ダノンデサイル(Danon Decile)とは、2021年生まれの日本の競走馬。栗毛の牡馬。
主な勝ち鞍
2024年:東京優駿(GⅠ)、京成杯(GIII)
概要
父エピファネイア、母*トップデサイル、母父Congrats。
父は2013年菊花賞・2014年ジャパンカップのGⅠ2勝。種牡馬としては2020年の三冠牝馬デアリングタクトや2021年の年度代表馬エフフォーリアなどを輩出。本馬は5世代目産駒で、第1世代が2歳戦線で良好な成績を収め、種付け料が500万円と上昇曲線に入ったところで付けられた産駒である。直後にデアリングタクトが三冠を達成し、翌2021年だと種付け料は1000万円と倍増していたところだった。
母父Congrats(コングラッツ)はA.P. Indy(エーピーインディ)産駒で、競走馬としてはGIIを1勝。しかし種牡馬としては、アメリカのダート/オールウェザーでGI4勝のTurbulent Descent(タービュレントディセント)を筆頭に、活躍産駒が牝馬に偏重する典型的なフィリーサイアーではあるが、自身の競走成績に比して十分すぎる種牡馬成績を挙げている。日本に導入された娘たちからも、*ウィキッドリーパーフェクトからハートレー(ホープフルS)、*フォエヴァーダーリングからフォーエバーヤング(全日本2歳優駿)、などが出ている。本馬の母*トップデサイルも、北米で9戦2勝で重賞勝ちこそないものの、2014年のアルバシアディーズステークス・BCジュヴェナイルフィリーズと、2つの2歳GIでの2着がある。引退後は社台ファームが輸入し、本馬は4番仔。
(株)ダノックスが2022年セレクトセールで1億4,850万円で落札し、冠名「ダノン」に母の名を合わせて命名された。栗東・安田翔伍厩舎所属で、厩舎でのあだ名は「茶太郎」。デビュー以来主戦は横山典弘が務める。
野田の分析、そして実践
初重賞制覇…と落とし物
2023年10月9日、東京競馬場芝1600mの新馬戦でデビューし、4着。距離を1ハロン延長した10月28日の2戦目(京都芝1800m)で勝ち上がりを決めた。続いて11月25日の京都2歳ステークス(GIII)で重賞初出走。後団待機から、直線では上がり最速タイの末脚で追い込んだものの、シンエンペラーの4着どまり。2歳を3戦1勝で終えた。
明けて3歳初戦は1月14日の京成杯(GIII)を選択。
さてこの京成杯、何しろ現行の中山芝2000mとなった1999年以降、平成期にGI馬に成長した勝ち馬がエイシンフラッシュただ一頭であるばかりか、「京成杯が最初で最後の重賞制覇」となる馬の割合が非常に高いことで呪いのレースと囁かれ、クラシック戦線に向けた重要度は低いレース。……と、いうのが従前の評価であったが、この2024年は競馬ファンの見方も少々違っていた。
なぜならば、前年2023年の勝ち馬・ソールオリエンスが京成杯快勝からの直行で皐月賞を制覇、しかも新馬戦 → 京成杯 → 皐月賞という3戦3勝・最小戦歴タイでのクラシック制覇を成し遂げていたからである。となれば「皐月賞本番と同じ中山2000mで行われる、本番へのコース適性をダイレクトに測れる舞台」として、京成杯への見方もかなり変わっていた。
5番人気(11.5倍)に推されたダノンデサイルは8枠14番。横山典はスタートから促していき、コーナーインまでに外目の5番手を確保した。そのまま道中を運ぶと、最中直線では外から豪快に差し切り。重賞初制覇とともに、クラシック戦線へ名乗りを上げた。横山典弘は、自身の持つJRA最年長重賞勝利記録を55歳10か月23日に更新した。
……ところがダノンデサイルは、この京成杯で妙な所でも注目を集めてしまうことになった。鞍上の横山典弘は2コーナー付近で、ダノンデサイルの「トモの緩さ」に違和感を感じたという。実はこの時、デサイルは走りながらボロを出していたのだ。ボロを出すといっても、何か走りそのものに過失があったわけではない。ボロとは、競馬用語で馬糞のことである。うんこである。
別にこれも、馬糞ぐらいなんだという話ではある。パドックや本馬場で馬が排泄するのはごく当たり前の光景であり、それを臭い汚いと言っていては競馬場になど行けない。それに、大事な試合・試験・面接などの直前に「出すもの出してスッキリして臨もう」とトイレに駆け込むくらい、人間誰しも覚えがあるはずだ。そう考えれば、馬の排泄など気にするに当たらず。宝塚記念馬・マーベラスサンデーはパドックから本馬場に向かう途中の地下馬道と、待機所での輪乗り中に決まって放尿するなど、レースに向かうためのルーティーンとしていた優駿もいるくらいなのだから。
しかし「走りながら」である。……走りながらって、出せるものなの?力むところ違くない?いやリラックスして走れてるから出ちゃうのか?ともかくデサイルは、2コーナーから向正面にかけ、尻から後方に向かって馬糞を排泄しているのがはっきり中継カメラにも捉えられていた。レース後、安田翔伍公式X(twitter)にて「レース中にウンコしたとか言われてますけど実際は、、、しました」と、異例の申し開きが行われることとなった。
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https://twitter.com/shogo_y_stable/status/1747031444453724417
一応、安田師の語るところでは「レース中にする馬はたまにいますよ。追い切りしている時に前の馬がするときもある(笑)」「正直、くさいと思う余裕はない」だそうで、まあこれも競馬にはあることらしい。
さてネットは大盛り上がりである。「これは妨害疑惑」「レース中に斤量を捨てるとはなんという頭脳犯」だの、「リアルマキバオー[1]」「うんこひりパワーアップ[2]」「マリオカートのバナナ[3]」だの…。みんなうんこ大好きね。
ともかくダノンデサイルはこの京成杯制覇で、クラシック戦線への切符をほぼ確実なものとした。先例を繰れば、かの「平成三強」の一角スーパークリークもレース中に脱糞したことがあるとか…(ネット上でそう言われているが、具体的なレースは不明。情報求む)。彼のような優駿を目指し、ダノンデサイルの戦いは始まったばかりである。
皐月賞 決断
前年のソールオリエンスの軌跡をたどるように皐月賞へ直行。ホープフルSを勝った牝馬レガレイラ、2歳王者ジャンタルマンタル、そのジャンタルマンタルを共同通信杯で下したジャスティンミラノなど多士済々のメンバーが揃った。その中にあって同じコースの重賞を勝ったダノンデサイルに期待するファンも少なからずはいた。
全馬が馬場入りを終え、ゲート前に集まりいざスタート…となったその時、鞍上の横山典弘はダノンデサイルの脚を止め、スタッフに声をかけた。幾度かゲート裏を往復し、再び止めた。そしてしばらくして場内アナウンス。
「16番ダノンデサイルは馬場入場後馬体に故障を発生したため競走から除外いたします」
アナウンスと共に横山は下馬。ダノンデサイルはスタッフに引かれ、自ら歩いて馬場を後にした。横山は一生に一度の晴れ舞台でも、馬に無理をさせず競走しないことを決断したのである。
翌日の診察で右前脚に打撲があり、これが元で跛行を起こしたものと診断。症状は軽く、翌週にはトレーニングを再開できる程度であった。
走らなければ勝てないのが競馬ではあるが、それ以前に無事に走れてこその競馬。ファンの声も大半は横山の決断を支持、安田翔伍師も「大事に至る前にダノンデサイルの僅かな変化に気付いていただいたこと、感謝しております」とコメントした。
日本ダービー 決断の報酬
前述の通りすぐにトレーニングを再開できたこともあり東京優駿(日本ダービー)へ直行。競走は京成杯以来約4ヶ月ぶり、力関係も測りきれず、単勝46.6倍の9番人気に落ち着いた。人気は皐月賞馬ジャスティンミラノが順当に1番人気、ウオッカ以来のダービー牝馬を狙うレガレイラが2番人気、スプリングS勝利から皐月賞をスキップしてダービーに賭けたシックスペンスが続いた。
実は直前の調教でものすごい動きを見せており、一部の追い切り派の馬券師が目をつけていたというが、多くのファンは知るよしもなかった。
今度は何事もなくゲートイン。3枠5番から抜群のスタートを決め、横山は押して積極的に前へ出していく。末脚自慢のエコロヴァルツがハナを主張する想定外の展開になったので前に行かせインの3番手を確保。外のジャスティンミラノと並ぶような形になる。ペースは1000m62秒2の超スロー。前残りを見越して早めに動いた馬が外から追い抜き、ジャスティンミラノが4コーナーで仕掛けても横山はインで動じず、3,4番手で直線を向く。
残り400m、逃げたエコロヴァルツが力尽き空いた最内1頭分のスペースを突いて一気に先行馬をかわしていく。外からジャスティンミラノも抜け出してきたが叩き合うどころか残り100mからは完全に競り落として独走態勢。最後まで末脚は鈍ることなく、決定的な2馬身差をつけてゴール板に飛び込んだ。
横山典弘は2009年ロジユニヴァース、2014年ワンアンドオンリーに次ぐ10年ぶり3度目のダービー制覇。2022年にドウデュースで勝利した武豊を上回る史上最年長のダービージョッキー(56歳3ヶ月4日)となった[4]。インタビューでは「皐月賞の決断が間違っていなかったと、ああいうことがあっても大事にしていれば馬は応えてくれると、馬に感謝です」と横山らしいコメントを残した。
逆に調教師の安田翔伍はダービー初挑戦での初制覇。2011年にオルフェーヴルで勝利した池江泰寿を超え、グレード制導入以降では史上最年少のダービートレーナー(41歳10ヶ月22日)の栄誉を手にした。[5]
またエピファネイア産駒もダービー初勝利。父エピファネイアは2013年のダービーでゴール目前にキズナに差されて半馬身差2着に敗れており、11年の時を経て、その息子がキズナ産駒ジャスティンミラノを封じてダービーの勲章を父に届ける最高の親孝行をしてみせた。
そして馬主のダノックスはダノンプレミアム、ダノンキングリー、ダノンベルーガらが届かなかったダービー初制覇…どころか、クラシック競走自体が初制覇。3歳クラシックでは毎年のように有力勢とされながらも涙を飲んできたダノン軍団の悲願をダービーの大舞台で晴らしてみせた。
また、『みどりのマキバオー』の主人公ミドリマキバオーは、作中で1996年の日本ダービーをライバル・カスケードとの死闘の末に史上初となる同着優勝でダービー馬となったが(史実の1996年日本ダービー馬はフサイチコンコルド)、京成杯の脱糞の件でミドリマキバオーに喩えられた馬が、本当にマキバオーと同じダービー馬に輝くという流れでも驚きを集めることとなった。
菊花賞 再びの苦難
夏休みを挟んで三冠最終戦の菊花賞へ直行。前年2023年のダービー馬タスティエーラが挑んだのと同様に、ダービー・菊花賞の二冠に挑んだ。三冠馬を除けば、1973年のタケホープ以来51年ぶりの達成が懸かり、単勝2.9倍の1番人気に推された。
なおゲート入りの際はボロをし、スッキリした状態でレースに挑んだ模様。
2枠4番から好スタートを決めたデサイルは内ラチ沿いの好位を確保。先頭を見据えつつレースを進めた。
しかし、まず外枠からエコロヴァルツ(岩田康誠)がハナを奪ったのを皮切りに、1周目ホームストレート~2角にかけ、ノーブルスカイ(池添謙一)、メイショウタバル(浜中俊)、ピースワンデュック(柴田善臣)と、先頭が次々に入れ替わる出入りの激しい展開となった。前の鍔競り合いの間に、内で徐々にデサイルの位置は下がり、4角では16番手。横山典弘は外に持ち出し直線での追い込みに懸けたが、そこからでは間に合わず、アーバンシックの勝利の中で6着止まり。レース後の横山典は「かわいそうな競馬になってしまった。1周目はいい位置を取れていたんだけど、2周目で次から次に…。誰が悪いわけじゃないんだけど、とにかく流れが悪かった。」とコメントを残した。
2着のアドマイヤテラらが年内終了を表明する中ダノンデザイルの戦いは続き、次走は安田師から有馬記念への参戦がアナウンスされた。メイショウタバルも参戦する今年の3歳勢だが、ドウデュースら古馬相手に何処までやり合えるか。
血統表
エピファネイア 2010 鹿毛 |
*シンボリクリスエス 1999 黒鹿毛 |
Kris S. | Roberto |
Sharp Queen | |||
Tee Kay | Gold Meridian | ||
Tri Argo | |||
シーザリオ 2002 青毛 |
スペシャルウィーク | *サンデーサイレンス | |
キャンペンガール | |||
*キロフプリミエール | Sadler's Wells | ||
Querida | |||
*トップデサイル 2012 栗毛 FNo.22-b |
Congrats 2000 鹿毛 |
A.P. Indy | Seattle Slew |
Weekend Surprise | |||
Praise | Mr. Prospector | ||
Wild Applause | |||
Sequoia Queen 2004 黒鹿毛 |
Forestry | Storm Cat | |
Shared Interest | |||
Barefoot Dyana | Dynaformer | ||
Spankey's Seconds |
クロス:Seattle Slew 5×4(9.38%)、Roberto 4×5(9.38%)、Northern Dancer 5×5(6.25%)
関連動画
関連静画
関連リンク
関連項目
脚注
- *競馬漫画『みどりのマキバオー』の主人公・ミドリマキバオーは、幼駒時に野犬に襲われ、噛まれた際に脱糞して難を逃れたことから「うんこたれ蔵」の本名がついた。
- *『ジャングルの王者ターちゃん♥』の主人公・ターちゃんのパワーアップ方法で、文字通り脱糞によって力を増す。
- *ゲーム『マリオカート』シリーズ初代からある妨害アイテム。自分のカートの後方にバナナの皮を落とし、踏んづけた後続車をスピンさせる。
- *JRA最年長GⅠ勝利記録も武豊の54歳9ヶ月10日から更新している。
- *グレード制導入前も含めると1970年島崎宏の36歳5ヶ月6日、1968年戸山為夫の36歳6ヶ月2日、1983年松山康久の39歳8ヶ月25日などの年少調教師勝利記録がある。
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