「ジークフリード・キルヒアイス」(Siegfried Kircheis 帝国暦467年1月14日~帝国暦488年9月9日)とは、田中芳樹原作の小説・OVA「銀河英雄伝説」に登場する帝国軍人であり、主人公ラインハルト・フォン・ローエングラムの半身。そして「Mein Freund(我が友)」。
「ラインハルトに対する忠誠心」「帝国軍人としての功績」「個人戦闘能力」の全てに優れ、特に人格者としては作中最高レベルの人物と誰もが認める存在ながら、常にラインハルトを引き立て、時に諌め、弱者の視点を大事にし、公明正大なままラインハルトの為に散った「正義の人」であり、帝国軍側の人物では主人公のラインハルトを凌ぐ一番人気キャラである。
ジーク、あなたはもっと自分を評価すべきですよ。弟には才能はあります。たぶん、ほかの誰にもない才能が。でも、ジーク、弟はあなたほどおとなではありません。自分の脚の速さにおぼれて断崖から転落する羚羊のような、そんなところがあります。これは弟が生まれたときから知っているわたしだから言えることです
どうか、ジーク、お願いします。ラインハルトが断崖から足を踏みはずすことのないよう見まもってやって。もしそんなきざしが見えたら叱ってやって。弟はあなたの忠告ならうけいれるでしょう。もしあなたの言うこともきかなくなったら……そのときは弟も終わりです。どんなに才能があったとしても、それにともなう器量がなかったのだとみずから証明することになるでしょう
旗艦は「バルバロッサ」。
石黒監督版アニメ「銀河英雄伝説」での声優は広中雅志(「黄金の翼」のみ子安武人) 。
「Die Neue These」での声優は梅原裕一郎(幼少期は藍原ことみ)。
星を見ておいでですか、閣下。
銀河英雄伝説の主人公ラインハルト・フォン・ローエングラムとは、少年時代からの友人であり、「ゴミ溜めの中にも美点を見出すタイプ」(誰にも長所があると考えるタイプとの意味)、「教師になっていたら生徒の長所を伸ばすいい教師になっていた」と評される程に温和で人当たりが良い人物であった。苛烈果敢なラインハルトのするどすぎる部分をおぎない、ときには周囲との調整役や有事の護衛を担当するなど、ラインハルトから、
たとえ全宇宙が私の敵になろうとも、キルヒアイスは私に味方するだろう。
と言い切られる程だった。
外見は、「ルビーを溶かした液で染めあげたような」と作中で記されている通りの赤毛、「感じの良い青い瞳」、ラインハルトよりも7cm高い190cmの長身、そして温厚さを現す涼やかな顔が特徴的である。
ラインハルトへの忠誠心以外にも、幼少時からスポーツ万能で天性の喧嘩巧者と、幼少時から実力と人望を兼ね備えていたほか、白兵戦では同盟軍最強のワルター・フォン・シェーンコップと互角、射撃の腕は帝国軍幼年学校の大会では金メダルの常連という公式チートな能力を持っており、キルヒアイスのみが銃の携帯をゆるされる場が多かったのも、射撃の腕前で幾度もラインハルトの危機を救った事や信頼感からだったと言える。
ラインハルトの幕僚としても、公明正大で清廉潔白、弱者を救済し、失敗した者にはチャンスを与えるべきという(ビッテンフェルトやミュラーは足を向けて眠れない程の)精神的にも完璧超人であり、ラインハルトが特別扱いする事を、オーベルシュタインを除く幕僚全員が認めていた(と言うか気にしない)という扱いをうけていた。
では、ラインハルトさま、あなたが怒っておられるのは、ビッテンフェルトの失敗に対してですか?
私にはそうは思えません、ラインハルトさま、あなたのお怒りは、ほんとうはあなた自身にむけられています。ヤン提督に名をなさしめたご自身に。
また、オーベルシュタインなどラインハルトに意見・進言する人物は幕僚の中に何人もいたが、諫言出来る人物はジークフリード・キルヒアイスのみと言われた。「ヴェスターラントの悲劇」後には、知りながらも虐殺を止めず弱者を見殺しにしたラインハルトに対して正面からその行動を諌めた清廉潔白さが、逆にオーベルシュタインの唱えたナンバー2不要論に火をつけてしまったとも言えるのは皮肉である。
温厚篤実さは、戦闘力を失った敵に降伏を促したり、自軍の兵卒にまで心を配り、被害を最小限におさえようとする等戦術にも垣間見える。
また、同盟軍のヤン・ウェンリーについても高く評価し、
彼には彼の不満がありましょう。
なぜ、自分は、ことの最初からローエングラム伯と対局できないのかと
能力的にもラインハルトの分身である
とキルヒアイスを評価していた。
こうした「覇者の最高の友」であったキルヒアイスだが、そのチート能力を発揮した期間が原作小説では2巻まで、OVAは第一期までであり、読者人気も高かったにもかかわらず序盤で死んでしまった事については作中の人物そして読者からも惜しむ声が大きく、原作者田中芳樹も、本編最終巻の後書きで「早く殺し過ぎた」と自らの失敗を認めている。
※但し、田中芳樹としてはヤン同様途中で死ぬ事を決めていた人物であり、ウォルフガング・ミッターマイヤーやナイトハルト・ミュラー、ダスティ・アッテンボローの様に無事最終回を迎えたり、フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルトやオリビエ・ポプランの様に田中芳樹の魔の手を逃れたりすることは無かったと思われる。
尚、銀河英雄伝説ハンドブック(徳間デュアル文庫/2003年刊行)及び銀河英雄伝説辞典(創元SF文庫/2018年刊行)に収録されたインタビューでは、初代担当者の金城孝吉が田中芳樹に対して「2巻でキルヒアイスを殺してくれと頼んだ。理由は帝国側のラインハルトと同盟側のヤンの力のバランスを取るため」と述べている。
帝国暦467年1月14日、ラインハルトより2ヶ月はやくゴールデンバウム王朝の司法省に勤める下級官吏の家に生まれる。
平凡で善良な父やごく一般的な家族と暮らしていたジークフリードに転機が訪れたのは、10歳の時に隣家に引っ越して来た没落貴族ミューゼル家の姉「アンネローゼ」と同い年の弟「ラインハルト」との出会いからだった。
初対面のラインハルトから
ジークフリードなんて、俗な名だ。
キルヒアイスという姓は詩的だ。
と言われた事から、ラインハルトに一生「キルヒアイス」と呼ばれる事になった彼は、その無二の親友としてつきあっていたが、ある時、5歳年上で慕っていたアンネローゼが皇帝フリードリヒ4世の後宮に入る事になる。ラインハルトから姉の奪還への決意を聞かされたキルヒアイスは、協力を誓って共に帝国軍幼年学校へと進み、ラインハルトの事をさま付けで呼ぶようになった。
帝国暦482年、15歳で帝国軍幼年学校を卒業すると、准尉としてラインハルトと共に惑星カプチェランカに配属され、戦闘では高い格闘能力と射撃能力による無双でラインハルトの危機を救う。帝国暦484年には17歳で大尉となり、出向の形で憲兵隊に配属された。その後は、帝国暦485年、18歳で参加したヴァンフリート星域会戦の後に少佐に昇進、帝国暦486年に19歳で参加した第三次ティアマト会戦後に中佐に昇進、その後大佐に昇進と、寵姫の弟であるラインハルトには劣るものの、ラインハルトの副官として戦場を共にしながら順調に昇進していった。
アスターテ会戦ののち、元帥に昇進したラインハルトが元帥府を開設すると、少将に昇進したキルヒアイスは副官の任を離れて艦隊の司令官となり、帝国暦487年、帝国に反乱を起こしたマクシミリアン・フォン・カストロプの討伐に派遣された。
はじめて自身の部隊を率いることとなったキルヒアイスは、この「カストロプ動乱」を
といったかたちで鎮圧し、中将に昇進して名実共にラインハルトの元帥府のナンバー2となる。イゼルローン要塞がヤンに奪われた後の自由惑星同盟軍によるアンドリュー・フォークの愚策帝国領侵攻作戦では、同盟軍側の戦線が伸びきったところでホーウッド率いる第7艦隊を敗退させ、ヤンの第13艦隊とも交戦。続くアムリッツァ会戦では全軍の三割をひきいて別働隊を展開すると、同盟軍が敷設した機雷原を指向性ゼッフル粒子で破壊して突破(指向性ゼッフル粒子の実戦初使用)し、同盟軍の戦線を崩壊させてラインハルトの勝利を決定づけた。会戦後には、ドジを踏んだビッテンフェルトを処罰しようとしたラインハルトに対して、不問に付して機会を与えるべきだと諫言している。
アムリッツァの功績で中将から一気に上級大将に昇進したキルヒアイスは宇宙艦隊副司令長官に任命され、帝国暦488年、21歳の時、イゼルローン要塞へと捕虜交換の為に赴きヤンと会談している。
その後に発生した貴族連合との戦いでは、アウグスト・ザムエル・ワーレンとコルネリアス・ルッツの艦隊を率いて辺境での60回におよぶ戦闘に全て勝利してその平定に尽力。50000隻の艦艇とガルミッシュ要塞を擁するウィルヘルム・フォン・リッテンハイム3世とのキフォイザー星域の会戦では、敵の陣形の不備をついて戦線を崩壊させ、ガルミッシュへと逃げる際に味方の補給部隊を攻撃した事から人望を失ったリッテンハイムの自滅により要塞を占拠、ラインハルトと貴族連合の間に決定的な戦力差を生み出した。
しかし、貴族連合との戦いの最中に、刎頚の友ラインハルトとの間に亀裂が入りかける事件が発生する。貴族連合の盟主オットー・フォン・ブラウンシュヴァイクが、反乱を起こした自領ヴェスターラントに対し核攻撃をくわえ、2000万人の領民を虐殺する事件が発生したのである。事前に察知しておきながら、オーベルシュタインの進言を容れたラインハルトがあえて虐殺を止めなかったと聞いたキルヒアイスは、
だが、たしかめてどうする。虚報であれば、それでよい。しかし、もし真実だったらどうするのか。
これまで、ラインハルトの正義はキルヒアイス自身の正義でもあった。それが一致しなくなる日がくるのだろうか。離反して、たがいに生きていける自分たちではないはずなのに……。
との思いを胸に秘めてラインハルトに面会し、ラインハルトが貴族連合の権威失墜を狙ってヴェスターラントの虐殺を黙認したことが事実である事を聞かされると、
大貴族たちが滅亡するのは、いわば歴史の必然、五〇〇年来のつけを清算するのですから、流血もやむをえないことです。ですが、民衆を犠牲になさってはいけません。あたらしい体制は、解放された民衆を基盤として確立されるのです。その民衆を犠牲になさるのは、ご自分の足もとの土を掘りくずすようなものではありませんか
と、「正義の人」らしい弱者の視点と深謀遠慮に基づく諫言を行った。結果的にヴェスターラントの虐殺により貴族連合を倒すのがはやまった、と返すラインハルトに対しては、
相手が大貴族どもであれば、ことは対等な権力闘争、どんな策をおつかいになっても恥じることはありません。ですが、民衆を犠牲になされば、手は血に汚れ、どのような美辞麗句をもってしても、その汚れを洗いおとすことはできないでしょう。ラインハルトさまともあろうかたが、一時の利益のために、なぜご自分をおとしめられるのですか
と言い立てたが、オーベルシュタインのナンバー2不要論を聞かされていたラインハルトは、説教はたくさんだと拒絶してしまう。
ですが、ラインハルトさま、貴族たちは、やってはならないことをやりましたが、ラインハルトさまは、なすべきことをなさらなかったのです。どちらが罪が大きいのでしょうか
とさらに諫したキルヒアイスに対して、ついにラインハルトは、
お前はいったい、おれのなんだ?
私は閣下の忠実な部下です、ローエングラム候
と、それまでの無二の親友の関係が崩れ、ラインハルトもまたオーベルシュタインの言を聞き容れてキルヒアイスに許可していた特権の排除を決めてしまう。
そして運命の日、帝国暦488年9月9日。原作第二巻最終章「さらば、遠き日」……
敗れた貴族連合側の捕虜の謁見に出席するにあたり、キルヒアイスはそれまで許可されていた銃の携帯を禁止されて丸腰で出席した。そして亡き主君ブラウンシュヴァイクの遺命を果たさんとしたアンスバッハがラインハルトに銃口を向けた際、いつもであれば得意の射撃で一射のもとに討ち果たせたにも関わらず、この時に限って銃を持てなかったが故に咄嗟にアンスバッハにつかみかかり、その身をもって凶弾を受けて倒れたのだった。
もう私はラインハルトさまのお役にたてそうにありません……お許しください
死の直前、ジークフリード・キルヒアイスは、
ラインハルトさま……
宇宙を手にお入れください
それと、アンネローゼさまにお伝えください。ジークは昔の誓いをまもったと……
墓碑には、ラインハルトにより一言
Mein Freund 「我が友」 |
とだけ、刻まれた。
その後、覇道を進むラインハルトの胸には、キルヒアイスの赤い髪が入った銀のペンダントが輝いていた……。
21歳の若さで凶弾により倒れたジークフリード・キルヒアイスは、死後、帝国元帥に昇進すると共に、生前にさかのぼって
の地位を与えられ、ローエングラム王朝成立時には、「大公」の地位を与えられた。
また、新王朝においてはジークフリード・キルヒアイス武勲章が制定された。これは、授与された者は葬礼及び墓碑の建設を国庫が賄うと言う帝国軍人にとって最高の栄誉が与えられる勲章であり、作中では
の三人が受勲している。
しかし、そういった華々しい栄誉の影で、ナンバー2不要論を唱えたオーベルシュタインは、一部の将帥からはキルヒアイスの死をもたらした男とそしられ、それまで一枚岩だったラインハルト率いる帝国軍に亀裂を生み出し、キルヒアイスに縁のある提督や幕僚達とオーベルシュタインの対立にまで発展する程の暗い影を落とした。
部下だったハンス・エドアルド・ベルゲングリューンにいたっては、キルヒアイスとオスカー・フォン・ロイエンタールという二人の偉大な上官が散った事に絶望し、ある意味で原因となった皇帝を痛烈に批判して自決を遂げた程だった。また、ラインハルト自身も臨終の間際に際し、看病のために駆けつけた姉アンネローゼに「キルヒアイスをお返しします」と詫びており、心の奥底にその存在と殺してしまったことへの後悔を滲ませている。
田中芳樹も認めるジークフリード・キルヒアイスの早すぎる死は、逆に「もし彼が生きていたら」と思わせ、
といった歴史ifを楽しむ事も出来るようになったと言える。作中にも、幾度も「ジークフリード・キルヒアイスが生きていれば」という台詞が登場している。
また、早すぎる死のお詫びなのか、「銀河英雄伝説外伝」には、ジークフリード・キルヒアイスがたっぷりつまったエピソードがあり、「汚名」に至っては全編キルヒアイス主人公でお送りされている。「銀河英雄伝説」のゲームの中には、イベント進行によっては生き延びるようになっているものもある。
石黒監督版アニメシリーズでのジークフリード・キルヒアイスの声は広中雅志が担当している。
落ち着いた雰囲気と涼やかさを併せ持つ声と演技に、最初からキルヒアイスを演じるべき人物だったと思われがちだが、アニメ化が決まった当初、キルヒアイスの声を誰にするかはキャスティングの難問とされ、結局オーディションにより広中雅志に決まったと言う経緯がある。
その為か広中雅志もまた、キルヒアイスへの思い入れが深く、声を演じる機会があれば、他の仕事を断ってでも駆けつけるとまで公言している。あえてキャスト全員を総入替した「黄金の翼」では子安武人が担当しており、広中雅志は大変に残念がったと言われている。
「銀河英雄伝説 Die Neue These」では梅原裕一郎が担当している。声優発表イベントでは、出席した広中雅志より梅原裕一郎に引き継ぎが行われたが、この時の広中雅志から梅原裕一郎への忠告は「思ったより早く死ぬから気をつけて」であった。
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掲示板
368 ななしのよっしん
2024/05/18(土) 10:57:32 ID: uEjYAad+pP
キルヒアイスの方が生きていて、旧ラインハルト軍団を束ねる立場に立った場合だと、ロイエンタールに謀反を起こす展開も割と自然になるな。「俺はキルヒアイスに忠誠を誓った覚えはないし、その筋もない」ってところだろうし。
あと、ラインハルトに代わる権威としてアンネローゼが擁立されることにはなるんだろうけど、そうなるとキルヒアイスとアンネローゼの関係性がかなりデリケートな問題になる。
下手すると、史実ルートよりも軍団運営が難しくなって、最終的には新帝国自体が瓦解しかねないな。ラグラングループ壊滅後のシリウスみたいに。
369 ななしのよっしん
2024/05/20(月) 23:03:54 ID: 2M6LYPpg1e
>>368
確かにロイエンタールにとっての主人はラインハルト一人だけだけどカストロプ動乱以降キルヒアイスの実力と人望を高く買ってたし少なくともミッターマイヤーは受け入れるだろうからあいつが受け入れるなら俺もって流れで割とあっさり従うんじゃないか?
キルヒアイスってヤン並かそれ以上に謀略や政略を嫌う潔癖症だからラインハルトの地位を引き継いだ場合オーベルシュタインやルビンスキー含めたフェザーンの役人、それとラングみたいな出世欲の強い連中からは反感を買うことになりそう
370 ななしのよっしん
2024/05/22(水) 19:30:48 ID: uEjYAad+pP
キルヒアイスって実戦部隊の将兵、それと内戦時に制圧した辺境星域の住民からの人望は厚そうだけど、帝国中枢部の富裕層とか官僚機構とか、そういう政治と経済に関わる一筋縄ではいかない面々からはどのくらい支持を得られるのか。
フジリュー版ではラインハルトを覇道、キルヒアイスを王道と分けていたけど、「生きて軍団を率いるキルヒアイス」はラインハルト以上に覇道というか武断主義を取らざるを得なくなっていくかも。
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最終更新:2025/01/23(木) 10:00
最終更新:2025/01/23(木) 10:00
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