誰がこれほどまでの活躍を予想しただろうか。
桜花賞、オークス、秋華賞。
大きな夢をひたむきな走りで実現させる。
夢はきっと叶う。彼女がそれを教えてくれた。
デアリングタクト(Daring Tact)とは、2017年生まれの日本の競走馬である。青鹿毛の牝馬。
栗東・杉山晴紀厩舎所属、日高町・長谷川牧場生産
馬主はノルマンディーサラブレッドレーシング(以下ノルマンディー)
主な勝ち鞍
2020年:中央競馬牝馬三冠[桜花賞(GI)、優駿牝馬(GI)、秋華賞(GI)]
名前は「大胆な+Tactics(戦法)より。大胆な戦法。父、母名より連想」(ノルマンディーHPより)
この記事では実在の競走馬について記述しています。 この馬を元にした『ウマ娘 プリティーダービー』に登場するウマ娘については 「デアリングタクト(ウマ娘)」を参照して下さい。 |
概要
父エピファネイア、母デアリングバード、母父キングカメハメハという血統。
父は2年連続年度代表馬シンボリクリスエスと、優駿牝馬とアメリカンオークスを勝った名牝シーザリオとの間に生まれた良血馬で、現役時代にGI2勝を挙げた。デアリングタクトは初年度産駒である。
母は未勝利馬だがその母、つまり本馬の祖母は重賞3勝を挙げたデアリングハートであり、牝系にも重賞3勝馬ピットファイターや米GI馬Ecton Park(この2頭はデアリングハートの半兄)、米GI3勝馬Banker's LadyやInformed Decisionが見当たる、中々の良血であったりする。因みに母デアリングバードは元々社台の馬だったが、繁殖牝馬セールに出されて長谷川牧場に購買された。
なお父方の祖母・シーザリオと母方の祖母・デアリングハートは同い年で、2005年の桜花賞で対戦し、それぞれ2着・3着に入線したという縁のある関係でもある。
2018年1歳セレクトセールで税別1,200万円でノルマンディーファームに購買され、その後系列の一口クラブにて1口44,000円×400口、総額1,760万円で募集された。
ノルマンディーは2011年に創設された新しめのクラブで、スマートファルコンやマツリダゴッホを生産した岡田スタッドを母体とし、近年ではアナザートゥルースやビスカリアなどダートグレードで活躍する馬を出している。岡田スタッド代表である岡田牧雄と勝負服がそっくりだが、ノルマンディーは袖が水色の地に白い縦縞となっている。
競走年齢となったデアリングタクトは栗東の杉山晴紀厩舎へ入厩した。
大胆な戦法
2歳~3歳春
11月の京都開催でデビュー。松山弘平を鞍上に迎えると、中団好位から追走すると直線で一気の切れ脚で先頭に立ち快勝する。
明け3歳になり初戦に選んだエルフィンSでは、良血馬であるファーストフォリオ(父エピファネイアの半妹)やライティアに次ぐ3番人気となったが、このレースは圧巻で、後方3番手に控え直線に入り外に回したところ、松山が軽く促せば後ろを突き放し続け4馬身差の圧勝劇を演出。タイムは1分33秒6のコースレコードでウオッカのレコードを0.1秒更新した。
その後テンションが高くなる気性を鑑みて、一度外厩に出して調整し、桜花賞へ直行するプランとなった。
2歳女王レシステンシアが前哨戦のチューリップ賞を3着に敗れ、サリオスやコントレイルが皐月賞直行。また桜花賞に至るまでに牡馬混合含めた3歳重賞において全て1番人気が敗れているという混迷模様の2020クラシック戦線。さらに新型コロナウイルスの影響で2月29日から当分の間競馬開催は無観客で行われることとなった。一時期賞金が足りず桜花賞出られないんじゃないか、と思われたが結果的には抽選対象にもならず出られる事が出来た。
そして桜花賞 本番。単勝1番人気は武豊に乗り替わったレシステンシアであり、差の無い2番人気には何とデアリングタクト。松山弘平が前日の阪神牝馬Sを勝つなど2020年に入り絶好調といった事もあったか。
朝から雨が降り続け、メインレース頃には重馬場となった阪神競馬場。レースが始まると内枠の逃げ馬スマイルカナが押してハナに立ち、大外枠発走となったレシステンシアがじわじわポジションを上げ2頭が競り合って馬群を引き連れる。デアリングタクトは中団後方、大体12~13番手を追走して直線を外に構える。
しかし逃げあったレシステンシアとスマイルカナは止まらない。それ以上に後ろが止まってしまっていたのである。だがデアリングタクトは重馬場をものともせず伸び続け、逃げ切り濃厚なレシステンシアを交わして尚1馬身半突き放し快勝。桜の女王に戴冠した。
この勝利により松山弘平は桜花賞初制覇、ノルマンディー、杉山晴紀厩舎、長谷川牧場、エピファネイア産駒が中央GI初制覇。重馬場の桜花賞は1997年キョウエイマーチ以来、キャリア3戦での桜花賞制覇は1980年ハギノトップレディ以来と正に記録ずくめの勝利となった。
またシーザリオ、デアリングハートと2頭の祖母は2005年桜花賞を2着, 3着に敗れており、この勝利を「時を経て、2頭の願いが叶った桜花賞」、「15年越しの白星」と称する者もいる。
そしてミスオンワード以来(1957年!)の無敗の牝馬二冠がかかった優駿牝馬(オークス) は単勝1.6倍の1番人気で出走。天皇賞の前週に松山弘平が落馬事故に巻き込まれたものの幸い大事には至らず、継続騎乗する事が出来た。馬場入り前後で一気に発汗するなど怪しい所もあったが…
レースでは桜花賞と同じくスマイルカナがハナを切り、4番枠発走のデアリングタクトは非常にマークが厳しく中団後方、12番手を追走。前半1000mこそ59秒8とミドルペースも後半から一気に緩む前残り展開になり、直線に入って外に持ち出そうとするもブロックされ進路を失う逆境尽くし。しかし松山弘平は上手く切り返し、馬場の真ん中から包囲網を割って進路を見つければ、ゴール手前で先頭に立っていたウインマリリンを一気の脚で差し切り勝利。見事63年ぶりの無敗の牝馬二冠を達成した。
3歳秋
その後夏場を休養に充て、当初ローズSより始動予定も後に秋華賞直行へと切り替えた。
先週から限定的だが競馬場に観客が戻ってきた秋華賞 当日は晴れていたものの、前日雨に見舞われた事により馬場は回復しきらず稍重馬場に。ここでは単勝1.4倍の圧倒的な1番人気に推され、離れてローズSを快勝したリアアメリア、更に離れてオークス2, 3着組のウインマリリン、ウインマイティーが続く人気。一応の不安要素として「京都内回り2000mを上手く立ち回れるか」という声がいくつか散見された。
レース本番、7枠13番から五分のスタートを決め、後方5, 6番手から進める。マルターズディオサがペースを握り前半1000m59秒4と淀みなく進む中向こう正面からじわじわポジションを上げ、直線入口には馬場の三分どころで好位に取り付く。直線に入って順調に脚を伸ばし、残り150mで抜け出すと追いすがるマジックキャッスル以下を従えたまま入線。ここに日本競馬史上初となる無敗の牝馬三冠馬が誕生した。また三冠達成までのキャリア5戦は2018年にアーモンドアイが樹立した6戦をも上回る最少記録である。これ以上となると4戦での達成になるが、この場合「新馬戦を勝って桜花賞直行(出走抽選を通る必要がある)」もしくは「デビュー戦で1勝クラスのレースに出走して勝利し桜花賞に向かう」という現実味のない条件を満たす必要があるため、5戦が事実上の最少キャリアとなる。
次走は早い時期にジャパンカップ挑戦を表明すると、無敗での牡馬三冠を達成したコントレイル、天皇賞(秋)を勝利してGI最多勝記録を更新したアーモンドアイも続けて参戦を表明。三冠馬3頭が揃うドリームレースが実現した。更にアーモンドアイはこのジャパンカップがラストランであり、ここに最初で最後の決戦の幕が上がることになった。
ジャパンカップは3枠5番という内目の位置に決まった。最終オッズはアーモンドアイ、コントレイルに続く3番人気で3強を形成した。レースは無難にスタートを切ると道中はいつもより前目のほぼ真ん中の位置で進む。直線を向くとすぐ後ろを追走していたコントレイルに外から被されて前のカレンブーケドールが壁となり、何とか内側にルートを修正してそこから加速するものの早めに抜け出していたアーモンドアイをとらえることはできず、コントレイルにもクビ差の先着を許し3着に敗れた(ハナ差4着にカレンブーケドール)。これによりデビューから続いていた無敗記録は5勝でストップした。しかしレースぶりは決して悪いものではなく、特に最後に見せた勝負根性と3着に食い込んだ伸びは混合戦でも十分に戦えることを示した。年末のJRA賞では、最優秀3歳牝馬を満票で受賞した。
4歳
4歳時は、香港GI・クイーンエリザベス2世カップに登録し、この前哨戦として金鯱賞から始動した。しかし、出走10頭中最低人気だったギベオンの逃げを直線で猛追したもののこれにクビ差届かず、2着と惜敗した。
その後香港へ遠征しクイーンエリザベス2世カップへ出走。日本から本馬の他ラヴズオンリーユー、グローリーヴェイズ、キセキが出走し、地元勢からは古豪のExultantら3頭が出走し、7頭立てとなった。
レースでは最内枠から二の足がついてインの3番手から進める(因みに香港では最後方から進める予想があったって合田さんが言ってた)。4コーナーでも他馬に比べ手応えが良く、直線に入って追い始めて伸びてはいたがラヴズオンリーユーの脚色が勝り、また外からグローリーヴェイズにも差され3着となった。悔しさによるものか、松山はゴール前に追いながら頭を大きく垂れていた。
帰国後は宝塚記念に向けて調整が進められていたが、5月14日にノルマンディーのHPにて、右前肢繋靱帯炎を発症していた事が発表され、今後の予定は未定となった。血統の因果か、エピファネイアも、シーザリオも海外遠征からの帰国後に繋靱帯炎を発症していた。
陣営は幹細胞移植手術により復活を目指すこととし、この年は治療・休養に専念した。
5歳
手術は成功し着々と復帰への道を進む中、迎えた2022年の5歳シーズン。3月末に管理する岡田スタッドグループの岡田代表から遂に復帰のアナウンスが入る。
その復帰初戦は5月15日のヴィクトリアマイル。その後はグランプリの宝塚記念を目標に動く、というもの。実に385日ぶりのレースであり、勝てばあのトウカイテイオーの有馬記念で打ち立てた中364日でのGI制覇記録を塗り替えることになる。
迎えたレース当日。昨年大阪杯勝ちの快速馬レイパパレ、白毛の昨年桜花賞馬ソダシに加えレシステンシア・アカイイトと、全部で5頭のGI勝ち馬が顔を揃えた。デアリングタクトは三冠の実力は評価されつつも治療休み明け初戦ということもあってか、ソダシに次ぐ5番人気に収まってレース開始を迎える。好スタートからソダシの後方、中団のポジションにつけ、3・4コーナーでも手応えよく、鞍上・松山弘平騎手も「これならと一瞬は思った」が、最後の末脚が伸びず、ソダシの6着と初の掲示板を外す敗戦となってしまった。しかし、長期休み明けの初戦ということを考えれば、見せ場も作りよく戦ったと評価もできるだろう。脚の状態も特に悪化などは見られないとのことから、次は春GIの締めくくり、宝塚記念へ向かう。
宝塚記念では、4枠7番の位置に収まってスタート。序盤はエフフォーリアのすぐ横にぴったりと貼り付き、有力馬を内に閉じ込めつつ様子を見ることに成功。最後の直線で外に持ち出し、ムチが入るとジワジワと前へ上がっていく。
手応え抜群のタイトルホルダーとヒシイグアスにはさすがに追いつけなかったが、ゴール寸前でディープボンドと横並びに。結果は……ハナ差でかわして3着! 上がり3Fは36.0を記録し、完全復活ではないにしても、実力馬が集うレースで三冠牝馬の底力を見せつけた。松山騎手は悔しさを滲ませつつも、「ここでやれると分かったので、今後が楽しみですね」と秋の復活に期待を膨らませた。
その秋初戦はオールカマーから始動。その後のエリザベス女王杯などのGIレースを戦う為の重要な一戦となるが、上がり35.7秒ではこのレースでは分が悪かったか、ジェラルディーナの6着。その後、エリザベス女王杯は重馬場のレースに。このレースは上がりがかかるレースとなったがその中でも上がりが速い馬が圧倒し、36.5秒では届かず、ジェラルディーナが勝利する中、6着。その後中1週でジャパンカップへ。上がり最速33.7秒を叩き出すが、同じ上がりのヴェラアズール、シャフリヤールよりも後ろからのスパートだったこともあり、前で上がり34.0秒を叩き出したヴェルトライゼンデにも届かない4着。その後、再び長期休養に入ることになった。
6歳
その後、復帰に向けて調整が続けられたが、10月に繋靭帯炎を再発、クラブから引退と発表された。
怪我に泣かされたとはいえ、宝塚記念3着、ジャパンカップ4着と復活を「夢」ではなく現実のものとした彼女。
今後は「夢」を子孫へ託していくことになる。
血統表
エピファネイア 2010 鹿毛 |
*シンボリクリスエス 1999 黒鹿毛 |
Kris S. | Roberto |
Sharp Queen | |||
Tee Kay | Gold Meridian | ||
Tri Argo | |||
シーザリオ 2002 青毛 |
スペシャルウィーク | *サンデーサイレンス | |
キャンペンガール | |||
*キロフプリミエール | Sadler's Wells | ||
Querida | |||
デアリングバード 2011 黒鹿毛 FNo.1-l |
キングカメハメハ 2001 鹿毛 |
Kingmambo | Mr. Prospector |
Miesque | |||
*マンファス | *ラストタイクーン | ||
Pilot Bird | |||
デアリングハート 2002 栃栗毛 |
*サンデーサイレンス | Halo | |
Wishing Well | |||
*デアリングダンジグ | Danzig | ||
Impetuous Gal | |||
競走馬の4代血統表 |
クロス:*サンデーサイレンス 4×3(18.75%)、Hail to Reason 5×5(6.25%)、Northern Dancer 5×5(6.25%)
関連動画
関連リンク
関連項目
中央競馬の三冠馬 | ||
クラシック三冠 | 牡馬三冠 | セントライト(1941年) | シンザン(1964年) | ミスターシービー(1983年) | シンボリルドルフ(1984年) | ナリタブライアン(1994年) | ディープインパクト(2005年) | オルフェーヴル(2011年) | コントレイル(2020年) |
---|---|---|
牝馬三冠 | 達成馬無し | |
変則三冠 | クリフジ(1943年) | |
中央競馬牝馬三冠 | メジロラモーヌ(1986年) | スティルインラブ(2003年) | アパパネ(2010年) | ジェンティルドンナ(2012年) | アーモンドアイ(2018年) | デアリングタクト(2020年) | リバティアイランド(2023年) |
|
古馬三冠 | 春古馬 | 達成馬無し |
秋古馬 | テイエムオペラオー(2000年) | ゼンノロブロイ(2004年) | |
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