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この記事は第799回の今週のオススメ記事に選ばれました! よりニコニコできるような記事に編集していきましょう。 |
逆転裁判シリーズと現実の裁判や法律等の相違点一覧とは、ゲーム『逆転裁判』におけるリアルとゲームの違いをまとめたものである。
『逆転裁判』は2001年よりカプコンより発売された裁判や法曹を下地にした法廷バトル物のアドベンチャーゲームである。
しかし、当たり前の話だが逆転裁判内における裁判や法律は現実におけるそれとは大きく異なる。シリーズの基礎的な部分である序審法廷制度(これについては該当記事があるので詳細はそちらに譲る)などはその典型例といえるだろう。この記事ではシリーズ内におけるその相違点をまとめていく。
ネタバレを含むので、プレイを予定してる人や途中の人はクリアしてから見ることを勧める。
なお、逆転裁判の生みの親である巧舟氏はじめ逆転裁判の開発サイドは現実の裁判について傍聴など取材した上で、あえてその現実とは切り離して行っていることに留意が必要である。なので、ある種この記事は野暮な側面があることをご了承いただきたい。
断りがない限り、日本国内の法律と刑事裁判という前提に則って記述する。
ゲーム内ではもはや耳にタコができるほど聞くことになるこのセリフだが、現実の裁判においては言わないわけではないがその意味合いは大きく異なる。
例えば刑事訴訟法第309条では証拠調べに際して、異議を申し立てることが出来ると書かれており、裁判官に対して検察が提出した証拠とその論証に対して不服があれば弁護士は異議を申し立てることが出来るとはっきり書かれている。
だが、この条文の宛名はあくまで「裁判所」である。ゲームのように証人に対して行うことは出来ない。証拠や証言に対して事実認定を行うのは裁判所、ひいては裁判官の役目だからである。
また、証人の証言の矛盾を指摘して異議を唱えることはもはやゲームの醍醐味といえるが、これも現実の裁判では行えない。やるとしてもその証人に対して質問した検察官(弁護人)の言動や行為について裁判官に対して行い、法令などへの違反があった場合にやることで証人に直接やることは無い。刑事裁判の相手はあくまで弁護士ないし検察官であって、私人たる証人ではないからである。
法令上では異議の申立とあるので、「異議あり!」の表現にこだわる必要はなく、異議があることが伝わる表現で言えば良いのだが、逆転裁判シリーズにあこがれてか現実の裁判で異議ありという弁護士もいないわけではないようだ。また、ゲーム中では大声で人差し指を突きつけているが、現実の裁判でそんなことをすれば威迫行為ととられて裁判官から注意を受けたり、心証を悪くするのでやってはならないと指導される。想像がつくと思うが、待ったやくらえも同じで、恐らくやった瞬間に裁判官の厳しい一言と場合によっては退廷を命じられてしまうだろう(刑事訴訟法304条の2、刑事訴訟規則第199条の13)。
余談だが、裁判で異議ありというのは逆転裁判シリーズが初めてというわけではなく、その前から『古畑任三郎』など刑事ドラマなどではよくやられている。
これは実際に傍聴に行ったことや訴訟を起こされたことがあればわかると思うが、画像の通りあのような豪華な装飾などは一切なくとにかくシンプルに作られている。以下に簡単に相違点を列挙していく(細かいところは裁判所によっても違うと思うのである程度はご容赦を)。
最高裁はさすがにやや豪華に作られているが、逆転裁判の舞台となる地方裁判所はごくシンプルである。
(正式名称は法廷等の秩序維持に関する法律)というものが存在し、その名の通り法定内で暴れたり、進行を妨害した人に対して裁判所の権限で制裁を科すことができる。これは制裁裁判という通常裁判とは異なる手続きで処分されるため、監置という独特な文言が使われる。だが、あくまで秩序を乱した場合に適用されるものであって、作中のように反論を封じるために用いることはできない。逆転裁判は全体的に「真実」を見つけ出すことを追及しており、建前上は現実の刑事裁判でも大きな差異はない。客観的真実を目指すという根本的な目的は逆裁でも現実の裁判でも変わらない。
ただし、実際のプロセスは逆裁のそれよりもかなりシビアで、警察と検察の捜査で見つけ出した証拠と立証に対して、弁護士が反論したり主張を行い、裁判官がそれを受けて事実認定と量刑判断を行うのが実際の裁判である。ここで要となるのは、実際の裁判では真実以上に、法に則った公正な裁判手続きが遵守されているかどうかというのが重視されるという点(デュー・プロセス・オブ・ロー)である。その為に、これら証拠はその資格を備えてるかどうかというのを必ず精査される。
身も蓋もない事を言えば、仮にその証拠が被告人の犯行を立証する証拠であったとしても、適法かつ適切な手続きに則ったものでなければ排除されてしまうのである。これは違法収集証拠排除法則[2]といい、刑事裁判における極めて重要な法則である。
例えば、殺人事件が発生したとして、警察は捜査する中で、ある人物を被疑者として任意同行する際、指紋採取を同意なく行った。その結果、凶器から被疑者の指紋が採取されたとしても、指紋採取は必ず同意が必要となるので、これは違法収集による証拠ということで証拠として取り上げられなくなってしまう。裁判の証拠はそれが適切な手続きによって得られた、事件との関連性がある証拠能力を備えていることが絶対条件だからである。
せっかく血道を上げて警察が捜査しても、それが法に則ったものでなければ事実認定どころか証拠能力すら認められずに門前払いされてしまう。それだけ、刑事裁判やそれに付随する手続きはデュー・プロセス・オブ・ローを重要視している。国民から刑罰権を取り上げて、自力救済を禁止している以上、法に基づいた運用が厳格にできているかというのを特に刑事裁判では要請されるのである。また、私人と捜査機関では力の均衡が明らかに捜査機関によっているため、その権力に任せた自白強要や冤罪の防止という意味でもこの点は重要視される。
そして、逆転裁判と異なり、神の目を持たざる現実の裁判においては客観的な真実など知りようがないので、あくまでそのような手続きに沿った地道な”事実”認定の積み重ねから量刑判断とその先の判決を下していくことになる。そして弁護士に求められるのは依頼人の希望に則って裁判を行うことで、真実を見つけ出すことではない。反対の検察側も、目的は被告人を訴追して然るべき刑罰を受けさせることで、やはり真実の追及が仕事ではない。逆転裁判に憧れて法曹に入ったり法学を勉強した人がこの現実に直面して面食らうことはよく聞く話である。
それでも、先に書いた通り、刑事裁判は実体的真実主義(刑事訴訟法第1条)という、裁判外での歴史的・客観的真実があることを前提に、そのすり合わせとして裁判を行っているという建前があるからまだマシなほうである。逆転裁判と現実の裁判におけるその扱いの最大の相違としては、その更に上位としてデュー・プロセスの遵守が存在するという点に留意が必要だろう。ただし、一応逆転裁判本編でも、蘇る逆転の5話などでその点についても少し触れているので全く無視しているとも言い切れない点は注意。
一方の民事裁判は刑事裁判と異なり権利関係が変動したりするのが日常茶飯事なのと、当事者間の話し合いの延長という前提が働いているので、実体的真実がほとんど意識されない。例えば借金をめぐる訴訟でも、債権者や債務者が主張していない事を、裁判官が証拠調べの結果見つけ出したとしても、それを事実認定に加えてはならないというのが民事裁判の考え方である(形式的真実主義 民事訴訟法246条)。これは民事裁判はあくまで私人間の争いであり、当事者間の認識の域から出ないし、裁判所はその認識に関係のない解釈をいれてはならないとしているからである。
ある事実について、主張を裏付ける証拠などをあげる責任や義務のことを、挙証責任と言うが、刑事裁判において被告人の被疑事実の立証に関しては全て検察官にある。逆転裁判では当たり前のように弁護人に立証が課せられるが、大半の場合全て成歩堂はそれはそちらのやるべき事ですの一言で一蹴できるのである(もちろんそんな事をすればゲームにならないので敢えてなかったことにされている)。一方の被告人に無実であることの証明をする積極的な責任は課せられていない。
悪名高い人民裁判や魔女裁判においては被告側に無実の証明が求められたが、当たり前だが捜査機関と一般人では証拠収集能力に天地の差があるので冤罪が多発することになった。その反省として「疑わしきは被告人の利益に」の法則が貫徹され、現実の刑事裁判においては全て検察側に挙証責任が課せられているのである[3]。
詳しい説明は当該記事に任せるとして、あくまで法制度との相違点を列挙する。
裁判員制度導入である程度迅速化が図られるようになったとはいえ、いくらなんでも3日(作中ではほとんど1日で終わってしまうらしい)、逮捕からの期間で4日ほどで判決にいくことはない。裁判員制度が開始された当初の実審理期間は3.7日と逆裁とそう変わらない期間だったように錯覚してしまうが、あの審理の前提には莫大な検察と警察による下調べの期間や起訴までの時間、弁護士などとの調整があるため、見かけ通りの迅速さで判決が出てると判断することはできない。
ちなみに、裁判所が事件を受け付けてから地裁判決までの平均審理期間は刑事事件全体で3.8ヶ月、裁判員裁判で12ヶ月
という長大なものになっている(2020年)。
また、それでも事件の複雑化や熟議を尽くすために年々その期間の長期間化が問題になっており、2009年の開始当初から2022年の実審理期間を比較すると3.7日から17.5日と5倍近い日数
で、辞退率上昇の一因になってるのではないかという指摘があがっている。
ただし、数少ない例外もあり、例えば交通違反などで多く用いられる略式裁判などは開廷されず検察側の資料のみで判決がでてくるので通常裁判に比べて極めて早く判決が出される。
そもそも、基礎的な証拠や証言の段階から矛盾や杜撰な点が多く見られる(ゲーム上仕方がないところもあるが)が、現実の法制度においては起訴するまでの段階で検察官は徹底的にそのあたりの洗い出しや精査を行うため絶対に起こり得ないとまではいわないにしても、あれほどの頻度で起こることはない。2の1話で証拠写真と被告人の漢字の名前の相違に気づかないでいたり、3の3話で証拠品についたケチャップを見落としていたり(これ自体は重要な伏線ではあるのだが)などの極めて初歩的なミスは大概の場合起訴するまでの段階や、公判前整理手続の下準備までで弾かれる。
我が国の検察官には起訴便宜主義と言って、起訴するかどうかの裁量が広く持たれており、少しでも公判を維持できる自信がなければ不起訴にしてしまうのだ(一応検察審査会による強制起訴などの例外はある)。令和2年度(2020年)の犯罪白書によれば起訴率は38.2%、略式命令が多い道交法違反を除いても49.3%
ほどで一般のイメージする以上に裁判までたどり着く可能性というのは低いと思われる。これに、警察段階での逮捕するかどうかまでの判断とか、微罪処分などを含めれば実際はさらに多くなる。ちなみに英国やアメリカなどでは大陪審という形で市民が起訴の権利を有していたり、被害者当人が起訴する権利を有していたりするので、我が国のように刑事裁判における起訴が検察官に基本限定されているのは珍しい方。
我が国の司法制度や警察制度の背景には比例原則や謙抑主義といった、戦前の特別高等警察や治安維持法などの国家権力による暴走という反省から雁字搦めにその権力行使が抑制されており、極めて慎重に事を運んでいることに留意しておこう。
また、これに対し序審は起訴までの段階を代行していて、高裁以降が通常の裁判なのではないかという指摘もあったりするが、公式からはそのあたりは特にアナウンスされていないのでそのあたりの解釈はユーザーに任されている。
(4話)
。また、事情を考慮するとどちらかといえば成歩堂は被害者で同情の余地があり、除名事例を見ると故意の公文書偽造や莫大な預り金の着服といった悪質かつ重大な事犯が大半で、この程度の事例ですぐに除名処分が出るかといえば議論の余地があるだろう。本作の議論を呼んだ大きな要因である裁判員制度ことメイスンシステムだが、現実のそれとの乖離が著しいのは言うまでもない。メイスンシステムそのものの批判は4の記事に任せるとして、以下に法律や運用上の相違点を記載する。
(3話)この項目については作中の舞台が明治中期(開発によれば明治30年頃)なので、大日本帝国憲法及びその下にある法律、又は当時の英国の法律を基に記述する。
ケース1
ナルホド「異議あり! 証人の証言はムジュンしています! この監視カメラのデータによれば(以下略)」
御剣「何ッ……聞いてないぞ」
サイバンチョ「弁護側の異議を却下します。その監視カメラの記録は事前に証拠として提出されていない為、本法廷において認めることはできません。それになんですか。証人を威嚇するように指をつきつけてはいけません!」心証ゲージボーン
ケース2
御剣「では、被告人がその場にいなかったことを証明できるのか? 成歩堂。やれるものならやってみせるといい」
ナルホド「異議あり。被疑事実の立証は全て検察側の責任にあり、弁護側に立証の義務はありません」
サイバンチョ「異議を認めます。検察側は質問を変えるように」
御剣「ム……」
つまりは現実の裁判に則ってやるとなるとこんな風になるのである(わかりやすいように厳密な裁判での言い方ではないことはご容赦願いたい)。
見ててわかると思うが、これではムジュンを暴く爽快感など得られるはずもなく、ゲームとして非常に地味で煩雑だ。故に、逆転裁判ではゲームに落とし込む上でそういうのを排除しているわけである。
色々と書きましたが、逆転裁判はあくまでショーや劇場としての演出であり、現実の裁判はそれとはかけ離れたとっても地味で地道な作業の連続です。
しかし、そのような冗長ともいえる慎重な手続きの積み重ねがあればこそ、法治国家として秩序と自由の均衡の取れた社会が作られるということを決して忘れないでください。
そして、もしもあなたが裁判の証人として呼ばれたり、もしかすれば何らかの事件に巻き込まれて被告人やもしかすれば原告として立つことになったり、裁判員となって法廷に関わる事となった場合、逆転裁判のような派手さはない一方、大声で人差し指をつきつけられたり、ムチでぶたれたり、コーヒーの薫りが鼻をくすぐったり、ギターの音が聞こえたり、鷹が飛び回ったりするようなことはないので、安心して出廷してください。でも偽証罪はちゃんとあるので気をつけて。
DSには法曹界に監修を依頼し現実の裁判の流れを極めて忠実に再現した『有罪×無罪』というゲームもあるので、逆転裁判との違いを確かめてみるのも良いかもしれない(ただしこちらは弁護士ではなく裁判員視点のゲーム)。
- 刑事裁判を語る上で不可分である重要な法律。刑法に規定された法律をどう裁くのか、どう手続きするのかなどが事細かに定められている。これを法学上では手続法と呼ぶ。
- ここに書かれている罪を犯したらどれだけの刑になるのか。どういう風に量刑を規定するのか、どこまでを範囲とするのかなどが定められている。このような法的な関係を定めた法律を実体法と呼ぶ。
- 裁判所の組織や権限、事務の取り扱い、裁判官や職員の人事などを定めた法律
- 裁判員制度施行に伴い制定された、裁判官の選定から手続き、裁判の関わり方などを定めた法律。
- この記事はあくまで裁判や法律の実体について書かれた記事なので直接は登場しないが、上記にかかれた法律の上に立ち、法の礎となっているいちばん重要な法律。全ての法律は憲法の目的を達成するために作られたといっても過言ではない。
- 裁判所の公式サイト。裁判所の職務や案内についてわかりやすく説明してあり、法律を実際の事例に当てはめて判断する判例などが集積されている。
- 毎年警察庁から発行されている犯罪や刑事訴訟の統計、実態などが事細かに書かれているいわば警察の活動報告書。堅い文体ではあるが写真や図版などが多くありビジュアルは工夫されている。具体的なリンクは避けるが、法律事務所のサイトは一般人向けにわかりやすく法律を解説している所が多く、法律を知る上でのテキストベースのとっかかりとしては良い。文書はちょっとという人は弁護士がyoutubeを開設してたりするので覗いてみるのもよいかもしれない(ただし見る前に必ず免責事項や投稿者の素性などを確認すること)。
掲示板
119 ななしのよっしん
2024/12/19(木) 15:52:13 ID: KKX9SweLya
逆転裁判6の項目を追加しました。
日本編とクライン王国編でわかれているみたいなのでとりあえず日本編のみを追加
120 ななしのよっしん
2025/01/16(木) 00:06:05 ID: 9fljiTcJVe
"検察官と弁護士はそれに対し、裁判官へ情報を提供したり、考えを述べたりする"
大逆転裁判の最終弁論ってこの点において重なってる部分もあるんだなあ
121 ななしのよっしん
2025/09/30(火) 08:24:48 ID: jXuXAJC11i
ここに書いてないことだと、ナルホド君始め弁護士たちが
「容疑者」と呼ぶことがあるけど、これはマスコミ用語で一般向けに使われる言葉であって
法の関係者は「被疑者」と呼びます
どちらも意味は同じです
急上昇ワード改
最終更新:2025/12/08(月) 18:00
最終更新:2025/12/08(月) 18:00
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