サクソンウォリアー(Saxon Warrior)とは、日本生まれ
アイルランド調教の競走馬、アイルランドの種牡馬である。
世界に父の衝撃をさらに大きく響かせた英才。名前はイングランド人の基盤となった古代ゲルマン部族の一つ、サクソン人の戦士の意。
血統背景
父はサンデーサイレンス最高傑作・ディープインパクト、母はクールモア所有で2011年のカルティエ賞最優秀2歳牝馬を獲得した*メイビー、母父ガリレオという血統。
昔の競馬しか知らない場合、仮にもカルティエ賞を取った牝馬がなんで!? 社台が買って来たの!? ……となるかもしれない。
血統表は後述するので見ると分かるのだが、*メイビーはガリレオ×*デインヒルという黄金パターンの配合であるものの、欧州の種牡馬だけで相手を探すと一代くらいは良くても後に結局手詰まりになりかねない血統である。*メイビーだけならよかったが、クールモア繋養の繁殖牝馬に同じような血統がそれはもう過剰なほど多く、そのため多様性をもたらす異系の相手探しが求められていた。
そこで白羽の矢が立ったのがクソみてぇな牝系から生まれた突然変異のヘイロー産駒*サンデーサイレンスと、当初所有していたが見切りを付けて売っ払ったら日本で偉大なる母と化した*ウインドインハーヘアから生まれたディープインパクトであった、
ヘイロー系は2010年代にはすでに北米では少数勢力に転落し、欧州ではほぼ振るわず、南米起点で南半球に*サザンヘイローが広がりを見せてはいたが……という感じで、ほぼ一強、ライバルのキンカメすら添え物レベルで生産界を支配する日本での繁栄っぷりが特異点的とも言える零細血統であった。
さらに母はハイクレアの末裔で世界的に見ても素晴らしい牝系から生まれたと胸を張って言え、その上で海外でも少数の産駒からフランスクラシック戦線のプール・デッセ・デ・プーリッシュ[1]を勝利したビューティーパーラーを出したディープインパクトこそ、新たな地平を拓ける存在である。世界最大の生産者団体がそう結論づけた、と言ってしまってもいい。
ということで、目ぼしい牝馬を送り込み種付けをしようとなり送り込まれたのが*メイビーであり、さらにここから後述するサクソンウォリアーの活躍で2017年欧州牝馬マイル三冠馬*ウィンターや2016年カルティエ賞年度代表馬及び最優秀3歳牝馬受賞の*マインディング、2016年カルティエ賞最優秀古馬・3歳でBCターフを勝ち4歳で凱旋門賞を勝ったファウンドの全妹*ベストインザワールドといった超一流繁殖牝馬が次々と来日するというびっくりな事態が生じた。サンデーサイレンスが寿命不足及び牝系の貧弱さ加減で叶わなかった世界への本格進出をディープインパクトはやってのけた。そりゃ酷使しちゃうよね。
その後これらの良血牝馬からディアヌ賞(仏オークス)とナッソーSを勝ったFancy Blue[2]や英オークスを16馬身差で圧勝し愛オークスとヨークシャーオークスも連勝した欧州オークス三冠馬Snowfall[3]が生まれた。極めつけとして世界にわずか10頭ほどしかいなかったディープインパクトのラストクロップの1頭:Auguste Rodin[4]は2歳時に初G1勝利を達成すると翌2023年にはクラシックレースの世界最高峰英ダービーを制覇、その後も愛ダービー、愛チャンピオンS、BCターフ、プリンスオブウェールズSと欧米の大レースを勝利し歴史に名を刻む名馬となる。
結果としてサクソンウォリアーを始めとするクールモアのディープインパクト産駒は欧州クラシックで大活躍し予想以上の成功を収めたのであった。
その計画のもと安平町のノーザンファームで2015年1月に生まれ、離乳後の10月にアイルランドに渡りすくすく育った彼はクールモアの主戦調教師エイダン・オブライエンの元、バリードイルで鍛え上げられることとなった。
ちなみに生産者はノーザンファームではなく*メイビーの所有者名義である。欧米ではそういう扱い。エルコンドルパサーも牧場名義ではなく*サドラーズギャルの所有者である渡邉氏なのが良い例だろうか。
現役時代
2017年の8月にカラ競馬場の未勝利戦に出走。優れた瞬発力を見せて快勝するとベレスフォードステークス(G2)も末脚でぶった切って快勝。イギリスに渡りレーシングポストトロフィー(現ヴァーテムフューチュリティトロフィー、G1)に出走。今回は一転して逃げの手を打ち、後にカタールレーシングのナンバーワンになるロアリングライオンの強襲を受け一旦は前に出られるが、差し返してG1初勝利を決める。
ちなみにここまで走ってきたのは8f、マイル戦であるが2歳時にマイル戦を走るのは概ね10~12fを走る王道路線の馬が多いということもあって翌年のダービー前売り1番人気に推された。
翌年、始動戦となったのは2000ギニー。クールモアのナンバーワンであるライアン・ムーアが同じ週のケンタッキーダービーに出走するメンデルスゾーン(道中で闘志を失い20着)に騎乗するためチャーチルダウンズに向かったため、デビュー戦で跨ったドナカ・オブライエン(現調教師、エイダン師の次男)が騎乗。
前めでしっかり折り合うと仕掛けに答えて素晴らしい瞬発力を発揮して抜け出すとそのままゴールに飛び込む教科書どおりの卒のない競馬で快勝。無敗で2000ギニーを制したのであった。センス瞬発力抜群、前途洋々としか言えない鮮やかさ。数多の名馬を見てきたエイダン師をしてもうっとりとするような勝ちっぷりであった。
……まさかこの勝利が現役最後の勝利になろうとは、誰も想像しなかっただろう。
無敗の英二冠を目指し出走したダービー。ライアン・ムーアに手綱が戻り圧倒的1番人気に推されたが中団から素晴らしいキレを……キレを……発揮できずダラッとしか伸びず4着に終わる。勝ったのはゴドルフィンのエース格であったマサー。前評判ではマイラーでは? と言われた馬であった。
キレなく伸びあぐねたダービーの走りっぷりから距離短縮も考えられたが、オブライエンダービーとも言われたりするアイリッシュダービーへ。エイダン師の管理馬が4頭、騎手を早々に諦めざるを得ず、バリードイルの二番手調教師となったジョセフ・オブライエン(エイダン師の長男、キャメロットやセントニコラスアビーに乗った)もラトローブを送り込むなどこの年もバリードイル勢は5頭を数えた。まあこの年は他陣営も7頭送り込んできたのでそこまでオブライエンまみれではなかったが。
メンツも大したことはなく、オブライエン勢の総大将として圧倒的1番人気を背負うが、レースは中団から進め直線でスムーズに外に出すと末脚一閃……とは行かず、勝ったラトローブも逃げ粘るペースメーカーのロストロポーヴィチも捉えられず3着。ラトローブに乗っていたのが2000ギニーのパートナーのドナカだったのはやや皮肉めいてもいた。
この2走の結果から12f路線は断念し10f路線へ。中6日、日本的に言うと連闘でエクリプスステークスに向かった。欧州は平地シーズンのG1が10月までしかないのでこういうことはまあないことはない。2022年から日本で種牡馬入りの*ポエティックフレアとか鉄の馬ことジャイアンツコーズウェイも過密ローテをこなしていたしオーストラリアじゃ常識的範疇である。
急遽参戦で都合がつかずアメリカに行ったムーアの代わりにドナカに乗り替わって挑んだこのレースは1番人気をダービー3着から向かってきていたカタールのナンバーワンロアリングライオンに譲ったものの、いつものようにセンス抜群の走りでスッと抜け出すが、そこにロアリングライオンが強襲。
レーシングポストトロフィーの再現となるが今回はサクソンウォリアーがこらえきれずクビ差敗戦。ロアリングライオンが派手に斜行して審議になったが到達順通り確定。荒法師の獅子吼に今回は敗れる形となった。
続くゼンノロブロイが2着に入ったこともあるインターナショナルステークスではキングジョージを勝ったポエッツワードとロアリングライオンに次ぐ3番人気。エイダン師が三冠を夢想した馬としてはややさもしい人気となり、レースも後ろから末を活かす競馬を試みたがロアリングライオンどころかサンダリングブルーにも負けて4着。体調不良だったらしいがどうにも……
アイリッシュチャンピオンステークスでロアリングライオンとの6度目の対決となるが、例によって先に抜け出したサクソンウォリアーをロアリングライオンが追い詰める展開となる。しかしこれが当時の充実度の差か、再びクビ差差し切られて2着に敗れた。2000ギニーでは圧倒していたのだが。
この後はクイーンエリザベス2世ステークス出走を予定しマイル路線にシフトする予定であったが、屈腱炎を発症し引退・種牡馬入りとなった。通算9戦4勝。G1を2つ、それも2000ギニーにレーシングポストトロフィーと格がちゃんと高いものを2つ勝ったが不完全燃焼感が強いのは否めないところ。ロアリングライオンにも4連敗して2勝4敗と完全に差をつけられたのも痛い。
陣営も後悔があったようで、エイダン師は「マイルで使うべきだった、私のミス」と、主戦騎手のムーアも「マイルで走る姿をもう見られないのが残念、一番悲しい」と引退に際して語っている。
種牡馬時代
異系の父を持ち、マイル戦に実績があり早熟傾向と売りになるポイントは多く、クールモアの2019新種牡馬では最高額の種付け料3万ユーロからのスタートとなったが、種付け料は緩やかに2万ユーロまで下がってはいる。
しかし毎年150頭以上は付けており、シャトルで向かったオーストラリアも含めれば200以上を毎年集めるなどクールモア激推しのノーネイネヴァーやスーネイション、ジャスティファイあたりのスキャットダディ系の超大人気種牡馬に比べれば少ないが堅調に花嫁を集めている。
初年度産駒は2022年デビュー。日本にもクールモアとコネがあるキーファーズ系の新クラブ・インゼルが積極的にクールモア産の仔を導入したり、持ち込み馬として生まれた仔がセレクトセールで結構な額で売れたりと輸入が進んでいる。
2022年デビュー予定の産駒は8頭の登録があり、海外にいる父としてはアメリカンファラオの13、フランケルの12に次ぐ3位タイ(アロゲートとジャスティファイが同数)となっている。日本で人気の○外、持ち込み馬の父になっていきそうである。
本馬とライバルのロアリングライオンは共に初年度産駒で2歳G1馬を輩出したが、あちらは1世代を残してシャトル先のオーストラリアで夭折してしまった。残されたサクソンウォリアーは産駒の活躍で餞とすることができるだろうか。
主な産駒
2020年度産
- Victoria Road (牡 母:Tickled Pink 母父:Invincible Spirit)
2022年ブリーダーズカップ・ジュヴェナイルターフ(米G1)、2022年コンデ賞(仏G3) - Lumiere Rock(牝 母:Last Gold 母父:Gold Away)
2022年スタッフォーズタウンスタッドS(愛G3)、2023年ブランドフォードS(愛G2) - Moon Ray(牝 母:Demeanour 母父:Giant's Causeway)
2022年ミエスク賞(仏G3) - Greenland(牡 母:Aktoria 母父:Canford Cliffs)
2023年グレフュール賞(仏G3)、2024年スカンジナビアオープンチャンピオンシップ(丁G3)
2021年度産
血統表
ディープインパクト 2002 鹿毛 |
*サンデーサイレンス 1986 青鹿毛 |
Halo | Hail to Reason |
Cosmah | |||
Wishing Well | Understanding | ||
Mountain Flower | |||
*ウインドインハーヘア 1991 鹿毛 |
Alzao | Lyphard | |
Lady Rebecca | |||
Burghclere | Busted | ||
Highclere | |||
*メイビー 2009 鹿毛 FNo.1-t |
Galileo 1998 鹿毛 |
Sadler's Wells | Northern Dancer |
Fairy Bridge | |||
Urban Sea | Miswaki | ||
Allegretta | |||
Sumora 2002 鹿毛 |
*デインヒル | Danzig | |
Razyana | |||
Rain Flower | Indian Ridge | ||
Rose of Jericho |
クロス:Northern Dancer 5×4×5(12.5%)
- 父と母父は該当記事参照。
- 母は前述の通り2011年のカルティエ賞最優秀2歳牝馬受賞。2歳時はG1モイグレアスタッドステークスなど重賞3勝を含む5戦5勝と無敵の快進撃を見せたが、3歳時は1000ギニーで3着に敗れるとその後は全くいいとこなしで4戦して0勝とあっさり終わってしまった。
- 母の全妹*フラッフの産駒に2023年のセントレジャーSを制したContinuous(父ハーツクライ)がいる。
- 祖母スモラの半妹に英オークス、ディアナ賞(独オークス)を制しエリザベス女王杯にも出走した(2011年16着)ダンシングレインがいる。
- 曾祖母レインフラワーの半兄にダービーを勝った*ドクターデヴィアス(1989年産)、高松宮記念を勝ったシンコウキング(1991年産)、半姉にスズカフェニックスの母*ローズオブスズカ(1992年産)がいる。日本と繋がりが多いローズオブジェリコの牝系である。
関連動画
関連項目
脚注
- *仏1000ギニー、日本で言う桜花賞に当たるレース
- *母は英愛ダービー馬にしてBCターフを連覇したクールモア所有の名馬ハイシャパラルの全妹
- *母は上述したファウンドの全妹
- *母はG1を3勝したロードデンドロン。その全妹マジカルがG1を7勝、母ハーフウェイトゥヘヴンもG1を3勝しておりクールモアが誇る超良血牝馬である。
- *イタリアのダービー
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