梨とは、バラ科ナシ属の植物である。一般的には果物としての果実のことを指す。
概要
日本で普通に「梨」と言えば和なしのことであり、その他洋梨などを表す場合にはその都度区別されることになる。この記事においても以降は和なしに関して記述する。
大きさや形はリンゴに似ており、たっぷり含んだみずみずしくて甘い果汁とシャリシャリとした食感が特徴。料理やお菓子などの具材に使われることもあるが、主な利用法はそのまま食することである。リンゴなどのフルーツに比べると汎用性は低いと言え、特産地を除くとナシ味の食品を目にする機会は少ない(お菓子のフレーバーとしては、洋梨が主流となっている)。
秋の味覚と言われるが、今日主流となっている幸水は7月頃から出回るため、事実上、夏~初秋の味覚となっている。
そこまで栄養価が高い果物ではないが、夏バテなどに効くとされるアスパラギン酸、解熱作用を持つソルビトール、そして発汗作用を持つカリウムなどを含むので、夏場に食べるのに適している。また、煮込めば消化を助ける役割を持つので焼肉のタレに混ぜることが多い。
沖縄県(厳密には大阪府も)を除く日本全国各地で広く栽培されている果物であり、収穫量上位の県でも青森のリンゴのように「梨と言えばここ」と言えるほどのシェアがあるわけではない。とはいえ、宅地化が進むも、東京都を含む関東7都県全てで栽培が盛んであり(理由は後述)、首都圏在住者にとってもぎたてを供することができる、最も身近な果物の一つとなっている。江戸時代から八幡(現在の市川市本八幡あたり)一帯は梨の産地として知られていたようで、江戸で果物のことを水菓子と呼んだのも、梨と関係があるともいわれている(マクワウリ、スイカなど諸説あり)。
一般に豊水、幸水、新高、あきづきなどの赤梨系と二十世紀、かおりなどの青梨系に大別され、近年は赤梨の人気が高い。二十世紀が主流だった頃は鳥取県が圧倒的首位だったが、二十世紀のシェア低下(裏を返せば豊水、幸水、新高の人気が上がった)により現在は5位。今日、梨の産地といえば千葉県とまで言われるほど千葉産が有名(例のあいつのおかげである)。
尚、英語でsand pearといい、海外、特に欧米からは独特のジャリジャリした食感が敬遠され、あまり人気がない。一方、東南アジアや中国、香港、台湾などでは人気があり、二十世紀梨などが日本から輸入されている。尚、日本でも江戸時代までの梨はそんな感じの砂を噛むようなものだったらしいが、先人のたゆまぬ努力と品種改良の結果、今日では人気上位の果物となっている。
梨産地の特徴
主な産地は千葉県、茨城県に次いで栃木県、福島県、鳥取県が横並び、そして長野県、新潟県か埼玉県、熊本県か福岡県か大分県…となっている。水はけの良い関東ローム層などの火山性の土壌、または日本海側の砂丘や砂浜などの砂地、盆地などが梨作りに好適な産地となっている。また、きまって平野や盆地などの平坦部で作られ、東日本に産地が多く西日本に産地が少ない。これはいろんな要因があるが、梨の大敵が風という理由もあり、梨栽培の歴史は風との闘いでもある。梨は果実の比重が高く、他の果物と比べると落果に弱い。よって風が吹き下ろす斜面や台風の通り道になるような場所は適さず、風無しが転訛して梨になったという説もあるほど。西日本の産地は台風が直撃しない内陸部や山に阻まれ風の影響が少ない場所が多く、立木栽培の場合は國鐵廣島の利器ガムテープを貼って蔓を補強する場合もある。また、和歌山県や高知県のように台風襲来によって産地が壊滅し、大きく規模が縮小した例もある。一方の東日本や日本海側は山に阻まれるので、台風の影響は比較的マシである。それでも落果被害を回避できない場合もあるので、梨棚を作って落下しにくいように工夫を行っているが、高額な設備投資費用がかかるため、産地が大規模、高回転にならないとコスト回収が難しい(関東地方の一部の産地が大産地になった理由はこういう背景もある)。
また、関東平野で梨栽培が広まった理由として、度重なる水害で他の農作物がその度駄目になってしまったのに対し、梨だけは梨棚で栽培していたことで無事だったらしく、舟を出して収穫し、出荷したという。以来、梨に人一倍愛情を注ぐようになった地域(特に埼玉県白岡市、久喜市、蓮田市)も多い。梨棚は元々食害対策に設けたものであったのだが、風だけでなく、水害、そして生活(いい値段で売れたため、生活再建の資金となった)も護ってくれたわけである。
梨の上位産地
千葉県は日本一の梨産地で、江戸時代から連綿と続く由緒正しき産地である。二十世紀の衰退によって鳥取が首位の座を奪われたというより、二十世紀によって鳥取に首位を奪われたが、後に三水(幸水、豊水とあとひとつ)で首位を奪い返したといった方が適切ともいえる。とりわけ白井市、鎌ケ谷市、船橋市、市川市などが主産地で、首都圏へ近い(というかベッドタウンに混在している)ため直売所や観光農園が多い。そのため、各自治体ともPRのためのマスコットが多い。豊水、幸水、新高、あきづきなどといった赤梨が主力。特に白井市は県内一の梨の町として有名で、しろいの梨がブランドとして名高い。戦時中でも、他の産地が軍需向けに他の作物転用を余儀なくされた中、軍へ供出するなどして産地を死守したというほど梨に対する情熱がうかがえる。なし坊というマスコットや富里スイカロードレースに対抗してか、白井梨マラソンなども行われているなど町おこしも盛ん。だけど、知名度はふなっしーの縦横無尽な活躍により、船橋市に奪われつつあるのが悩みの種。その船橋市では和解をいいことにふなっしーを使った梨の宣伝が盛んである(改めて言うがふなっしーは地元特産の梨がモデルである)。マカン鎌ケ谷で有名になった北海道日本ハムファイターズ二軍本拠地や大仏で知られる鎌ケ谷市も梨サイダーや梨ワインなどの加工品があり、かまたんという梨を愛する妖怪マスコットがいる。市川市と松戸市をつなぐ大町地区には梨街道という、江戸時代から続く、梨直売所が並ぶ歴史的な通りがあり、そこには大町リコという萌えマスコットがいる。なお、後述する二十世紀も発祥は松戸であり、親戚宅のゴミ捨て場に生えていたのを植え替えたという話である(マジで)。ほかにも市原市、八千代市、柏市(旧沼南町)、香取市、いすみ市、一宮町も生産量が多く、どこもかしこも、ひたすら梨産地だらけである。
茨城県は筑西市(旧関城町)、かすみがうら市(旧千代田町)、下妻市などが主産地で、千葉に次ぐ産地。豊水の生産高は全国一の年もある…のだが、農業が盛んな茨城県において、梨はツールの一つに過ぎず、千葉県の自治体ほどマスコットがいたりするわけではない。これは千葉県が直売所や農園などの観光型産地が多いのに対し、茨城県では市場出荷中心だからである。
鳥取県はかつて、日本一の梨産地だったが、二十世紀にこだわりすぎたために、ニーズの変化に対応できず首位陥落、そして地位低下…。しかし、それは赤梨に浮気せず青梨一筋でやってきた結果であり、青梨に限定すれば日本一は健在であり、現在も西日本一の梨産地の座は譲っておらず、近年は幸水や豊水も作っている。また、今日では逆に他県が黒斑病に対応できずにこんな面倒な梨育ててらんねーと見捨てた二十世紀を積極的に売り出しており、なつひめなどの有望な新品種も生まれている。また、青梨は日持ちが良いため、輸出用作物としても優秀な点も見逃せない。産地は湯梨浜町(旧東郷町)が二十世紀の一大産地。ちなみに、山陰新幹線建設を祈願してネーミングされた「新甘泉」という赤梨のホープもある。
栃木県も宇都宮市、芳賀町を筆頭とする全国3位の梨産地で、「にっこり」という品種が注目を浴びている。栃木一の観光地、日光と梨の中国読み(リ)を合わせたもの。もっこりと言った奴は後で屋上へ…と言いたいところだが、梨、もっこりで検索するとなぜかにっこりがヒットする。
福島県は福島市、須賀川市、郡山市、いわき市、相馬市とそれぞれの地方中心地に梨産地が点在するという特異な分布となっている。中でもフルーツライン沿いに産地が広がり、福島市の萱場(かやば)梨は贈答品などにも選ばれた名のあるブランドで、市単位では最も生産量が多い。今宵注目を浴びているあきづきの主産地でもある…のだが、県民はどうも桃ばっかりちやほやして、りんごと共に肩身が狭いような…。
他の梨産地
他の産地(よほど気温が極端でない限りは育つという高性能なので、全国に産地が見られるのが特色。全国で梨産地のリレーができるかも知れない)。
- 青森県南部町
- 宮城県蔵王町
- 宮城県利府町…利府梨として知られ、今日では珍しくなった長十郎が有名。
- 秋田県潟上市
- 山形県酒田市…刈屋梨として知られる産地
- 群馬県高崎市(旧榛名町)
- 埼玉県…白岡市、蓮田市、久喜市(旧菖蒲町)など。埼玉も観光目的の梨をモチーフにしたマスコットが多い。また「彩玉」(さいぎょく)という県オリジナルの品種もある。
- 東京都稲城市…多摩川梨として知られる産地。かつて東京都は5000トン以上の出荷を誇った全国上位の産地だったが、宅地化の影響を受け、稲城市を除いて農地が減っている。
- 神奈川県川崎市、横浜市…多摩川梨、はま梨と呼ばれ親しまれている。
- 新潟市南区(旧白根市)…白根は洋梨、桃、ぶどうなども盛んなフルーツ王国である。
- 新潟県三条市、加茂市、燕市
- 富山県富山市…呉羽丘陵沿いは梨の名産地で、呉羽梨として知られる。
- 石川県加賀市、金沢市
- 福井県あわら市、坂井市
- 長野県飯田市、高森町、松川町…東の二十世紀梨産地。飯田地方は県オリジナル品種、「南水」でも有名。
- 岐阜県美濃加茂市
- 静岡県富士市
- 愛知県安城市、豊橋市、豊田市
- 三重県津市…合併前の香良洲町と久居市で盛んだった。
- 京都府京丹後市
- 兵庫県香美町、神戸市 …香住は知る人ぞ知る二十世紀梨の産地。
- 奈良県大淀町…大阿太の梨。関西で数少ない梨の名産地の一つ。
- 和歌山県紀の川市
- 島根県安来市
- 岡山県岡山市
- 広島県世羅町 …世羅梨は山陽地方随一の産地。
- 山口県下関市、美祢市 …知られざる二十世紀梨の産地。
- 徳島県鳴門市、松茂町 …阿波尾鶏ならぬ阿波おど梨を特産。同じアホなら食わにゃソンソン
- 香川県観音寺市 …旧豊浜町。ホーナンの梨。
- 高知県高知市、佐川町 …新高の発祥地。台風にめげず産地を築いたらかなり凄いこと(防風林が要塞化している)になった例。
- 福岡県朝倉市(旧甘木市)、八女市、筑後市、うきは市など …まとめて福岡梨というらしい。
- 佐賀県伊万里市…九州有数の産地。
- 長崎県南島原市
- 熊本県荒尾市…ジャンボ梨(新高)で有名だが、梨産地としては珍しく台風の通り道にあるため、風害対策には毎回手を焼いているようだ。
- 大分県日田市…九州有数の産地。日田盆地は銘水の里として知られ、100年以上の歴史を持ち、日田梨は全国に知られるブランド。
- 宮崎県小林市
漢字として
- Unicode
- U+68C3
- JIS X 0213
- 2-14-90
- 部首
- 木部
- 画数
- 12画
- 意味
- ナシ、老人、黒い、(黎と通じて)民草、もろもろ、(剺と通じて)割く。
- 〔説文解字〕の本字は棃で〔説文・巻六(段注本)〕に「棃果なり」とある。〔爾雅・釈木〕に「梨、山樆なり」とあり、その疏に「山にあるを樆と曰ひ、人の植うるを梨と曰ふ」とある。
- 字形
- 形声で、声符は利(𥝢)。
- 音訓
- 音読みはリ(漢音、呉音)、訓読みは、なし。
- 規格・区分
- 常用漢字である。JIS X 0213第一水準。1976年に人名用漢字に採用され、2010年に常用漢字に採用された(人名用漢字表からは削除)。
- 語彙
- 梨園・梨花
異体字
- 棃は、〔説文〕や〔康熙字典〕の本字。JIS X 0213第四水準。
- 梸は、〔字彙補〕に梨と同じとある異体字。異構の字。
その他
果物の「梨」を語源とする、大日本帝国海軍の駆逐艦として2度命名された。
- 樅型駆逐艦5番艦「梨」(初代)。神戸川崎造船所にて建造。1919.12.10(就役)-1940.2.1(除籍)
- 橘型駆逐艦10番艦「梨」(2代)。※松型駆逐艦全体で28番艦。神戸川崎造船所にて建造。
1945.3.15(就役)-7.28(戦没、9.10除籍)
1952.9.21再浮揚され、1956.5.31 海上自衛隊護衛艦「わかば」として再就役→「わかば」1.項。
本艦については「松型駆逐艦」記事参照。
※「わかば」は帝国海軍駆逐艦初代神風型及び初春型「若葉」の襲名。 - 音沙汰がないことを、梨の礫(つぶて)というが、これは梨と無しを掛けた一種の地口であり、梨はあまり関係ない。
関連動画
関連項目
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