチ」を目指した新作映画として、2026年3月13日に公開されると発表された。
関連動画
有名なテーマ曲
関連項目
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