キタサンミカヅキ(Kitasan Mikazuki)とは、2010年生まれの日本の競走馬。鹿毛の牡馬。
中央時代は気性難も災いして凡庸な成績だったが、7歳で南関東に移籍してから真の自分の戦場を見つけて覚醒、交流重賞を3勝した、キングヘイロー産駒のダート牡馬代表。
主な勝ち鞍
2017年:東京盃(JpnII)、アフター5スター賞(南関東SIII)
2018年:東京盃(JpnII)、プラチナカップ(南関東SIII)、アフター5スター賞(南関東SIII)
2019年:東京スプリント(JpnIII)、アフター5スター賞(南関東SIII)
概要
父キングヘイロー、母キタサンジュエリー、母父サクラバクシンオーという血統。
父は1998年クラシック世代で、11度目のGI挑戦で高松宮記念を勝った不屈の超良血馬。SMILE区分の全ての距離のGIで掲示板入りしているという適性不明の馬としても知られる。種牡馬としては格安の良血馬として人気を集め、カワカミプリンセス、ローレルゲレイロ、メーデイアなど、産駒もまた芝もダートも短距離も中距離も走る適性不明の種牡馬として活躍した。
母は船橋で5戦1勝。母母キタサンコールから代々大野商事の所有馬である。
母父は言わずと知れた最強短距離馬にして大種牡馬。母父バクシンオーといえばなんといっても同じキタサン冠のキタサンブラックが知られる。活躍時期はこちらが後だが、年齢はこちらが2歳上。
ちなみに、4代母に「タケユタカ」がいるが、武豊騎手がデビューする前の馬であり直接の関係はない。そこからさらに牝系をたどっていくと宮内省下総御料牧場がイギリスから輸入した種道という馬を祖とする由緒正しき血統であることがわかる。
2010年5月10日、日高町の広中稔牧場で誕生。繁殖牝馬が4、5頭しかいない小さな牧場である。
オーナーの大野商事は、言わずと知れた演歌歌手・北島三郎の馬主名義。
馬名意味は「冠名+三日月」。額にある三日月型の流星が由来である。
砂の良馬場ヨ 三日月の仕事場サ
中央所属時代・明日の稼ぎを夢に見て
美浦・古賀史生厩舎に入厩したキタサンミカヅキ。デビューは遅く、3歳となった2013年3月のことだった。中山のダート1200mを走って2戦目で勝ち上がり。500万下初戦で芝に挑戦したが16着に撃沈したため、以降はダートの短距離に専念する。
しかし中央時代の彼の戦績は、オープンまで勝ち上がったものの、オープン馬としては見るべきもののない凡庸なものである。500万下を勝ち上がるのに9戦、連勝で1000万下を勝ったがすぐ降級となり、再び1000万下を勝つまで8戦。1600万下を突破するまでは12戦を要した。ようやくオープンに昇格したのは6歳の1月、32戦目でのことだった。
短距離なのに脚質が後方からの追い込みだったというのもあるだろうが、中央時代の主戦騎手であり、トウショウナイトやマルターズアポジーといった癖馬に定評のある武士沢友治をして「危険な馬」と言わしめるほど気性が荒く、「いつ落とされてもおかしくなかった」という。馬主のサブちゃん曰く、あまりの気性難から他の騎手は乗りたがらなかったらしい。
赤見 実際に落とされたことは?
武士沢 それはなかったです。競馬にいっても、上手く気分を乗せてあげないと進まなくなっちゃったり、伸びなかったり、すごく起伏が激しかった。だから、馬の気分にこっちが乗ってあげるっていうね。でもオープンまで勝ってくれましたからね。最初の頃はけっこう手を焼いたので、やってきたことは無駄じゃなかったなって。
オープン昇格初戦の千葉ステークス(OP)をブルドッグボスの2着と好走し、続く京葉ステークス(OP)では中団馬群の中から抜け出して3頭横並びの追い比べを制してオープン初勝利を飾る。
しかしこの後は惨敗続きで、結局7歳となった2017年の夏に中央登録抹消。南関東の船橋競馬場に移籍することになった。中央抹消時点での通算成績は41戦6勝、獲得賞金1億4443万円。これでも大野商事の所有馬としてはこの時点で獲得賞金歴代3位だったりする。
船橋転厩・三日月は大井でそうさ男を磨くんだ
船橋の佐藤賢二厩舎に移籍したキタサンミカヅキ。鞍上には新たに繁田健一を迎え、転厩初戦は大井競馬場1200mの重賞・アフター5スター賞(SIII)となった。単勝33.5倍の8番人気という低評価だったが、断然の上がり最速の末脚で馬場の真ん中から先行勢をまとめて撫で切り快勝で地方デビューを飾る。
大井ダート1200m。キタサンミカヅキの真の戦場が見つかった瞬間だった。
続いて優先出走権を獲得した東京盃(JpnII)へ。1番人気は前走北海道スプリントカップを勝ったニシケンモノノフ。次いでその2着のショコラブラン、それからキタサンミカヅキと同じくこの年に地方移籍してクラスターカップを勝ったブルドッグボス、芝から来た牝馬ナックビーナスといったあたりが人気を分け合っており、キタサンミカヅキは17.6倍の7番人気に留まった。
しかしスローの流れを馬群の後ろに構えて脚を貯めたキタサンミカヅキは直線で大外に持ち出すと、自慢の末脚で猛然と追い込み、ブルドッグボス、ニシケンモノノフら先行した人気勢をまとめて呑み込んで鮮やかな差し切り勝ち。重賞連勝で交流重賞初制覇、この日が誕生日だった北島三郎オーナーに最高の誕生日プレゼントを贈ってみせた。
勢いに乗って挑んだ大井・JBCスプリント(JpnI)では、まさかのコパノリッキーの参戦が話題を呼ぶ中で6.9倍の4番人気に支持される。しかし重馬場で前走より速いペースの流れとなり、後方から大外を追い込んだものの、前に届かず0.1秒差で5着。
結局、これが大井1200mで連対を外した唯一のレースとなった。
この後、年末の浦和・ゴールドカップ(SII)はいつもより前目で進めたが叩き合いに競り負け3着。明けて8歳初戦の大師オープン(OP)は逃げ馬を捕まえきれず2着。フジノウェーブ記念(SIII)はリッカルドの7馬身差圧勝の後ろで伸びず3着。東京スプリント(JpnIII)は直線で進路の確保に手間取り、逃げたグレイスフルリープに届かず2着。さきたま杯(JpnII)は外から捲っていったが、サクセスエナジーとの叩き合いにハナ差競り負けて2着。勝ちきれないレースが続き、繁田騎手はここで降板となる。
鞍上に新たに森泰斗を迎え、向かったのは7月、この年から重賞に昇格した浦和1400mのプラチナカップ(SIII)。いつもより前目の4番手で進めると、直線入口で前を捕まえ、あとは突き抜けて4馬身差で圧勝。断然人気に応えた豪快な勝利で、以降は森泰斗騎手が引退まで主戦となる。
続いては連覇を目指すアフター5スター賞(SIII)。中団でレースを進めると、外を回して直線に入ると大外一気。トップハンデ59kgもものともせず、残り100mで他を置き去りに突き抜けて3馬身差で快勝。見事に連覇を飾る。
もちろん次は連覇のかかった東京盃(JpnII)。1.5倍の断然人気はこの年条件馬の立場でドバイゴールデンシャヒーンに挑み5着と健闘、前走プロキオンSで重賞初制覇をレコードで飾ってきた4歳馬のマテラスカイ。キタサンミカヅキはサクセスエナジーら他の中央勢を差し置いて4.1倍の2番人気に支持される。
マテラスカイがハナを切る中、キタサンミカヅキは先行勢を見ながら5番手の好位で追走。そして直線ではいつもの大外一気ではなく、なんと流れのまま内を回って最内につける。前でマテラスカイが逃げ粘る中じっと機を待ち、残り200を切ってネロがマテラスカイを捕まえると、森騎手の鞭とともにその間のスペースに突っ込む! 最後はネロとの追い比べとなったが、アタマ差差しきったところがゴール板だった。
好位からのイン突きというこれまでにないスタイルでの連覇達成。レースの幅も広がり、JBCスプリントへ視界良好という感じの勝利であった。
迎えた2度目のJBCスプリント(JpnI)は京都競馬場開催。12.9倍の5番人気だったキタサンミカヅキは中団からレースを進め直線追い込んだが、ハイペースで逃げたマテラスカイと、先行策からそれを狙い澄ましたように差し切ったグレイスフルリープの追い比べには追いつけず3着。8歳の地方馬と考えれば大健闘だが、「強みは地方競馬レベルにはいないくらいのパワー」と森騎手が語るキタサンミカヅキには京都の軽い砂は合わなかったようで、充実期だっただけに大井開催でなかったことが惜しまれる3着だった。
年末は続けて中央のカペラステークス(GIII)に向かい、トップハンデ58kgを背負わされながら中団から追い込んだもののコパノキッキングの末脚に撫で切られ3着に敗れた。
この年交流重賞を含む重賞3勝、JBCスプリント3着、年間9戦全て馬券内という成績が評価され、NARグランプリ年度代表馬、4歳以上最優秀牡馬、最優秀短距離馬を受賞。2016年と2017年にはキタサンブラックがJRA賞年度代表馬を受賞しており、オーナーに3年連続となる「年度代表馬」のタイトルを贈った。
明けて9歳も現役続行し、根岸ステークス(GIII)に挑んだが、ここも58kgを背負い今度は見せ場なく9着と、船橋移籍後では初めて掲示板を外す惨敗。
南関に戻り、大井1200mの東京スプリント(JpnIII)へ。9歳だしさすがに衰えが来たかと思われ大得意条件にもかかわらず4番人気まで評価を下げたが、やはり大井1200mは彼の庭だった。なんと今回は逃げる1番人気ヒロシゲゴールドを2番手で追走する先行策。直線でヒロシゲゴールドを振り落とすと、出遅れから猛追してきたコパノキッキングを寄せ付けず交流重賞3勝目を飾った。
この後はかしわ記念(JpnI)に挑んだが、さすがにマイルは長かったか見せ場なく5着。さきたま杯(JpnII)も先行策を採ったが前2頭に離されて3着。断然人気に支持されたプラチナカップ(SIII)も逃げたノブワイルドを捕らえきれず2着。
そして3連覇のかかるアフター5スター賞(SIII)。9歳、トップハンデ59kg、体調も万全ではないという悪条件の中だったが、それでも大井1200mでなら地方馬には負けないのがキタサンミカヅキだった。中団から進めて直線で大外に持ち出す、大井1200mの彼の勝ちパターン。前を行くキャンドルグラスをクビ差かわし、後方からのサブノジュニアの猛追を凌ぎきってゴール板へ駆け込んだ。
この後は東京盃3連覇に挑み、そして3度目のJBCスプリントを引退レースとして翌春から種牡馬入りする予定だったが、腰や脚元の状態が思わしくなく、年齢や種牡馬入りのことを考えると無理はさせられない、ということで、アスター5スター賞3連覇を花道に引退することになった。
通算60戦13勝、船橋移籍後は19戦7勝[7-4-5-3]。獲得賞金は3億6000万円を超え、地方移籍後に2億円以上を稼いだ。大野商事の所有馬ではキタサンブラックには遠く及ばないまでも堂々の2位。地方移籍後は掲示板を外したのは中央での根岸Sだけという安定した戦いを見せた。
特に大井1200mでの戦績は[6-1-0-1]。中央にいたままであれば収得賞金的に交流重賞出走は厳しかっただろうことを考えれば、地方移籍がまさしく最大のファインプレーだったと言える。森泰斗騎手が「重戦車のような走り」と評したパワーで大井の深い砂を自分の庭とした、大井1200の鬼であった。
引退後
引退後は父キングヘイローや同父のローレルゲレイロが種牡馬生活を送った優駿スタリオンステーションで種牡馬入りを果たす。
ローレルゲレイロは残念ながら成功せず2022年に種牡馬引退となってしまったので、事実上は彼がキングヘイローのサイアーラインを託された最後の後継種牡馬となる。というか*ダンシングブレーヴのサイアーライン、ひいてはLyphard系の現役種牡馬自体が国内ではもう数頭しか残っておらず、キタサンミカヅキの背に掛かっているものは大きい。[1]
産駒は2023年からデビュー。種付け数は決して多くはないが、キングヘイローの血を繋いでいけるだろうか。
余談
キタサンミカヅキには同じ佐藤厩舎にお気に入りの牝馬がいた。
隣の馬房にいた3歳下のネイルアンドリングという牝馬で、洗い場から彼女が戻ってくると待ちわびたようにいななき、ネイルアンドリングもそれに返事をするという相思相愛(?)っぷり。彼女が放牧でいなくなると別の牝馬が隣に入ったが、そちらには目もくれなかったという。
そんなキタサンミカヅキの引退が決まり、北海道へ旅立つ日。同じ日にネイルアンドリングも休養から厩舎に戻ってきていた。種牡馬入り前に恋人(?)に一目会えて良かったね……と思いきや、ネイルアンドリングの帰厩はキタサンミカヅキが出発した2時間後。すれ違いで会えずに終わってしまったという。
ネイルアンドリングはその後レースに出走することなく翌年2月に登録抹消となったが、繁殖入りした記録は見当たらず、その後の消息は不明である。種牡馬入りできても恋が実るとは限らないのだから競馬の世界は厳しい……。
血統表
キングヘイロー 1995 鹿毛 |
*ダンシングブレーヴ 1983 鹿毛 |
Lyphard | Northern Dancer |
Goofed | |||
Navajo Princess | Drone | ||
Olmec | |||
*グッバイヘイロー 1985 栗毛 |
Halo | Hail to Reason | |
Cosmah | |||
Pound Foolish | Sir Ivor | ||
Squander | |||
キタサンジュエリー 2001 黒鹿毛 FNo.22 |
サクラバクシンオー 1989 鹿毛 |
サクラユタカオー | *テスコボーイ |
アンジェリカ | |||
サクラハゴロモ | *ノーザンテースト | ||
*クリアアンバー | |||
キタサンコール 1986 黒鹿毛 |
*アーテイアス | Round Table | |
Stylish Pattern | |||
パーセント | *バーバー | ||
タケユタカ |
クロス:Northern Dancer 4×5(9.38%)、Sir Gaylord 5×5(6.25%)、Princely Gift 5×5(6.25%)
関連動画
関連リンク
関連項目
脚注
- *2024年現在、ダンシングブレーヴの主要な後継のうち、*コマンダーインチーフのラインはレギュラーメンバー産駒のウルトラカイザーを残すのみ。*ホワイトマズルのラインはシルポートとニホンピロアワーズ、バンドワゴンの3頭が現役種牡馬だが種付け数は1桁~10頭台で、あとはそれこそキングヘイローのラストクロップで地方で奮闘しているギガキングや、ローレルゲレイロ産駒の出世頭であるアイオライトの種牡馬入りを期待するしかない状況。一応、国外では韓国に渡ったイングランディーレが、2012年の韓国二冠馬지금이순간(チグミスンガン、Jigeum I Sungan)を出しており、チグミスンガンが種牡馬入りして大統領杯(韓国GI)勝ち馬シムジャンウィコドン(Simjangui Godong)を輩出しているので、韓国で繋がっていく可能性はあるが……。
親記事
子記事
- なし
兄弟記事
- 3
- 0pt