ジオニズムとは、アニメ「機動戦士ガンダム」シリーズに登場する架空の思想。信奉する者をジオニストと呼ぶ。
アルファベット表記ではZeonism(※「Zionism」と誤表記すると、実在の思想「シオニズム」を指す言葉となってしまうため要注意)。
概要
全人類の宇宙移民化を図り地球を聖域化するエレズム(エレニズム)と、宇宙に進出した人類が居住するコロニー(またはサイド)に自治権を与えるべきだとするコントリズムを主軸とする。また、人類が宇宙に進出することで、宇宙に適用したより能力の高い人間が誕生すると言う予言(ニュータイプ)も重要思想である。
厳密な意味では、この三本を主張することが概ねジオニストの定義であると言える。ただし、旧世紀の共産主義と同様に、提唱者のジオン・ズム・ダイクンが個人崇拝の対象となっており、彼に対する信奉者も指すことがある。また、サイド3がジオン共和国(のちのジオン公国)を名乗ったため、サイド3内の国粋派や愛国者を指す場合も多い。
エレズム(エレニズム)
前述の通り、全人類の宇宙移民化を図り地球環境の保全を説く主張。誤解が多いが、これはダイクン独自の思想ではない。連邦によって進められた宇宙移民がそもそも地球の環境保全を前提としており、提唱者は連邦自身と言えなくもない[1]。宇宙世紀以前に50年近くにも渡った連邦建国紛争も、本来はこれを巡ったモノなのである。
しかし、宇宙移民が進むと地球人口は旧世紀20世紀末の人口(つまり適正人口)に戻ってしまい、環境保全と言う宇宙移民の意義は中途半端な形で達成されてしまった。宇宙移民開始から半世紀が過ぎた0051年、連邦はこれ以上の宇宙移民は不要として移民計画を凍結。ここに、スペースノイドとアースノイドと言う身分が固定化する。
宇宙移民の中心は旧世紀の貧困層または敗戦国の国民であり、本来的に立場が弱く無理やり移住させられたと言う意識が強かった。これに加えて、旧来の特権階級が財産やコネを使って地球での安楽な暮らしを謳歌していると言う不公平感が高まり、両者の対立が激化して行く。
閃光のハサウェイの小説では、自然を管理する人々や人種固有の文化を保存維持する人々などの例外以外のすべての人種を均一に移民させるという政策をとっていたらしい。人種が形質的特徴を指しているのか、職業などの社会的な意味を指しているのかは不明だが、南太平洋地区は自然や遺跡の保全を行う100万人ほどの人以外は強制移民を行ったので、ここでいう人種は社会的な意味の方を指しているのかもしれない。
余談だが、南太平洋地区は自然などが人気でスペースコロニーからの居住者が増えていた。
この不満が理想と言う形を取り、エレズムに支持が広がって行くのである。裏返せば、アースノイドの特権はく奪はもちろん、財産の接収など人類の平等化思想でもあるため、アースノイドには当然には受け入れられない思想であった。また、スペースノイドからすれば、アースノイドは地球を汚染するだけの反動で当然の粛清対象となり、のちのコロニー落としや隕石落としなどの虐殺を正当化する根拠として利用された。
究極的に地球環境維持のために個人の意思を無視してコロニーに移住させ、さらに移住後も環境整備のために個人は犠牲になるべきと言う前近代的な側面もあった。ダイクン本人も全体主義的な志向は隠さず、ジオニズムの中でも過激な思想であったと言える。
コントリズム
サイド(またはコロニー)の自治権獲得ないし宇宙国家の建設を謳う思想である。背景に、コロニーの維持管理費を宇宙移民に対し、コロニー公社を通じて連邦政府並びに役人たちに支払わせると言う搾取があった。これに対する反発として、宇宙移民の財産や税金は宇宙移民のために使うべきだと言う考えに至ったとされる。また、そうでなくともコロニー一基につき3500万人におよぶ人口が存在し、既に画一的な行政サービスや国民意識を持続させることが不可能であったことも挙げられる。
こちらがダイクンの最初の主張であったと言われ、地球連邦評議会議員時代の0046年に最初の骨格を発表。しかし、コロニー利権維持にこだわる連邦政府からは拒絶され、最終的に彼自身もサイド3に移住することとなる。
ダイクンのサイド3移住は理想の実現に向けて実践の場を与えることとなり、0058年のサイド3独立宣言を促すこととなる。0067年には最期の妥協案であったコロニー自治権整備法案も廃案となり、経済制裁と合わせて一年戦争への下地が形成されて行く。つまり、コントリズムが戦争への端緒であった。
コントリズム自体はアースノイドの存在を否定しない(地位を平等とすれば平和共存も可能)ため、ある程度は現実性がありダイクンのとりあえずの目標はこちらの実現に絞られたようだ。しかし、前述の通り地球連邦政府の警戒心はむしろエレズムよりもこちらに振り分けられることが多く、一年戦争含めて様々な軋轢を生むことになる。
ニュータイプ
ニュータイプもダイクンの予言であり、ジオニズムには欠かすことが出来ない要素であった。これは宇宙に進出した人類がその厳しい環境に適応し、新しい人類に進化すると言う考えである。ダイクンはこれを第三のルネッサンス(第一はサルから人へ、第二は中世から近世・近代へ)と評し、宇宙移民にこそその資格があるとして希望を煽っている。
ダイクンの理想とは裏腹に、実証は一年戦争を通じて(避けられるはずがないビーム兵器を避ける、秘匿された敵の居場所を瞬時に悟る、仲間とテレパシーで通じ合うなど、あり得ないことが起きた)であり戦争の道具として扱われてしまうことも多かった。また、皮肉なことに多くは連邦のパイロットであった。
当然ながらスペースノイドであってもニュータイプであるとは限らず、シャア・アズナブルを筆頭にジオニストでありながら敵対したニュータイプに圧倒され、「自分はオールドタイプなのではないか」と苦しむ人間も少なくなかった。また、ギレン・ザビのように懐疑的(あるいは相当に未来な話)として片づける見方も少なからず存在する。
こちらも一種の選民思想と化す部分もあり、その反動としてジャミトフ・ハイマンのようにミュータントとして軽蔑する向きも存在した。また、極端であるが、ニュータイプ研究者でありながら、その能力に圧倒され「かつて旧人類(ネアンデルタール人)が現人類(クロマニュヨン人)に淘汰されたように、オールドタイプも淘汰されるのではないか」と妄想し、ニュータイプの撲滅をはかったクルスト・モーゼス博士の例もあった。
総じて言えば、崇拝と迫害は表裏一体であり多くのニュータイプはこう言った社会の接し方に失望を覚えたようだ。
ジオニズムへ
これらが複合することにより、ジオニズムとなり0050年代以降の宇宙を揺るがす大きなムーブメントとなる。その結果として、サイド3にジオン共和国(またはムンゾ共和国)が誕生すると、その理想は達成への道しるべを刻んだように思われた。しかし、多くの政治思想の例に漏れず、その実践には困難さが付きまとい軋轢を生んだ。連邦との対立だけでなく、路線対立から同志であったデギン・ソド・ザビとの内紛も激しさを増す。ダイクンは理想と現実の葛藤に苛まれ0068年に死去する。
優性人類生存説とザビ家の血統
ダイクンの死後、ジオン共和国はデギンの公王への登極によりジオン公国となった。デギンは少なくともコントリズムには忠実であり、名実ともにサイド3の独立国家化を進める。しかし、権力掌握後は内紛によった勝利の空しさからか老け込み保守化し、以後の政治的な主導権は実質的に子息であるギレン・ザビが取ることとなる。
0071年、ギレンは優性人類生存説を発表。サイド3住人(宇宙移民ではない)こそが選ばれた優良人種であり、地球圏を統治すべきであると言う選民思想を発表。これが事実上のサイド3のナショナリズムとなり、相当歪めた形であるがサイド3のジオニズムとして一年戦争または残党によるデラーズ紛争を起こすこととなる。
また、その首領であるザビ家の血統に正統性を求める動きも強くなる。これがのちのハマーンによる第一次ネオ・ジオン抗争の伏線となった。
ジャミトフ・ハイマンとブレックス・フォーラ
一方、連邦の官僚組織の中にもあえてジオニズムを利用する動きもあった。その代表格が連邦の経済官僚であり、軍籍も有していたジャミトフ・ハイマンであった。彼はギレンによるコロニー落としを通じた人類粛清と環境保全のための宇宙移民と言う考えに大きな影響を受け、連邦内の派閥対立を巧みに操ることで紛争を起こしアースノイドを戦争に巻き込むことで粛清する方針を取った。このために彼が結成したアースノイドによる暴力装置がティターンズである。
また、アースノイドよりの連邦軍人であったブレックス・フォーラもティターンズに対抗する形でエゥーゴを結成。グリプス戦役を引き起こした。
両者は水と油の関係であったが、皮肉なことに宇宙移民の促進と言う意味では共通しており、それが故に(あるいはジャミトフの望んだ通りに)連邦内の内紛は激化の一途をたどる。
シャアの反乱
しかし、いずれの戦争もアースノイドの消滅にはつながらず、連邦は存続し続けた。0093年、ダイクンの子息であったキャスバル・レム・ダイクン(シャア・アズナブル)が連邦に対して蜂起。小惑星アクシズを地球に落下させ核の冬により地球を寒冷化、人が住めない環境を作り出すことにより一気に宇宙移民を進めると言う作戦に打って出る。これはエレズムの極致(あえて地球を破壊してしまうことの代償としてジオニズムを完遂する)と言え、ジオニストによる最期の抜本的な解決方法を狙った事件であったと言える。
その後
シャアの反乱失敗以降もラプラス戦争やマフティー動乱など、ジオニズムを奉じた組織による反乱はしばらく続いた。しかし、前者は消滅が予定されていたジオン共和国による陰謀に過ぎず、後者もジオン共和国消滅後の地球における紛争であり全宇宙規模に与えた影響は限られた。
0123年、ブッホコンツェルン(ロナ家)率いるクロスボーン・バンガードがフロンティアⅣを占拠して蜂起。しかし、こちらはコスモ貴族主義と呼ばれる新たな政治思想を基軸にしており、ジオニズムは以降では歴史的な存在として語られるに過ぎなくなる(ただし、ゲームやガイア・ギアなどの番外的な小説作品ではいくつかの組織が登場しているが)。
0140年以降は連邦の権勢も大きく弱体化し、ほとんどのサイドやコロニーはなし崩し的に独立を開始した。これに伴いアースノイドの地位は低下し、スペースノイドも連邦よりは隣のコロニーを敵視し紛争を起こす時代に突入する(宇宙戦国時代)。エレズム自体はスペースノイドの関心ではなくなり、コントリズムはジオニズムなど介するまでもなく現実となり、むしろ各コロニーの団結などを削ぐ要因となってしまった。
ニュータイプ概念はその後も伝説として語り継がれたようだ。0133年にはコスモ・クルス教団と言うニュータイプを神に力を与えられた者として崇拝する団体も確認されている。
0153年、マリア主義を奉じるザンスカール帝国との戦争を終結させたニュータイプであるウッソ・エヴィンは地球生まれ・地球育ちの純アースノイドであり、ダイクンが依って立ったスペースノイドの優位性の土台は名実共に崩壊した。
現実世界でのジオニスト
現実世界で熱狂的にジオン公国を支持する人を時折「ジオニスト」と称することがある。掲示板や動画などで過剰にジオンを持ち上げ、連邦を貶めるなどの行為をするファンに対する蔑称となることもある。
動画ではギレンなどが登場すると「ジーク・ジオン!」と言う賭け声をコメントすることが多く見られる。
著名なジオニストたち
- ジオン・ズム・ダイクン
創始者 - キャスバル・レム・ダイクン
息子 - デギン・ソド・ザビ
- ギレン・ザビ
だだし、彼自身はジオニズムを単なる道具としか捉えておらず、ギレンの信奉者は必ずしもジオニストではない - エギーユ・デラーズ
- ジャミトフ・ハイマン
どちらかと言えばギレンの信奉者 - ハマーン・カーン
ザビ家を擁しつつ敵対したシャア・アズナブルを愛するなど、ある意味では矛盾を抱えたジオニズムの犠牲者であった - フル・フロンタル
シャアの再来と呼ばれた男。目的はコロニー間の関税同盟を組織して地球を貧窮化させることであった。ただし、ジオン共和国国防大臣であるモナハン・バハロの受け売りであり、本人もその人形に過ぎなかったとされる。 - マフティー・ナビーユ・エリン
関連動画
関連商品
関連コミュニティ
関連項目
脚注
- *閃光のハサウェイの小説によれば、地球の自然を管理する人々や人種固有の文化を保存維持する人々などは例外として地球に滞在できるということになっていた。この例外規定は拡大解釈して運用されてしまっており、小説版F91では地球環境の保全要員などの名目で地球への移住が行われていた。
- 4
- 0pt