岩手競馬とは、岩手県競馬組合が開催する競馬(地方競馬)である。
概要
盛岡競馬場(盛岡市)と水沢競馬場(奥州市)の2場を、時期を区切りながら一方ずつ利用し競馬を開催している。
ながらく原則として土日月の週3日開催としていたが、2019年から開催を日月火とする時期が増えている。1月中旬から3月中旬は気候の関係上休止する。所属騎手の中にはこの休止期間中に他場へ期間限定騎乗に行く者もいる。
主催の「岩手県競馬組合」は、岩手県と、競馬場が所在する盛岡市・奥州市からなっている。
2018年7月14日よりニコニコ生放送での公式中継が開始。 - ニコニコ競馬チャンネル
2023年4月3日からはYouTubeでの公式中継が開始。 - YouTube公式チャンネル
歴史
古くから馬の生産が盛んであった岩手では、西洋の競馬を受け入れるのも早く、1871年(明治4年)にはすでに、盛岡に1周1000mのコースが設置されていたという記録が残っている。1903年(明治36年)には初代盛岡競馬場が開設され、1924年(大正13年)には水沢に1周1600mという大きさの競馬場が開設される。
1990年代初頭までは好景気もあり順調な経営で「地方競馬の優等生」とも呼ばれており、県都にありながらフルゲート8頭と狭かった旧盛岡競馬場を1996年には芝コースを設け、中央競馬に引けを取らない設備を有する新競馬場への移転を実現させたりと積極的な投資も行っていたが、レジャーの多様化による競馬人気の低下で2000年代にはそれらの投資が膨大な負債として圧し掛かり、苦境に立たされた。2007年初頭には岩手県で廃止が議決されようとする寸前だったが、運営両市の資金投入という判断もあり存続が決定(参考1、参考2)。
さらに経営改革を進めるさなか、2011年3月の東日本大震災により、水沢競馬場や一部の場外発売所が被災・長期休止に追い込まれるという更なる苦境に立たされるも、震災からの復興が進むにつれ岩手競馬も復調を見せている。
インターネット馬券販売の普及が進むにつれて岩手競馬の売り上げも伸び、2014年と2022年にJBCが盛岡競馬場で開催された。
競馬場
盛岡競馬場
- 左回り
- ダートコース:1周1600m、直線400m(第4コーナーからゴールまで300m)
- 芝コース:1周1400m、直線400m(第4コーナーからゴールまで300m)
- 向こう正面は上り坂、3コーナーから4コーナーにかけて下り坂で、メインスタンド前でまた上り坂になっており、旧盛岡競馬場ほど極端ではないものの起伏を付けたコースになっている。
1周1600mは、地方競馬専用の競馬場としては門別競馬場、大井競馬場と並ぶトップタイ。
なお、1周1600mの競馬場では1600mのレースを実施できない場所が多い(スタート直後にカーブに差し掛かってしまうのを避けるため)。門別や大井のように周回の短い内回りコースがあれば問題ないのだが、内回りコースのない盛岡競馬場はこれを「第2コーナーに繋がる400mもの長い枝線を設ける」ことで対応している。これによりマイルチャンピオンシップ南部杯などの1600mレースが実施可能になっている。地方競馬を実施する競馬場では唯一の芝コースである(かつては愛知県競馬組合が中京競馬場の芝コースを利用していたが撤退)。また、日本で唯一の「外側がダート・内側が芝」の競馬場でもある(他はすべて外と逆)。芝コースの存在は盛岡競馬場の大きな特徴とされているが、コースの維持が難しく、芝の保全のために大雨などで馬場が悪化した際にはダートコースに変更になることが多く、施行レース数も限られている。
ダートコースの特徴
公式には直線からゴールまでの距離は300mだが、実際には330mくらいはある。同じコース1周1600mのコースの大井競馬場や門別競馬場よりはゴールまでの直線距離は短め。これは盛岡競馬場のスタンドが大井や門別と比べて真ん中寄りに作られているためである。なおスタンドからはダート1600mのスタート地点が引き込み線の一番奥で見えない構造になっていて、スタンドからスタート地点が見えないコースがある国内で数少ない競馬場でもある。
ゴール地点から1コーナーに入りかけたあたりから3コーナーまではゆったりとした上り坂が続き、3コーナーまでに2.5mの坂を上り、3コーナーから4コーナーまで一気に4mの勾配の下り坂、そこから直線はゴール手前50mくらいまで1.5mの上り坂になっており、地方競馬では珍しいハッキリとした勾配があるコースになっている。
何よりの特徴は中央競馬を含めても全国トップクラスで速い時計が出るダートコースである。2021年時点でダート1200m、1600mの日本レコードは盛岡競馬場で出ており、午前中の下級条件馬の競走でもダート1200mで1分13秒台が当たり前に出るほど速い。もともとは同じダート1200mでも1分16秒くらい時計がかかる競馬場であったが、近年は急速に高速化してきた。
地方競馬のダートコースとしては全国屈指の水捌けを誇り、雨上がりの不良馬場でも夏場の晴天では最終レースのころには良馬場にまで回復する。同じく不良馬場になると次の日までやや重が続く門別競馬場とは桁違いに乾きが速い。芝コースとの間に道路が作られている関係で、ダートコースの路盤が土手のように盛り上げて作られているためか、大雨が降っても砂で排水が詰まることが無いためではないかと考えられる。
芝コースの特徴
ダートコースの内側に作られていることから、1周1400mで直線は300m程度である。
芝コースの特徴は何と言っても日本最大のアップダウンコースであり、最大で下り4.6m、上り3.6mもの勾配がある。ゴール地点からスタートすると、1コーナーから2コーナーにかけて1m前後の下りがあり、2コーナーから3コーナーにかけて2mの緩く長い上り坂、3コーナーを頂上に4コーナーまで一気に4.6mの急坂を下り、直線は残り200mからゴール地点まで続く最大3.6mもの強烈な勾配を誇る上り坂が待っている。この勾配の大きさはダートコースよりも大きく、芝コースの中では4コーナーでカントがかけられている関係で外よりも内の方がゴール前の急坂の勾配が大きくなる。スタンドからでは見えないが、ダートコースの1コーナー地点では芝の残り200mハロン棒がほとんど見えなくなるほどである。両コースの勾配の一番下にあたる4コーナーではダートコースより芝の方が低いのがゴール地点ではダートコースよりも芝コースの方が1m以上高くなるほどでゴール板の高さを見ればスタンドからでも一目瞭然である。このためゴール寸前で全馬が密集して順位が入れ変わる大接戦が起こることがザラにある。
もう一つの特徴が芝コースとしては中央競馬の芝とは比較にならないほど時計が掛かるタフなコースと言う点である。前述のコース1周で2回にわたる上り下り4.6mの強烈な勾配にくわえ、オール洋芝で芝長も芝の成長促進と維持のためか15cm前後と長め、しかもダートコースの内側に作られているため小回りな点が挙げられる。その違いは単純比較であるが同じ芝2400mの重賞では東京競馬場が2分24秒台が普通なのに対し、盛岡競馬場では芝2400mの重賞のせきれい賞は2分32秒前後であり、同じ芝2400mでも日本ダービーとイギリスダービーの勝ち時計ほどの差がある。
芝コースに使われている芝はオール洋芝で、ペレニアルライグラス、トールフェスク、ケンタッキーブルーグラスが使用され、ペレニアルライグラスの深緑がもたらす美しい芝の色は必見で、薄暮開催の最終レースのころにはナイターのカクテル光線で芝の深緑が浮き上がってキラキラ光る。日本では盛岡競馬場でしか夜の光る芝は見られない。残念ながら2021年現在では芝コースにはナイター照明が届かないことから、午後4時30分くらいまでしか芝コースで競馬が出来ず、芝のメインレースは重賞でも午後4時くらいでダートの重賞よりも早い時間に行われる。
なんちゃってナイター
インターネット投票の普及により地理的条件から秋になると日没の関係でレース施行が可能な時間が短くなることが(特に中央競馬と開催が被ると)不利であるため、2018年秋に照明施設を新設して薄暮開催を導入。これにより日没ギリギリの16:40発走だった「マイルチャンピオンシップ南部杯」の発走時刻を17:30まで下げられるようになった。薄暮開催導入後の盛岡競馬は18時過ぎに最終レースを行うことが増えている。2022年からは南部杯も11レースから最終レースに変更となり、18:15に発走している。そのため日没が早まる10月ごろになると、盛岡競馬の最終レースのころは真っ暗であり、気分は薄暮どころかナイターさながらである。
爆竹ハーフタイムショー
盛岡競馬場は元は岩山という山を切り崩して造成して作った競馬場で、立地としては完全に山の中である。現に競馬場のコースの外は原生林さながらであり、特にダートコースの2コーナー手前の引き込み線の奥はコースの向こうは山肌で、ダート1600mのスタート地点はゲートの向こうは杉林である。
こんな構造のため競馬開催中ですらコース付近へのシカやカモシカの乱入が珍しくなく、日没が早まる秋口になるとダートコースの向こう正面はナイター照明に誘われてシカがやってくる。レース中にコースにシカがやって来たら大変なことになるので、場内にシカが乱入してきた際には大量の爆竹を一斉に鳴らしてシカを追い払うことがあり、出走馬に影響が少ないパドック周回中にコースの向こう側で大量の爆竹の爆音が聞こえてくることがある。レースの合間のハーフタイムショーと言えよう。
アクセス
盛岡駅から出ている無料優待バスに乗って約30分。道半ばからは何もないガチの山道となるため、初めて乗った人からは「本当に競馬場があるのか」「山奥にさらわれてるだけじゃないのか」と大好評。
駅からかなりの距離があり、タクシーだと3000円ほどかかるためあまりお勧めできない。
水沢競馬場
- 右回り
- ダートコース:1周1200m、直線317.4m(第4コーナーからゴールまで245m)
- コースは平坦。
- 内馬場には遊園地や野球場・サッカー場などがあり、馬場の外には水沢リバーサイドゴルフ場がある。
ダートコースの特徴
日本一速い時計が出るダートコースの盛岡競馬場に比べ、水沢競馬場は日本有数の時計のかかるダートコースである。その差は盛岡競馬場に比べると同じダート1400mでも4~5秒ほど時計が掛かるほどで、特に凍結防止剤が蒔かれる冬の水沢になると更に時計が掛かるようになる。そのため大回りで時計の速い盛岡ではスピードについて行けなかったり、瞬発力不足でゴール前の直線で差されてしまう馬が水沢になると小回りコースで重いダートを味方につけて勝つようになったり、逆に水沢になると勝てなくなる馬が少なくない。
雪中競馬
水沢競馬場の開催期間は主に開幕する3月~5月の春季、11月から1月の冬季で、12月ともなると岩手県奥州市では積雪が普通である。そのため真冬の開催では大雪で馬場の中まで雪が積もることが珍しくなく、ダートコースの砂が凍結して硬くなってくるのと雪が解けないギリギリの温度になると、馬場に雪が積もった状態で競馬開催が行われることがある。水沢競馬場よりも北で寒冷な門別競馬場は11月上旬で開催が終わってオフシーズンになることから競馬開催中に積雪することは少なく、ラチに雪が積もるほどの積雪の中で競馬が行われる可能性があるのは日本では水沢の他には日本海側で12月まで開催される金沢くらいのものである(ばんえいも含めれば帯広も)。
アクセス
新幹線なら水沢江刺駅、鈍行なら水沢駅が最寄り。距離的にはどちらの駅からも大体3km弱で、タクシーなら5分(約1000円)で着く。水沢江刺駅からは競馬場近くを通る路線バスが、水沢駅からは無料の優待バスが出ているが、どちらも本数は少ないためあまりあてにはならない。雪のない時期なら最悪歩けないこともないので、タクシーが見つからなければ頑張ろう。
主な競走
「Jpn●」は国内格付け(中央競馬や他の地方競馬所属馬も出走可能)。
マイルチャンピオンシップ南部杯[JpnI]
毎年10月に盛岡競馬場のダート1600mで開催される、秋競馬の始まりにおけるダートのマイル頂上決戦。JBCクラシック・JBCスプリントへの前哨戦の一つでもあり、優勝馬はどちらかに優先出走できる。
詳細は「マイルチャンピオンシップ南部杯」の記事を参照。
不来方賞[JpnII]
1969年に創設された、岩手競馬で最も歴史ある競走のひとつ。読みは「こずかたしょう」
「岩手3歳三冠」の最終戦として位置づけられている。後述するダービーグランプリがあったころはそのステップレースとしても機能していた。
2017年からはNAR全体で行われるシリーズ「3歳秋のチャンピオンシップ」のカテゴリーB競走に指定されたほか、本競走とダービーグランプリの両方で優勝すれば馬主に所定のボーナス賞金が贈呈されることになっていた。
2024年より全日本的なダート競走の体系整備に伴い、ダービーグランプリと統合したうえで岩手競馬初のJpnIIに昇格。
ジャパンダートクラシックの前哨戦として中央競馬所属馬も出走可能となった。
マーキュリーカップ[JpnIII]
毎年7月に盛岡競馬場のダート2000mで開催される、夏のダート中距離競走。
かつてはここから8月下旬のエルムステークス(JRA札幌競馬場・ダート1700m)へ向かうという手が使えたのだが、2014年以降はエルムステークスがマーキュリーカップの1週間後の開催になるため、この手を使うのが難しくなっている。
2017年からは岩手に在籍し地方競馬所属初の中央GI競走優勝馬を果たしたことで地方競馬史に残るメイセイオペラ(2016年没)の名を冠し「メイセイオペラ記念」の副題が付けられている(メイセイオペラが初めてダートグレード競走を制したのが1998年の本競走であった)。
クラスターカップ[JpnIII]
毎年8月に盛岡競馬場のダート1200mで開催される、夏のダート短距離競走。
秋以降のダート短距離重賞を見据えて出走する馬が多い。
ダービーグランプリ(2023年廃止)
1986年に創設された岩手競馬の3歳地方競馬全国交流競走。当時各地でバラバラに行われていた地方4歳馬(当時)の強豪馬の決定戦のさらに上を行く、地方全体での4歳最強馬の座を争う趣旨で創設された。施行時期によって水沢開催だったり盛岡開催だったりと実施場は変動している。
1996年から2007年は中央競馬所属馬も出走が可能であり、GI(2007年はJpnI)に格付けされていた。ジャパンダートダービー創設以前はこれが全国の3歳ダート頂上決戦として機能していた。
しかし2007年をもって一旦休止、2010年に再度地方競馬所属馬のみの競走として復活した。
2017年からは「3歳秋のチャンピオンシップ」の最終戦に位置付けられており、各地区の指定された3歳重賞の優勝馬(ジャパンダートダービーのみ地方最先着馬)が本競走に出走し優勝すれば馬主に所定のボーナス賞金が贈呈される仕組みとなっていた。
なお、2018年までは「岩手3歳三冠」の最終戦との位置づけもされていたが、2019年からは「東北優駿(岩手ダービー)→ダイヤモンドカップ→不来方賞」を3歳三冠競走とする体系に改めており、岩手の3歳三冠競走には含まれなくなった。
その後全日本的なダート競走の体系整備に伴い、2023年をもって不来方賞に統合される形で廃止となった。
競馬場グルメ
盛岡競馬場はジャンボ焼き鳥が名物。だいたい鶏もも肉1/2枚程度のサイズで食べごたえは十分。味も数種類用意されているが、どれも酒に合わせるのにぴったりな濃い目の味付けとなっている。バカでかい焼き鳥をかじりながらの観戦は盛岡競馬場の醍醐味。屋台村の右端の鳥喜と左端のおおにしの2店舗で販売されているが、有名なのは前者の方。食べ比べをしてみるのもいいかもしれない。
水沢競馬場はホルモン(モツ煮)が名物。昭和の鉄火場の雰囲気を色濃く残すスタンドでつつくモツ煮は、近代のきれいで明るい中央の競馬場では味わえない強烈な郷愁を誘う。またマイナーな名物としてラーメン(ぬるめ)がある。ごく普通の醤油ラーメンを50度くらいのスープで作ったもので、急いでいるときにもパッと食べられるので便利らしい。ちなみに水沢競馬場でもジャンボ焼き鳥は食べられるが、味付けは塩+七味のみとストイック。
関連動画
ファンファーレ。岩手競馬…じゃなくて「岩手競艇」の記事を参照。
かつての岩手競馬の名馬たち
関連生放送
関連項目
- 競馬 / 地方競馬
- 岩手県
- マイルチャンピオンシップ南部杯
- 岩手競馬を代表する名馬たち
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