テイエムスパーダ(T M Spada)とは、2019年生まれの日本の競走馬。芦毛の牝馬。
現在のJRA芝1200mレコードタイム保持者。(1分5秒8、2022年7月3日小倉11R・CBC賞)
主な勝ち鞍
2022年:CBC賞(GIII)
2023年:セントウルステークス(GII)
父レッドスパーダ、母トシザコジーン、母父アドマイヤコジーン。
父がレッドスパーダというのがまず珍しい。7歳で関屋記念(GIII)、8歳で京王杯スプリングカップ(GII)勝利など、マイルを中心に芝重賞戦線で息長く走り、停滞期にあった2010年代前半の藤沢和雄厩舎(といってもGI勝利が約8年なかっただけで有力厩舎であり続けたのだが)をペルーサやルルーシュらと共に支えた一頭である。東京新聞杯で初重賞の直後ダート未経験なのにフェブラリーSにブチ込まれたり、関屋記念に勝ってサマーマイル王者が目の前なのに京成杯AHを無視して秋天狙いのローテを組まれたりと、結構な目にも遭っているが。引退後はアロースタッドで種牡馬入りしたが、これはひとえに父タイキシャトルの後継としての期待が大きいだろう。残念ながら産駒からタイキシャトルの父系を継ぐ牡馬は出ていないが[1]、約80頭にすぎない産駒の中から現れた孝行娘が、このテイエムスパーダである。
母父は二度の骨折を乗り越え安田記念を勝ったアドマイヤ軍団屈指の不屈馬。父としては短命の快速娘アストンマーチャンを出している。
生産はパッシングショットなどを輩出した浦河小林牧場。栗東・五十嵐忠雄厩舎→木原一良厩舎(2023年3月~)所属。馬主はもちろん「テイエム」の竹園正繼オーナーであり、同じ母系だとスパーダの3代母サツマリーベの半妹・スナークサクセスの仔に、2010年産経大阪杯勝ち馬のテイエムアンコールがいる。
2021年夏の小倉開催でデビュー。7月11日の新馬戦(芝1200m)で、福永祐一を鞍上に2番手追走から直線入り口で先頭に立ち、新馬勝ちを収める。続くフェニックス賞(OP)では岩田望来に乗り替わり逃げを打ったが、先々何度も対戦することになるナムラクレアに半馬身かわされ2着。…がそれ以上に、このフェニックス賞で枠入り不良をやらかし、出走停止で残りの小倉開催を棒に振ってしまう。おまけにその後右後脚飛節に外傷を負い、回復に手間取ったため2歳は7、8月の2戦1勝のみで終えることとなった。
2月の1勝クラスあざみ賞(小倉芝1200m)で、この後主戦を務める国分恭介が初騎乗し半年振りの復帰、先行抜け出しで3馬身差の快勝。その後フィリーズレビュー(GII)は13着で桜花賞出走はならず、葵ステークス(GIII)も11着と惨敗したが、自己条件に戻した6月18日の2勝クラス皆生特別(阪神芝1200m)で3勝目を挙げた。
さて夏競馬。この時期、軽斤の3歳牝馬は毎年要注意の存在だが、スパーダ陣営が狙いを定めたのはCBC賞(GIII)。京都競馬場改修工事に伴う開催割変更の影響により、2021~22年は中京ではなくスパーダが走り慣れた小倉1200mでの開催だった。しかも得られたハンデは最軽斤の48kg。この軽量に対応できる騎手として、主戦の国分に代わるテン乗りに起用されたのは、この頃新人騎手リーディングトップを走る女性騎手として注目を集めていた今村聖奈であった(これが重賞初騎乗)。
ところでCBC賞の代替開催された夏の小倉開幕週だが、前年の2021年も凄まじい高速馬場傾向にあった。2021年7月3日、開幕日の土曜10R戸畑特別(2勝クラス芝1200m)にて、プリモダルクがそれまで22年間保持されていた芝1200mのJRAレコードを更新する1分6秒4を記録。と思いきや翌7月4日日曜メインのCBC賞にて、3枠3番のファストフォース(後の2023年高松宮記念馬、この時は格上挑戦の3勝クラス馬だった)が逃げまくり、1分6秒0で前日のレコードを即座に更新し重賞初勝利を挙げていた。
こうした前年の経緯があったためこの2022年CBC賞も高速決着が予想され、内枠・軽斤・前から行ける馬が上位人気に。1番人気は1枠2番・49kgの3歳牝馬アネゴハダ(3.9倍、スパーダと同世代だがこの馬は小倉2歳ステークス3着に加え阪神JFや桜花賞にも出走していた)。3枠5番・48kgのテイエムスパーダがこれに次ぐ2番人気に推された(5.0倍)。
スタートから押していったテイエムスパーダは、内に切れ込んでくる8枠15番スティクスとのハナ争いを制し先頭へ。そして道中を600m通過31秒8(!?)、1000m通過53秒8(!!??)という破滅的な超ハイペースで運ぶ。これがどのくらい狂ったペースかというと、アイビスサマーダッシュのレースレコードが2002年カルストンライトオの53秒7である。すなわち、直線のみ1000m駆け抜けそれでレースを終える馬ですらほとんど出せない時計を、コーナーを回りながら計測していたのである…。こんな破滅逃げでは当然潰れると思いきや、直線にて追走する先行勢が総崩れの中スパーダは垂れない。代わって差し勢のタイセイビジョンが2着に浮上したが前は既に遠く、3馬身半差の快勝で重賞初勝利。
そして勝利タイムはJRAレコード更新の1分5秒8。鞍上の今村は重賞初出走初勝利の記録もついた(グレード制導入以降、菊沢隆仁・武幸四郎・池添謙一・宮崎北斗に続く5人目)。
JRAレコードを叩き出した上に話題の女性騎手の初重賞勝利と派手な勝ち方を飾ったテイエムスパーダだったが、一方で数少ないレッドスパーダ産駒から重賞産駒の誕生、そしてタイキシャトル系からも久しぶりのJRA重賞産駒ということを喜ぶ競馬ファンも多かった。「産駒の中央初重賞おめでとう」「これで少しでもレッドスパーダの種付けが増えるといいな」等々。
そして翌月の8月17日、日本競馬界に偉大な足跡を残したタイキシャトルは、新冠町のノーザンレイクにて老衰による心不全のため28歳で亡くなり、競馬界・ファンから深い哀悼の意が表された。
……その矢先の8月21日。とあるひとつのツイートが、「レッドスパーダも既に亡くなっている」旨を発信した。
ポストを読み込み中です
https://twitter.com/n_tomahawk/status/1561180915535343616
「レッドスパーダは2019年シーズンの種付け限りでアロースタッドを去り、2020年からは新冠町のクラックステーブルに移動して種牡馬を継続している」ここまでの情報は知られていたことであり、実際に僅かながら2021年生の産駒も登録されていたのだが……そのレッドスパーダが既に死んでいるとは!?
このツイートは『競馬ブック』誌のトラックマン坂井直樹が、スポーツライター村本浩平からの伝聞としてつぶやいたものであった。この時点ではそれ以外に死亡を発信するソースはなく、おぼつかない情報ではあったが、やがてJAIRSの血統書サービスに「2022.2.死亡」の一言が書き加えられ[2]、レッドスパーダの死は確定した。死亡日、場所、死因等は不明である。
かつて華々しい歓声を受けた活躍馬ですらその最期が明らかでないこともザラなのが競馬の世界とはいえ、「お前の娘が重賞獲ったぞ!良かったな!」と喜んでいた時、実はその父は既に亡くなっていたという事実にファンはショックを受けたのだった。(なおこれに先立つ2023年5月14日、2020年のNHKマイルカップにも出走するなどレッドスパーダ産駒の牡馬では最も健闘していたソウルトレインも、レース中の故障で予後不良となっている。)
父レッドスパーダの死亡がツイートされた同日の8月21日、テイエムスパーダは北九州記念(GIII)に臨んでいた。前走CBC賞と同一コースかつ今回も2枠4番と内枠を引き当て、ハンデも51kgと依然として2番手タイの軽さ。順位によってはサマースプリントシリーズ王者も見え、さらに収得賞金を積んで秋以降の大きなレースへ脚固めといきたい所であった。が……16番人気の大穴ボンボヤージが勝利する中、スパーダは逃げきれず7着。
秋初戦はスプリンターズステークスで初のGI出走。ここも1枠1番をもらって4番人気の評価を受けていたが、逃げ潰れて15着と力の差を見せつけられた。国分恭介に代わり再び今村聖奈を起用して臨んだ京阪杯(GIII)では、ビアンフェにハナを譲って3番手先行策を採ったものの、6着。初重賞後は3戦連続の掲示板外で2022年を終えた。
始動戦のシルクロードステークス(GIII、この年は中京競馬場開催)は、ナムラクレアの重賞3勝目とは対照的に、終始最後方で14着。こうなるともう「軽斤と有利枠、馬場状態のおかげで勝っただけの一発屋だったか」的な評価に傾いていく。その後も、先行するも直線での勝負にも加われず脱落していく、といった内容のレースが続き、2連覇が懸かったCBC賞も9番人気8着に終わった。
この間、2月末で五十嵐忠男調教師が定年を迎え、同じ栗東の木原一良厩舎に移籍した。
秋初戦はセントウルステークス(GII)から。このところの連敗内容により、ブービーの14番人気とまったく支持を集めていなかった。ただ、このレースは阪神開幕週で芝が荒れておらず前流れ気味の馬場状態で(ん?)、この日も10Rまでの芝5レース中3レースで逃げ馬がそのまま勝利していた。また鞍上には新たに富田暁を迎えていたが、富田は直前の9・10Rを5・9番人気の馬で連勝。良い状態でメイン11Rに臨んでいた。
……やりおった。6枠11番からのスタート直後から富田は押しまくり、構うなどうせ潰れるとばかりに競り掛かる存在もおらず、楽にハナを取り切った。そのまま単騎先頭でコーナーを運び直線…止まらない!落ちてこない!そうこうする間に追走の先行集団が苦しくなって差し勢が台頭、アグリが猛追するも時すでに遅し。まんまと逃げきったスパーダは単勝112.6倍の万馬券を生み出し、重賞2勝目・最高勝ち鞍をGIIに更新。7年目の富田暁は嬉しい重賞初勝利を挙げた。
(なお、富田が阪神10RオークランドTRTで9番人気メイショウミツヤス、そしてこのセントウルSで14番人気テイエムスパーダを勝ち馬に持ってきたことが大きな要因となり、この日のWIN5は大荒れ。それでもたった1票的中投票があり、払い戻しは4億2318万30円を記録した。)
次走は勿論スプリンターズステークス(GI)。鞍上は引き続き富田で、人馬共にGI制覇が懸かる大一番。亡き父レッドスパーダも届かなかったGIの栄冠、天に捧ぐ勝利を得られるかという舞台である。
スパーダは1枠2番を引いたが、そう簡単に逃げられる場ではない。逃げの一手でCBC賞・北九州記念と連勝しサマースプリントシリーズ王者に輝いたジャスパークローネに、葵ステークスを目を見張るロケットスタートで制したモズメイメイと、逃げ馬のライバルは複数いた。
スタートから先頭争いを演じたのはやはりこの3頭だったが、ハナを取りきったのはジャスパークローネ。こうなると、先頭でハイペースを刻み後方をぶち壊すスパーダのパターンには持ち込めない。直線で沈み、14着。中山最終週の傷んだ馬場というのもこの馬の舞台ではなかったのだろうか。結局、2023年はこのスプリンターズS限りで終えた。
昨年同様にシルクロードステークス(GIII)から始動するも、1月からの連続開催9日目の馬場の中あっさり逃げ潰れて14着。高松宮記念(GI)は苦手な重馬場でハナを切ることすらできず、18着最下位。ここで富田暁から酒井学へ鞍上交代となった。
続いては6月30日の北九州記念(GIII)。この年は阪神競馬場改修工事の影響でCBC賞と開催日程が入れ替えられており、得意の小倉かつ開幕週、スパーダにとっては大チャンス……のはずだったが、当日は雨で稍重。いいところなく連続最下位の18着に終わった。
ここで、初の千直挑戦となる7月28日のアイビスサマーダッシュ(GIII)への登録が表明された。
確かにこのレースは夏の新潟開幕週、かつスパーダはこの時点の1200mJRAレコードホルダーであり(走りさえすれば)スピード能力はある。しかも枠順は有利な外目の8枠17番を引いた。一方で、近走が悪すぎる、牡馬と変わらぬ57kgを背負う、スタートが良いタイプではないので外枠は逆に出負けした場合一気に前を塞がれ詰む恐れがある……といった不安要素もあった。馬券の取捨に悩むといった立場で、当日は単勝16.0倍の8番人気で迎えた。
スパーダは課題のスタートを無事に決め、酒井学はガンガン手を動かしハナを切りにかかる。外ラチ沿いは3枠から一気に切り込んできた藤田菜七子のマウンテンムスメに占められたが、最初の300mで先頭を確保した。最後はやや内目から脚を伸ばしたウイングレイテストと、それを差し切り勝利したモズメイメイの2頭に敗れたが、粘り込んで3着。前々年のCBC賞・前年のセントウルSに続き「夏場かつ開幕週」で結果を残した。
レッドスパーダ 2006 鹿毛 |
*タイキシャトル 1994 栗毛 |
Devil's Bag | Halo |
Ballade | |||
*ウェルシュマフィン | Caerleon | ||
Muffitys | |||
*バービキャット 1993 鹿毛 |
Storm Cat | Storm Bird | |
Terlingua | |||
Barbarika | Bates Motel | ||
War Exchange | |||
トシザコジーン 2005 芦毛 FNo.7 |
アドマイヤコジーン 1996 芦毛 |
Cozzene | Caro |
Ride the Trails | |||
アドマイヤマカディ | *ノーザンテースト | ||
*ミセスマカディー | |||
トシメロディー 1998 芦毛 |
*マイニング | Mr. Prospector | |
I Pass | |||
サツマリーベ | *カコイーシーズ | ||
*ニジンスキーセンチメント |
クロス:Northern Dancer 5×5(6.25%)、Nijinsky 5×5(6.25%)
3代母サツマリーベの半弟にファーストアロー(1998年クラスターカップ)、サツマリーベの半妹スナークサクセスの仔にテイエムアンコール(2010年産経大阪杯)がいる。
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最終更新:2025/02/14(金) 05:00
最終更新:2025/02/14(金) 05:00
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