『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』(Star Wars: Episode I The Phantom Menace)とは、「スター・ウォーズ」サーガの映画作品である。
アメリカ合衆国製作、1999年のジョージ・ルーカス監督作品。英略称は「TPM」。
概要
1999年に劇場公開された、「スター・ウォーズ」サーガ映画第四作にしてスカイウォーカー・サーガの第一章。いわゆる「スター・ウォーズ新三部作(プリクエル・トリロジー)」の第一作であり、後に暗黒卿ダース・ベイダーとなる少年アナキン・スカイウォーカーがジェダイの道を歩み出すきっかけを描く。
サーガで唯一、日本版の副題が英語原題の(ほぼ)カナ転写となっている。原題The Phantom Menaceは「見えざる脅威」といった意味合いを持つとされる。1977年の『エピソード4/新たなる希望』以来となるルーカスの監督復帰作でもある。2012年には3Dリマスター版が劇場公開された。2025年現在、制作時ではなく後から3D化され再上映された唯一のスター・ウォーズ映画である。
『エピソード6/ジェダイの帰還』以来16年ぶりの新作であり、1990年代も後半に入り、コンピューター・グラフィックス(CG)など映像技術が格段に進歩したことから構想を実現できるとルーカスが判断し、旧三部作『特別篇』とともに新三部作の製作がスタートすることとなった。このため本作では多くのシーンがグリーンバックで撮影され、風景や建築など背景をCG合成している。
あらすじ
銀河共和国の時代。平和な惑星ナブーは通商連合との貿易紛争の末、ドロイド軍の侵略を受ける。共和国から派遣されたジェダイの騎士クワイ=ガン・ジンとオビ=ワン・ケノービの師弟は、ナブーの原生種族グンガンの手を借りて若き女王アミダラを救い出し、侵略行為を元老院で訴えるべく宇宙へ飛び立った。
途上、船の修理に立ち寄った惑星タトゥイーンで、一行は9歳の少年アナキン・スカイウォーカーに出会った。危険なポッドレースで天賦の才を見せたアナキンからジェダイの力であるフォースの強い資質を感じたクワイ=ガンは、彼をジェダイに育てようとする。一行はついに銀河共和国の首都コルサントに到るが、元老院には腐敗と官僚主義が横溢し、通商連合の侵略を止められない。
共和国に失望したアミダラ女王は、最高議長の不信任を発議すると故郷へ取って返す。戦うべき場は元老院の議場ではない。ナブーの人々を糾合し、グンガンと同盟して侵略軍に挑むのだ。
グンガンの偉大な軍隊の助力とアナキンの思わぬ活躍により、通商連合の侵略は頓挫する。だがクワイ=ガンは戦いのなかで謎の戦士ダース・モールと対決し、命を落とした。オビ=ワンが倒したその戦士は、大昔に滅びたはずの暗黒面のフォースの使い手、シス卿ではないかとジェダイは懸念する。
元老院はパルパティーン議員を新たな最高議長に選び、改革が約束された。オビ=ワンは亡き師の志を継ぎ、アナキンは彼の弟子としてジェダイの道を歩みはじめる。誰気づかぬ脅威の広がる下で。
登場人物
- クワイ=ガン・ジン Qui-Gon Jinn - 演:リーアム・ニーソン
- オビ=ワンの師であるジェダイ・マスター。
評議会の判断に反発することも多い、思索的で型破りなジェダイ。ダース・モールに遭遇し、滅んだはずのシス卿だと騎士団に警鐘を鳴らす。偶然出会ったアナキンこそ予言にあるフォースの集中、“選ばれし者”だと考え、年齢の決まりを無視してジェダイとして育てようとする。 - オビ=ワン・ケノービ Obi-Wan Kenobi - 演:ユアン・マクレガー
- ジェダイ・パダワン。クワイ=ガンの弟子。
有能だが未熟なところもある若者で、師とは正反対に生真面目。全般に控えめで、後ろから師を補佐することが多い。そして彼の「ブラ=サガリ」伝説はここから始まるのだ。 - アミダラ女王 Queen Amidala - 演:ナタリー・ポートマン
- 民主選挙で選ばれたナブーの女王、14歳。顔を白く塗り、独特の衣装に身を包む。
めったに表情を動かさないが、堅固な意志で通商連合の侵略に立ち向かう。タトゥイーンで街に出るクワイ=ガンに侍女パドメを随行させ、少年アナキンとパドメの出会いのきっかけとなった。他に侍女としてソフィア・コッポラ(サーシェ役)、キーラ・ナイトレイ(サーベ役)が出演している。 - アナキン・スカイウォーカー Anakin Skywalker - 演:ジェイク・ロイド
- 9歳の子供で、砂漠の星タトゥイーンに住む奴隷の子。
幼いながらに機械いじりが大の得意で、人間の身で危険なボッド・レースに出場できる反射神経は生まれ持った強いフォースの資質の賜物。クワイ=ガンの手で奴隷から解放され、故郷に母シミを残して、訓練を始めるには歳を取りすぎていると言われながらもジェダイの弟子となる。 - パルパティーン議員 Senator Palpatine - 演:イアン・マクダーミド
- ナブーを代表する元老院議員。人間の壮年男性。
腐敗した元老院に残る、抜け目なくも良識的な議員。故郷を脱出してきたアミダラ女王に元老院の実情を教え、新たな最高議長が必要だと進言する。ジェダイとやってきたアナキンにも目をかける。 - ジャー・ジャー・ビンクス Jar Jar Binks - 演:アーメド・ベスト
- ジェダイ二人がナブーで出会ったローカルの星人原住種族グンガン。
当人は至って真面目にジェダイを助け、そのまま流れで一行に同行する。常に陽気でへこたれないが、戯画化された訛りと間の抜けたキャラクター性は観客にあまり受けず、散々な評価を受けた。 - C-3PO See-Threepio - 演:アンソニー・ダニエルズ
- アナキンが自作したプロトコル・ドロイド。
ジャンク部品から組み立てられたばかりのため、外装を持たず配線がむき出しになっている。アナキンが故郷タトゥイーンを去る際、母シミのもとに残される。 - R2-D2 Artoo-Detoo - 演:ケニー・ベイカー
- アストロメク・ドロイド。ナブーの王室専用船に仕える。
アミダラ一行のナブー脱出時、船の損傷の修理に奮闘して称えられる。その後も一行に随行し、ナブーに戻った際にはタトゥイーンで出会った少年アナキンとコンビを組む。 - バローラム最高議長 Chancellor Valorum - 演:テレンス・スタンプ
- 銀河共和国元老院の最高議長。共和国のトップ。「ヴァローラム」とも。
腐敗しきった元老院を四苦八苦切り回しながらナブーのためジェダイを派遣したら、彼らが連れてきたアミダラ女王に権力の弱さを見限られ、不信任を突きつけられて勢いで失脚した可哀想な政治家。 - ワトー Watoo - 声:アンドリュー・セコンブ
- アナキンの奴隷主であるタトゥイーンのジャンク商。
長い鼻と翼を持つ種族トイダリアンの出。口うるさく怒りっぽい商売人。しかも傲慢かつギャンブル好きで、アナキンがクワイ=ガンのためにポッドレースに出場するきっかけを作った。 - ヌート・ガンレイ Nute Gunrey - 演:サイラス・カーソン
- 本作のヴィラン。通商連合の総督(ヴァイスロイ)。緑色の肌の爬虫類種族ニモーディアン。
ドロイド軍を率いてナブーに攻め込んできた張本人。素振りは高慢だがシス卿ダース・シディアスの操り人形に過ぎず、すぐに情けなく慌てふためく小物である。 - ダース・モール Darth Maul - 演:レイ・パーク
- シスの暗黒卿。本作のヴィラン。角のある種族ザブラク。
ジェダイたちの前に立ちはだかる、身体を刺青で覆い憎々しげな表情を浮かべる、異様な風体の男。上下に伸びるダブルブレードのライトセーバーを振るい、アクロバティックに戦う姿は人気が高い。演者は本職スタントマンで、セリフもほとんどなく神秘性を強めている。実は瞬きもほとんどしない。 - ダース・シディアス Darth Sidious
- シディアス卿。シスの暗黒卿であり、全ての黒幕。
常に顔をゆったりしたフードで隠しており、老人であるほか容貌は定かでない。
スタッフ
- 監督・脚本:ジョージ・ルーカス
- 製作:リック・マッカラム
- 製作総指揮:ジョージ・ルーカス
- 撮影監督:デヴィッド・タッターサル
- 美術監督:ギャビン・ボケット
- 編集:ポール・マーティン・スミス、ベン・バート
- 音響:ベン・バート
- 音楽:ジョン・ウィリアムズ
- 製作会社:ルーカスフィルム
- 配給会社:20世紀フォックス
本作の初出要素
新三部作の第一作ということで、バトル・ドロイド、通商連合など新三部作を通じての敵役が初登場。
銀河帝国がまだない新三部作時代の敵役として登場した通商連合のバトル・ドロイド(B1バトル・ドロイド)は、旧三部作にはほとんど登場しなかった戦闘用のドロイドであり、新三部作では旧三部作のストーム・トルーパーに代わって主なモブ敵役を担う。ドーナツ型の通商連合宇宙艦ルクレハルク級とともに、次作以降は分離主義者の主力となって姿を見せることとなる。
しかしヴィランとして印象的なのは、新登場のシス卿ダース・モールであろう。皇帝とダース・ベイダー以外で初めて映画に登場したシス卿(「シス」という用語はノベライズなどでは初期から出ていたものの、映画本編には本作で初めて登場した)であり、旧三部作にないアクロバティックでスピーディな殺陣シーンは観客を大いに沸かせた。
また、旧三部作ではすでに滅び去っていた、組織としての「ジェダイ騎士団」の往時の様子が初めて描写された。弟子を示す「パダワン」の語や、パダワン→ナイト→マスターという位階・徒弟制度、ジェダイ聖堂やジェダイ評議会の存在、ジェダイの訓練を始めるにあたっての年齢制限など、多くの要素が本作で初出となっている。
音楽面では、ライトモティーフとして新三部作を通して使用される威圧的なバトル・ドロイドのテーマ、どこか哀愁の漂うアナキンのテーマが初登場。その他、コーラスで有名な「Duel of the Fates(運命の闘い)」は本作のスコアである。
話題
タイトルロゴ
ポスターなどの宣伝に使用されたタイトルロゴは、『エピソード6/ジェダイの帰還』と同じローマン体を用いつつも、サブタイトルよりも「EPISODE I」というエピソード表記をメインにおいて既存作の前日譚であることを明確に示したものとなった。
このスタイルは新三部作の各作品を通して使用された。その後の各種リリースでは、「STAR WARS」ロゴとサブタイトルを組み合わせた、他作品と統一のフォーマットのロゴが適宜使用されている。
ミディ=クロリアン
作中でアナキンのフォースの素質を計る際、「ミディ=クロリアン」という概念が登場した。ミディ=クロリアンは生物の細胞内に無数に生息し共生する微小生命体であり、生物とフォースの相互作用を司る。細胞あたりのミディ=クロリアンの数はすなわちフォースを感知する能力の強さである。数には個体によって個人差があり、数が多いほど強いフォースを持つ生物ということとなる。
旧三部作を通して神秘的な力、超自然の概念という印象のあったフォースに、細胞内で共生する微生物の効用という科学的な要素が与えられたことは、ファンを大いに動揺させた(もっとも、スター・ウォーズのファンコミュニティは外洋漁船よりよく揺れる)。
本作でルーカスが示した「フォースの素質の科学的分析」の概念は、その後の新三部作やスピンオフ作品などではあまり触れられてこなかった。しかし、やがて2014年にスピンオフ作品のほとんどが「レジェンズ」に再ブランディングされて「カノン」として新規のスピンオフが展開されるようになると、特にその根幹をなす映像作品、ドラマ『マンダロリアン』やアニメ『バッド・バッチ』において、物語の根幹として活用されるようになっている。
銀河首都コルサントの登場
本作に始まる新三部作のために、銀河共和国の首都となる惑星コルサントがデザインされた。ただし初登場は『エピソード6/ジェダイの帰還 特別篇』(1997年)エンディングシーンの追加カットである。
ルーカスの初期構想では、銀河の首都惑星は「ハド・アバドン」の名であった(『ジェダイの帰還』の草稿段階で決戦の地となる予定だったが、技術的問題で変更された)。しかし新三部作の制作時には既に、銀河の首都惑星は1991年のスピンオフ小説『帝国の後継者』(著:ティモシイ・ザーン。スローン三部作の第一作。2014年以降「レジェンズ」)にCoruscant コルスカント(ko'-rus-kant')の名で登場しており、以後のスピンオフ作品を通してかつての銀河帝国、のちの新共和国の首都として定着していた。
結局、ルーカスもこの命名を受け入れ、ただし英字の綴りを変えずに発音のみ変更して「コルサント(ko'-ru-sant)」として使用した[1]。ルーカスの手によらないスピンオフ由来の命名が映画に逆輸入された貴重な事例である。新三部作での日本語字幕・発音も「コルサント」となっている[2]。
スピンオフ小説の「コルスカント」は、都市惑星ながら広大な海や山脈などの自然地形の存在も語られていたが、新三部作以降の「コルサント」は地表を都市と建築で覆われた、自然の見えないエキュメノポリス惑星となった。これは「ハド・アバドン」以来のルーカスの構想に基づいている。ただしマナライ山脈や都市に埋もれた惑星最高峰ウメイト(ウマテ山)のように、新三部作より前の「レジェンズ」作品由来の自然地形ながら「カノン」に引き継がれて映像作品(アニメ『クローン・ウォーズ』やドラマ『マンダロリアン』)に登場したものも存在する。
なお、コルサントの風景は新三部作の制作前に一括してデザインされたが、その全てが新三部作で使用できたわけではないらしい。デザインはしたものの新三部作を通して出番がなく、のちの『マンダロリアン』で初めて活用されたものもあるという。
オージーの大楽隊
エンディングシーンで流れる華やかな楽曲「オージーの大楽隊(Augie's Great Municipal Band)」は、EP6から使用された皇帝のライトモティーフを祝事のように編曲したものだという説がある(制作関係者のなかでも意見が一致していない)。この説では、このナブーの祝うべき勝利が将来の皇帝の台頭の第一歩となることを暗示しているとされる。
「レジェンズ」では、この曲はグンガンの作曲家オージーによる式典曲「Symponik Nabooalla」という作中世界内の楽曲の第一楽章だという設定が付された。グンガンの言語の設定傾向からして、意味は「ナブーとの同盟の交響曲」「盟友ナブーの交響曲」あたりと思われる。
ノベライズ
他のシリーズ映画作品同様、ノベライズ作品が刊行されている(2014年以降「レジェンズ」に分類)。著者はテリー・ブルックス。原著は1999年刊行。
次作『クローンの攻撃』以降の構想をルーカスから聞いたうえで執筆されており、映画本編より前のポッドレース、共和国の元パイロットとの出会い、タスケン・レイダーとの遭遇といった幼いアナキンのキャラクター描写を拡張し、彼の人格構築のバックボーンを示す記述が映画より増量されているのが特徴。
日本語訳
日本語訳書籍は3度にわたり出版社を替えて刊行されている。旧三部作の初期の訳に比べると、すでに旧三部作『特別篇』も経た本作以降では主要な固有名詞の訳も固まり、現代から見ても違和感はない。
- 『スター・ウォーズ エピソード1:ファントム・メナス』(富永和子訳、ソニー・マガジンズ。1999年)
公開当時の訳。当時スピンオフ小説の邦訳刊行を担っていたソニー・マガジンズ、富永和子訳での刊行。文庫版には表紙に長野剛の描き下ろしイラストを使用した版が存在する。 - 『スター・ウォーズ エピソード1 ファントム・メナス』(富永和子訳、竹書房。2012年)
3D版公開時の改訂版。この時のみSW小説の刊行を再度引き受けた竹書房より、本作の関連作である既作のスピンオフ小説『偽りの仮面』『ダース・モール 闇の狩人』の改訂文庫版と同時に刊行された。 - 『スター・ウォーズ エピソード1:ファントム・メナス』(上杉隼人、大島資生訳、講談社。2016年)
続三部作の公開に合わせた新訳。新・旧三部作を通して新訳刊行した本シリーズにより、はじめてスター・ウォーズ旧新両三部作のノベライズが同一出版社・統一フォーマットで刊行された。
スター・ウォーズ レジェンズの邦訳小説 (作中時系列順) |
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前作 | 本作 | 次作 |
ダース・モール 闇の狩人 (32BBY) |
エピソード1/ファントム・メナス (32BBY) |
ローグ・プラネット (29BBY) |
関連動画
関連リンク
- スター・ウォーズ /ファントム・メナス (エピソード1)
- スター・ウォーズ 公式
- Star Wars: Episode I The Phantom Menace
- Wookieepedia英語版
- スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス
- Wookieepedia日本語版
関連項目
脚注
- *「ハド・アバドン」の名称自体は別の惑星に流用されてスター・ウォーズ銀河に残っている。
- *スピンオフ小説など文字媒体の日本語訳におけるカナ転写はこの変更の影響をもろに受け、1999年のハンド・オブ・スローン二部作第一作『過去の亡霊』邦訳刊行から「コルサント」表記に変更された。ただし、「コルスカ・レインボー」(Corusca Rainbow。艦艇名)、「コルスカ・ジェム」(Corusca Gem。宝石)などの綴りを共有する固有名詞はその後も変更されていない。
親記事
子記事
- なし
兄弟記事
- アナキンの尻
- キャシアン・アンドー
- スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還
- スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐
- スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃
- スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲
- スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望
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