機龍警察(POLICE DRAGOON)とは、月村了衛の近未来警察小説である。
警察・ミステリー、またはSF小説にもカテゴライズされるが、著者である月村了衛は冒険小説としている。
後述の受賞歴やランキング入りからもわかるように、いずれのジャンルに於いても非常に高い評価を得ている。
概要
当該シリーズ第一作がデビュー作となる小説家、月村了衛が創り出した作品群。
上記受賞歴以外でも、「このミステリーがすごい!」や「SFが読みたい!」などのブックガイドなどで、度々年間ベストテンにランクインしている。
タイトルで損をしていると言われることもある。ちなみにタイトルの「機龍」とはパワードスーツ「龍機兵」の事を指しているのであって、メカゴジラではない。「読んだことないけどメカゴジラがおまわりさんをする話だろ?」と思っている人も居るかもしれないが、そんなことはない。
シリーズ書誌の刊行、賞歴の時系列
2010年、長篇第一作「機龍警察」がハヤカワ文庫JAより刊行、本作が月村了衛が小説家としての処女作となる。
2011年、長篇第二作「機龍警察 自爆条項」がハヤカワ・ミステリワールドより刊行。
2012年、「機龍警察 自爆条項」が第33回日本SF大賞を受賞。同年9月、長篇第三作「機龍警察 暗黒市場」が刊行。
2013年、「機龍警察 暗黒市場」が吉川英治文学新人賞受賞。
2014年、長篇第四作「機龍警察 未亡旅団」が刊行。同年11月、長篇第一作に大幅な評論・解説を増補した「機龍警察 〔完全版〕」 また12月、初の短篇集となる「機龍警察 火宅」が刊行。
2015年、長篇第五作「機龍警察 狼眼殺手」が早川書房の隔月刊誌『ミステリマガジン』2016年1月号(11月25日刊行)より連載開始。これが本作品群、初の連載形式となる。
2016年、長篇第二作を加筆し、短編集の自作解題を増補した「機龍警察 自爆条項 〔完全版〕」が刊行。
2017年、長篇第一作と第二作の増補版「機龍警察 〔完全版〕」「機龍警察 自爆条項〔完全版〕」が文庫化。そして、前述の連載を纏めた長篇第五作「機龍警察 狼眼殺手」が刊行、過去最大のページ数となる。
2019年、長篇第六作「機龍警察 白骨街道」が前作と同じく、早川書房の隔月刊誌『ミステリマガジン』2020年3月号(2020年1月25日刊行)より連載開始予定。
2020年、フクダイクミ(構成)、イナベカズ(漫画)によるコミカライズが発表。12月18日刊行の月刊ヤングマガジン第1号より本連載が開始。なお、当該連載に先駆け12月7日刊行の週刊ヤングマガジン2021年2・3号に序章が出張掲載。
2024年、長編第七作「機龍警察 漆黒社会」が『ミステリマガジン』11月号(9月25日発売)より連載開始。
ストーリー
深刻さを極める内戦・地域紛争、国際犯罪とテロリズムの情勢下、二足歩行型軍用有人兵器体系・機甲兵装が普及した現代。
既存の警察に於ける枠組みを超えて捜査を行うべく、新設された警視庁特捜部は「龍機兵(ドラグーン)」と呼称される次世代機甲兵装を導入し、搭乗要員として3人の傭兵・元警官・テロリストと契約した…
これは孤立無援の中、続発する事件とその背後に潜む巨大な闇と対峙する凄絶な暗闘を描いた作品である。
登場人物
※注意!一部ネタバレが含まれています
極めて異例な外務省から警視庁への出向により関係官庁の様々な圧力の中、特捜部設立の立役者となった官僚。
洒落たデザインの眼鏡を掛け、テーラーメイドの瀟洒な高級スーツを身に纏い、
正確無比なまでに明晰な頭脳と窺い知れぬ豪腕を以って特捜部の指揮を執る恐るべき切れ者。
愛煙家であり、キューバ産の葉巻を愛好する。常喫銘柄はモンテ・クリストのミニシガリロ。
特捜部理事官 階級:警視 年齢:30歳
部長である沖津の右腕として、特捜部内の指揮・調整を行う理事官の1人。
キャリア官僚でありながら現場捜査員や外部契約を交わしている部付警部と分け隔てなく接する等、
極めて温和な性格をしており、これからの犯罪捜査は特捜部が主軸となり、
国民の生命財産を守るという理想主義的な考えをもつ。東京大学法学部卒業。
父親は政官財の各界に影響力を持つ重鎮、兄は衆議院議員であり若くして政権与党の幹部という名家の出身。
しかし、それ故に自身の特捜部配属に関しては父兄に対して少なからず劣等感を抱いている。
特捜部内の女性人気を由起谷と二分する程の貴公子然とした美形でもある。
宮近浩二
特捜部理事官 階級:警視 30歳
城木とは異なり、察庁(警察庁)からの理事官。会議では説明をこなす機会が多い。
城木とは同期であり親友。警察官僚の娘である妻と早くに結婚し、娘を1人もうけている。
官僚機構の常識を重視し、逸脱と例外を極度に嫌うという典型的なキャリア官僚的思考を持ち、
警察内部で厄介者として疎んじられている特捜部への配属を出世への悪影響と考えている。
突入要員である部付警部達、特に姿の自由奔放とした振る舞いに手を焼き、
謎めいた存在である沖津にも警戒心を持つ。東京大学経済学部卒業。
姿俊之
特捜部付警部 龍機兵搭乗要員 コールサイン:PD1 国籍不明 日本人 年齢:推定30代前半
特捜部加入前は世界各地の紛争地帯を渡り歩いていたとされているが、
その経歴・出自は未だ多くの謎に包まれている白髪の傭兵。
所構わず軽口を叩く飄々とした態度が反感を買う一方、常に冷静沈着に任務を遂行する特級の戦闘技能を有し、
プロフェッショナルとしての強い矜持を持つ。本職兵士である為、特捜部内に於ける軍事顧問的存在。
趣味嗜好として珈琲に対する造詣が深く、その他の雑学にも精通しており度々作中で薀蓄を並べる。
重大なネタバレ事項(文字反転)→龍機兵搭乗要員としての契約事項に於ける「自爆条項」の唯一の代理執行者。
「自爆条項」とは、「龍機兵が第三者に奪取、ないしはそれに準ずる事態が発生した際、契約者(搭乗要員)は速やかに龍機兵を爆破しなければならない」という契約上の絶対事項。これこそ、龍機兵搭乗要員を現職の警察官から抜擢することが不可能だった事由である。(「搭乗要員と同時に」爆破、と無記載な点は「搭乗要員諸共自爆を行う」というニュアンスを糊塗する官僚的レトリックである)
しかし彼の契約条項の文面にのみ、「搭乗要員が龍機兵爆破が困難・不可能となった場合、甲・姿俊之は龍機兵破壊を代行しなければならない」とされている。故に搭乗要員3人の中で、最も高額な契約を交わしている。
特捜部付警部 龍機兵搭乗要員 コールサイン:PD2 ロシア連邦・モスクワ出身 年齢:推定30代前半
元々はモスクワにて警察官を務めていたが腐敗官僚の計略によって濡れ衣を着せられ、
ロシアン・マフィアに身を潜めながらアジア各地の裏社会を転々とし、犯罪行為に手を染める。
その後、紆余曲折の末に外務省時代の沖津によってスカウトされ現在に至る。
特捜部の内外、延いては日本警察を含めた根深い警察への不信を抱きながらも、
かつて刑事であった自己の矜持を捨てられない葛藤に苦悩する。
モスクワ民警の敏腕刑事であった父親の元に育ち、警察官時代の上司・同僚との経験や自身の才能から齎された
極めて高度に洗練された観察眼・洞察力を有し、状況によっては捜査班との連携を可能とする柔軟性を併せ持つ。
特捜部付警部 龍機兵搭乗要員 コールサイン:PD3 北アイルランド(英領)・ベルファスト出身 年齢:20代後半
情勢不安となった北アイルランドにて台頭したIRA(アイルランド共和軍)最悪の派生組織IRFのテロリスト。
組織内では処刑人と呼ばれる暗殺に従事するポジションに身を置いていた、通称「死神」
20代半ばにして高度な戦闘技術を持つが、過去の経験から精神面での脆弱性が存在する。
ブロンドヘアーにモデルのような長身痩躯の美人だが、それを掻き消すかの如く陰鬱な影を身に纏っている。
ネタバレ事項・過去の経験について(文字反転)→IRFが引き起こした大規模テロに於いて、他ならぬ自分が設置した爆弾によって最愛の実妹を死亡させるという忌まわしい過去を持つ。以降、IRFの戦線より離脱。
IRF参謀本部から裏切りと断定され、世界各地を転々とした末に潜伏先のベネズエラで沖津にスカウトされる。
特捜部捜査班主任 階級:警部補 山口県・下関市出身 年齢:29歳
特捜部に於いて現場捜査の実働を担当する捜査班の主任。
幼少期は非常に荒んだ生活を送っていたが、警察官であった叔父の計らいで自身も職を同じくする。
穏やかな物腰で女性や子供などの弱者への配慮を欠かさない好青年であるが、稀に凄愴な面を覗かせる。
現場の捜査官として正義感に溢れ、日本の治安や世界情勢と警察の構造体質に憤りを感じている。
「白面」と称される程の色白で、端正な顔立ちをしている美形である。
由起谷と同じく、捜査班の主任。由起谷とは警察学校時代の同期であり親友。
元々は警視庁捜査一課に所属していたが、卓越した現場捜査の実力から沖津に引き抜かれた。
特捜部への加入と同時に昇進した為に、かつての同僚・後輩達に「裏切り者」と罵詈雑言を浴びせられ、
深い心痛に胸を痛める中で捜査を遂行している。
色白な由起谷とは対照的に浅黒い肌に角刈りという風貌だが、後輩想いの温厚な性格である。
学生時代、インターハイ優勝を果たす程の柔道の達人。
MIT(マサチューセッツ工科大学)出身の才媛。
弱冠20代にして特捜部が保有する龍機兵の設備全般を担当する技術官。
過去にIRFが引き起こした大規模テロによって両親と兄を失う過去を持ち、
自身が置かれた立場と元IRFのテロリストであるライザに対して極めて複雑な心情を持っている。
いつも穏やかな笑みを絶やさず、城木と共に特捜部内に於ける「気配りの双璧」と称される
内部管理部門である警務警察出身の才媛。
「私の情報源は女子の井戸端会議だけ。」と自称するが、人の振る舞いや身のこなしから
他者の心情を読み取る、優れた想像力を有している。
類似コンセプトとの比較
近未来SF・警察ものとして、漫画・アニメ作品「機動警察パトレイバー」と比較されることもある。警察組織内や省庁間のセクショナリズムが描かれる点などが、確かに「パトレイバー」と(特に押井守が監督を務めた『劇場版パトレイバー』と)似通った部分もある。
しかし、本作品はパトレイバーよりも雰囲気が暗く、ハードボイルド・ノワール小説に似通っている。その意味では、アニメ映画作品「人狼 JIN-ROH」(上記パトレイバー劇場版で監督を務めた押井守が脚本)などに通ずるかもしれない。
一方で士郎正宗原作の漫画作品「攻殻機動隊」を連想するとの声もある。こちらも、どこか明るい雰囲気も漂う原作漫画「攻殻機動隊」ではなく、神山健治監督作であるテレビアニメ版「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」の方が近いかもしれない。
また、1991年に『機甲警察メタルジャック』という「パワードスーツを用いる警察官」が活躍するアニメ作品に於いて、著者である月村了衛が脚本家の一員として加わっている。作品の対象層としては小学生以下の児童層ではあるが、当該作品とのコンセプトの類似が指摘されており、一説では機龍警察の直接的原案ではないかとされている。
尚、筆者である月村了衛は自身の著書全般に対する執筆動機について、次の様に述べている。
「私が学生だった70年代、80年代には冒険小説というジャンルに対する共通認識があったと思うんです。次々と巨匠がデビューし、日本推理作家協会賞を悠々と取っていた時代だったんです。サスペンスやエスピオナージュ、ポリティカルフィクションなど幅広い内容を含む、非常に豊かなジャンルだったはず。ところが、この10年でその認識が失われてしまいました。もう今では“冒険小説”が通用しなくなっている。一般の人に聞いても、海賊モノやインディ・ジョーンズしかイメージしないと思う。20年も30年も後退してしまった」
「今は、本来の冒険小説を次の世代につなげていきたいという思いが非常にあります。作家デビューするまではそこまでは自覚的ではありませんでしたけど、デビューしてみると、冒険小説とは何かを皆が知っていて当然だと思っていたのが、そうじゃないことがわかり、にわかに危機感を抱きました。冒険小説という言葉そのものを何か他の言葉に変えた方がいいんじゃないか、とさえ思うくらい切迫したものを感じています」
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