岡嶋二人(おかじま ふたり)とは、日本の推理作家。徳山諄一(とくやま じゅんいち)と井上泉(いのうえ いずみ)の2人による共作ユニットであり、ペンネームは「おかしな二人」に由来する。
概要
海外ではエラリー・クイーンに代表されるようにいくつか例があるが、日本ではほとんどいない共作ユニット作家。基本的に徳山がプロット、井上が執筆を担当していた。より正確に言えば、徳山の出したアイデアを二人で話し合ってプロットにまとめ、井上が執筆する、という創作方法であったようだ。なお後期には井上がメインでプロットを立てた作品も多いが、逆に徳山が執筆を担当した作品は岡嶋名義では存在しない。
1981年、『あした天気にしておくれ』で第27回江戸川乱歩賞の最終選考に残り、選考会でも非常に高い評価を受けたが、身代金受け渡しトリックが夏樹静子の作品に前例があったのと、現実には実行不可能と判断されたため落選[1]。翌1982年、『焦茶色のパステル』で第28回江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。
1985年、『チョコレートゲーム』で第39回日本推理作家協会賞長編部門を受賞。1989年、『99%の誘拐』で第10回吉川英治文学新人賞を受賞する。しかし徐々に徳山のアイデアの提出が遅れるようになって執筆担当の井上の負担が増していき、1989年、事実上井上の単独作である『クラインの壺』をもってユニットを解消した。結成から解散までの経緯は、後に井上が発表した『おかしな二人 岡嶋二人盛衰記』に詳しい(ただしこの本の内容はあくまで井上視点の見解なのでその点は留意が必要)。
解散後、徳山は「田奈純一」名義で「マジカル頭脳パワー!」などの放送作家として活動。小説も1991年に「キャット・ウォーク」という作品を「小説推理」誌に発表したが、結局単著が出ることはなかった。2021年11月8日、78歳で死去。
井上は「井上夢人」のペンネームで、1992年に『ダレカガナカニイル…』で再デビューし、寡作ながら現在も活躍している。井上のその後については当該記事を参照。
作風など
岡嶋二人といえば、ふつう最初に連想されるのは競馬ミステリーと誘拐ミステリーだろう。
前述の『あした天気にしておくれ』『焦茶色のパステル』はどちらも競馬ミステリーであり、競馬ミステリーは他に『七年目の脅迫状』などがある。他にボクシングミステリーの『タイトルマッチ』『ダブルダウン』や野球ミステリーの『ビッグゲーム』など、競馬・スポーツ関連の知識は徳山のものであった。
『あした天気に~』や『タイトルマッチ』は誘拐ミステリーでもあり、他に『どんなに上手に隠れても』『七日間の身代金』『99%の誘拐』などで、誘拐ミステリーの名手として鳴らした。そのため「人さらいの岡嶋」という異名を持つ。
また『コンピュータの熱い罠』『99%の誘拐』『クラインの壺』など、コンピュータやハイテク機器を題材にした作品があり、こちらは井上の知識が色濃く反映されている(井上は再デビュー後もコンピュータ知識を活かした作品を多く手がけている)。
岡嶋二人の活躍した80年代はトラベルミステリーブームの時期で、西村京太郎など流行作家はシリーズキャラクターを持ってどんどん量産するのが当たり前だったが、岡嶋は特定のシリーズキャラクターを持たず(同一キャラクターの登場する作品は最大で2冊)、またトラベルミステリーも書かず、当時主流だった『~~殺人事件』というタイトルも原則使わなかった(例外に『5W1H殺人事件』)。
シリーズキャラクターを持たないのは、単純に井上が飽きっぽかったのと、一般人が事件に巻き込まれるタイプの話を得意としており、警察や職業探偵でない一般人が何度も事件に巻き込まれるのは不自然、という考え方からだったそうな。また共作であるため、2人でネタを詰めていくのに時間がかかり、量産には向かなかったそうだ(とは言うものの、再デビュー後の井上よりもよほどハイペースに仕事をしているのだが……)。短編も共作では効率が悪いということで、途中から長編専門作家となった。
現在、全作品が講談社文庫に収録されており、ショートショート1編を除いて岡嶋名義の作品は全て読める(なので、講談社文庫が事実上の岡嶋二人全集になっている)。さすがに現在では新品で入手できるのは一部だが、品切れの作品も古書ではわりと入手しやすい。また唯一の未収録ショートショート「地中より愛をこめて」を含む全作品が電子書籍で読めるのは幸いである。
代表作は『あした天気にしておくれ』『焦茶色のパステル』『チョコレートゲーム』『そして扉が閉ざされた』『99%の誘拐』『クラインの壺』など。80年代の作品なので、風俗描写などはさすがに古びているが、台詞回しの巧さと読みやすい文章のおかげで今でも楽しく読める作品が多い。またコンピュータ描写は使われる機器こそ古びているが扱われるテーマは古びておらず、30年前の作品にビッグデータの話が出てきたりする。VRゲームによる現実崩壊を描いた『クラインの壺』は、現代のネトゲものの先駆けと言っても差し支えないだろう。古い作品だからと敬遠せず、一度読んでみてほしい。
あと、『チョコレートゲーム』の講談社文庫旧版は表紙が豪快なネタバレなので新装版で読むのを強く推奨する。『眠れぬ夜の報復』の双葉文庫版の表紙もわりとネタバレ気味なので講談社文庫版を推奨。
作品リスト
赤太字は2024年1月現在新品で入手可能なもの。品切れのものも、前述の通り全て電子書籍で読める。
- 焦茶色のパステル (1982年、講談社→1984年、講談社文庫→2012年、講談社文庫[新装版])
- 七年目の脅迫状 (1983年、講談社ノベルス→1986年、講談社文庫)
- あした天気にしておくれ (1983年、講談社ノベルス→1986年、講談社文庫)
- タイトルマッチ (1984年、カドカワノベルズ→1989年、徳間文庫→1993年、講談社文庫)
- 開けっぱなしの密室 (1984年、講談社→1987年、講談社文庫)
- どんなに上手に隠れても (1984年、トクマノベルズ→1988年、徳間文庫→1993年、講談社文庫)
- 三度目ならばABC (1984年、講談社ノベルス→1987年、講談社文庫→2010年、講談社文庫[増補版])
- チョコレートゲーム (1985年、講談社ノベルス→1988年、講談社文庫→2000年、双葉文庫→2013年、講談社文庫[新装版])
- なんでも屋大蔵でございます (1985年、新潮社→1988年、新潮文庫→1995年、講談社文庫)
- 5W1H殺人事件 (1985年、フタバノベルス)
→ 解決まではあと6人 5W1H殺人事件 (1989年、双葉文庫、改題→1994年、講談社文庫) - とってもカルディア (1985年、講談社ノベルス→1988年、講談社文庫)
- ちょっと探偵してみませんか (1985年、講談社→1989年、講談社文庫)
- ビッグゲーム (1985年、講談社ノベルス→1988年、講談社文庫)
- ツァラトゥストラの翼 (1986年、講談社スーパーシミュレーションノベルス→1990年、講談社文庫) ※ゲームブック
- コンピュータの熱い罠 (1986年、カッパ・ノベルス→1990年、光文社文庫→1998年、講談社文庫)
- 七日間の身代金 (1986年、実業之日本社→1990年、徳間文庫→1998年、講談社文庫)
- 珊瑚色ラプソディ (1987年、集英社→1990年、集英社文庫→2000年、講談社文庫)
- 殺人者志願 (1987年、カッパ・ノベルス→1990年、光文社文庫→2000年、講談社文庫)
- ダブルダウン (1987年、小学館→1991年、集英社文庫→2000年、講談社文庫)
- そして扉が閉ざされた (1987年、講談社→1990年、講談社文庫→2021年、講談社文庫[新装版])
- 眠れぬ夜の殺人 (1988年、双葉社→1990年、双葉文庫→1996年、講談社文庫)
- 殺人!ザ・東京ドーム (1988年、カッパ・ノベルス→1991年、光文社文庫→2002年、講談社文庫)
- 99%の誘拐 (1988年、徳間書店→1990年、徳間文庫→2004年、講談社文庫)
- クリスマス・イヴ (1989年、中央公論社→1991年、中公文庫→1997年、講談社文庫)
- 記録された殺人 (1989年、講談社文庫)
→ ダブル・プロット (2011年、講談社文庫[3編追加し改題]) - 眠れぬ夜の報復 (1989年、双葉社→1992年、双葉文庫→1999年、講談社文庫)
- クラインの壺 (1989年、新潮社→1993年、新潮文庫→2005年、講談社文庫)
- 熱い砂 パリ~ダカール11000キロ (1991年、講談社文庫) ※エッセイ
関連項目
脚注
- *これに対しては『あした天気にしておくれ』の刊行時、岡嶋はあとがきで「実行可能である」と反論した。当時の乱歩賞の選評は日本推理作家協会のサイトで、『あした天気に~』での反論は井上夢人のサイトでそれぞれ読める。
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