本記事『日本のアニメ・漫画・ゲームが海外で政治運動に使われた事例の一覧』では日本のアニメ・漫画・ゲームなどのメディアミックスが海外のデモや政治運動で使われた事例をまとめる。
1979年
| 年/時期 | 国・地域 | 作品/媒体 | 使われ方 | 対象/テーマ | 一次/有力ソース |
|---|---|---|---|---|---|
| 1979/8 | フィリピン | 『ボルテスV』 | マルコス政権が放送を検閲停止。以後「検閲・独裁への抵抗」象徴として語られる。 | メディア検閲・反独裁 | Philstar Life(経緯) / Polygon(象徴化の解説)
|
1986年
| 年/時期 | 国・地域 | 作品/媒体 | 使われ方 | 対象/テーマ | 一次/有力ソース |
|---|---|---|---|---|---|
| 1986– | フィリピン | 『ボルテスV』(記号化) | 民主化以後も“反抑圧”の世代記憶として引用・回想が続き、抵抗のメタファーとして定着。 | 民主化運動の記憶 | Vera Files / Martial Law Chronicles
|
2011年
| 年/時期 | 国・地域 | 作品/媒体 | 使われ方 | 対象/テーマ | 一次/有力ソース |
|---|---|---|---|---|---|
| 2011 | チリ | 『ドラゴンボールZ』(元気玉) | 学生運動の集団演出として“エネルギーを集める”ポーズを採用。 | 教育無償化・反新自由主義 | 研究(2018)
|
2014年
| 年/時期 | 国・地域 | 作品/媒体 | 使われ方 | 対象/テーマ | 一次/有力ソース |
|---|---|---|---|---|---|
| 2014/5 | 香港 | 『進撃の巨人』 | 巨人=権力の比喩を用いた抗議ビジュアル(パロディ化) | 自治・民主化 | SoraNews24
|
2015年
| 年/時期 | 国・地域 | 作品/媒体 | 使われ方 | 対象/テーマ | 一次/有力ソース |
|---|---|---|---|---|---|
| 2015 夏 | 日本(東京) | ポップカルチャー風デザイン(SEALDs) | 英日併記のカラフルなプレート、キャッチーなタイポで可視化(国内) | 安保法制 | Japan Times /The Guardian
|
2016年
| 年/時期 | 国・地域 | 作品/媒体 | 使われ方 | 対象/テーマ | 一次/有力ソース |
|---|---|---|---|---|---|
| 2016/8 | ペルー(リマ) | 『美少女戦士セーラームーン』参照 | #NiUnaMenos のデモ文脈で少女ヒロイン図像を参照する視覚言語が用いられた旨、学術論考で言及あり | フェミニズム/反ジェンダー暴力 | The Guardian /NACLA 運動解説
|
2017年
| 年/時期 | 国・地域 | 作品/媒体 | 使われ方 | 対象/テーマ | 一次/有力ソース |
|---|---|---|---|---|---|
| 2017 通年 | (補助線:ラテン米/米国等) | 少女ヒロイン図像(例:セーラームーン等) | 女子のエンパワメントを示す漫画/アニメ図像が抗議プラカード群で参照される傾向あり(運動文化分析で言及) | 女性の権利運動 | International Journal of Communication 論文
|
2018年
| 年/時期 | 国・地域 | 作品/媒体 | 使われ方 | 対象/テーマ | 一次/有力ソース |
|---|---|---|---|---|---|
| 2018/6–8 | アルゼンチン | 『美少女戦士セーラームーン』参照 | 「緑の波」運動(中絶の権利運動)で、少女ヒロイン図像・オタク文化参照が一部ポスターに見られる旨の報道・記号論分析あり | 中絶権利/フェミニズム | El País 報道 /Encartes 記号論
|
2019年
| 年/時期 | 国・地域 | 作品/媒体 | 使われ方 | 対象/テーマ | 一次/有力ソース |
|---|---|---|---|---|---|
| 2019/10– | チリ | 『ポケモン』ピカチュウ(着ぐるみ) | 「Tía Pikachu」がデモのアイコンに→その後公職へ | 社会保障・憲法改正 | The Economist /Newsweek
|
| 2019 | 香港 | 『エヴァンゲリオン』風意匠 | ポスター・映像編集にエヴァ風タイポ・構図を引用 | 反送中/警察批判 | “Hong Kong’s Networked Agitprop” 記事 /KU AsiaDynamics「Visual Resistance」報告
|
| 2019/8 | 米国(フィラデルフィア) | 『NARUTO』(ナルト走り) | ICE抗議呼びかけに“Naruto Run”を拡張適用 | 移民政策・収容施設批判 | Philadelphia Inquirer
|
2020年
| 年/時期 | 国・地域 | 作品/媒体 | 使われ方 | 対象/テーマ | 一次/有力ソース |
|---|---|---|---|---|---|
| 2020/7–8 | タイ | 『とっとこハム太郎』(替え歌等) | 主題歌替え歌+“ランニング・ハム太郎”風演出で風刺・動員 | 政権批判・民主化 | Reuters
|
| 2020/4 | 香港 → 中国本土(流通) | 『Animal Crossing: New Horizons』 | ゲーム内抗議アート・仮想デモ拡散。直後、中国系ECで販売停止 | 民主化・表現統制 | The Guardian
|
2021年
| 年/時期 | 国・地域 | 作品/媒体 | 使われ方 | 対象/テーマ | 一次/有力ソース |
|---|---|---|---|---|---|
| 2021/6 | 英国(コーンウォール) | 『ポケモン』ピカチュウ(着ぐるみ) | G7サミットで「日本は石炭をやめよ」と仮装抗議 | 気候変動・エネルギー政策 | The Guardian
|
| 2021/11 | 英国(グラスゴー) | 『ポケモン』ピカチュウ(着ぐるみ) | COP26近辺で「日本の石炭支援に抗議」仮装出現 | 気候変動・エネルギー政策 | Reuters 写真特集
|
| 2021 | チリ | 『ポケモン』ピカチュウ(着ぐるみ) | 「Tía Pikachu」が象徴化→制憲議会議員当選 | 社会保障・憲法改正 | The Economist
|
2023年
| 年/時期 | 国・地域 | 作品/媒体 | 使われ方 | 対象/テーマ | 一次/有力ソース |
|---|---|---|---|---|---|
| 2023– | フィリピン | 『ボルテスV』(アート/選挙) | 反抑圧を主題化した美術作品や選挙期の動員記号として再解釈・再利用。 | 表現の自由・市民参加 | Imao作品の解説 / 研究(2023)
|
2024年
| 年/時期 | 国・地域 | 作品/媒体 | 使われ方 | 対象/テーマ | 一次/有力ソース |
|---|---|---|---|---|---|
| 2024/12 | 韓国 | 『アイドルマスター シンデレラガールズ』佐藤心の旗 | 戒厳令騒動で混乱する国会議事堂の前に集まった市民らの中の一人により、佐藤心の画像が載った大きな旗が振られた。その文脈は右の解説を参照。 | 戒厳令批判・市民参加 | Togetterでのまとめ/解説
|
2025年
| 年/時期 | 国・地域 | 作品/媒体 | 使われ方 | 対象/テーマ | 一次/有力ソース |
|---|---|---|---|---|---|
| 2025/8– | インドネシア | 『ONE PIECE』(麦わら海賊旗) | 若者抗議で旗掲出・SNS拡散。報道で象徴性を論じられる。 | 汚職・不平等 | KPBS 解説記事
|
| 2025/9– | ネパール | 『ONE PIECE』(麦わら海賊旗) | SNS遮断・汚職批判のデモで旗掲出。 | 汚職・表現規制 | Yahoo News 解説
|
| 2025/9– | フランス | 『ONE PIECE』(麦わら海賊旗) | パリ・他都市で掲出、アジア発の旗拡散文脈を論じた報道あり。 | 生活・雇用・汚職 等 | Le Monde 記事 /The Guardian 総括
|
| 2025 通年 | (総覧) | 『ONE PIECE』旗(総括) | 若者デモの“汎用象徴”として国際拡散。ネパール・インドネシア・フランス等事例を取りまとめ。後述の比較参照。 | 汚職・表現規制・社会改革 | KPBS 解説 /ABS-CBN 解説
|
備考
- 『ONE PIECE』旗は2025年のZ世代主導デモで複数国に拡散。象徴は「自由」「抵抗」「仲間意識」を意味するとして受容され、Le Monde・The Guardian・Newsweek・FRANCE 24・KPBS など各国メディアが解説した。
- 『あつまれ どうぶつの森』は香港での抗議利用が報じられた直後に中国本土系ECサイトで販売停止措置を受け、以後は「政治的利用」への検閲事例として言及される。
- 2014年の香港『進撃の巨人』引用は、以後のアジア圏デモで日本アニメを比喩的に用いる流れの先駆とされる。
- なぜ日本の石炭火力への抗議に「ピカチュウ」が使われたか:
ピカチュウは日本文化を最も即座に想起させるキャラクターであり、G7やCOPといった国際イベントで「日本政府=石炭推進国」という構図を可視化する目的で採用された。
- 2021年6月の G7コーンウォールでは、ピカチュウ姿の抗議者が「日本は2030年までに石炭をやめよ」と記したプラカードを掲げた。
- 同年11月の COP26 グラスゴーでも「日本の石炭資金支援反対」を掲げたピカチュウの仮装が登場。
(出典:The Guardian・Reuters・BBC・COP26現地報道) - なぜ『美少女戦士セーラームーン』がラテンアメリカのフェミニズム運動で使われたか:
1990年代から2000年代にかけて放送された日本アニメはラテンアメリカ全域で再放送を重ね、少女の自立・友情・正義感を描くセーラームーンは若年女性層の間で広く共有された文化記号となった。
- 2016年のペルー #NiUnaMenos(女性殺害反対運動)では、「少女ヒロインの力」を象徴するアイコンとしてセーラームーンを模したプラカードや絵柄がSNS上で拡散。
- 2018年のアルゼンチン「緑の波」運動では、中絶の自由を訴える緑スカーフと共に、セーラームーンや魔法少女風イラストがフェミニズムの“希望と連帯”の象徴として一部採用された。
(出典:El País・Encartes・LSE Gender・International Journal of Communication) - Pepe the Frog は一度極右的文脈で利用された後、香港デモで「自由の象徴」として再解釈されるという稀有な再文脈化を経た。作者 Matt Furie 自身はこの「乗っ取られと奪還」の過程を『Feels Good Man』(2020)で総括している。
比較:他国のメディアミックスの事例
| 作品/媒体 | 使われ方 | 国・地域 | 参考 |
|---|---|---|---|
| Pepe the Frog(コミック/ミーム) | 無害キャラ→右翼ミーム化→香港デモ図像として再解釈。後述の "Pepe the Frog の変遷" も参照。 | 米国・香港ほか | WIRED /TIME
|
| Guy Fawkes マスク(『V for Vendetta』) | 反体制運動の汎用象徴(Anonymous, Occupy 等)として広汎に使用。 | 各国 | TIME
|
| 『ハンドメイズ・テイル』の赤い外套 | リプロ権運動・女性権利デモで衣装による可視化象徴。 | 米国・アルゼンチンほか | The Guardian
|
| Winnie the Pooh(くまのプーさん) | 対中風刺文脈で検閲対象・抗議比喩。 (ミッキー・プー混交風刺も含む) |
中国・香港ほか | The Guardian
|
| 『ペーパー・ハウス』ダリ仮面 | 仮装・抗議衣装・歌(Bella Ciao)併用でレジスタンス象徴。 | レバノン・イラク・フランス 等 | 研究(2024)
|
| K-POPファンダム(BTS ARMY 等) | オンライン動員、寄付マッチ、可視化支援などで社会運動を後押し。 | グローバル | Teen Vogue
|
Pepe the Frog の変遷と象徴性 ― 作者と象徴の衝突
Pepe the Frog は、2005年に Matt Furie によるコミック『Boy’s Club』で登場したカエルキャラクター。ゆるいトーンの表情と「Feels Good Man」などのセリフで親しまれていた。
右翼ミームへの転用
2010年代中期、4chan 等インターネット掲示板でバリエーション化された後、オルトライト勢力が政治ミームとして活用。2016年には ADL(反名誉毀損同盟)が「ヘイト・シンボル」として扱いを開始した。
作者による“殺害”宣言と奪還試み
2017年、Furie は短編を通じて Pepe の“死”を宣言(“棺に納める”表現)。著作権訴訟やドキュメンタリー『Feels Good Man』(2020年公開)を通じて、ミーム化された象徴を取り戻す試みを行った。
香港デモでの再文脈化
香港の反送中デモ等で、笑顔の Pepe が「自由」「抵抗」の象徴としてポスター・ステッカーに採用されたという報道と文化分析が存在する。
日本での議論:「ずんだもんが Pepe 化する可能性」等
日本では、無害キャラクターが政治ミームに転用されるリスク性を「Pepe 化」という語で論じる論考が散見される。
同様の「作者 vs 象徴」事例
| 作品/キャラクター | 衝突または再利用内容 | 参考 |
|---|---|---|
| Kekistan 旗(Pepe 関連) | 4chan 発パロディ国家ミーム。ナチ風旗として右翼集会で使われ、Pepe の右翼的象徴性を拡張。 | The Guardian
|
| ハローキティ / パックマン 等 | 風刺アート・監視社会批判で断片的に参照。「かわいい文化」が異なる文脈で借用される例。 | 展覧会評・報道(概括) |
| NFT キャラ(BAYC 等) | 投資/資本主義象徴として揶揄され、作者や権利者とファン層との間で論争を生む。 | The Verge
|
未確認:淫夢ミームの海外拡散と政治利用の有無
『真夏の夜の淫夢』由来ミームは、中国・韓国・台湾のネット文化で流通していると言われる。ただし、デモ現場などでの象徴化使用は確認できていない。
| 項目 | 要点 | 参考 |
|---|---|---|
| 中国での拡散 | Bilibili 等で淫夢語録/MAD が流通。 | Wikipedia
|
| 「野獣先輩=習近平」説 | ニコ動ミーム由来。政治利用の証拠は未確認。 | (ネット言及例) |
日本国内の事例(参考)
本記事は主に海外利用事例を扱うが、比較用として国内の用例も挙げる。
| 年 | 作品/媒体 | 使われ方 | 参考 |
|---|---|---|---|
| 2012 | Guy Fawkes マスク(比較象徴) | Anonymous 仮面を使った抗議アクション(著作権・ネット政策文脈) | Tokyo Weekender
|
| 2015 | ポップカルチャー風ボード(SEALDs) | 雑誌風タイポ・英日併記デザインを多用した抗議表示 | Japan Times
|
| 2020 | 『AKIRA』(「中止だ中止」風表現) | 五輪是非議論でネット上の抗議スローガンとして引用 | Japan Times
|
関連項目
親記事
子記事
- なし
兄弟記事
- 4
- 0pt
- ページ番号: 5726294
- リビジョン番号: 3408111
- 編集内容についての説明/コメント:
記事作成乙です。「2024年」の節を新設し、韓国の戒厳令騒動におけるキャラクター旗の事例を記載しました。


