概要
新人賞というくくりに含まれてはいるが、応募期間がなく、委員による選考もなく、賞金もない。漫画の世界では多い「持ち込み」を新人賞扱いにしたもの。対象作は「エンターテイメントなら何でも」。編集者が持ち込まれた原稿を読み、気に入られれば受賞・出版される[1]。このときの印税が賞金代わりとなる。かつては枚数制限が無かったため、清涼院流水『コズミック』や高田大介『図書館の魔女』のような大長編が受賞していたが、2014年に講談社BOX新人賞を吸収した際に枚数上限が設定された。
元々は森博嗣を『すべてがFになる』でデビューさせる際に、ハクをつけるために作られた賞。正確には、1994年に京極夏彦が持ち込み原稿から即デビューを果たし、二匹目のドジョウを探して「メフィスト」誌上で原稿を募集してみたところ、森の『冷たい密室と博士たち』が送られてきたため、森のデビューが決まった時点でこの原稿募集がメフィスト賞と名付けられた。要するに、二匹目のドジョウを探したら見つかったので賞ができた、という創設の経緯からして風変わりな新人賞である。なおその経緯から、第0回受賞者として京極夏彦が公式にもカウントされている。
主催しているのが新本格の総本山である講談社ノベルスを出している講談社の文芸第三出版部(文三)であることもあり、受賞作には新本格系のミステリが多い。そのためミステリの新人賞と見なされることが多いが、前述の通り対象はミステリに限定していない。ファンタジー、SF、恋愛小説、青春小説、ホラー、時代小説、格闘小説、パニック小説など様々なジャンルの受賞作が存在する。
編集者が惚れ込みさえすればどんな作品でも受賞するため、受賞作には一般的な文学賞では出てこないような癖の強いものも多い。特に第2回の清涼院流水『コズミック』、第3回の蘇部健一『六枚のとんかつ』はその代表とも言える存在で、さらに続く第4~6回の乾くるみ・浦賀和宏・積木鏡介の3人同時デビューがそれぞれにアクの強い作品だったため、「メフィスト賞はイロモノ」という評価が広まった。
その後、殊能将之、古処誠二らのデビューで評価は回復。舞城王太郎、佐藤友哉、西尾維新を立て続けに送り出した2002年頃には一番勢いのある新人賞と言われたこともある。
その後、00年代終わりから10年代前半ぐらいにかけてはやや低調な時期も続いたが、2019年の砥上裕將の青春小説『線は、僕を描く』が本屋大賞3位になり映画化されるなど一般層に大きくアピールしてからは再び注目度が高まり、ミステリ方面でも夕木春央、五十嵐律人、潮谷験といった作家を送り出している。そのため現在も目の離せない賞であることに変わりは無い。
受賞作は基本的に講談社ノベルスから出るが、受賞作の内容によってはハードカバーかソフトカバーの単行本で出ることもある。2010年代に入るとノベルス市場そのものがほぼ壊滅してしまったため、第54回からは講談社タイガから出ることもあったが、その後講談社タイガが文三の担当ではなくなったためか、現在はほぼ受賞作は単行本で出る形となった。
良くも悪くもアクの強い作品が多いため、一発屋の多い賞みたいに言われることがあるが、意外と受賞者の生存率は高い。受賞者の7割ぐらいはなんだかんだで作家活動を継続しており、デビュー人数の多さも考えればこの生存率はかなり優秀な数字。デビュー当初は売れなくても、乾くるみ、浦賀和宏、小路幸也、真梨幸子など他社で出した作品でブレイクし、人気作家となった者も多い。
一方、講談社と揉めたのか出て行く作家もけっこう多い。講談社で書かなくなった作家には新堂冬樹(4作目以降は他社へ、一応その後も講談社で2冊ほど出しているが全て他社で文庫化)、古処誠二(4作目の『ルール』以降は講談社を離れ戦争小説に転身。初期作品は他社で文庫化)、日明恩(全作品が双葉社へ移籍)、古野まほろ(幻冬舎へ移籍、現在は和解)などがいる。京極夏彦も一時講談社から版権を引き上げるという噂があった。
ちなみに受賞者以外にも、柄刀一、詠坂雄二、斜線堂有紀、紺野天龍などが投稿していたことがある。
受賞者一覧
◇は講談社ノベルス、◆は単行本、☆は講談社タイガで初刊となったもの。
- 第0回◇:京極夏彦 『姑獲鳥の夏』
- 第1回◇:森博嗣 『すべてがFになる』 ※応募されたのは『冷たい密室と博士たち』
- 第2回◇:清涼院流水 『コズミック 世紀末探偵神話』
- 第3回◇:蘇部健一 『六枚のとんかつ』
- 第4回◇:乾くるみ 『Jの神話』
- 第5回◇:浦賀和宏 『記憶の果て』
- 第6回◇:積木鏡介 『歪んだ創世記』
- 第7回◇:新堂冬樹 『血塗られた神話』
- 第8回◆:浅暮三文 『ダブ(エ)ストン街道』
- 第9回◇:高田崇史 『QED 百人一首の呪』
- 第10回◇:中島望 『Kの流儀 フルコンタクト・ゲーム』
- 第11回◇:高里椎奈 『銀の檻を溶かして 薬屋探偵妖綺談』
- 第12回◇:霧舎巧 『ドッペルゲンガー宮 <あかずの扉>研究会流氷館へ』
- 第13回◇:殊能将之 『ハサミ男』
- 第14回◇:古処誠二 『UNKNOWN』 ※現在は『アンノウン』と改題して文春文庫
- 第15回◇:氷川透 『真っ暗な夜明け』
- 第16回◇:黒田研二 『ウェディング・ドレス』
- 第17回◇:古泉迦十 『火蛾』
- 第18回◇:石崎幸二 『日曜日の沈黙』
- 第19回◇:舞城王太郎 『煙か土か食い物』
- 第20回◇:秋月涼介 『月長石の魔犬』
- 第21回◇:佐藤友哉 『フリッカー式 鏡公彦にうってつけの殺人』
- 第22回◇:津村巧 『DOOMSDAY -審判の夜-』
- 第23回◇:西尾維新 『クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い』
- 第24回◇:北山猛邦 『「クロック城」殺人事件』
- 第25回◆:日明恩 『それでも、警官は微笑う』
- 第26回◆:石黒耀 『死都日本』
- 第27回◇:生垣真太郎 『フレームアウト』
- 第28回◇:関田涙 『蜜の森の凍える女神』
- 第29回◆:小路幸也 『空を見上げる古い歌を口ずさむ』
- 第30回◇:矢野龍王 『極限推理コロシアム』
- 第31回◇:辻村深月 『冷たい校舎の時は止まる』
- 第32回◆:真梨幸子 『孤虫症』
- 第33回◇:森山赳志 『黙過の代償』
- 第34回◇:岡崎隼人 『少女は踊る暗い腹の中踊る』
- 第35回◇:古野まほろ 『天帝のはしたなき果実』
- 第36回◇:深水黎一郎 『ウルチモ・トルッコ 犯人はあなただ!』 ※現在は『最後のトリック』と改題して河出文庫
- 第37回◇:汀こるもの 『パラダイス・クローズド』
- 第38回◇:輪渡颯介 『掘割で笑う女 浪人左門あやかし指南』
- 第39回◆:二郎遊真 『マネーロード』
- 第40回◇:望月守宮 『無貌伝 双児の子ら』
- 第41回◇:赤星香一郎 『虫とりのうた』
- 第42回◇:白河三兎 『プールの底に眠る』
- 第43回◇:天祢涼 『キョウカンカク』
- 第44回◇:丸山天寿 『琅邪の鬼』
- 第45回◆:高田大介 『図書館の魔女』
- 第46回◆:北夏輝 『恋都の狐さん』
- 第47回◇:周木律 『眼球堂の殺人 ~The Book~』
- 第48回◆:近本洋一 『愛の徴 ―天国の方角―』
- 第49回◇:風森章羽 『渦巻く回廊の鎮魂曲 霊媒探偵アーネスト』
- 第50回◇:早坂吝 『○○○○○○○○殺人事件』
- 第51回◇:井上真偽 『恋と禁忌の述語論理』
- 第52回◆:宮西真冬 『誰かが見ている』
- 第53回◇:柾木政宗 『NO推理、NO探偵?』
- 第54回☆:望月拓海 『毎年、記憶を失う彼女の救いかた』
- 第55回☆:木元哉多 『閻魔堂沙羅の推理奇譚』
- 第56回◇:秋保水菓 『コンビニなしでは生きられない』
- 第57回◆:黒澤いづみ 『人間に向いてない』
- 第58回☆:名倉編 『異セカイ系』
- 第59回◆:砥上裕將『線は、僕を描く』
- 第60回◆:夕木春央『絞首商會』
- 第61回◆:真下みこと『#柚莉愛とかくれんぼ』
- 第62回◆:五十嵐律人『法廷遊戯』
- 第63回◆:潮谷験『スイッチ 悪意の実験』
- 第64回◆:須藤古都離『ゴリラ裁判の日』
- 第65回◆:金子玲介『死んだ山田と教室』
関連項目
脚注
親記事
子記事
- なし
兄弟記事
- 5
- 0pt