ドラキュラ紀元とは、イギリスの作家キム・ニューマンの小説である。原題は「Anno Dracula」であり、これは勿論西暦、すなわちキリスト紀元(A.D./Anno Domini)のもじりである。シリーズ化されており、原題ではそれぞれの作品が「Anno Dracula XXXX(作品の年代)」と表記される事もある。
本項では第1作の他、後のシリーズ作品についても記載する。
ヴァン・ヘルシング教授に勝利したドラキュラは、イギリスの征服に成功。それによって世界の影で生きてきた吸血鬼達が表の世界へ現れ、人類との奇妙な共存が始まったとしたら、というブラム・ストーカーの小説「吸血鬼ドラキュラ」のパラレルワールド的作品である。
単に「吸血鬼ドラキュラ」だけにとどまらず、当時の実在人物や様々な小説や映画等に登場した架空の人物が入り乱れ、実際の事件や戦争等とも絡み、クロスオーバー的なお祭り騒ぎの様相を呈している。その数は膨大であり、巻末には50ページ以上にも及ぶ登場人物辞典が掲載されている程。
本邦では単行本第3作まで翻訳され、創元推理文庫から発売されていたが、現在は絶版。本国では第4作まで刊行され、更なる続刊も予定されている。
この作品の吸血鬼は民間伝承に語られるような存在ではなく、近代の文学作品や映画等に登場するそれをベースとした存在である。平たく言ってしまえば現代人がイメージする吸血鬼そのものと言っても差し支えないだろう。ただ一般的イメージと言っても、個々の作品で吸血鬼の設定が微妙に異なるように、この作品にも勿論この作品なりの吸血鬼像は存在する。また、キョンシー等、日本では一般に吸血鬼とは別種の妖怪とされる怪物が吸血鬼として扱われていたりもする。
吸血鬼は一般に高い身体能力と身体再生能力を持つ。血を吸った人間を吸血鬼にする事が可能であり、これを転化と呼ぶ。子供を作る事はできないが、吸血鬼にした人間はその吸血鬼の「子(ゲット)」という扱いとなり、その血統が受け継がれていく。ドラキュラは自ら墓から蘇った吸血鬼であり、誰の「子」でもないとされる。霧や動物への変身能力等、吸血鬼は個体によって能力も様々であり、それは同じ血統の「子」らへと引き継がれていく。有害な特徴も引き継がれる為、ジュヌヴィエーブやルスヴン卿は悪い点の多いドラキュラの血統を汚染されているものとして蔑んでいた。この為、裕福な人間は高い能力を持つ吸血鬼へ大金を支払って転化してもらう事がある。その一方で貧困層は安易な不死を求めて吸血鬼娼婦に転化してもらったりするが、そうした者は大抵の場合は長生きする事ができないという。
ドラキュラの出現によって吸血鬼が一般化した世界において、普通の人間は「温血者(ウォーム)」と呼ばれる。ここから吸血鬼へ転化した者は「新生者(ニューボーン)」と呼ばれ、ドラキュラのように吸血鬼として長期間生きたものは「長生者(エルダー)」として扱われる。作中の一般人も吸血鬼は不老不死というイメージを持っている事が多く、温血者時代の負傷や障害、病気等が転化によって改善される事も少なくない。しかし大抵の新生者は長生きする事はできず、人間としての寿命以上に生きる事ができる者は稀とされる。吸血鬼がどの程度の歳月を生きれば長生者と呼ばれるようになるかは曖昧だが、数十年から数百年とも、通常の人生2回分以上の長さとも言われている。一般に、長く生きた吸血鬼はそれだけ能力を増大させて強大な存在となっていく。また精神的にも怪物へと近づいていくとされているが、作中に登場する長生者が揃って異常者揃いという訳でもなく、ルスヴン卿によれば血統の差によるところもあるようだ。
一般的に吸血鬼の弱点とされるものの中で、銀の武器は大変有効である。銀の武器による負傷の回復速度は大変遅いか、または全く不可能である。その為、銀の武器の販売等、その取り扱いは厳しく管理されている事がある。戦争では銀の弾丸が大量に必要とされた為、銀不足が深刻になっていた。十字架や聖水は吸血鬼へ実害を及ぼさない。しかし吸血鬼の中でも迷信深い者はこれを忌避する事もある。ニンニクが有効かどうかはその吸血鬼の血統による。太陽光の影響は吸血鬼として生きた歳月によって異なり、新生者には陽光が致命的なものとなる事もある。長生者であればこれに耐える事も可能であるが、それでも太陽光を好ましくは感じない。多くの吸血鬼は鏡に映らず、映画のフィルム等にも映らない。
隠れ住んでいた吸血鬼達が表の世界へ姿を現し、人々も次々と吸血鬼へと転化していく1888年のイギリス。ドラキュラがイギリスの統治者として君臨するこの時代、ロンドンのイーストエンドで吸血鬼の娼婦ばかりを狙う連続殺人事件が発生した。闇内閣の命を受けた諜報員ボウルガードは事件の調査に乗り出すが、そんな中、自らを「切り裂きジャック」と名乗る犯行声明が新聞社に届けられる……。
(原題:Anno Dracula)
1918年のドイツ帝国。ドラキュラは首相兼軍最高司令官として再び世界の表舞台に姿を現した。戦禍に巻き込まれるフランスで、リヒトホーフェン率いるドイツの吸血鬼戦闘航空団が猛威を振るう。この事態に、ボウルガードの部下ウィンスロップは、航空団の拠点マランボア城の調査を命じられた。一方、ドイツへ移住したアメリカの詩人ポオもまた、密命によりマランボア城を目指していた。
(原題:The Bloody Red Baron:Anno Dracula 1918)
ドラキュラの新たな成婚に沸く1959年のローマ。老いた身でなおドラキュラの監視を続けていたボウルガードと、彼の世話をするジュヌヴィエーヴに会う為にローマに訪れたケイトは、ペネロピと思わぬ再会を果たす。一方、ディオゲネス・クラブの諜報員ボンド中佐もまた、ドラキュラを取り巻く国際的陰謀の渦中にあった。そんな中、ローマでは「真紅の処刑人」なる正体不明の怪人が次々と吸血鬼を殺害する事件が発生する……。
(原題:Dracula Cha Cha Cha:Anno Dracula 1959)
1976年から1990年かけての時代を舞台とした連作短編集で、アメリカと映画業界を舞台に、ドラキュラの最後の「子」、ジョニー・アーカードが暗躍する。アンディ・ウォーホルやフランシス・コッポラ等の映画人を始め、当時の著名人も多数登場する。1998年の「ドラキュラ崩御」発売後、早くからタイトルは発表されており、収録作品の一部はWEB上等で公開されていたが、長らく未発売のままであり、単行本の形になったのは前作から15年後の2013年であった。収録短編のうち、「血の約束(原題:Promises to Keep: Anno Dracula 1944)」がホラー&ダーク・ファンタジー専門誌であるナイトランド・クォータリーのVol.01に、「砂漠の城(原題:Castle in the Desert:Anno Dracula 1977」が同誌Vol.05に訳出されているが、単行本そのものは本邦では未訳。
(原題:Johnny Alucard)
キム・ニューマンによるホラー系作品短編集。目玉タイトルとしてドラキュラ紀元シリーズ次回作の前日談的エピソード「妖怪街(Yokai Town: Anno Dracula 1899)」が収録されている。本邦では未訳。
(原題:Anno Dracula 1899 and Other Stories)
2017年10月3日発売予定のシリーズ最新作。1899年、吸血鬼クリスティーナ・ライトは、東京の地に上海に似た吸血鬼居留地を得た。そして100年後の1999年。吸血鬼居留地を舞台に、サイバーパンク、怪獣、そしてヤクザの物語が始まる。
(原題:Daikaiju:Anno Dracula 1999)
その他に幾つか未訳の短編作品があり、2017年3月より新規ストーリーのコミカライズシリーズも発売される模様。
掲示板
6 ななしのよっしん
2019/07/24(水) 22:04:32 ID: NOs4tWxKpb
キム・ニューマンの公式サイトより
今年10月に最新作となる6作目を刊行
https://
記事にある大怪獣(仮)はAnno dracula - one thousand monstersというタイトルに変わったようだけど、
最新作のタイトルがAnno Dracula 1999 Daikaiju
大怪獣のタイトルはどうしても使いたかったということか
7 ななしのよっしん
2019/11/11(月) 16:42:29 ID: 3w6ZCsmwNQ
最新作の「1999 Daikaiju」が出たようだけど、冒頭が
「The sky above the city was the colour of arterial blood splashed across a shower curtain.」
という ニューロマンサーとサイコネタで始まるサイバーパンク物らしいな
ネズミというJKニンジャが出てくるとか言うどこのニンスレだよって話もあるし、いつになるかわからんが邦訳はよ
8 ななしのよっしん
2023/05/03(水) 19:58:18 ID: GRnCzgxhOU
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最終更新:2025/02/17(月) 16:00
最終更新:2025/02/17(月) 15:00
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