荷電粒子砲(かでんりゅうしほう)とは、電荷を持った何かの粒子を大量に収束させて撃ち出す兵器である。
しばしば、SFロボットアニメ等で超威力の兵器として登場する。
本項ではほぼ同様の原理によって成り立っている「中性粒子ビーム砲」および「反物質粒子砲」についても触れる。
概要
簡単に言うと、「超すごい水鉄砲」。 アニメ等ではよくレーザーと同様の光線として発射される描写が目立つが、レーザーのような光学兵器ではなく、水鉄砲である。
ただ水を標的に向けて噴射するだけの水鉄砲と言えど、十分に収束させて十分な速度を持たせれば立派な兵器になる。 いわゆる「ウォータージェット」と呼ばれているこの高圧水流を用いた器具は、鉄板などやすやすと貫通し、強めればダイヤモンドさえ削って切断してしまうほどの威力を誇る。
しかしこのような威力を持つウォータージェットでさえ、通常は秒速800m弱、強いものでも秒速1000m前後の速度(※ 音速は秒速約340m)での水の噴射であり、これらの噴射を生み出している力は単純な圧力のみである。 これを圧力ではなく磁場によって電荷を持つ物質を引っ張る力を使い、粒子を亜光速まで加速して打ち出そうというのが荷電粒子砲である。
撃ち出す物質は電荷を持っている粒子なら理論上は何でも良いが、減衰の問題(後述)があるため、粒子自体の質量が大きい重金属の粒子を用いるのが望ましいと言われている。(粒子が軽いと、地磁気等の外力によって簡単に曲がってしまう)
威力・効果
純粋な威力はつぎ込む電力量などにも大きく左右されるため、これと言った基準は無い。 そもそも兵器としてはまだ現実に存在しないので具体例がひとつも無い。
ただし、相応の規模の荷電粒子砲が発射された場合、以下のような現象が起こると予想されている。
- 大量の粒子が直撃する事による、物理的な消滅破壊 原子よりも小さい荷電粒子(原子核)が高速で目標の原子核に衝突すると、双方とも粉々に破壊され、命中部位は構成する原子そのものが消滅する。
- 超酸化。プラスの電荷を持つ原子核は周囲の物質から電子をことごとく吸収する。吸収された原子はプラスに帯電して互いの反発でバラバラになる。生物がこれを受けると凄まじい酸化力を持つフリーラジカルカチオン(いわゆる活性酸素)が大量に発生、遺伝子をズタズタに破壊する。
- 磁場発生により様々な電磁波の発生 電荷を持つ粒子が高速で移動すると磁場が発生し、様々な波長の電磁波を撒き散らす。 可視光を撒き散らせば様々な色の発光体として周囲に視認される。 赤外線を撒き散らせば周囲の物体を瞬時に加熱し融解・蒸発させる。 赤外線に加え各種電波によって周囲に存在する有機物は電子レンジ状態になり瞬時に沸騰・溶解する。 その他電波を撒き散らせば付近の電子機器を破壊する。 (後述の中性粒子ビーム砲であった場合、粒子が電荷を持たないので磁場は発生しない)
- 摩擦熱の発生 大気や標的の物体との摩擦熱によりプラズマ化し、発光するとともに莫大な熱量を生み出す。 (こちらは中性粒子ビーム砲でも発生し得る)
技術的なハードル
理論上は、現在ある技術で可能な兵器である。 が、起動・運用のために必要な莫大過ぎる電力の確保が難しい事、また十分な威力を持たせるために必要な「粒子加速器」の小型化ができていないことから、実用範囲での荷電粒子砲を製作する事がほぼ不可能で、一般的にはまだまだ「架空のSF兵器」とされている。
直進させることの難しさ - 大気による減衰
地球上には大気がある。 大気があるという事は酸素やら窒素やら二酸化炭素などの粒子が充満しているという事であり、この中で荷電粒子砲を撃つという事は、例えるなら水が満タンに満たされた水槽の中で水鉄砲を撃つようなものである。 そんな事をすれば、水鉄砲から撃ち出された水流は水槽の中にある水とぶつかってすぐに勢いが弱くなり、拡散してしまう。強力な水鉄砲を用いればある程度の距離までは水流がジェットのように直進するが、それ以上進むと急激に勢いが弱まってやはり拡散してしまう。
大気中で撃つ荷電粒子砲にも同じ事が言え、粒子を十分な距離まっすぐ飛ばすには、相当な速度を持たせてやらなければならない。 これが、荷電粒子砲の稼動に莫大な電力を必要とする一番の原因である。
なお、水鉄砲を水中ではなく空気中で撃てば、水中ほど抵抗を受けないために、比較的容易に直進出来る。 これは、空気中の酸素や窒素と言った分子が殆どバラバラで存在するのに対し、水はひとまとまりで飛んで行くために、空気抵抗が相対的に少ないためである。当然、水を水として発射する水鉄砲ではなく霧吹きのようなものだった場合、空気中でもすぐに拡散してしまう。
これもまた荷電粒子砲でも同じで、大量の粒子を圧縮・収束してひとまとまりにして撃ち出せば相対的に減衰を抑える事が出来るが、今度は荷電粒子砲特有の問題によって粒子を収束させる事が難しいのである(次項)。
直進させることの難しさ - 電荷による収束の難しさ
荷電粒子砲なので、飛ばすのは荷電している粒子である。 荷電しているというのは+か-のどちらかの電荷を持っているという事であり、磁石のNとSと同じように、違う性質の電荷は引き合い、同じ性質の電荷は反発する力が発生する。 粒子を加速する際もこれを利用して加速する訳だが、+と-の電荷を持つ粒子を一緒にして加速しようとすると、すぐに粒子同士でくっついて電荷が中性(±0)になってしまい、磁場で引っ張れなくなってしまうため、+なら+の電荷を持った粒子ばかりを集めて撃ち出すことになる。 そうなると粒子同士の間に反発する力が生まれてしまい、射出された途端に勝手に拡散してしまう。
これを解決するためには以下のような手法が考えられている。
- 拡散しきってしまう前に目標に到達するように、十分な速度を持たせてやる。
- 射出直前に圧力をかけて圧縮する事で収束させる。
- レーザーと同時に発射し、光子の圧力で収束させる。
- 撃ち出す瞬間に電荷を±0にしてやって反発を起こらないようにしてしまう。 → 中性粒子ビーム砲
直進させることの難しさ - 外力による偏向
地球上でコンパスが正しく北と南を指し示すように、地球はそれ自体が巨大な磁石であるかのように、磁場を持っている。
電荷を持つ粒子を撃ち出す荷電粒子砲は、大気による減衰・粒子同士の反発による拡散の他に、「地球の磁場に勝手に反応して曲がってしまう」事を防ぐという課題もクリアしなければならない。 周りに天体が全く無い宇宙空間なら地磁気による偏向を気にしなくても良いが、宇宙空間は宇宙空間で、太陽風など他の荷電粒子の波が襲ってくる事が多々あるため、やはり外力によって簡単に曲がってしまう。
これらの問題については、撃ち出す粒子を質量の大きいもの(重金属粒子など)にしてやればある程度緩和出来るが、質量を増やして外力による偏向を緩和するという事は加速するために必要なエネルギーが増大する事に直結する(重い物質は加速も減速もしづらい)。 即ち、粒子加速のための必要電力が跳ね上がるという事である。
中性子粒子ビーム砲(後述)であれば、粒子の質量を増やす事もなく磁場による偏向を気にしなくても良くなるが、太陽風などと衝突した場合、粒子同士の衝突による減衰までは避けられない。
後述のフィクションの中の荷電粒子砲の、エヴァンゲリオンに登場する陽電子砲は、地磁気による偏向はネルフ本部スーパーコンピュータ・MAGIの演算によって補正する事でクリアしているが、第1射は反対方向から同時に放たれたラミエルの加粒子ビーム砲とお互いに干渉して偏向され、共に外れるという結果に終わっている。
コストの問題 - 必要電力
荷電粒子砲は、ただでさえ電力をバカ食いする粒子加速器を、兵器として役に立つ規模で稼動させる事になるため、想像を絶する量の電気を消費する。
兵器としての威力を考慮せずに、「大気中でまっすぐ粒子を飛ばす」と言う条件を満たすだけでも1万メガワットクラスの電力を必要とする。 (1万メガワットは500ワットの電子レンジ2000万台分に相当する)
消費電力の具体的な設定が出てきているフィクションとしてエヴァンゲリオンのポジトロンスナイパーライフルがあるが、「ラミエルの射程外からATフィールドを貫通出来る出力」を満たすためには1発で1億8千万キロワットを消費する。 現在、最も電力を消費する真夏の昼過ぎでに日本全国で1日に消費するのが1億8300万キロワットなので、文字通り日本に存在する電力全てをフル稼働させて総動員してやっと賄える電力であると言える。
この1億8千万キロワットのポジトロンスナイパーライフルは一般的な兵器を遥かに凌駕する威力であるため、人間同士の戦争ではここまでの超威力は求められず1億8千万キロワットも電力を使う事は無いと思われるが、それでも5000万キロワット級の電力を消費するのは間違いない。 一般的な対人・対物兵器の規模は当然の事、戦略級の規模であったとしても、1発発射するだけで国の大半を停電させなければならないような兵器では、リスクが大きすぎてまるで実用に耐えないと言える。
規模の問題 - 加速器の大きさ
撃ち出す粒子を加速する方式は、現在は大別して以下の3種類が存在する。
- 静電加速器
- 2点の電極の間に電位差(電圧の大きさの差)をセットし、そこに粒子を通過させて加速する。 電極2つ分の大きさで済むためコンパクトであり、連続して加速した粒子を射出し続けられるという特徴があるが、加速出来る上限が電位差で頭打ちになってしまうため、加速能力自体は後述の2種に比べて大きく劣る。
- 線形加速器
- 長い一直線の通路を作り、その中で引っ張り続ける事で加速する。 静電加速器における限界を超える事が出来るが、科学研究や兵器として実用出来るほどの加速を得ようと思うとキロメートル単位のすさまじい長さになる。そのため実質的に加速の上限が存在する。
- 円形加速器
- 輪っか状にした筒の中をぐるぐると回して加速し続ける。実質的に加速器の「長さ」が無限となるため、現実的な大きさの線形加速器よりも遥かに加速出来るが、円形であるが故の特有の問題を持つ。 円形の加速器の中を走らせるには円形に沿って粒子を曲げる必要があり、粒子を曲げるためにエネルギーのロスが生まれてしまう。このため、加速すればする程エネルギーのロスが大きくなり、「加速器の大きさ」とは別の面で上限が発生してしまう。 このエネルギーのロスは円のカーブが緩やかであればあるほど小さくなるため、より加速するためには「輪」が巨大になる。例えば日本の茨城県つくば市にある円形加速器は円周約3km強(直径1km前後)もの巨大なリングを地下に埋めている。
兵器として運用する目的の場合、線形加速器か円形加速器のどちらかを用いる事になるが、どちらを用いるにせよキロメートル単位の巨大な施設が必要になるため、携行サイズの武器としては当然のこと、機動兵器に搭載する兵器としては不可能。 固定砲台的な用途ならば実現可能かも知れないが、巨大であればあるほど破壊工作などに対する警備が難しくなるため、やはりこのままでは兵器としての実用は不可能に近い。そこで新たな加速器が登場する。レーザー加速器である。
レーザー加速器とは超高出力・超短パルスのレーザーを金属ターゲットに照射、光子のエネルギーで荷電粒子を弾き飛ばすことで加速する新しいタイプの加速器である。レーザーによって粒子を一気に加速するため装置が極めてコンパクトで済むのが特徴。まだ出力は従来の加速器には及ばないものの、レーザーを多段化することで理論的にはいくらでも出力を上げられると考えられており、近いうちに兵器として運用可能なタイプも登場するのではないかと思われる。
運用の問題 - 発射時の反動
実用可能なサイズに収まった荷電粒子砲が存在したとして、そいつを発射すると凄まじい反動が発生する。と考えられている。
またまた水で例えるならば、根元の蛇口を全開にしたホースはしっかり持たないと暴れまわって周囲を水浸しにしてしまう。 消防活動に使われる消防車のホースは家庭の蛇口の比ではなく、訓練された消防士が両手で持ってようやく押さえ込めるほどの勢いを持つ。 工業で使われるような強力なウォータージェットに至っては、機械に備え付けでないとまともに運用できないほどである。
「水鉄砲」の部類でこれなのだから、それを遥かに延長した荷電粒子砲は想像を絶する反動が発生するのは想像に難くない。 反動の問題も、兵器として大規模になってしまう原因の一つである。
類似兵器
中性粒子ビーム砲
先述の「同じ電荷を持つ粒子の固まりであるために勝手に拡散してしまう」と言う問題への答えの一つとして考案されている形式の兵器。
+と-の電荷を持つ粒子をそれぞれ別々に加速してやり、発射直前に混ぜてやる事で、くっついて電荷的に中性(±0)になって飛んで行くと言うもの。 こうする事で電荷による収束の難しさと、地磁気などの外力による偏向の問題を気にしなくても良くなるため、現在のところ「荷電粒子砲を実際に作成するとしたら」では最も有力視されている形態。
※ 中性子ビーム砲と名前が良く似ているが必ずしも同一のものではない。 中性粒子ビーム砲は撃ち出す粒子が電荷的に中性でありさえすればいいので、中性子そのものでも、陽子1個+電子1個の組み合わせの水素原子でも何でもいいが、中性子ビーム砲は文字通り中性子そのものを発射する。 また、中性粒子ビーム砲は上記の通り荷電粒子砲の一種として考案されたものであるが、中性子ビーム砲はそうとは限らない。中性子は物体を透過する力が極めて強いため、低エネルギーでも放射線としての性質を強く持つ。中性子線を撒き散らして生物だけを殺傷する事を目的とした中性子爆弾はこの際たるもの(ビーム砲と言う呼び名に相応しくは無いが)であるが、これは荷電粒子砲とは一切無縁。
反物質粒子砲
射出する「弾」としての粒子に何らかの反物質を用いた兵器。 広義には反物質粒子を撃ち出すもの全てを言うが、ただ反物質粒子砲と言った場合、荷電粒子砲の原理で反物質粒子を撃ち出す兵器の事を指す。
「弾」が反物質である事で、通常の荷電粒子砲と同様の破壊効果に加えて目標そのものを構成する物質との対消滅が期待できるため、威力は飛躍的に高まる(と予想される)。
しかし、反物質粒子砲は通常の正物質を用いる荷電粒子砲以上に大気による減衰が酷いと考えられている。 通常の荷電粒子砲では、発射した粒子が大気の粒子と衝突した場合、速度がいくらか落ちたりするだけであり、最初に十分な速度があれば、何度か衝突をしてもまだしっかりと前に飛んで行く。 一方で反物質粒子砲では、発射して最初に大気粒子と衝突した時点で粒子そのものが対消滅によって消えてなくなってしまうため、単純に粒子自体の速度だけでは減衰の問題を解決できない。
また、仮に減衰の問題を解決できたとしても、現在の科学力では弾とする反物質そのものの確保、およびその貯蔵・制御に難があるため、空想の域を出ていないのが実情。
なお幾つかのフィクション作品では「クリーンな兵器」と言うような説明がなされている事があるが、これは正しくない。 反物質が目標や射線上の大気粒子などと対消滅を起こした場合、粒子の質量は全てガンマ線という形でエネルギーに変わって放出される。ガンマ線とは放射線の一種でもあり、中性子線(原子爆弾による放射線の主なもの)などに比べるとその作用は比較的小さいものの、その他生物の身体に照射された場合は被曝しDNAの損傷など重大な被害を蒙る。 つまり発射して大気に触れた時点で膨大な量の放射線を周囲に撒き散らすという事であり、規模によっては核兵器を使うよりも重大な環境被害・人的被害を発生させる可能性がある兵器である。
フィクションの荷電粒子砲
フィクション作品に登場する荷電粒子砲の一例を列挙する。
なお構造原理から明らかに荷電粒子砲である、または「荷電粒子砲である」と明言されているものは多々あるが、ここまでの記事にあるように現在の技術レベルで存在する「粒子加速器が巨大すぎる」「必要電力が膨大」「発射時に莫大な量の電磁波を撒き散らす」「凄まじい反動がある」等の問題点をどうやって解決して兵器として実現しているのかはご都合によってスルーされている事が多い。
- 機動戦士ガンダム
- その後のシリーズも含む。 ガンダムに登場するビーム兵器はほぼ全て、荷電粒子砲の一種である。 作中に登場する架空の粒子・ミノフスキー粒子を縮退寸前まで圧縮してやる事で生まれる状態(これを「メガ粒子」と呼ぶ)を収束させ撃ち出すのがメガ粒子砲であり、メガ粒子砲を携帯可能なライフル状にして一般モビルスーツの武装にしたものがビームライフルである。 粒子砲であるため水中では威力の減衰が激しくほぼ使用不能だという設定が殆どだが、地球の大気圏内では減衰の問題は殆ど気にされない。また地磁気による偏向も気にされる事はほぼ無い。(偏向については、ミノフスキー粒子自体が正負どちらにも荷電する粒子であるという設定があるので、中性粒子にして発射する技術が加えられているとも解釈出来るが)
- 新世紀エヴァンゲリオン
- 第5使徒ラミエルの殲滅の際に使われた「ポジトロンスナイパーライフル」は荷電粒子砲そのものである。ポジトロンとは陽電子のことで、この兵器は反物質粒子砲としての側面も持っている。 これによって第5使徒ラミエルの加粒子ビーム砲(こちらも荷電粒子砲の一種)の射程外からの超長距離射撃を行う「ヤシマ作戦」を発動したが、ポジトロンスナイパーライフルの起動に必要な超絶な量の電力を供給するために、ネルフの特権により日本全国の電力を全て徴収し、一時的に日本全国を停電としながら発射した。 ポジトロンスナイパーライフルは上記の通り陽電子を発射するものであるが、ラミエルの加粒子砲はこれと干渉して偏向しているため、こちらも何らかのプラスの電荷を持った粒子を発射している事が分かる。またラミエルの加粒子砲は劇中に発射の瞬間を指して「円周部を加速していきます」と言う発言があるため、ラミエルはその巨体の中に円形加速器の一種を内蔵しているものと思われる(・・・が、新劇場版でラミエルは色んな形に変形しだしたため、加速器がどこにあるのか分からなくなってしまった)。
- なお、絶対的な防御力を誇るATフィールドを備える使徒に対抗出来るのは同じATフィールドを持つエヴァンゲリオンだけ、と言う前提が存在するこの世界において、第5使徒ラミエルに対するポジトロンライフルだけは、エヴァンゲリオンによるATフィールド中和をせずに通常兵器でATフィールドを破って使徒の殲滅に成功している唯一の例である。
- ゾイドシリーズ
- 「荷電粒子砲」と言う名の兵器が一部のゾイドに搭載されている。代表的な搭載ゾイドのデスザウラーは背部に取り付けられたファンから空気中の荷電粒子[1]を大量に取り込み、首に内蔵されているシンクロトロンジェネレータで一気に加速し発射する。この時に消費する電力はゾイドコアから発生する莫大なエネルギーで賄われており、強大なパワーを持つ巨大ゾイドが発射する荷電粒子砲は小説でもアニメでも一貫して最強クラスの兵器に位置づけられている。逆に小型ゾイドの荷電粒子砲はそれほどでもないようで、作中では大型と小型で威力に大きな差がある。地球よりも遥かに強い磁場を持つ惑星の上でも撃ち出した粒子が何の問題も無く直進する点については不明だが、「エネルギーコントロールシステム」なる詳細不明の地球由来技術でビームの曲射を実現している設定が存在するため、ある程度軌道の制御を行う技術が確立しているようだ。
- マブラヴ オルタネイティヴ
- 戦略航空機動要塞「XG-70b 凄乃皇(すさのお)・弐型」および「XG-70d 凄乃皇・四型」のメインウェポンとして登場。 水素原子を電磁石の列の中で加速させ、十分な加速を得た所で撃ちだす粒子ビーム兵器である。粒子加速器の小型化はどうやって実現したのかについては不明だが、電力の供給方法については重力制御を行って機体を浮遊させると共にラザフォード場(重力場)を展開してBETAのレーザー等の攻撃の遮断や接近するBETAに対する防御を行う「ムアコック・レヒテ機関」と言う装置を稼動させる際に生じる莫大な余剰電力を利用するとされている。
- なお、最初に荷電粒子砲を搭載し実戦投入された弐型は、「発射時に発生する反動などを制御するため、ラザフォード場を展開するも、演算能力が足らずにコックピットが強力な重力の多重干渉に曝される」という問題を抱えており、発射すればパイロット全員がモロにこれに巻き込まれる事になり、「荷電粒子砲を運用するとパイロットを使い捨てる事になる」と言う深刻な問題を抱えてしまった。
- そのため、弐型は00ユニット(アンドロイドのようなもの)専用機と言う形で辛うじて実戦投入されたが、00ユニットの機能停止によってあっさりと機体を放棄するハメになってしまった。 四型ではOSやコンピュータの性能がアップし、ラザフォード場の多重干渉問題をクリア出来るようになった。簡単に言えばラザフォード場の内側にもう一つラザフォード場を展開する事が可能になったという事で、これによって電磁波を閉じ込めるラザフォード場の内側にパイロット自身を含めた生物がいてもそれを個別にラザフォード場で包む事により、有人での兵器運用が可能になった。
現実の荷電粒子砲
1980年代、冷戦末期。超タカ派のレーガン政権下のアメリカ合衆国はソ連の核ミサイルの脅威をことさらに強調、これをいち早く迎撃することを目的とした戦略防衛構想(SDI)、通称スターウォーズ計画を発表した。衛星軌道上にミサイル、レーザー、レールガンなどの宇宙兵器を配備して宇宙空間を飛ぶ核弾頭を撃ち落とそうという構想である。これら宇宙兵器システムの一つとして荷電粒子砲の計画が存在した。
米空軍はとりあえず低出力の加速器を作り、宇宙と地上で実験を行った。その結果、荷電粒子砲を宇宙で運用する上での弱点が判明した。宇宙空間の方が荷電粒子のビームが拡散しやすく、また地磁気による影響を受けやすいことがわかったのだ。地上では空気がビームの拡散を押さえ込んでいたのである。空軍ではビームを中性粒子化するなどの対策も考慮に入れていたが、あるアイデアがこれらの問題を一気に解決する。荷電粒子ビームとともにレーザーを発射、レーザーをビームの通り道にすることでビームを直進させることに成功したのだ。とはいうものの、核弾頭を無力化できるほどの出力のビームを作り出すことはついにできず、計画は失敗に終わった。そしてSDI計画自体も米国の基礎技術の底上げにそこそこ貢献したものの、軍事的には何も得るものはなく、最終的には瓦解してしまうのだった。
一方ソ連では、SDI計画の発表に戦々恐々としていた。何しろこちらが撃ったミサイルはことごとく迎撃され、向こうのミサイルが一方的に襲いかかるなんてたまったものじゃない。後に公表された資料によると実際キューバ危機以来の全面核戦争一歩手前の状態になっていたという。核抑止力なんてものは実は神話でしかなかったといういい例であったが、それはそれとしてソ連も米国に対抗して宇宙兵器を、そして荷電粒子砲の開発を始めたのは自然の流れといえる。
ソ連はカザフ共和国(現在のカザフスタン)のセミパラチンスク核実験場の一角にあるサリシャガン基地に何やら妙な研究施設を建設する。「サリシャガンの虎」と呼ばれるようになったそれは後に西側の調査により爆薬により瞬間的な大電流を発生させる爆薬発電の研究施設であるらしいことがわかった。どうやらソ連は爆薬発電の大電流を荷電粒子砲のエネルギー源にするつもりだったらしい。
アメリカのSDI計画が宇宙空間に兵器を配備して宇宙空間の核弾頭を狙うのに対し、ソ連の荷電粒子砲は地上から大気圏再突入中の核弾頭を迎撃するものだったらしい。実際に作られるはずだったそれはエネルギー源に核爆弾を使うつもりだったようだ。だが、結局実用機は完成しなかった。核弾頭を無力化できるほどの粒子ビームを創りだす加速器を、兵器として実用的なサイズに収めるのは当時のソ連の技術力、資金力では無理があったのだ。
荷電粒子砲ばかりではない、ソ連のSDI対策(ダミー弾頭を含む核弾頭と相手側の裏をかく移動式ICBMの量産、宇宙往還機ブラン(宇宙爆撃機でもあったらしい)とレーザーキラー衛星ポリウス、そしてこれらを打ち上げるための巨大ロケットエネルギアの開発)は、なけなしのソ連経済を更に圧迫し、最終的にはソ連邦崩壊の直接の原因となった。SDI計画は軍事的には失敗に終わったものの、政治、外交面では米国に勝利をもたらしたのは皮肉な話であった。
軍事以外での利用
「電荷を持つ粒子を電磁場の加速によって飛ばす」事を利用した技術は、荷電粒子砲以外にも多数存在する。
- ブラウン管テレビ
- ブラウン管とは簡単に言えば、電子銃で発射した電子を静電加速器の一種で加速すると共に磁界によって方向を変え、ブラウン管の画面部分の狙った位置に当てて蛍光物質を発光させることで映像を映し出す装置。
- 粒子線医療器具
- 主に癌治療などで使われている粒子線医療の器具も、荷電粒子を加速して撃ち出し、人体の特定の部分(主に癌細胞)にぶつけて傷を付ける=簡易的に被曝させる事で治療を行うものである。
- イオンエンジン
- 簡単に言えば荷電粒子を加速し射出する際の反動で前に進む推進装置。 探査機「はやぶさ」に搭載されているメインの推進装置もこれであり、はやぶさはキセノンをイオン化したものを推進剤として使用している。 なお、放出するイオンが本体からエネルギーを持っていってしまって加速の意味が無くなるのを防ぐのと同時に、放出したイオンが拡散して推進する方向が一定しない事を防ぐために、「中和器」から同量の電子を放出し、機外に放出する頃にはイオンを中性に戻している。その点から見ると中性粒子ビーム砲の流れを汲む装置であると言える。
- 電子ビーム溶接
- 電子を高い電圧で加速し、収束して照射することで金属を溶かして接着する。レーザー溶接よりもビームのエネルギーが高いため、チタンやタングステンなどの熱に強い金属にも使用でき、また数cm以上の厚い材料も溶接できる。以前は真空中でしか使用できず装置が大掛かりでコストも高かったが、最近になって電子ビームを通して空気を遮断するプラズマの壁「プラズマウィンドウ」が開発され、大気圧下でも使用可能になり、コストも低下した。
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関連項目
脚注
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