藤原拓海(ふじわら たくみ)とは、漫画・アニメ・映画作品『頭文字D』の登場人物である。
声:三木眞一郎(『頭文字D』TVアニメ版)、宮野真守(新劇場版)、野島健児(香港実写映画版、演:ジェイ・チョウの吹き替え)
『頭文字D』での藤原拓海
頭文字Dの主人公。実家は藤原とうふ店。父親は藤原文太。プロジェクトDではダウンヒル担当。
普段はクール…というよりはボーッとした性格で、いつも眠そうな顔をしているが、実は公道レースのダウンヒルのスペシャリストで、中学生の頃から無免で家の店の手伝いで秋名山のふもとにあるホテルに豆腐を配達しており、店の配達用の車であるパンダカラーで「藤原とうふ店(自家用)」のAE86トレノの使い手。そして、実は親父譲りの負けず嫌いであり、理不尽な出来事に対しては手がつけられないレベルの怒りを発することもある。
当初は走り屋やレーシングバトルに興味が無かった拓海であったが、友人の武内樹や周りの人の触発や、バトルを重ねていくうちに公道レースにハマっていくことになる。ついには「頂点に立つドライバーになる」ことを夢見て、高橋涼介のプロジェクトDに参加する。その頃にはすっかり自動車の知識やノウハウも充実し、樹たちの目を丸くさせたほどである。
秋名のダウンヒルでは天才的とも言えるほどのスピードで駆け下り、相手を圧倒し、コーナーの溝に車輪を落として遠心力を抑止する「溝落とし」や、ヘッドライトを消して対戦相手の不意をつく「ブラインドアタック」と言った誰もが思いつきそうにない技を色々編み出している。
しかし父親である文太は拓海以上にドライビングテクニックを熟知しており、拓海は苦手としている。劇中では高橋啓介を始めとして様々なライバルも現れ、拓海のこれからの成長にますます期待がかかる。高橋啓介とのライバル同士の決着は結局なあなあで終わるのだが。
恋愛面では、同級生の茂木なつき(声:川澄綾子、「新劇場版」内田真礼)と仲を深めるが、いろいろあって最終的に結ばれることはなかった。後に新たな恋人として高校生ゴルファーの上原美佳(声:早見沙織)が登場したが、アスリートとして自立した彼女はこれといったロマンスシーンが無く、ヒロイン感が薄い存在だった。表紙を飾ったり水着姿を披露したりと読者サービスのアピールはあったんだが…。
人物
- 年齢:18歳(初登場時)
- 身長・体重:174cm58kg
- 好きなもの:新緑の季節、ハチロクのおしり、昼寝
- 嫌いなもの:遊んでいる女の子、いばっている奴、負けること
- 得意技:溝落とし、ブラインドアタック
第一部では高校三年生。高校時代は親友である武内樹と共に父の友人である立花祐一が経営するガソリンスタンドでアルバイトをしていた。第二部プロジェクトD編では、高校を卒業し地元の運送会社で働く社会人になっている。
運転免許を所持していない13歳の中学生の頃から、文太に無免許運転での豆腐の配達を命じられて秋名山を走り込み、同年代のライバルより運転歴も長い。ただ、物語序盤はクルマに対する愛着を持っておらず、「走ることは顔を洗うのと同じ日常」という認識だった。ハチロクについても「商売で使っている古いトヨタのクルマ」という認識しかなく、配達がかったるいから早く終わらせたいという理由で車を速く走らせていた。助手席に乗った池谷が失神したときも、コーナーを攻めている拓海はやる気なくかったるそうに運転していた。
普段はおとなしく、ボーっとした性格で周囲からは天然ボケと評されているが、威張っている奴や仲間を罵倒されたときにはキレて攻撃的になる激情家な一面もあり、サッカー部在籍時には茂木なつきの悪評を風潮していた先輩(御木)を殴って退部となった経緯がある。また、父・文太譲りの一度決めたことは曲げない頑固者で負けず嫌いな一面もあり、本気で怒らせると怖いタイプである。もっともこの怖い一面を知っているのは文太やイツキ、池谷、健二といった近い関係者のみである。
元々走り屋として腕を磨いてきたわけではなかったために、当初は走り屋としてのプライドやモチベーションや知識に乏しく、最初の頃はバトルに参加することを嫌がり、イツキや池谷を困らせていた。しかし、強敵とのバトルを重ねていき、高橋涼介と秋名山で戦って以降はもっと速く走れるようになりたいというモチベーションが強くなり、ハチロクに対する愛着も深めている。また高校卒業時には、なつきに対して「プロのドライバーになりたい」という夢を打ち明けている。
ルックスは高橋兄弟のように追っかけができるほどではないが、イケメンに部類しており、高校時代は、クラスの女子から「かっこいい男子No.2」に選ばれたこともあり、バレンタインのチョコも貰っていた。作中でも2人の女性と交際しており、クラスメイトの白石からも想いを寄せられていた。
恋愛面では奥手で鈍感。最初の交際相手だった茂木なつきは、実はなつきがベンツの中年(白石の父親)と援助交際をしていることが発覚したことで無視をしている時期があったが、なつきの積極的なアタックと御木に拉致されたなつきを救ったこともあってお互いの気持ちを再確認し、交際に至る。しかし、高校卒業後になつきが上京、拓海はプロジェクトDに参加するために地元に残ることで別れることに。卒業後も文通はしていたようだが疎遠になったようである。
二人目の交際相手の上原美佳は偽プロジェクトD騒動がきっかけで最初誤解からフルスイングで頬にビンタされるという衝撃的な出会いとなる。その後、拓海はゴルファーとして世界を目指す彼女にシンパシーのようなものを感じ、交際するようになる。お互いにプロを目指す高い目標を持つ同士、意気投合したのが大きかったのだろう。ちなみに、なつきのときは終始振り回されていたが、美佳のときは自分から埼玉まで会いに行くという意外な積極性を見せ、1つ年下ということもあって拓海のほうがリードしている。
ドライバーとしての才能
群馬エリアで鳴らしていた赤城レッドサンズの高橋啓介を破ったことで名前が知られるようになり、それ以降も多くの手強い相手に挑んでは挑まれ、そして勝利し「秋名のハチロク」の異名を轟かせる。高校卒業後は、高橋涼介が立ちあげたプロジェクトDに参加し、ダウンヒルエースとして関東制覇に貢献。いつしか「伝説のダウンヒラー」と呼ばれるようになる。
中学生の頃から文太から積んでいる豆腐を壊さないために「紙コップに入れた水をこぼさない走り」を課せられており、そのおかげで車の荷重移動を駆使する技術に長けている。さらには配達帰りに「早く帰りたい」という一心から秋名の下りを攻めていたため、優れたブレーキング技術も身につけ、年中毎日走り込んでいたことから雨や雪といった様々なコンディションも苦にしない。全てのコーナーを四輪ドリフト走行で走破し、高橋涼介が提唱する「公道最速理論」の完成形に限りなく近いドライバーと言わしめるほどの神業的なテクニックを持っている。
拓海のドライバーとしての才能は文太譲りの才能と英才教育という部分はあるが、一番はこの毎日の走り込みの積み重ねから来るものである。1回サーキットを走るのに大金が必要なプロのレーシングドライバーよりも多く走りこんでいると文太は自信を持っており、事実峠ではプロドライバーをも撃破した。
また、本人はいつも乗っているハチロク以外の車の運転はできないと語っているが、樹のAE85レビンや池谷浩一郎のS13シルビアや塚本の180SXを本来のスペック以上のスピードで走らせて見せるなど、コツさえ掴めばどんな車も乗りこなしてしまう天性のドライビングテクニックの持ち主である。
一方、運転技術が神業なのに対してクルマに対する知識は皆無であり、物語前半戦は天性の素質だけで勝利している面が大きかった。しかし、ハチロクをパワーで凌駕するクルマとのバトルを経験し、プロのドライバーになりたいという夢を持つようになったことで自分に足りないものを自覚するようになり、涼介の誘いを受けてプロジェクトDに参加した。
プロジェクトDに入ってからは、涼介から毎回課題を与えられることによって少しずつ理論と知識に基づいたドライビングも身につけるようになり、メカニカルな部分も学んでいる。また、チームに入ったことでより勝利にこだわるようになり、ヘッドライトを消して相手をかく乱させる「ブラインドアタック」のような奇襲攻撃も用いるようになった。
パープルシャドウ戦後は、文太のインプレッサに乗って"ゴッドアーム"城島俊也の「ワンハンドステア」の練習をすることでドライビングテクニックをさらに磨いている。
涼介によると「長年を共にしてきたハチロクと拓海が高いレベルの集中力で調和した時、他の車とドライバーならどうしてもオーバースピードと直感するような状況でも、拓海とハチロクの組み合わせなら行けてしまう」という現象が起こるという。これを涼介は「藤原ゾーン」と名づけた。
また、不思議と勝ち運にも恵まれており、ハチロクより軽量なカプチーノとのバトルは本来なら勝ち目が無かったが雨が降ったことで勝利することができ、明らかに敗色濃厚だった城島戦では、長期戦になったことで疲労が限界に達した城島がクルマを止めて嘔吐したことで勝利している。
おもな得意技
- 慣性ドリフト
- 拓海の代名詞であり、作中で初めて拓海が披露したドリフト。限界速度でコーナーに進入することにより、ステアリング操作のみでドリフトさせる。コーナー進入時のフロント荷重により、前輪と後輪のドリフトのバランスをコントロールする。初見でこれを見せられた高橋啓介は「幽霊でも見たのか」とうなだれていた。
- 溝落とし
- 道路の排水溝にイン側のタイヤをわざと落として、引っ掛けるようにして遠心力に対抗し、通常より高い速度でコーナーをクリアする。これも拓海の代名詞とも言える技で、タイヤを落とすタイミングと溝から出すタイミングを調整することで「突っ込み重視」や「立ち上がり重視」など状況に応じて使い分けることができる。ただし、城島戦のようにあまりに多用するとサスペンションに負担をかけ、失敗すると破損する恐れもある。連載当時はこれを真似しようとして愛車を破損、または事故る人たちが続出した。
- 溝またぎ
- 蓋のない側溝があるコースで使用する技。コーナリング中にさらにアクセルを踏み込むことで荷重をリアに集中させ、その瞬間に浮いたフロントで側溝をまたぎ、側溝の向こう側までもをイン側の路面として使用する。拓海の類まれなる荷重移動技術でなければ成立しない技で、見よう見まねで実行した末次トオルはフロントから荷重を抜ききれずに、側溝にタイヤを取られて横転している。
- ブラインドアタック
- 追走時にヘッドライトを消すことで相手をかく乱し、パッシングのチャンスを広げる技。舘智幸戦で「消えるライン」を決められ追い抜かれたことからで、「見えなければいいんだ」という単純な思い付きから実行。まんまと引っかかってラインを開けたプロである智幸の虚を突いた。拓海自身、「できれば多用したくない」というレベルの奥の手。後に目眩ましだけではなく、リトラクタブルライトであるトレノのヘッドライトを下げて少しでも空気抵抗を減らし速くしたいときに使用し、拓海自身が集中力を高めるための走行として昇華している
搭乗車「AE86 スプリンタートレノ GT-APEX 3door(前期型)」
拓海と共にダウンヒルバトルでの最速伝説を築いた愛車であり、拓海にとっては中学生の頃からの相棒。初期の拓海はただのボロ車としか認識していなかったが、赤城山で須藤京一とバトルした際になつきの援助交際の現場を目撃した怒りに任せて無茶な運転をしてエンジンブローを起こし、自責の念から涙を流していた。このあたりから自身のハチロクに対する愛着を自覚するようになっており、それまで「クルマ」と呼んでいたが「ハチロク」と呼ぶようになっている。
当初は父・文太が所有者となっていたが、エンジンブローによるエンジン載せ替えの際に、拓海が自身のバイト代も出し修理した事により半分は拓海の所有となった。その後、文太がインプレッサを購入したことで完全に拓海名義の車となった。
第一部の頃は足回りなどのセッティングは文太が施していたが、第二部プロジェクトD編からは高橋涼介とメカニック担当の松本修一によって本格的なチューニングマシーンへと変貌している。
ダウンヒルバトルでは連戦連勝のクルマだが、ライバルたちのクルマに比べるとパワーが非力なことは否めず、馬力の差があってもドライバーの腕で補うことができるダウンヒル限定のクルマである。作中で拓海もパワー不足に直面し、悩むこともあった。逆にパワーは無くともハチロクより軽量なカプチーノとのバトルでは、旋回性能の差から苦戦を強いられた。
ちなみに連戦連勝と言われるハチロクだが、実際に二度敗戦を経験。一度目は赤城山での京一戦。もっともこのときは赤城山のコースの走り込みに差がありすぎたことから京一自身もバトルでの勝利と考えておらず、後にいろは坂でのリベンジ戦に応じている。二度目は秋名の下りで文太の乗るインプレッサにぶち抜かれており、完膚なきままに実力で完敗している。
チューニング・セッティングの軌跡
連載初期のグレードは初期型の「GT-APEX」で、外観も補助灯を追加している以外はどノーマルと一見するとどこにでもいるハチロクと変わらなかった。エンジンも4A-GEU型純正シングルスロットル仕様で、涼介は「せいぜい150馬力くらい。ラリー用のクロスミッションを組んでいる」と推測していた。作中では「4A-GEU改(文太スペシャル)」などと表示されるくらいで、それ以上細かいことは明らかにされていなかった。
文太は、拓海の技術の幅を広げるためにハチロクのセッティングを決めており、「考えて試行錯誤させる」のに大パワーは必要なかった。
須藤京一とのバトルでエンジンブローを起こした際、文太はエンジンの乗せ換えを敢行。AE101用の4A-GがベースとなったグループA仕様のエンジンに換装し、1万1000回転まで回る超高回転型となる。このときから運転席がフルバケットシートに変更。秋山渉戦の直前には1万2000回転スケールタコメーター、水温計、油温計が取り付けられている。エンペラー登場のあたりから拓海はハチロクのパワー不足という問題に直面していたが、このエンジン換装によってパワーの問題はかなり解消された(涼介は「240馬力をしぼり出すユニット」と推察している)。
プロジェクトD加入後からは上述したように涼介・松本の手によってセッティングされるようになり、舘智幸戦でカーボンボンネット、黒色塗装リトラカバーと軽量ヘッドライトユニットが装着されハチロクの軽量化が施される。助手席もバケットシートに変更され、シートベルトも4点式となる。
城島俊也戦で右フロントサスペンションを壊したことで松本がかなり足まわりに手を入れていき、限界域での挙動をよりクイックにする方向でセッティングがリニューアルされていく。同時にリアまわりの重量を減らすため、リアハッチのガラスをアクリルガラスに変更。バックドアもFRP製へと変更。さらにエンジンの耐久性、戦闘力の両面を追求するため中間トルクを太らせフラットなパワー特性に変更し、レブリミットを9000回転に設定している。
神奈川遠征の第2ラウンド時には、衝突時のドライバーの安全性とボディ剛性の向上のためにロールケージが導入。神奈川遠征最終戦では、涼介の指示によってエンジンを1万回転以上回す仕様に戻す。これにより拓海はシフトチェンジの場面でのギアの守備範囲が広くなり、ためらうことなくアクセルを踏めるようになる。
当時の影響
連載がヒットし、アニメ放送が開始した1990年代後半にはハチロクはすでに10年以上前の型遅れの古い車となっていたが、特にアニメが大ブームになったことでハチロク人気が再燃。どこにそんなに眠っていたのだろう?というレベルでパンダトレノのハチロクを見かけるようになり、中古車ショップでも価格が高騰、ついにはハチロク専門店まで登場するようになった。
中には拓海モデルを再現するために「藤原とうふ店」のステッカーを右側ドアに貼っているものもいた。
結末~ハチロク伝説の終焉~
拓海と共に数々の伝説を作りあげた「秋名のハチロク」だったが、作中最後のバトルであり、プロジェクトDの最後のバトルともなった神奈川遠征・最終戦の乾信司戦でその役目を終えることになる。
前半は信司の独特の走行ラインをコピーし圧倒するもタイヤに負担がかかり、最終コーナーに突入際にブラインドアタックを解除した瞬間、本来の最高回転数を超えた12000回転以上のオーバーレブによりエンジンブローを引き起こしスピン。拓海の機転によって勝利はしたものの、二度目のエンジンブローを起こしたハチロクは「最高の引き際」を迎えることになる。
原作ではそのまま廃車となったが、アニメでは拓海が文太に頼んで家の車庫に保管することになり、バトルは無理でも少しずつ働いて修理することになる。
『MFゴースト』での藤原拓海
本人は2023年11月連載中の時点でも登場していないが、登場人物の口から作中における現在の様子が語られている。また、一度だけ後ろ姿が描写された。
『MFゴースト』の主人公・片桐夏向(カナタ・リヴィントン)のドライビングテクニックの師匠。
20歳のときにイギリスに渡りプロレーサーとして活躍し、ラリーで何度もタイトルを獲得。現地では「空飛ぶ日本人」と称賛される有名なラリードライバーとなる。その後、トヨタとプロ契約を交わしたものの、世界選手権(WRC)直前で車のトラブルにより転落事故に遭ってしまいレーサーとしての人生を終えてしまう。
しばらく表舞台から姿を消していたが、カナタが所属していたレーシングスクール「RDRS」の講師として復帰、後進を育成する立場となった。カナタにドリフトの才能を見出したのか、彼だけに特別の練習メニューを与え、公道レースに似た条件のMFGに役立つテクニックを教え込んでいった。
教え方は高橋涼介に似ており、明確に指示するのではなく本人に考えさせるスタイル。カナタがMFGに参加する際は他の選手より馬力が低い車を選定するようアドバイスしている(こうして選ばれたのがトヨタ86というのは何の因果か……)。また、カナタに対してライバルよりも馬力の低いクルマを選ぶように指示しており、これは文太の指導方法を踏襲したものと思われる。
なお、上記のヒロイン上原美佳とは付き合いが無事に続いたようで、結婚したことが明らかになっている。
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