東日本大震災で被災しながらもGIを制覇した根性馬であり、「淀の芝なら距離不問」と称された京都競馬場巧者。
主な勝ち鞍
2011年:きさらぎ賞(GIII)
2013年:マイルチャンピオンシップ(GI)、京都記念(GII)
概要
父:ディープインパクト
母:*プリンセスオリビア
母父:Lycius(リシウス)
2008年4月21日生まれ。
父は言わずとしれた無敗の三冠馬にして歴史的大種牡馬ディープインパクトで、本馬はその初年度産駒に当たる。
母プリンセスオリビアは米国産馬で競走馬としての実績はないが繁殖では2番仔として2005年の米GⅠトラヴァーズSを勝ったFlower Alley[1](父:Distorted Humor)を出しており、おそらくこの勝利の前に社台ファームに売却されて来日。その後2007年に日本で最初に産んだブルーミングアレー(父:シンボリクリスエス)は繁殖牝馬として重賞馬を出し[2]、その翌年に生まれた本馬と更に翌年に生まれたスピルバーグの全兄弟は共にGⅠ馬となっている。なお以降は不受胎や死産が多く日本での産駒はこの3頭のみであった。
母の父Lyciusはイギリスの2歳スプリントG1:ミドルパークSの勝ち馬で3歳時もマイルG1で好走を続けたが種牡馬として大きな実績はなく、母父としてもプリンセスオリビアの産駒以外では仏オークスとムーラン・ド・ロンシャン賞を勝ったNebraska TornadeとゲイムリーSを勝った*シャイニングエナジー[3]が主な実績。
生産は社台ファーム、栗東・藤原英昭厩舎所属。
オーナーは名前のトーセン冠名でわかるように島川隆哉氏で、ラーはエジプト神話の「太陽神」のことである。
本馬を語る上で欠かせない要素として京都競馬場のレースに非常に強い京都巧者ということがあり、全体成績25戦4勝[4-5-6-10]のうち4勝全てが京都競馬場で12戦して[4-2-4-2]。馬券外の2つも4着なので5着以下になったことがなく、春に3200mの天皇賞で2着して秋に1600mのマイルCSで1着という年もあり京都競馬場であれば距離すらも関係なく好走した。
ちなみに全弟のスピルバーグは天皇賞(秋)を勝った府中巧者であり兄弟とも特定の競馬場に強いという特徴を持っていた。
現役時代
デビュー勝ちと条件戦での苦戦
2歳時の2010年11月にこれから栄光を重ねていくコースである京都競馬場の1800m戦でデビュー。鞍上に父の主戦でもあった武豊を迎えて1人気で出走した。スタートから中団外辺りに付けると、コーナー前で3番手まで位置を上げ坂の下りで仕掛け始めるも中々前をかわせず後ろからも並びかけられ苦しいかと思われたが、直線半ばでエンジンがかかるとしっかりと伸びてゴール前で差し切りクビ差でデビュー勝ちを飾る。
次走距離延長して出走した阪神2000mのエリカ賞では内に包まれて進路を取ることができず3着に敗れ、2011年に明けて距離を同じくして京都に戻った福寿草特別に出ると中団に控えてコーナーからいい手応えで進出し直線で一時は先頭に立つ勢いだったが内外の馬に挟まれて競り負けてここも3着とクラシックに向けての賞金を詰めずにいた。
重賞初制覇、被災を乗り越えクラシックへ
またも1ヶ月間隔での出走が続くが次は新馬戦と同じ京都1800mのきさらぎ賞(GⅢ)で重賞初挑戦となり、武豊が騎乗停止になっていたこともあり鞍上にはM.デムーロを迎えた。レースが始まるとスタート直後は後方に控えたが、前の隊列は逃げるリキサンマックスから六、七馬身離れてメイショウナルトが1頭続きそこから更に五馬身ほど空いて後続集団が続く形となった。しかし先頭の1000m通過は1分ちょうどぐらいと前がそのまま残ってしまうようなペースであり、それを見越してかトーセンラーは3コーナー前からまくりを開始して坂の頂上では5番手まで位置を上げる。直線に入っても依然先頭までは大きな差がありレースを見ていた藤原師も「これは2着まででまた負ける」と思っていたそうだが、ここからトーセンラーは目を見張るような末脚を発揮して猛然と前を追い、残り50mほどで二番手のメイショウナルトをかわすとそのままゴール直前でリキサンマックスをも捉えきりクビ差で勝利して重賞初制覇を達成した。
なおこのレースでは進出が遅れて上がり最速を出すもリキサンマックスに届かなかったオルフェーヴルが3着に入っており、後の三冠馬(と後ろにいつもいるウインバリアシオン)に勝っていたのだった。
そしてきさらぎ賞から約1ヶ月後の3月11日、東日本大震災が発生する。
この時トーセンラーは、宮城県亘理郡山元町にある山元トレーニングセンターにいた。

山元トレセンは海から約2kmほどの所にあり距離的には津波がかかってもおかしくなかったが、やや高台にあったために津波の被害は回避できた。とはいえ、道路が寸断され栗東トレセンへの帰厩が大幅に遅れるなどクラシック前に大きな影響を受けてしまう。
かくして大震災の被災馬としてクラシックの制覇が望まれたがオルフェーヴル世代である上にこの状態では厳しいものがあり、蛯名正義を鞍上に挑んだ春クラシックでは東京競馬場で行われた皐月賞で7着ダービーでは11着と好走することは叶わなかった。
秋はセントライト記念から復帰。中団の内に構えてきさらぎ賞のような隊列になったが今度は前がハイペースであり、トーセンラーは直線で内に進路を見つけて伸びたが外のフェイトフルウォーに脚色で負け2着。
迎えたクラシック最終戦菊花賞ではきさらぎ賞と同じ京都ということもあってか、オルフェーヴルとウインバリアシオンに次ぐ3人気に推される。レースが始まると最内枠から中団後ろ目に控えてオルフェーヴルを前に見ながら進んでいき、3コーナー辺りでオルフェーヴルが仕掛けるとそれを追って上がっていくが悠々と突き抜けていくオルフェーヴルに追いすがることはできず、なんとか先行馬を捉えたところで力尽き後ろから追い込んで来たウインバリアシオンにかわされて3着に終わった。
古馬、苦難を経て約束の地でGⅠ戴冠
2012年(4歳時)は京都記念から始動して中団から運ぶも早め先頭のトレイルブレイザーとの差が詰まらず4着。その後も日経賞で10着、新潟大賞典で11着と連続で大敗。夏競馬に入ると調子が上向いたか鳴尾記念で先行して直線手応え悪く3着、七夕賞は後方待機で直線外からいい脚で伸びて前を飲み込むも僅かに届かず2着、小倉記念は中団から直線で抜け出しに手間取って離された2着と好走したが勝ちきれない。次走の新潟記念では使い詰めの影響か7着に敗れ、レース後に放牧に出されてこの年を終えた。
2013年(5歳時)は前年同様京都記念(GⅡ)から始動し鞍上は福寿草以来2年ぶりに武豊が務めることとなった。大外枠からスタートし中団の外目を追走、4コーナーで先行馬の仕掛けに手応えよくついていくと直線では大外一気できさらぎ賞の時のような素晴らしい末脚を繰り出して前を捉え、そのまま上がり最速で2着に1馬身半差を付けて快勝。ちょうど2年ぶりとなる勝利をあの時と同じ京都競馬場で手にした。
これまではほぼ中距離レースを走ってきたトーセンラーだが、菊花賞でも好走した京都巧者ぶりを見込んでか次走は長距離路線の最高峰である天皇賞(春)に決まる。淀の長距離に強い武豊との京都巧者コンビということもあって3番人気となり、レースでは前がハイペースで飛ばす中で中団に控える。坂の頂上辺りで後方からまくってきたゴールドシップに外から並びかけられたがトーセンラーも仕掛け始めるとこれに抜かされることなく逆に進出を開始、一時は先頭を伺う勢いであったが前にいたフェノーメノがスパートをかけると差が縮まらず1と1/4馬身差の2着に敗れた。とはいえ中距離と見られていた馬が春の天皇賞で2着と大健闘し、その京都巧者ぶりを遺憾無く見せつける結果となった。
宝塚記念で中団から追い込むも伸びを欠いて5着の後は夏を越して秋も淀の京都大賞典から始動。武騎手がキズナとのコンビで凱旋門賞に挑んでいたため鞍上は幸英明となった。レースでは序盤後方につけて3コーナー前に位置を上げていき坂の下りで外から先団に取り付くいい手応えを見せたが、仕掛けが早すぎたか直線入口でゴールドシップと接触したせいか伸びきれず後ろから来た2頭にかわされて3着。
次走は普通に天皇賞(秋)・・・ではなくここも京都のマイルチャンピオンシップに決定した。
そして迎えた11月のマイルチャンピオンシップ(GⅠ)。ここまで中距離を主戦場にしていてマイル初挑戦、春は倍の距離3200mの天皇賞で2着、前走も2400mと不安要素もあったが京都競馬場での強さを買われてか、並み居る短距離馬たちを差し置いて2番人気に推される。レースでは後方待機を選択するとそのまま直線入口では後ろから5番目で馬群の中という絶望的な位置にいたが、前の馬群が内に殺到したところで外に持ち出して追い出し始めると外からものすごい末脚を繰り出して他馬をごぼう抜き、最終的に2着に1馬身差をつけて優勝し悲願のGⅠ勝利を遂げた。ここでも思い出すのはやはりきさらぎ賞の時に見せた鬼脚であり、トーセンラーは正しく「淀の鬼」だということを完全に証明した。
またこの優勝で武豊騎手はGI通算100勝目を達成、大怪我で成績を落とす原因になった落馬事故の際と同じ藤原厩舎所属の馬によるGⅠ勝利で復活ぶりを一層印象付けた。
2014年(6歳時)もおなじみ京都記念から始動し中団からコーナーで上がって直線伸びるもスローペースから逃げ馬に粘り切られて2着、久しぶりに関東に遠征した安田記念では直線失速し14着、ホームの淀に戻って京都大賞典では中団の内からコーナーで馬群に中にいて立ち遅れ直線前が空いて追い込むも先行から抜け出した前に届かず3着、連覇がかかるマイルチャンピオンシップではハイペースを後方待機し直線で前年より外に出すのに手間取り上がり最速は記録したが前に届くほどは伸びきれない4着と勝ちきれないものの京都での好走は続けた。その後は引退レースとして有馬記念に出走、スローの中を先行したが内に包まれて伸びきれず8着となり現役生活に終止符を打った。
種牡馬時代
引退後はレックススタッドで種牡馬入りし、初年度は種付け料70万円で64頭と交配。以降は2年おきにブリーダーズ・スタリオン・ステーションとの間で国内シャトルする形で種牡馬をしており50頭前後に種付けする年が続いた。
2018年に産駒がデビューすると初年度産駒から2021年にザダルがエプソムカップを勝利して産駒重賞初勝利。その後も数年おきにだが重賞馬を出している。
2021年からは種付け頭数が減少していって2023年は8頭と一桁になっており、2024年からは現役時代のオーナーの所有牧場であるエスティファームに移動している。
主な産駒
- ザダル (2016年産 牡 母 *シーザシー 母父 Lemon Drop Kid)
- ドロップオブライト (2019年産 牝 母 プレシャスドロップ 母父 *フレンチデピュティ)
- キャンディード (2023年産 牡 母 *ストロボフラッシュ 母父 Speightstown)
血統表
| ディープインパクト 2002 鹿毛 |
*サンデーサイレンス 1986 青鹿毛 |
Halo | Hail to Reason |
| Cosmah | |||
| Wishing Well | Understanding | ||
| Mountain Flower | |||
| *ウインドインハーヘア 1991 鹿毛 |
Alzao | Lyphard | |
| Lady Rebecca | |||
| Burghclere | Busted | ||
| Highclere | |||
| *プリンセスオリビア 1995 栗毛 FNo.17-b |
Lycius 1988 栗毛 |
Mr. Prospector | Raise a Native |
| Gold Digger | |||
| Lypatia | Lyphard | ||
| Hypatia | |||
| Dance Image 1990 鹿毛 |
Sadler's Wells | Northern Dancer | |
| Fairy Bridge | |||
| Diamond Spring | Vaguely Noble | ||
| Dumfries | |||
| 競走馬の4代血統表 | |||
クロス:Lyphard 4×4(12.50%)、Northern Dancer 4×5×5(12.50%)、Goofed 5×5×5(9.38%)
半兄にトラヴァーズステークス優勝馬のFlower Alley、全弟に天皇賞(秋)優勝馬のスピルバーグがいる。
関連動画
関連項目
脚注
- *トラヴァーズSを含めて重賞4勝。種牡馬入り後はケンタッキーダービーとプリークネスSを勝利して引退後日本で種牡馬生活を送っている米二冠馬*アイルハヴアナザー(I'll Have Another)を出している。
- *2021年の中山牝馬Sを勝ったランブリングアレー(父:ディープインパクト)を産んでいる。
- *繁殖牝馬として日本に導入されており、新馬戦でミッキーアイルに勝利しデイリー杯2歳S2着朝日杯FS5着のアトムなどを産んだ。
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