反原発とは、原子力発電に反対する人達で構成される市民団体や組織、またはその個人の事である。
概要
以前は『反原発団体』のように、原子力発電に対して反対してきた市民団体、組織に対してこうした表現が用いられて来た。旧来からの反原発派としては、黎明期からチェルノブイリ事故までを支えた高木仁三郎(核化学者)や広瀬隆を筆頭に、坂本龍一(作曲家)が挙げられる。旧来より『脱原発』を含めて解釈されることもあるなど、非常に広い意味で使われている。対義語としては『原発推進派』『原発擁護派』などある。
基本的に『原発の危険性』、『放射能汚染への忌避』、『原子力政策に対する疑問』について考えている人が多い。『自然エネルギーの推進』が加わる場合もある。
日本においてはチェルノブイリ事故の風化とともに、運動としては全く統制の取れているとは言い難い状況となった。これは、様々な主張を持ったグループが、それぞれ別々に反原発運動を始め、雲散霧消していったためである(極端な例では、旧新左翼のテロリストであった団体もこれに便乗するケースが存在した)。
そうした風潮の中で、一部には公園の不法占拠や総理官邸へのドローンテロなど迷惑行為を行い、一般市民を困らせてしまう者などが出ている。そうした様子は動画、Twitter上などで冷笑すべき噂話として広められる事もあり、原発の是非と関係のないところで反原発の流れが中傷される元ともなっている。
そのため、今後はイベントなどにおいてのモラル向上も課題の一つとされる。
2011年3月11日に発生した原発事故をきっかけに、東京電力が世界史に刻まれるレベルの巨大事故を起こしてしまった影響からか、一層活動が活発化してきている。特にスポンサーとして電力業界が権勢を揮っている芸能界から、俳優の山本太郎が共感の姿勢を示したことは広く話題となった。山本はその後も、全国各地の反原発団体に姿を見せるなどしている(が、参議院議員当選後も複数の問題を起こしている事は事実であるが・・・)。
また原水爆禁止日本国民会議など、一部の反核団体も『原爆で放射線の恐怖を知った』として反原発の姿勢を示している。
「反原発」の言葉がもつ意味合い
前述の通り、一口に「反原発」と言っても広い意味で使われることが多い。
原発問題をエネルギー政策の観点から見れば、原発廃炉後の代替エネルギー源や、原子炉及び放射性廃棄物の処理方法・電力の安定受給や電力会社体制のあり方など、長いスパンでの議論や検討が求められ、一朝一夕では結論の出ない問題である。
一方では反核、つまり原子力や核兵器に対する反発も根強く、問題や議論を複雑にしている。さらに言えば低線量被曝下の健康被害や食料品の内部被曝問題についても長期的に向き合う必要がある。
こうした面を受けて、一概に「反原発」と言っても、個々人によって反対する理由や支持する政策は同一とは限らない。
おもな例
- 現存する原発は安全性に問題があり、反対。耐震工事などを行い、古い原発は廃炉か新規原発に置き換える。
- 日本の土壌の性質(地下水が多く、放射能が染み出す恐れがあるなど)故に核廃棄物処理に明確な方法が確立されていない以上、現行の原発は順次廃止し、核融合発電など、次世代のエネルギー技術研究に予算を投じるべきだ。
- コストはかかるが、自然エネルギーの導入を促進する。安定受給や電気料金値上げの問題はスマートグリッドや送配電会社の分離で対応する。
- 原発事故が発生した際のリスクを考えると、原発は認められない。数十年以内の廃炉を求める。
- 即時撤廃。戦後の原子力行政には賛成できない。
ここでは反原発の例を挙げたが、いわゆる「原発賛成派」「原発容認派」においても、全員が現行の政策に全て賛成、というわけでもないため、議論の際にはレッテル貼りに終始することなく、話し合いを進めるべきである。
特に健康被害が絡むこの問題は感情論が先行しやすく、「急進的反原発派」からはセンセーショナルな主張や、特にシーベルトやベクレルと言った科学的単位等が多いがゆえに、嘘偽りに近い誤謬を含んだ情報(デマ)が広まりやすい傾向があるため、脊髄反射せず、情報の信憑性やソース源の確認をするなどが、ネットにおける議論では重要だろう。
似て非なる存在、「危険厨」
危険厨とは
これは当然のことであるが、『知識に基き正しく怖がること』、『あえて悲観的に状況を予測し、出来るだけ悪い事態にも対応できるようにすること』はいずれも『防災における基本的な考え方』であり、そのような言動をとる人を批判することは間違いだとされている。
しかし一見すると、反原発の立場に立ってそうした知識を伝えようとしているかのようでいながら、その実態はただもっともらしく語り、必要以上の危機感を夢中になって煽るばかりの人も存在している。そうしたやっかいな人たちは一般に「危険厨」と呼ばれ、反原発とは別物として区別される。放射脳と似ている。
原発事故の被災地の中には、確かに一部危険な場所も存在している。しかしそうではない、実際に放射線量が計測されるなどして安全が確認されたにもかかわらず、誤った思い込み(イメージ)を根拠として危険だと言いふらされている地域もまた少なからず存在している。
「危険厨」は、誤解に基く悪い風評を広め、被災地に更なる苦境をもたらす存在として多数の人から忌避されている。一方で、危険厨は火力発電依存回帰による、酸性雨や大気汚染・地球温暖化・環境破壊についての危険性には全く触れないため、ある意味では安全厨でもある。
なお、一見似ている「反原発」と「危険厨」だが、実際にはこれだけ違う特徴を持っているため、意外と簡単に見分けることができる。
危険厨、そして安全厨
また危険厨とは反対に、『何でもかんでも安全』『何も考えなくとも絶対に安全』と言い張る一派「安全厨」も存在している。これは身の回りに何らかの危険の兆候があっても「別に大したことにはならない」と考えてしまう心理「正常性バイアス」に思考が囚われた結果、そうした言動をとるようになったものかもしれない。
この「安全厨」「危険厨」のどちらにも社会的ステータスの高い人物がおり、自身の極論をさももっともらしく理屈付けることがある。そのため、例え有名だったり、頭の良さそうな人が話したものであっても、時には勇気を持って疑うことが必要な状態になっている。
原子力発電をこの後も推進するか、取りやめるかは、そのどちらの立場にも一長一短があり、同時に地域、国家の将来に大きくかかわる判断の難しい事柄となっている。そうした微妙な選択にただ『安全だ!』『危険だ!』と騒ぎ続けることで影響を及ぼそうとするのは全く論理的な行動ではない。
何より、日本の将来がどの様に定まるにせよ、「安全厨」「危険厨」とも原発災害に見舞われた地域にとってはただの迷惑な人たちでしかない実態は広く知られており、そのため両者ともたびたび強い批判を受けている。
官邸前デモ
東日本大震災以降の日本において、もっとも有名な反原発デモなのが「官邸前デモ」だろう。これは首都圏反原発連合が主催する抗議活動で、毎週金曜日に首相官邸前で反原発を訴えている。
この官邸前デモの特徴は、Twitterなどソーシャルメディアを使った参加者募集であり、左翼・右翼といった既存の団体にとらわれない、 国民の声を官邸に届けるといった点ある。
前述の通り、TwitterやFacebook等のソーシャルメディアを活用したことから、いわゆる「ジャスミン革命[1]」になぞらえて「紫陽花革命」と呼ばれたこともあった。この名は大飯原発再稼働反対デモが行われた6月22日以降にハッシュタグなどで登場している。
「紫陽花」の名と関連してか、官邸前デモは7月6日の動員15万人(主催者発表。第三者発表は2万1千人)、7月29日の「脱原発国会大包囲」での動員20万人(主催者発表。第三者発表は1万数千人)にピークに達し、8月22日には首都圏反原発連合の代表者と野田首相(当時)が首相官邸内で意見を交わした。
これ以降は「11.11反原発1000000人大占拠」において動員10万人(主催者発表)などあるものの、官邸前デモの参加者数は減少傾向に転じ、衆議院解散後の11月末から12月初めには動員5千人規模にまで縮小した。また衆議院選挙にて急進的な脱原発を掲げた政党が軒並み議席数を減らしていることから、反原発派には決して好ましい状況とはいえない。
海外の反原発傾向
海外では、1979年に発生したスリーマイル島の原発における炉心溶融事故や、世界最悪と言われる1986年のチェルノブイリ原発事故を契機とした反原発・反核運動が起きていた。チェルノブイリ以来最悪の原発事故となった福島第一原発事故は、(ほぼ人災ではあるものの)世界初の災害(津波)が遠因による事故であるため、世界的に見ても改めて原発の危険性が再確認された形となった。
だが、よくマスコミ各社や論者が外国の反原発事例を引き合いに出す場合が多いが、アメリカや中国などの原発推進国には報道しない自由で目を背け、ドイツだけを引き合いに出す事が殆どである。また、各国による電力事情や人口・産業構成は様々であるので、他国の例をそのまま日本に持ち込めるというわけでもない。
例えば欧州の場合、自国では原発を廃止しても、フランスや東欧の原発から電力を調達できる他、中東・ロシアからのパイプラインで石油を輸入できる、といった背景がある。
また推進国でも、途上国や新興国はリスクよりも電力の安定受給を重視し、先進国は自国の技術や電力そのものを輸出するために賛成している。
反原発的な国
- ドイツ(チェルノブイリ原発の事故でも被害を受けたため、反原発色の世論は比較的強い)
- イタリア(国民投票で反原発が支持され、無期限の原発凍結が決定)
- ニュージーランド(いわゆる「反核法」があるため原子力発電所の建設は法律違反となる)
- スイス(2034年までに国内にある5基全てを廃止する方針を政府が示す)
原発推進国
- フランス(2010年時点で59基の原子炉を持ち、国内の使用電力の約7割を原発で補っており、原発の輸出にも積極的であるが、日本の数百倍のトリチウムを海に垂れ流すなど、脱原発の意見も根強くある)
- アメリカ(スリーマイル島での事故以来、国内での新規原発の建設を凍結していたが、最近新たな原発の建設が決定された)
- ロシア(チェルノブイリ事故を起こすも、自国の核技術に自信を持っているため今後も積極的に原発を活用、輸出する方向)
- 中国(予定では2030年までに中国の原子力発電の発電量は世界一になる。アルゼンチンに輸出確定。英国にも原発建設計画参加が見込まれている。また、水上稼働の原発も20基建設する予定が報じられている。)
- 韓国(2030年までに160基以上の原発を建設する予定。核兵器保有を国民が積極的に支持をするなど、核アレルギーは薄い。中国と同じく原発を活用していく予定であり、原発の輸出(UAEに原発を建設中。)にも積極的であるが、こちらは部品安全性、核廃棄物の貯蔵に関して問題提起がなされる報道が時折ある。)
- イラン(アメリカ、EU、イスラエルからの強硬な反対の中で原発開発を続行)
- インドネシア(住民に危険性の認識が薄く、そのため問題が有る土地への建設計画も多いとされる)
- ウクライナ(東京電力福島第一原子力発電所事故の後も、早い時期に原発利用の継続を明言)
- 北朝鮮(エネルギー不足への備えを理由に『原子力関連施設』の拡充を続けている)
関連動画
反原発運動の様子
反原発の人々が憂う状況
左:裏切られた宣伝句『事故は起きない』。 / 右:放射性廃棄物には処分先が存在しない。
関連静画
関連商品
原子力に関する知識
- 原子力 / 原発くん / プルト君
- 原発事故時の対処・退避
- 原子力関連用語の一覧 / 日本の原子力発電所一覧
原子力発電所に関連した事故について
- 東京電力 / 北陸電力 / 九州電力
- 日本原子力発電 / 日本原子力開発機構 / 動力炉・核燃料開発事業団
- 原発事故 / 福島第一原子力発電所事故 / 高速増殖炉もんじゅ
- スリーマイル島原子力発電所事故 / チェルノブイリ原子力発電所
原発政策、原発事故への風刺
- 頭狂電力
- 原発音頭 / ずっとウソだった / ほぼ日P原発シリーズ
関連項目
脚注
- 3
- 0pt