龍賀時貞とは、アニメ映画作品『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』に登場するキャラクターである。
概要
『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』は有名な漫画・アニメ『ゲゲゲの鬼太郎』シリーズの過去を描いた作品であるが、それまでの『ゲゲゲの鬼太郎』には登場しないオリジナルキャラクターである。作中では「時貞翁(ときさだおう)」と呼称されることも多い。
左右に髪を残した禿頭の老人で、眉や口髭・顎髭が伸びている。公式キャラクター紹介イラストでは眉で隠れて目元は影となっているが、瞳が描かれるシーンではその瞳は黄色く、眼光も鋭い。
日本の政財界を牛耳る経済力を有する「龍賀一族」の当主。かつて社長や会長を務めた製薬会社「龍賀製薬」は日清・日露戦争で名を知らしめ、太平洋戦争で大きく業績を伸ばした。時貞翁は「その立役者であり、立志伝中の人」であるとのこと。中央政界と太いパイプをもち、戦後に日本に進駐してきたGHQとも関係を築いていたようだ。
作中の時代設定である昭和31年(西暦1956年)の時点で既に、龍賀製薬の社長は既に娘である「龍賀乙米」の夫「龍賀克典」に譲って自らは会長職に退いている。だがその後も経営に関する実権は彼が握っているのではないかとも囁かれていた。
単なる経営者・実業家というだけではなく薬学者でもある。薬品開発に尽力して日本国民の生活を長年支えたこと、および経営者として日本経済発展に多大な影響を与えたことの双方の功績を持って、勲章も授与されている。そのことを伝える新聞記事(以下に引用)では「日本薬学の祖」とまで讃えられている。
住まいは、山奥にある村「哭倉村」にある大きな屋敷だが、ここが住まいであることは公表されておらず少数の者しか知りえていない。本作の物語は、屋敷の中で龍賀時貞の亡骸が発見されたことにより、龍賀一族の跡目争いが始まったことについて主人公「水木」が動き出したことで始まった。
子供として長男の「龍賀時麿(「時磨」と表記されるシーンも)」、次男の「龍賀孝三」、長女の「龍賀乙米」、次女の「龍賀丙江」、三女の「長田(龍賀)庚子」がいる。ちなみに時麿が乙米に「兄さん」と呼ばれるシーンがあるので時麿が最も上であるようだが、孝三と三姉妹の年齢関係は明言されていない。また、彼ら兄弟姉妹の母については作中で全く触れられておらず不明。
孫として、乙米と克典の間の娘とされる「龍賀沙代」、および庚子と哭倉村の村長「長田幻治」の間の息子とされる「龍賀時弥」がいる。時弥は体が弱い少年だが、彼が熱でうなされているときに「たすけて……おじいさま……」とつぶやいていることから、孫に頼られる祖父であったことが伺える。
また時麿は彼の遺影にすがって「さみしゅうございます……!」と嘆き「とと様ー!」と号泣するシーンがある。さらに、乙米は「龍賀が日本の未来を担う」という、彼が語ったと思しき「大義」を受け継いでいる。亡くなったのちも、子や孫など後の世代に大きな影響を残す人物だったと言えるだろう。
『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』自体が横溝正史による推理小説『犬神家の一族』、特に原作小説版よりも1976年の映画版のオマージュが多い作品である。時貞のキャラクター設定にも同映画の登場人物「犬神佐兵衛」の影響がみられるようだ。
新聞記事
映画中、主人公の「水木」が電車内で思いにふけるシーンで映し出される[1]、龍賀時貞翁に関する新聞記事をスクラップした冊子からの写し書き。
新聞記事1
龍賀時貞翁叙勲!!!
十五日午後十時四十分秋の叙勲受賞者が発表された。受賞者の中にはあの日本薬学の祖である龍賀時貞翁もおり、長年国民の生活を支える薬品開発に尽力してきた事と、それに伴う日本経済発展への深い貢献が評価されたものと思われる。祝賀会は十八日が予定されており、時貞翁の功績を讃える為に五百人以上が出席する盛大な祝いの席になるとみられている。
会場近くには多くの生花が運び込まれ盛大な会に向けての明るいムードに包まれていたが、会場の視察に訪れた時貞翁は「身に余る光栄である。日本の復興にさらに力を尽くしたい」と気を引き締めた言葉を残した。言葉の通り時貞翁が会長を務める龍賀製薬は本社の改修を発表しており、本社体制をよりいっそう強固にすると共に、これからは人材の育成にも力を注ぎたいとして全国に先駆けて実務研修を導入するなど日本薬学界を発展させる為の計画を多数打ち出している。「生涯現役」を掲げる時貞翁は先頃から厚生省との会議を欠席する等体調不良が目立っていたが、記者に向けて変わらぬ笑顔と眼光で「元気な限りまだまだ続けて行きたい」と社会貢献への衰えぬ意欲を見せた。
新聞記事2
画面外にあったり、潰れているなどで判読不能な文字は「■」で表示した。この記事はこの後にも画面外で続いているようである。
■■■■■■■■■
長を■■■■■■■■
した■■■■■■■■
の新社長■■■■■■
表された。■■■■■
た時貞氏は■■■■■
職となり社■■■■■
典氏に譲られ■■■■
る。しかし、■■■■
の関係者によると■■
氏には決定権はなく■
あくまで時貞氏の■■
方針を実行するお飾り
の社長になるのではな
いかと噂されている。
社長就任式も時貞氏の
会長就任式の色合いが
新聞記事3
この記事は特に文字のぼやけが強く、前後の文脈から文字を推定した箇所もある。
雇用四千人見込まれる
日本薬学会の重鎮龍賀時貞翁は、龍賀製薬にて行われている薬品の大量生産の為に新工場を設立することを発表した。この決定には龍賀製薬の製品使用を推進している厚生省も、多くの国民が健康な生活を送る為に必要不可欠であると支援を惜しまない事を表明した。この工場が稼働した暁には四千人の雇用が生まれると見られ、経済発展の一助になる事を政府関係者も大きな期待を寄せており、時貞翁の日本経済における存在感は今後もより強固なものになると考えられる。稼働予定は来年冬を予定しており、責任者として時貞翁の娘龍賀乙米さんの婿である龍賀克典氏に一任されるのではと憶測を呼んでいる。
新聞記事4
画面外にあって判読不能な文字は「■」で表示した。この記事はこの後にも画面外で続いているようである。
八日午後一時連合国軍総司令部(GHQ)マッカーサー元帥が厚生省との会議の為、東京霞ヶ関に宿泊している龍賀製薬会長の龍賀時貞翁の元に3回目の訪問を行った。1回目は時貞翁の体調が思わしくなくマ元帥は時貞翁を前に撤退を余儀なくされ、2回目で会合の約束を取り付け、昨日八日にとうとう念願の二人での会合が実現する事となった。
新聞記事5
中央政財界の裏に
製薬王の影八月に経済金融庁次長と会談していた事が明らかになっていた龍賀製薬会長の龍賀時貞翁だが、今月六日大蔵事務次官の私邸に出入りしていたことが発覚した事から時貞翁が中央政財界に何等かの働き掛けを行っているという疑惑が俄に信憑性を持ち始めた。時貞翁は戦時下の薬品供給を担うことで厚生省と深い関わりがあり、戦後復興時もその経済力で政界に強い影響をもたらしていた。
ネタバレ
以下の記述には、ネタバレが含まれます。 |
これは比喩表現ではなく、実際に作中で彼の所業について知ったキャラクターが嫌悪感のあまりに吐いている。
近親相姦
乙米が「沙代がちゃんとお父様の子を孕んでいれば……」と独り言で嘆くシーンがあり、それを聞き咎めて動揺する水木に乙米が語ったことによれば「龍賀の女には、霊力の高い子を産むために当主に身を捧げる義務がある」とのこと。つまり時貞は自分の孫と性行為を行っていたということになる。水木はこれを知って嘔吐し、「最悪だ……こんなに醜悪な一族に憧れていたなんて、自分に腹立たしい!」と嘆いた。
「沙代は」ではなく「龍賀の女は」という表現であるため、作中に登場した他の龍賀家の女性もその「義務」を負わせられていた可能性もある。本作を鑑賞した者たちの中からは「沙代の父親が本当に克典なのか、時弥の父親が本当に長田幻治なのかすら怪しい」という嫌な感想も出ている。
本作のパンフレットに掲載されている監督のコメントによれば、「龍賀一族は親が子どもを搾取しています。時麿は物語の最初から精神的にこわれてしまっていますが、ほかの人たちも物語が進むにつれて、親からの虐待や搾取のせいで生じた歪さが少しずつ見えてくる」とのこと。
孫の体を奪う
さらに、作中後半で孫の時弥の体を乗っ取った姿で既に死亡したはずの本人が登場する。「魂移し(まぶいうつし)」の外法を用いて時弥の魂を彼の体から追い出し、そしてその体を奪ったのであった。水木やゲゲ郎のように霊力が高く、魂の姿を見ることが出来る者(及び観客)からは首から下は時弥の身体でその上からは時弥の肩幅とほぼ同じくらいの大きさの時貞の頭というアンバランスな姿に見える。ショタジジイの最悪な形である。
その理由については、彼の台詞によれば「齢八十を超えて余は嘆いておった。時麿を始め余の子供たち、いや最近の若い者は皆なっとらん。これはまだまだ余が導いてやらねばならぬ」というもの。「時弥はそのための器として作った子」であるとも語っている。
時貞の死から時弥の体が奪われれるまでタイムラグがあったことについて、彼は「時弥が抵抗していた」と語っている。時弥がうなされていたシーンでは時貞の悪霊が横に座っているが、時弥が彼の術に無意識のうちに抵抗して苦しんでいたものか。ここで「たすけて……おじいさま……」と時弥がつぶやいた際に悪霊が黄色い目を開いて時弥をねめつけているが、この時に時弥が「祖父に頼る言葉を出した」ことが付け入る隙となり、体が奪われる最後の一押しになったのかもしれない。
更には10歳も満たない幼い少年の身体を乗っ取ったにも拘らず、水木とゲゲ郎がゲゲ郎の妻を探す様を嘲笑いながら酒を嗜んでいた。
幽霊族からの搾取
哭倉村にある大きな縦穴「窖」(あなぐら)の下にある地下大空洞には人間より歴史の古い妖怪のような種族「幽霊族」を大量にその根に絡めとった「妖樹 血桜」が生えており、この血桜は幽霊族の血を吸い上げて抽出する。これをさらに人間にそのまま注射すると生きながら「屍人」と呼ばれる化物の姿に変化する。そしてその「屍人」から抽出した液体を薬剤として精製したものが、龍賀製薬が特別な顧客にのみ密かに供給する「血液製剤M」である。
この血液製剤Mを注射すると「すさまじい力を持ち、何日も飲まず食わず眠らずで活動できる薬品」となり、これを使っていた部隊が日清・日露戦争での日本の勝利の裏にあった、と作中で噂されている。つまり、このシステムを司った時貞はかつての日本の栄光を後押しした存在であるともいえなくもない。戦後は企業戦士がこれを打って働き、経済戦争に打ち勝って日本を豊かな国にするという構想も作中で語られていた。
「妖樹 血桜」は根に絡めとられた犠牲者の命をできるだけ永らえさせるとされ、幽霊族の苦しみは長く続き、怨みは増幅される。そして窖を井戸に見立てて「井戸の中の骨の怨みの妖怪」である狂骨が発生する。時貞は髑髏を用いた外法の術によって狂骨をこの使役する。さらにこの大空洞には幽霊族の怨念を呪詛返しする結界が張られているために、幽霊族の怨みが深ければ深いほどに時貞の術は強力になっていく。外道であるが効率的なシステムとなっている。
さらに、このシステムが維持できなくなれば結界が壊れ、強力になった狂骨は窖の外に飛び出て、怨念は怨念を呼んで増幅し続けて国を滅ぼす。そのため誰かがこのシステムを問題視したとしても、おいそれとは破壊できないものになっている。
台詞集
(※ディスク化や配信がなされていない時期に記事編集者が劇場で観覧した際の記憶に基づくものであるため、実際の台詞とは細部が異なる場合があります)
- 「僕だよ、時弥だよ」 (時弥の体を乗っ取った姿で)
- 「いかにも、余が昭和の天下人にして薬学の天才、稀代の大術者、龍賀時貞である!」 (中身が時貞だという事を見抜かれた後に)
- 「ん~、芳醇な香りじゃわい」 (口にしていた酒の香りを嗅ぎつつ)
- 「底辺を這いずり回る人生か……みじめじゃのう。人間、ああはなりたくないわ!」 (血桜の根から妻を必死で探す鬼太郎の父とそれを手伝う水木を眺めて、頭を横にふりつつ)
- 「元はたいそうな美形であったが、血を取りすぎてしもうたわい!」 (やつれ、目の腫れた姿となった妻を見て動揺する鬼太郎の父に。嘲るように舌を出しながら)
- 「これでMも大増産! 日本の未来は明るいわ!」 (鬼太郎の母が赤ん坊を妊娠していることを悟って、まだ幽霊族の血を搾り取れるという喜びに小躍りする)
- 「会社を二つ三つ持たせてやろう。余の配下となれ!」「もっといい服を着ろ! 御殿に住んで、運転手付きの高級車に乗れ! 美酒に美食、美女をたっぷり味わえ! これぞ人生ぞ!」 (自分を倒すために斧を引きずって近寄ってきた水木に対して)
- 「ゴホッゴホッ! か弱い年寄りを……」 (狂骨に追い詰められ、逃げられなくなった際の命乞い)
その他
関連項目
脚注
- *公式動画「映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』本編映像(鬼太郎の父たちの運命の出会い) - YouTube」の再生時間0:17~0:21で確認できる。
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