本記事における西洋はヨーロッパだけでなく西アジアや北アフリカの一部も含む。
概要
西洋刀剣と言っても時代や地域や種類によって大きく異なるのでこのように一まとめにすることはできないが、大雑把に解説する。
前提として、刀は斬擊主体の刃先が刀身の片側のみにある物であり、剣は諸刃で左右対称のものである。それらをひっくるめて刀剣とする場合もある。
(本記事ではそれに従い、西洋刀は前者、西洋剣を後者とし刀剣とした場合は両者を指す)
鋳造との相性が悪いため、(鋼鉄製か鉄製である限り)もっぱら鍛造で作られる。また個体差はあるが、鍔元には刃先を付けないリカッソとよばれる部分がある。
ファルシオンやハンガーなど一部の西洋刀剣は現代では刀剣に分類されるが、当時のヨーロッパ基準ではナイフや鉈に分類されるものもある。
青銅器時代~鉄器時代初め頃
西洋刀剣の歴史は青銅器が開発されたときに作られた銅剣まで遡れるが、銅製刀剣は製鉄技術がヨーロッパに伝わるとすぐに鉄剣に駆逐された。鉄製刀剣のほうが基本的には優れているからである。あたりまえだが銅剣といっても純銅ではなく錫が混ざっている。どうのつるぎではない。
この青銅器時代の剣はギリシャ地域のサイフォスがあり、槍の予備武器であった(当然、エジプトなど他の地域にも剣はあったが特に名前はない)。刀はコピスやハルパーのような鎌状のもの、ククリナイフに似たマカエラ等があり、エジプトやアッシリアにはシックルソード或いは斧刀とも呼ばれる、歪なS字型の曲刀ケペシュなどがあった。
古代ローマ・ギリシャの頃
ローマ帝国期にはグラディウスと言われる剣が用いられた。これは短めの諸刃の剣で、ラテン語で刀剣という意味。ローマ兵の装備として有名であるが、領土の拡大し始めた頃は長いタイプのグラディウスを用いた。この時は古代ギリシャ方式の密集した長槍部隊を中核とし、これを騎兵や軽装の投射兵が支援するという戦法を採っており、グラディウス(刀剣)はあくまで槍の予備だった。
しかし、ローマ周辺の地形は山がちであり、この戦法では機動性が不足していたため、敵対していた山岳民族が得意とするゲリラ戦に、散々に敗れることになる。これ以降はギリシャ方式の戦法を脱却し、投げ槍と短めのグラディウスで武装した散開兵を中核とした戦法に転換した。大まかな基本戦術としては、敵との衝突前に投げ槍を投げ敵を混乱させてからグラディウスによる乱戦を仕掛けるといった感じの物である。(なお、グラディウスは同時代の刀剣と比較して切れ味が良く、死体の首や手を切り落としそれを見た敵が戦意を喪失したという逸話がある程である。ただし、ローマ兵達は突きを重視した。)ローマ軍は欧州で最も早く剣術を戦術に取り入れたともいわれる。もちろん、あらゆる状況に対応する為に騎兵隊もいたし投げ槍以外の投射武器を持った部隊、長槍部隊もいた。
これ以外には、騎兵用の長めの剣スパタやククリナイフに似た曲刀ファルカタ、ローマと敵対したトラキア人が使ったファルクス(逆刃刀のような湾刀)などが存在した。
この時代の西洋刀剣は金槌でこねた鉄塊を 刀剣の形に叩き伸ばして作られる場合と模様鍛接とよばれる数本の柔らかい鉄の紐と表面を硬化させた鉄の紐を熱しながらねじり合わせて一体化させる工法もあり(大抵は)グラディウスは後者であるようだ。この模様鍛接は中世でも高級な刀剣の製造方法に用いられた。
中世初期(暗黒時代)~
中世(6~7世紀)頃、今日我々が思い浮かべるような剣が登場する。所謂ソードである。どうしてもわからないという人はマスターソードやギルガルドを思い浮かべて欲しい。西洋の代表的な刀剣は真っ直ぐで諸刃であることが多い。これはキリスト教の十字架に似せた形に作られたからであり、この時代の剣はアーミング・ソードまたは、ナイトリー・ソードと呼称される。
刀もあるにはあったが、正式な刀剣であるとは見られず、大鉈や大型ナイフに分類される傾向が強かった。
この頃は暗黒時代ともいわれる時代であり、ローマ帝国時代の武具量産体制が失われ、冶金技術が未発達で丈夫にするには太くする必要があることなどから、比較的幅の広い剣が使われており、打撃武器としての面もあったが可能な限り、盾や甲冑に守られていない部分を狙って斬りつける事が推奨されたといわれる。
ただし、アーミング・ソードを所持・携帯出来たのは、長らく一握りの社会的地位と富のある者のみであり、特権階級のシンボルだった。また、防御面においても鎖帷子等の金属製防具を身に付けられたのも 富裕層だけである。現代ではこの時代の正式な刀剣を
多くの一般兵士は長い期間、スクラマサクス(或いは発展型のフォールション)と呼ばれる包丁や剣鉈を長大化したような片刃の直刀を用いた。これらは日用品としても活用した。彼らの防具は専ら革製防具が身に付けられるのは良い方だった。いずれにせよ木製の盾だけは貧富差関係なしに身に付けられやすかった。
この時代では、ごく少数の富裕層からなる重装騎兵(騎士)を大多数の一般兵士たる軽装歩兵がコレを支援するという戦法を採った。この戦法は中世の後半に傭兵が台頭するまで使用された。重装騎兵の場合、剣は最初に使わず槍で突撃した後の乱戦や追撃で剣を用いた。(当初はこん棒の類いや斧は卑賤な武器とされていたため重装騎兵は使わなかった。)
歩兵用をショートソード、騎兵(騎士)用をロングソードと呼ぶ説と単に長さで呼び方をかえているという説があるが、実際の中世ヨーロッパにはそのような区分はなく、19世紀のイギリスの学者たちの推測でつくられたものというのが有力である。また騎兵用だから長く、歩兵だから短いというのも彼らの推測である。
短剣・短刀は弱った相手に止めをさすため用いられたダガーが有名だが、現代におけるイメージと違い、刀剣の代用としての面もあったため、刃渡りは40cm前後に及ぶものが多かったとされる。またこれらの短剣・短刀は平時の暗殺や、暗殺や強盗に対する護身にも活用された。
少なくとも中世ヨーロッパでは日本でいうところの居合のような技術は普及せず、そのような技法が必要な場面では短剣・短刀を用いたという。
中世後期~近世
中世後期には冶金技術の向上により、特に騎士向けの剣は少し細長くなり、コレまで斬擊主体だった用法から突きを重視した高度化した剣術と呼べるような技法があらわれ出す。また、バスタードソードとかツーハンデッドソードと言われるものに派生していく。前者は、一般的には両手でも片手でも使える長剣とされ、狭義のロングソードである説とあくまでロングソードのバリエーションの1つであると言う説がある。後者は比較的大きな両手で扱う刀剣であり、両刃の長剣だけで無く片刃のタイプ(グロスメッサーなど)や小型のタイプ(クレイモア)などのバリエーションがある。
このツーハンデッドソードの類いは長柄武器と刀剣の中間のような武器であり扱いには技術よりも体力が要求された。このような刀剣は騎士や傭兵が用いた。特に有名なのはドイツ人傭兵部隊のランツクネヒトが用いたツヴァイヘンダーであり、敵の長槍部隊の槍を切り払い、戦列を切り崩すことで味方の(同じランツクネヒト所属の)長槍部隊の血路を切り開く運用がなされた。また、ツヴァイへンダーを扱うランツクネヒトは倍給兵とも呼ばれ、給料や士気、死傷率が高かった。この他、長槍部隊も乱戦に備えて最前列から数例までの兵士はカッツバルゲルとよばれる歩兵用の直剣を携帯した。この時代から戦場の脇役でしかなかった傭兵や農民兵士が幅をきかすようになり、逆に主役だった騎士達はその座から衰退していく。この他、戦場以外で決闘する為、レイピアも15世紀ごろあらわれる。
(鎧も発展し最終的にはプレートアーマーが出現し盾が廃れる。また一般兵士にも胴鎧などの金属製防具が普及するも、全身を金属製防具で覆えたのは一握りの兵士だけである。ほぼ同時期に銃器が出現したため鎧は指揮官用等を除き徐々に簡略化していく。)
余談だが日本にも西洋剣のように諸刃の剣が使われた時代があったが、日本では大陸の影響から早くから姿を消した。稲荷山古墳出土鉄剣は諸刃である。その後も神社の神器には両刃の剣もあったり、密教などで使われたりはしたが。
鎧が完全に廃れると、西ヨーロッパでも徐々に刀が主流になっていく。三銃士とか怪傑ゾロで出てくるようなのである。サーベルやバックソード、レイピアなどが有名。フェンシングやシングルスティックはこれらを想定している。ただし、このうちサーベルは鎧が衰退する以前から欧州の東部で用いられている。
その他
よく西洋刀剣は片手で扱い、斬れないので突きが主体の剣術だといわれるが、両手で扱う剣、剣術も存在し、斬り技もある。特に比較的新しい時代のサーベルなどは斬れる。余談だが日本でも武士階級が現れる以前の上古刀は片手で扱われ、剣術も突きが主体だったのではないかといわれている。(ただし上古刀の原型になった大陸由来の直刀は切りつけを重視した物である。)もののふとか杖刀人と呼ばれた人々や防人の剣術は短剣道やスポーツチャンバラのように戦うものだったのかもしれない。(わからないし確かめようもないが)
剣術についてもおそらく銅剣が現れたころからなんらかの剣術はあったであろうし、ローマ兵の剣術や剣闘士の武術もあったことは確かだが、どのようなものだったかはよくはわからない。現在も考古学の対象である。しかし中世以降は武術書などが残っている為、中世、近世の剣術は復元されているものもある。これらの子孫であるフェンシングも長い歴史を持つ武術である。もちろん文献に残ることなく消えていった剣術もあるのだろう。
美術刀剣を日本刀に限定した規則を合法にした判例があるように、美術性は認められず、性能も日本刀より劣るとされるが、一定数愛好者はいるようである。また西洋剣をモチーフにしたキャラがいたり、ゲームに登場することも多い。
ただ、前述の通り現在本物の西洋刀剣を所持することはできない。おもちゃや模擬刀ならよいが。
種類等 (ニコニコ大百科に記事のないもの)
- カッツバルゲル(乱戦用の直剣)
- カトラス(18世紀の船乗りの曲刀。鉈に近い)
- グラディウス(本文参照)
- シカ(剣闘士が用いた長めの短刀)
- ツーハンデット・ソード(両手持ちの剣。ダイゴロン刀みたいなやつでこれは盾とは使えない)
- ファルカタ(グラディウスの一種。片刃で刃側に反っている。別名イベリアン・グラディウス)
- ファルクス(逆刃刀や鎌のような刀。両手持ち刀剣)
- フランベルジュ(蛇行剣。斬られると傷が治りにくい)
- マカエラ(ギリシャの青銅製の刀。両手でも片手でも使える)
関連項目
記事のある西洋刀剣の一覧
- アーミングソード
- ヴィーキング・ソード
- エクスキューショナーズソード
- クレイモア
- グレートソード
- サーベル
- ショートソード
- スクラマサクス
- ツヴァイヘンダー
- バスタード・ソード
- バックソード
- ファルシオン
- ブロードソード
- レイピア
- ロングソード
子記事
兄弟記事
- なし
- 2
- 0pt