M4中戦車とは、第二次世界大戦期のアメリカ軍の主力戦車である。
通称シャーマン(sherman)。いわゆる呪術師・祈祷師のシャーマン(shaman)ではない。
南北戦争(1861-1865)において活躍したアメリカ合衆国の軍人ウィリアム・シャーマンが由来である。
概要
工業大国アメリカの傑作戦車。当時量産か質かの二極に分かれていた戦車界において、信頼性と生産性の両方を確立し、5万両という空前の生産数を誇った。WW2前まで戦車後進国だったアメリカ戦車を一躍世界水準まで押し上げ、第二次大戦においても連合軍の勝利に少なからず寄与し、「偉大なる凡作」と称された。
アメリカ陸軍の他に海兵隊、さらに連合諸国にも大量に供給され、戦後も様々な国で使われ続けている。
開発・発展
WW2開戦時、戦車をあくまで歩兵支援兵器として見ていたアメリカ陸軍は、ナチス・ドイツ軍の機甲部隊による電撃侵攻を目の当たりにして本格的な戦車部隊の発足を決断。既に時代遅れになっていたM2中戦車の後継として中継ぎになるM3中戦車を開発し、1941年にはその高車体を継いだ試作型のT6が開発され、1942年からM4中戦車として量産が開始された。
主砲には初期の75mm砲に対戦車用の長口径76.2mm砲、歩兵支援用の105mm榴弾砲、火炎放射器、ロケットランチャー搭載型と様々な形式が作られた。イギリス軍の17ポンド対戦車砲搭載型はシャーマン・ファイアフライと名付けられ、その火力はドイツ軍戦車に恐れられた。
特徴
一見すると平凡極まりなく、ともするとその能力の低さゆえ安かろう悪かろうと見られがちな本車だが、その本領は数字で表せないところにある。シャーマンのコンポーネントには民間メーカーの部材が大量に使われ、エンジンも航空機用の星型空冷エンジンからトラック用の水冷ディーゼルエンジン、果てはバス用の水冷ガソリンエンジンを搭載、M4A3でようやく戦車用の水冷エンジンが積まれたほどであった。M4~M4A6までの型式はおおよそエンジンによって区分されているが、そのほとんどが民間のエンジンである。エンジン製造元に近いところで組み立てが平行で行われたこともあり、基本的には製造工場単位で異なる型式となる。後年、装甲、内部の装備も製造単位で微妙に異なるだけでなくその後の改良も独自で行われるなど、その生産台数に応じたバリエーションを見せており、すべてを把握するのが困難なほどである。
まぁわかりやすくいうと、現代の組み立てPCと同じで、規格さえ合致していればメーカーが違うエンジンでも搭載できるという工業製品として優れていたお陰で機関部分の故障は少なく整備も容易で、未熟な乗員だけでも運用することができた。この機械的信頼性と整備性の良さがシャーマンの最大の長所である。
(これを可能にしたのは当時のアメリカのモータリゼーションの発達に伴う豊かな工業力の素地があったため。同じ工場で作っていてもロット単位でしか部品の交換性が無かった当時の極東の国とは雲泥の差である)
また設計も走攻守がバランス良くまとめられ、独特の背の高さで車内スペースにもゆとりがあったので乗員への負担が少なかった。シャーマンはカタログスペック上、決して高性能の戦車ではなかったが、高い運用性と平均的な性能を併せ持った、一つの完成した兵器だと言える。
欠点
上述のように生産性を重視したモデルであったため、本戦車は能力上においては、特にドイツのIV号戦車とはほぼ互角だったが、V号戦車(パンター)以降には明らかに劣位にあった。そのため「五台で一台を囲う」いわゆる物量作戦がこの戦車の主戦法だった。(ただし、巷で言われるような「一両のパンターを撃破する間に五両のM4が撃破された。」という歴史的事実はない。実際にはノルマンディー上陸作戦以降は、ドイツ戦車兵の質の低下が激しかったため航空支援がない場合でもパンター相手に互角以上に戦えることが多く損害もドイツ側の方が多かった。)
また1943年末までに製造された本戦車の正面装甲板は生産性と整備性を重視した反面、意外にも金質はあまり考慮しておらず欧州戦線のみならず太平洋戦線でも大損害を出してしまった。そこで金質を改善した後期型車体(M4A3)投入したところ損害が大きく減少したという。(例としては太平洋戦線において、後期型車体以前の場合は47㎜砲に射撃された場合命中角によっては800ydの距離で正面装甲を貫通できたが後期型(は貫通距離が500ydに減少したという報告がある。)
特にエンジン馬力の余力が少なく、そのために重量のある装甲を堅牢にすることができなかった。装甲は溶接・鋳造・ハイブリッドがあったが、いずれにせよ防御力は不足気味だった。さらに弾薬庫を左右袖部に設けていた前期型車体が側面を攻撃され誘爆炎上するケースが多発したため、後期型車体は弾薬庫を床に移 し、誘爆を防ぐ湿式弾薬庫を搭載して対処した。他にも接地圧が高くインフラが劣悪な太平洋戦線や雨季の欧州戦線では機動性に難が出たものの、ダッグビルと呼ばれる器具を履帯に装着したり後期型では幅広の履帯にしたりすることで改善された。
バリエーション
M4中戦車にはいろんなバリエーションがあるが、M4を改良してM4A1、さらに改良してM4A2・・・という訳ではなく、複数のバリエーションが並行生産された。ビバ工業力!である。
M4
溶接製の車体に航空機用星型エンジンを搭載したタイプ。複数の規格の異なる装甲板を溶接で繋げていたので、強度が鋳造製の車体と比較して低い。このため、追加装甲や前面だけ鋳造で作る改良型が後に開発された。アメリカ以外にもイギリス、ポーランド、フランスが使用。76.2mm砲は搭載されず、75mm砲や105mm榴弾砲、60連装4.5インチロケットランチャーを搭載したタイプが開発され、自走榴弾砲的な役割を担った。生産数約8,400輌。
M4のバリエーションにおいて初期型車体といえばこのタイプを指す。
M4A1
鋳造製で一体型の車体をもつタイプ。エンジンはM4と同様。榴弾威力に優れる75mm砲と対戦車能力の高い76.2mm砲を装備する2種類が作られた。また、M4シャーマンの中で最も早く生産・実戦投入された前期型と、戦訓を取り入れて大型ハッチと湿式弾薬庫を導入した後期型にも別れ、大別して4種類のM4A1が存在することになる。アメリカ、イギリス、ポーランド、フランス、中国が使用。生産数およそ9,700輌。
M4A2
それまで搭載していた星型エンジンの供給不足を見越して、民間トラック用ディーゼルエンジンを2基搭載したタイプ。車体はM4と同じく溶接で製造されている。走行性能は割と好評だったが、アメリカ陸軍は使用燃料をガソリンに統一しており、軽油を使うM4A2は兵站の問題から敬遠され、ディーゼルエンジンを積んだ上陸用舟艇を多数保有するアメリカ海兵隊に配備されることになる。それ以外ではイギリス、フランス、ポーランド、ソ連にレンドリースされ、ソ連では信頼性の高さから割と好評で精鋭部隊にのみ配備された。生産数およそ11,000輌。
M4A3
M4のバリエーションにおいて後期型車体といえばこのタイプである。航空機用星型エンジンからフォード製8気筒ガソリンエンジンに変更したタイプ。車体は溶接製、武装は75mm砲、76.2mm砲、105mm榴弾砲の3タイプが使用された。アメリカ軍の主力を担った中戦車であり、陸軍と海兵隊の両者が使用した。前面装甲上部の強度・構造に問題のあった初期~中期型の鋳造・溶接装甲から、傾斜角度をやや緩めた均質圧延鋼板の1枚板に変更することによって強度不足が改善され初期~中期型に存在した張り出し部分がなくなったことで防御力が向上し、さらに傾斜を緩めたことで車体容積が増え作業効率も向上した。
(装甲の傾斜を緩めてしまった分、防御力が低下してしまうので釣り合いを取るべくやや増厚しており車体正面下部も約50.8㎜から約101.6㎜と地味に大幅増厚されてたりする。)
M4シャーマンの性能不足(もちろんドイツ軍重戦車との比較)が問題となった際、ティーガーIの88mm砲に匹敵する強力な90mm砲を搭載する計画が立てられた。これはM26の量産開始まで一年を要するためであり試作車両が一両作られた。しかしこの車両でさえ開発完了までに数か月を必要とするものであり、M26パーシングの開発・生産を圧迫すると予想されたため、結局キャンセルされた。もしアメリカ軍に余裕があってこの改良が実現していたらドイツ軍はホタル狩りに血道をあげてる余裕はなかっただろうなあ。生産数は全タイプを合わせておよそ12,300輌。
M4A3E2
通称シャーマンジャンボ。M4A3の車体に増加装甲(前面だけで101mm)を溶接し、砲塔も装甲厚をマシマシにしたガチタン。主砲は75mm砲で、防御力の増加の代償として速度は5~6km/hほど低下したが、歩兵支援用として開発したので問題にされなかった。しかし、戦場では76.2mm砲に換装され、戦車部隊の先頭に立って進む役割を与えらることが多かった。普通のシャーマンでは耐えられないドイツ軍の戦車砲、対戦車砲の攻撃も、シャーマンジャンボなら耐えることが出来たからである。生産数はわずか254輌。
M4A3E8
通称イージーエイト。76.2mm砲、一枚板の前面装甲、湿式弾薬庫、新型サスペンションと幅広の履帯を持つM4シャーマンの決定版。新型サスペンションと履帯のおかげで機動性が上がり、また現地改造で増加装甲を載せられるようになった。戦後、日本の警察予備隊(現在の陸上自衛隊)にも供与された。
M4A4
6気筒エンジンを5基たばねた30気筒複列エンジンを搭載するタイプ。下側のエンジンを整備するために全体を取り出さなければならないなど面倒くさい、この馬鹿げたエンジンを搭載するために車体は後部が延長されている。当然ながら整備性に問題があり、アメリカは自軍で使用せずイギリスなどに押し付けたレンドリースとして送った。が、イギリスでは自国の巡航戦車より機械的信頼性が高いとして喜ばれ、M4と共にシャーマンファイアフライに改良された。どんだけ英国製巡航戦車の足回りがダメなのかを示す車両。
M4A5
カナダのラム巡航戦車に与えられたナンバー。ちなみにラム巡航戦車はM4中戦車ではなくM3中戦車がベース。
M4A6
M4A4のエンジンをキャタピラー製ディーゼルエンジンに換装したタイプ。前面が鋳造、後方が溶接のハイブリッド車体である。作り始めて3ヶ月で「M4中戦車のエンジンはガソリンエンジンだけにする」とアメリカ軍上層部が決定したため僅か75輌で生産終了、全てが訓練用に回された悲劇の子。
戦歴
戦時中は「米軍の在るところにシャーマン在り」で北アフリカ戦線、西部戦線、太平洋戦線とあらゆる戦場に投入された。ソ連軍にも数千両がレンドリースされたため、東部戦線や満州でもその姿を拝むことができた。
一方、ドイツのV号以上の重戦車に単体で対抗するのは困難極まりなく、数機で連携して当たることが多かった本車であったが、軍上層部も単車性能でドイツの猛獣に勝つつもりはハナからなかったので、前途有望な若者を I want you でジャンジャン前線に送り込み自慢の物量と練度の高さでドイツ戦車を擦り減らした。矢面に立たされる戦車兵にとってはたまったものではないが仕方がない、
これが戦争なのである。
まぁ、アメリカ軍は基本的には対戦車対策としてM4ではなくM36のような駆逐戦車に相手をさせるか、あるいは戦闘爆撃機などの航空支援で対応する気がまんまんだった。というのもあるのだが。
後年タングステン弾頭砲弾などを使えば朝鮮戦争でT-34も撃破したという記録も残されているのだか、戦時中、この弾頭は駆逐戦車やM26パーシングに優先的に割り当てられたものの、その当のM26もまともに戦争に参加したわけではないとなると、何がなにやら…。さぞや戦中、M4の大量生産を決定して改造処置を考えなかった上、新型戦車導入を妨害し続けたAGFの人は戦後恨まれたんではないだろうか。(なおその筆頭であったAGFのトップ・マクネアー中将は、コブラ作戦の前線視察に出かけた際、B-17の誤爆をくらって死亡した。ありがとう、ゴルゴ13。)
(ちなみに76㎜砲の貫通力はタングステン弾頭砲弾を使用した場合の威力は、通常徹甲弾と同じくパンターの車体正面は貫通不可能であり防盾部ならば約360mに接近しなれば貫通できなかった。しかし通常徹甲弾の防盾貫通距離の180mと比べれば大きな進歩だった。)
英国ではさすがにM4の武装に危機感を抱いて主砲を交換、シャーマン・ファイアフライとして導入しており、こちらはドイツ軍戦車狩りに成果をあげていることは特筆すべきだろう。
転じて太平洋戦線ではまともな戦車を開発できなかった日本にとって最高の戦車とは鹵獲したM3軽戦車という泣くに泣けない日本陸軍が相手のために無敵の重戦車ぷりを誇ったものの、クレイジーな日本兵の肉薄攻撃でやられた車両も多い。
同時に一式47mm機動砲(対戦車砲)による待ち伏せ戦術も、硫黄島や沖縄戦などでM4にかなりの出血を強要している…まぁ、真正面から装甲を貫徹させるのは難しく、M4の側面、あるいはやり過ごしてからの後方からの攻撃が主だった戦果ではあるのだが…。
日本の架空戦記では三式中戦車や五式中戦車にバカスカやられているが、そこは戦勝国の余裕で許して欲しい。実際の三式、五式中戦車がどのような完成度、工業製品、戦車であったかはお察しください。
朝鮮戦争では前述したようにタングステン砲弾を持ちいればT-34を撃破しえたが、あくまで主力はM26が担っている。
その後、大量に生産されたM4は各国の軍に配備されたあと各地でスクラップとなって終了…とはならなかった。建国間もないイスラエルがM4を世界中アチコチから、あの手のこの手でかき集め(女の子使ってかっぱらう、映画に使う大道具として、スクラップ化されたもの二束三文で買い叩くなどなど)独自改良を施すことになった。
これが、スーパーシャーマン(M1)の誕生である。このスーパーシャーマンも年代がたつたびにその改造っぷりははげしく、M50スーパーシャーマンでは長砲身75mmを搭載した。この主砲フランスのAMX-13戦車に使われたものの改良・転用だが、元々はドイツのV号戦車(パンター)に使われた主砲のベースだから、回りまわってM4に搭載されるという皮肉なことに。
最後のM51スーパーシャーマンではT-55を撃破するため、105mm砲を搭載するにいたっている。
この他にも大量に手に入れたM4のシャーシを使って各種バリエーションに満ちた…何しろ、歩兵戦闘車両ならまだしも、自走砲、迫撃砲、ロケットランチャー搭載となんでもありで、キルヒョン対レーダーミサイル搭載車両という、ゲテモノ車両まで誕生している。
陸上自衛隊に於いてもM24、M41軽戦車と並んで、国産戦車配備までの戦車戦力を支え続けた。聖地の国で魔改造を施された物には未だに現役でこき使われている不運な車両もある。国内では陸上自衛隊土浦武器学校、富士学校などの一般公開で目にすることが出来る。靖国神社等に展示されている九七式中戦車とは、余りに工業製品としてのレベルが違うのは、あえて目を瞑るべきなのだろうか。
関連作品
動画
ドイツ戦車に比べニコニコ動画ではかなり冷遇されている気がするが多分気のせい。
静画
関連商品
関連コミュニティ
コミュニズムは敵。
関連項目
- 5
- 0pt