スピルバーグ(Spielberg)とは、2009年生まれの日本の競走馬・種牡馬。
2014年の天皇賞(秋)を制し藤沢和雄厩舎に8年ぶりのGI勝利をもたらした。
18戦6勝[6-1-4-7]
主な勝ち鞍
2014年:天皇賞(秋)(GⅠ)
父ディープインパクト、母*プリンセスオリビア、母父Lyciusという血統。
父ディープインパクトの戦績については解説不要だろう。引退後2010年に初年度産駒がデビューするとファーストシーズンリーディングサイアーを獲得。翌2011年桜花賞をマルセリーナが制し産駒初GI勝利と共に初年度からクラシック勝ち馬を輩出、さらにリアルインパクトが59年ぶりかつグレード制施行でGⅠになってから初めて3歳で安田記念を制覇。スピルバーグはそうして種牡馬評価がうなぎ登りになりつつあった中でデビューした2世代目産駒の一頭である。
母*プリンセスオリビアは米国産。競走馬としては特筆すべき成績はないが繁殖に入ると2番仔フラワーアレー(Flower Alley)がトラヴァーズステークス(GI)など重賞4勝。
4頭の仔を産んだ後に社台ファームに購入されると日本での初出産となる2007年産の牝馬ブルーミングアレー(父シンボリクリスエス)はオープンまで進み、後に母としてもランブリングアレー(21年中山牝馬S)を産んだ。続いてディープインパクトとの間に残したのが2008年産のトーセンラー(マイルCS)及び2009年産の本馬スピルバーグのGI馬全兄弟である。ただし全体としては仔出しがよくなく、その後は流産や不受胎が続き結果的にスピルバーグを最後の仔として亡くなっている。
母父Lyciusは英ミドルパークステークス(G1)勝ち馬。
所属は美浦・藤沢和雄厩舎。藤沢師は2022年の定年退職までに歴代2位の1570勝を記録したがそんな名伯楽にも停滞期というものはあった。2005年、それまでシンコウラブリイ・バブルガムフェロー・タイキシャトル・シンボリクリスエス(キャリア前半)など藤沢厩舎のGI馬たちの主戦を務めた名騎手・岡部幸雄が引退、それと呼応するように藤沢厩舎の成績も頭打ちになり始めた。特にGIでは2006年のダンスインザムードのヴィクトリアマイル制覇以降勝てない時期が続いたのである[1]。
スピルバーグはそうした状況の中、2014年天皇賞(秋)にて藤沢厩舎に8年ぶりのGI勝利をもたらす馬である。ちなみに、生涯6勝は全て東京競馬場という清々しいまでの府中専用機であった。
馬主の山本英俊氏はパチンコ・パチスロの東洋商事(後のフィールズ)創業者。同氏の持ち馬にはカジノドライヴ・フライングアップル・ペルーサ・ルルーシュなど、スピルバーグ同様に2000年代後半~2010年代前半の藤沢厩舎を支えて奮戦した馬が多い。
主戦騎手は北村宏司。馬名はもちろん、映画監督スティーヴン・スピルバーグにちなんだものである。
2011年10月15日に迎えた新馬戦(東京芝2000m)は1番人気1着と順調なデビューを飾る。しかし明け3歳初戦の500万下はフェノーメノの2着、続く共同通信杯はゴールドシップとディープブリランテの3着。
……後から振り返ればこの2戦は相手が悪かったとも言えるが、ともかく収得賞金を加算できずクラシックへの参戦はピンチに陥り、皐月賞行きのラストチャンスを懸けた毎日杯も3着止まりで出走を逃してしまう。
5月5日、プリンシパルステークスを内田博幸の騎乗で後方待機からの豪快な直線追い込みで勝利し日本ダービーの優先出走権を確保。しかし、トライアルとは言え本番での勝ち馬は一頭も出ていないレースであり……中2週で挑んだ5月27日の日本ダービーでは後方待機で追い込みに賭けようとするも末脚を繰り出すだけのお釣りは残っておらず、同じディープインパクト産駒のディープブリランテが親子ダービー制覇を決める中で14着に敗れた。
その後、秋戦線を前に骨折が判明。治療休養は1年以上に及んだ。
1年以上を経て2013年8月にようやく復帰。長期休養の間に1000万下へ降級していたがひと叩きした後の神奈川新聞杯(1000万下)、ノベンバーS(1600万下)と東京1800mで連勝しオープン入り。半年空いて2014年になった5歳初戦は5月に同じく東京1800mのメイS(OP)出走し3連勝を飾った。
これだけ東京1800mが合っているのなら・・・当然秋初戦で狙うは毎日王冠。実力馬がおおよそ人気通りの結果を残す「府中の千八、展開要らず」……とはこの2014年はいかず、11番人気サンレイレーザーのガン逃げに翻弄され上位人気馬は総崩れ。スピルバーグは1着エアソミュール・2着サンレイレーザーとクビ・クビ差の3着に飛び込み、8-11-5番人気決着の荒れたレースとなった。
毎日王冠でも馬券内に食い込み、これはもう東京競馬場で勝負!と天皇賞(秋)(G1)に登録。しかし、勝鞍がオープン特別まででは賞金が……ギリッギリ足りた。惨敗の日本ダービー以来2年と少しぶりのGI出走である。
さてこの第150回天皇賞(秋)だが、1番人気はこの年の皐月賞馬イスラボニータ、日本ダービーも2着などキャリア8戦全連対と安定感を誇っていた。2番人気は同世代の馬たちをクラシックから先頭で引っ張り続けてきた鬼婦人ジェンティルドンナ、前年にジャスタウェイの大爆発の前に取り逃した天皇楯獲得へ鼻息も荒い。3番人気は春天連覇のフェノーメノ、2007年メイショウサムソン以来の天皇賞春秋連覇に挑む。4番人気は前年の菊花賞馬で春には産経大阪杯3着があるエピファネイア。他にGI馬はマイラーのカレンブラックヒルと引退間際のトーセンジョーダンといったメンツで、う~んまあ上位決着で堅いんじゃないの?といった下馬評のレースであった。
そんな中、近走好調と府中適性で穴を狙うなら……この馬か!というわけで、スピルバーグは重賞未勝利・賞金下位の立場ながら5番人気(11.0倍)とかなりの支持を集めていた。
内枠有利と言われる府中2000m[2]で、スピルバーグは絶好の2枠4番を引いてはいたが北村宏司はいつも通り末脚勝負の構えでスタートから下げて中団馬群を見る位置につける。カレンブラックヒルとオールカマーを勝って乗り込んできたマイネルラクリマが先頭を争い、1・2番人気のイスラボニータ・ジェンティルドンナが3番手グループ。1000m通過は60秒7とごく普通、そして直線ではイスラボニータがスムーズに前をかわして先頭に立ちジェンティルドンナは一旦進路に迷うもゴール前で最内の僅かな隙間から伸びてイスラボニータを捉えにかかる。……どっちが1着にしろこりゃ堅いな、あと3着になにが飛び込んでくるか……、というところで大外からスピルバーグがすっ飛んできた。そのままあっという間に2頭をまとめて抜き去り3/4馬身差を付けて先頭でゴール板を駆け抜け優勝。
初重賞勝利がGI、馬主の山本氏にとっても所有馬のGI初制覇、そして藤沢和雄調教師にとっては2006年ヴィクトリアマイル(ダンスインザムード)以来8年振りのGI勝利となった。
余談だが、この2014年秋のGI戦線はスプリンターズSのスノードラゴンに始まり、秋華賞がショウナンパンドラ、菊花賞がトーホウジャッカルと「重賞未勝利馬がGI制覇」のレースが続きスピルバーグで4戦連続。続くエリザベス女王杯もラキシスが制し5連続まで続いた。
一挙にGI馬にのし上がったスピルバーグ。この勝利はディープインパクト産駒初の天皇賞制覇である。が、「ディープ産駒にニューヒーロー登場!」という感じにはあまりならなかった。「直線内ラチで詰まってなきゃドンナの勝ちだよ、戸崎がやらかした」「ボニータあれで勝てないのか、終いのキレがイマイチだな」等々…。要は周囲が上手くいかなかった中でのフロックと見られたのである。
次走はジャパンカップへ。1番人気は3連覇のかかるジェンティルドンナ、凱旋門賞から帰国したハープスターとジャスタウェイが参戦した分もあったがスピルバーグは秋天を下回る6番人気に留まっていた。
結果としては勝ったエピファネイアには4馬身以上ちぎられたものの、上がり最速の末脚で猛烈に追い込んでジェンティルドンナを再度抑え2着ジャスタウェイに半馬身差の3着。2年半前の日本ダービーでは14着に惨敗した府中2400mの舞台で、天皇賞馬としての意地は示した。
このように条件戦で止まらず毎日王冠、天皇賞(秋)、ジャパンカップまで府中だったら幅広くやれるぜ、という所を示したスピルバーグ。全兄トーセンラーは栗東所属の京都巧者だったので、全兄弟でも好対照である。
しかしもはやGI馬となった翌2015年、上半期の東京競馬場で開催されるのは距離が短すぎる安田記念やハンデ戦の目黒記念などで適鞍がない。とりあえず産経大阪杯から入ったが不良馬場の中ラキシスの4着。
ここで、僚馬のルルーシュらとともにイギリス遠征を敢行することに。アスコット競馬場のプリンスオブウェールズステークス(G1)にクリストフ・スミヨン騎乗で挑戦するも府中どころか日本の競馬場とはまるで違う、なんなら欧州でもトップクラスに過酷で知られる登り坂コースには適応できず6着[3]。続いてサンダウン競馬場のエクリプスステークス(G1)を予定していたが、結局回避して帰国。
まあこれで秋だ!東京開催でバリバリ走るよ!…といきたい所だったが、元々体質が強くないところで海外遠征のツケは重かった。前年輝きを見せた毎日王冠、天皇賞(秋)とも10着に敗れ現役を引退することとなった。
引退後は社台スタリオンステーションでのスタッドインを勝ち取る。この頃父ディープは飛ぶ鳥を落とす勢いでリーディングサイアーを突っ走りまくっており、こりゃ間違いない、早急に後継種牡馬も確保せよ!となっていた頃のことである。まず早期引退したディープブリランテがスタッドインしていたがもっと弾数は必要ということで、スピルバーグも同じく2015年限りで引退したリアルインパクトやキズナと共に社台SSに迎えられたのである。
初年度の種付け料は150万で101頭と交配とまずまずの出だし。
…と思われたが、その後もディープインパクトはミッキーアイル、サトノアラジン、リアルスティール…と次々GⅠホースを輩出しそれら産駒が後継種牡馬として確保されていくと、スピルバーグはあっという間に見切りをつけられて種付け頭数が減っていき2018年末にはブリーダーズ・スタリオン・ステーションに移されてしまった。まだ初年度産駒もデビュー前なのに…。その後、イーストスタッドを経て2022年から青森県の東北牧場でプライベート種牡馬として繋養されている。
産駒は父同様に1800m前後が合うようで、中央のオープン馬がぽつぽつといったところ。2025年現在は4世代目にあたる2020年産のセオが都大路ステークス(L)を制したのが産駒の最高勝鞍である。
2019年にディープインパクトが逝去して数年が経ち産駒が徐々に現役から少なくなっている2025年現在、気が付いてみれば天皇賞(秋)に勝利したディープインパクト産駒はスピルバーグただ一頭である。別にスピルバーグが来なくても2着のジェンティルドンナが勝っていただろ、ってのは言いっこなしで。ディープインパクトはヒンドスタン、パーソロン、サンデーサイレンスに続いて種牡馬として4頭目となる「産駒による八大競走完全制覇」を達成しているが、スピルバーグもその一翼を担った孝行息子であることは間違いない。青森の地で、元気に馬産振興に貢献してほしいものである。
| ディープインパクト 2002 鹿毛 |
*サンデーサイレンス 1986 青鹿毛 |
Halo | Hail to Reason |
| Cosmah | |||
| Wishing Well | Understanding | ||
| Mountain Flower | |||
| *ウインドインハーヘア 1991 鹿毛 |
Alzao | Lyphard | |
| Lady Rebecca | |||
| Burghclere | Busted | ||
| Highclere | |||
| *プリンセスオリビア 1995 栗毛 FNo.17-b |
Lycius 1988 栗毛 |
Mr. Prospector | Raise a Native |
| Gold Digger | |||
| Lypatia | Lyphard | ||
| Hypatia | |||
| Dance Image 1990 鹿毛 |
Sadler's Wells | Northern Dancer | |
| Fairy Bridge | |||
| Diamond Spring | Vaguely Noble | ||
| Dumfries |
クロス:Northern Dancer 5×5×4(12.50%)、Lyphard 4×4(12.50%)、Goofed 5×5×5(9.38%)
掲示板
2 ななしのよっしん
2023/12/04(月) 07:13:57 ID: 6km81keD6Y
「スピルバーグ」単体のリンクだと映画監督の方に飛ばされるのでどこかで曖昧さ回避とかが欲しいですね…(関連項目にあるとはいえ)
3 ななしのよっしん
2024/10/26(土) 15:16:30 ID: zyQH8K37uG
ジェンティル視点からこの馬知ったけど
秋天・・・上位2頭が潰し合って得た秋天の漁夫の利感(とはいっても、ややスロー展開からの後方差し切りなので強い勝ち方してはいる)
JC・・・再び差されたことで、この馬はフロックではなく、ガチの強者だったとわからせられる
ということでかなり印象に残ったな
4 ななしのよっしん
2024/12/03(火) 14:57:12 ID: KXLQgJgXrK
ブリーダーズの種牡馬として見ると、種牡馬成績結構頑張ってる方だと思うんよな
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最終更新:2025/12/06(土) 07:00
最終更新:2025/12/06(土) 07:00
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