失楽園とは、尚村透による日本の漫画作品。スクウェア・エニックス「月刊ガンガンJOKER」にて2009年6月号から2011年4月号まで連載された。単行本は全6巻。
概要
「賭ケグルイ」の作画担当として知られる尚村透のデビュー作。元々はスクウェア・エニックスが刊行していた「月刊ガンガンWING」2009年3月号に掲載された読切作品で、ガンガンWINGが5月号で廃刊になった後後継として創刊された「月刊ガンガンJOKER」6月号から連載が開始された。
男尊女卑主義者が経営する学園に進学した女子主人公が学園で行われている仮想対戦ゲームで男子生徒から女子生徒を救い出すために戦う学園ファンタジーバトル漫画。
作品のあらすじや本編冒頭では男尊女卑の学園だということが触れられているが、実際には男尊女卑主義者は学園経営者を除けば一部の生徒に限られ、殆どの生徒はそれに振り回されているだけであることが明らかになって来る。作品後半は学園のルールに向き合う生徒たちと陰謀、そして主人公と救い出された少女達の戦いが描かれていく。結局「男尊女卑の学園」は舞台装置としてしか扱われず、なぜそのような学園が生まれることになったのかについては詳しくは触れられなかった。
あらすじ
穢された、乙女たち――。
「楽園」の名を持ち、人々の憧れの的である私立ユートピア学園。主人公・緋本ソラは期待を胸に学園に転入する。だが、そこで目にしたのは、時代遅れの男尊女卑が横行する世界だった…。
絶望と戦う美しき乙女たちの物語。
登場人物
- 緋本ソラ
- 本作の主人公。私立ユートピア学園にやってきた転校生。赤い髪を持つ中性的な女子生徒。
- 幼い頃から「学園物語」に出てくる正義の騎士に憧れ、自身も騎士然とした性格をしている。
- 学園転入初日から女子を虐げる男子生徒に食って掛かり、生徒会に目を付けられた。女子生徒の為エグザクランの武器を持った男子には敵わないはずだったが、女子生徒にもかかわらずエグザクランのプレーヤーとして参加することになり、男子の手から女子生徒を救い出すために戦うことになった。
- 物語終盤では丞上にツキを囚われ仲間も奪われてしまうが、ユキの支えもあって難局を突破し、ツキとの記憶を取り戻した後彼女と決別し、カリンたちと岩聖を解体した後改めてツキに思いを告白した。
- コミックス最終巻のおまけ4コマでは彼女とツキの結婚式が開かれたことが語られている。
- 幼少期にカリンと出会ったことがあるが、その際ツキがカリンの顔を切り付けた現場に居合わせたため、記憶を失ってしまっていた。
- 蒼井ツキ
- ソラの幼馴染にして親友。転校してきたソラと違い新入生として入学して在学していた。幼馴染故にソラの性格は熟知していて、男尊女卑の校風に会わない彼女が問題に巻き込まれるのではないかと危惧していた。
- 実は生徒会長の所有する武器であり、エグザクランの管理側の人間でもあった。その為システムを気付かれずにソラをプレーヤーとして潜り込ませ、本人は変装して「イクス」と名乗り自身の武器をソラに使わせた。その後も度々ソラに直接助言を与えてエグザクランを有利に進めさせていたが、丞上に「イクス」としてソラに加担していたことを突き止められ、虜囚の身となってしまう。皮肉にもこのことがソラの大きな動揺に繋がってしまい、ソラが丞上に敗れる理由の一つになってしまった。
- 作中1、2を争う優秀な頭脳を持ち、幼い頃に両親を相次いで失ってエグザクランの開発を担当していた人物に引き取られてからしばらくは自分の周りの人間を見下して過ごしていた。そんな中物怖じせずに接してくるソラにだんだん心を開き、唯一の親友として強く執着するようになっていった。
- 自分の言葉を使って気付かれることなくソラを誘導する傍ら、義父に虐待されているように偽装して義父を追い詰めていた。義父のもとにエグザクランの打ち合わせで訪れたカリンがソラに新しい価値観を与えてことに激怒し、彼の右目を切り付けた。本来であれば抹殺されてもおかしくなかったものの、その才能を惜しまれカリンに次期総帥の権利を賭けて勝負を挑まれ、それを受けて失踪した義父に代わりエグザクランの開発担当になっていた。
- 伊咲コハル
- 生徒会役員の1人梶原が所有していた女子生徒。ソラに最初に救われた女子生徒。武器は銃。
- 転校初日に男子生徒からソラにかばわれて友人となった。梶原の命令を受けてソラの事を探っていたが、ソラを排除しようとした梶原がエグザクランでソラに敗れたため所有権がソラに移った。
- 以降はソラに忠誠を誓い共にエグザクランを戦っていくことになった。
- 特技は料理。性格はおっとり系のお姉さんタイプ。
- 以前の所有者である梶原には自身が受けた所業から一貫して悪感情を抱き続けていたが、川津の男子の立ち位置についての告白により梶原の立場についても考えられるようになり、最終的には和解することになった。
- 八木澤ユキ
- 第1話の冒頭で作中初めてのエグザクランの試合に参加していた女子生徒。武器は短剣。
- 短剣故に所有していた男子がエグザクランの試合でなかなか勝てず、腹いせに武器を真っ二つに折られてしまい、その衝撃で倒れて保健室で寝たきりになっていた。
- その後は回復したものの武器の性能が低いとして誰にも所有されない「ドロップアウト」となり、学園中の男子から迫害を受けていた所をソラとカリンに救われ、以降行動を共にするようになった。
- 男子から受けた怪我が酷く、保健室に滞在していた。
- ソラが丞上により仲間の所有権が奪われた際にはソラから「イクスを探して連れてきてほしい」と言われたものの、エルとの対話でソラの真意に気付き共に戦う為にソラと丞上の前に現れる。
- 学園に来るまでは警察官である両親の影響で正義感の強い文武両道の才女だったが、自身の武器がエグザクランで通用しない短剣だったこともあってすっかり消極的な性格になってしまっていた。ソラと行動を共にするようになってからは徐々に生来の生真面目な性格が戻ってきている。
- 小芦トモコ
- 中等部の女子生徒。武器は槍。
- コハルを取り返そうとする梶原の所有となりエグザクランの末ソラに救われたものの、女子生徒であるソラの所有ということで周りの男子からエグザクランのペナルティにならない範囲での嫌がらせを受け、それから逃げるためにソラではなく男子のカリンに協力してもらい所有権を移してもらっていた。
- 後にエルの策略により御手洗に最終警告ペナルティーギリギリまで痛めつけられ、それを助けに来たソラに改めて契約するように頼み込み、仲間の一人になった。
- 伊達レイコ
- 生徒会役員の墨田の所有だった高等部2年の女子生徒。武器はモーニングスター。
- 将来岩聖の重役になる確率が高い生徒会役員に所有されようと比較的穏健派と思われる墨田に取り入り、試合を申し込まれる直前に負けるようにソラに言いに来た。墨田がソラに敗れて所有権が移ってすぐにソラに所有権を破棄してもらい生徒会に戻ったが、エルによって東岌の所有にされてしまい心が折れた所でソラに警告ペナルティーを利用して助け出された。
- かつては岩聖の男尊女卑を変える仲間を探していたが、巨大な権力に共に逆らおうとする仲間が見つからず、1人で岩聖の重役になるであろう生徒を篭絡して将来的に内部から岩聖の体制を変えようとしていた。
- 志士堂ヒヨ
- ソラに救われカリンの所有となった中等部の女子生徒。武器は斧。
- 当初はソラ達を慕う後輩を装っていたが、実際はソラが容易く男子に勝利していることを逆恨みし、ユキから今までソラが助けた女子の名簿を盗み出して所有者の東岌と共に襲撃を繰り返していた。
- 姉が進学した学園の内部については何も知らず、自身の進学が決まった後無邪気に喜んでいた裏で姉が無理をして収容所送りにされてしまった過去を持ち、東岌とは姉を追い詰めてしまった過去を共有する複雑な関係となってしまっていた。
- ソラに倒された東岌に復讐しようとするものの、ソラの説得により折れてソラに姉を助けるように願った。
生徒会
- エル/浅黄谷カリン
- ユートピア学園生徒会会長。顔の右側にマスクを付けた美男子。マスクの下には大きな傷跡がある。
- 生徒会長「エル」としてソラに生徒会の役員を向かわせ、紋章付きの武器が彼女のもとに集まるように誘導していた。
- その裏で偶然「浅黄谷カリン」としてソラと知り合い、女子に優しい男子生徒として彼女から密かに救い出した女子生徒の所有権を受け取り、そこで得た情報を生かして暗躍していた。
- その元々の目的はソラをエグザクランの勝者にして岩聖の総帥の地位に就け、その上でソラにツキの呪縛を解いて自分の意志で岩聖の権力を使ってほしいというものだった。
- 若くして岩聖の次期総帥と目されていたが、男尊女卑が行き過ぎた今の岩聖に不安を覚えていた。その矢先にソラとツキの2人に会ったことで2人に賭けることに決め、エグザクランをソラが見ていた「学園物語」に沿ったシステムに変え、自身も作中の悪役「エル」に扮して生徒として学園に在学していた。
- ソラ達2人に会った時にはすでに成人しており、実年齢は学園の生徒たちよりもずっと上。岩聖を解体した時にはかなりの歳になっていた。
- 墨田
- 学園生徒会役員にして副会長。高等部2年。
- 浅黒い肌の大柄な男子生徒で、レイコの所有者。
- 生徒会役員の中では体格に比して目立つような言動が無い無口な性格でいつも離れた場所で読書をしていることが多い。性格が破綻しがちな生徒会役員の中では良識的であり、レイコもそれを当てにして所有してもらっていた。
- エグザクランでも武器破壊につながるような攻撃は自分の体で受けたりしていた為、ソラには女子に味方する男子ではないかと思われている。
- レイコがソラに警告ペナルティーを使って助けられた時には策を見破っていた他の役員を説得して東岌が所有権を破棄するよう仕向けて手助けしていた。
- 梶原シンジ
- 生徒会役員。「生徒会」という役職に似つかわしくない不良然とした粗暴な男。ソラの初めてのエグザクランの対戦相手。コハルの元々の所有者。
- 生徒会役員としては川津と並んで下位の人間であり、教えられている情報などには差が存在する。
- 所有者であることを笠に着てコハルをいじめていた所にソラが通りかかり、彼女に殴り飛ばされた腹いせにコハルの武器でソラに撃ちかかった所にイクスの手を借りたソラに逆に倒された。
- エルからはその性格を逆に利用される形でユキを始め何人もの女子生徒の所有権を奪われている。
- 御手洗
- 生徒会役員。オカマ口調で喋る長身の男。
- 顔を合わせる度に口説くなどエルに対する行為を隠さない。エグザクランでエルが何をしようとしているかなどの情報を全く聞かされていないにもかかわらず、他の役員とは違いそれに不満を言わないなど、忠誠心もかなりの物を持っている。
- エルの策略により所有者の居る女子であるトモコを警告ペナルティー覚悟で痛めつけるよう指示され、その際所有する男子がペナルティーの事を知らず、最終的に社会的抹殺の可能性がある事を聞いても事情を問うことなく快諾。吐いてしまうような頭痛の痛みに耐えトモコを鞭で滅多打ちにし、駆け付けて来たソラと戦った。
- 自身の社会的抹殺が数分後に迫る中でも変わらずエルを信じ続ける姿は、ソラを信じ切れずに揺れていたトモコに大きな影響を与えている。
- 丞上
- 生徒会役員。エルを神のように崇拝する小柄な男子。
- かつて岩聖のやり方に絶望し無気力になっていた所、エルから「岩聖を変える」と声を掛けられ役員に加わった。以来エルの元に印付きの武器を揃えて「Apple」を手に入れる為盗聴器を仕込んで情報を集めるなどあらゆる手を使ってエルを支えるようになった。エグザクランでも複数の武器を使うという反則を使っても勝敗はそのまま通るというバグを利用して優位に進めるなど結果を重視し犠牲を考えない性格。過去に多くの女子生徒に救いを求めて纏わりつかれた経験があり、生徒会の中でも女子に対する態度が強い。
- エルの副官であるかのように振舞っているが、実はエルから計画を聞いているのは墨田と朽奈和だけで、全ての情報は自力で集めた物。
- エルからはその性格を自分の計画に利用されているが、時折エルの想定していないところにまで食い込んでくることがあり、彼を慌てさせることもしばしばあった。
- 東岌シロウ
- 生徒会役員。目の下に大きな隈がある男。ヒヨの元々の所有者にして共犯者。
- 所有されたが最後女子生徒をおもちゃにして最終的にすべて壊してしまうといわれ、学園中にその悪名が広がっている生徒会きっての問題児。エルの命令により生徒会に戻ってきたレイコを一時所有し、ヒヨと組んでソラが助けた女子生徒をペナルティーを無視して繰り返し襲撃していた。
- 入学してからしばらくは今のような問題児ではなかったが、当時所有していたヒヨの姉の無謀な戦いを止められないまま社会的抹殺になってしまったことを後悔し、入学してきたヒヨの所有者となった上で自分が姉の仇だと吹き込んで自分に恨むように仕向けていた。
- 最終的には戦いの中でソラにその心の内を看破され、自ら武器を頭に受けて敗北した。
- 朽奈和ハルカ
- 生徒会役員。エル以外の役員にも正体不明な中性的な容姿の男子生徒。
- その正体はツキの養父の元妻で、タマオの実母。エルと同じく年齢を偽るだけでなく、性別まで偽装した上で生徒として学園で過ごしている。元夫がツキの策略の末失踪した後、エルから頼まれ元夫のシステム開発を引き継ぎ、学園ではツキと共にエグザクランの監視を行っている。
- 自分の名はハルカと呼ばれることを好み、息子であるタマオにもそう呼ばせている。
- 本人は夫は岩聖からの仕事を受けるにあたって自分のことが邪魔になり離婚し他のだろうと考えていたが、夫によく似ていると思っていたタマオが丞上の攻撃から自信をかばったのを見て多少は考えを改めた。
- 川津タマオ
- 生徒会役員。役員の中でも最下位に位置する立ち位置にあり、エルの計画についてもまったく知らされていない上、エグザクランも全く戦えないため梶原や御手洗のようにエグザクランを通して計画の一端を知ることもない。にもかかわらず父の失踪やその時に既に大人として出会っていたエルの存在、母が立場を偽った上で学園の生徒として同じ生徒会に属しているなど、本人の周りでは不自然極まりない状況ばかり起きており、度々エルを問い質したりしていた。
- エルからはハルカを返してもらう条件としてソラからサキの奪還を命じられるが、ソラはサキを連れておらず、その場で学園から押し付けられた男尊女卑やエグザクランのルールに苦しんでいることを吐露した。最後は割り込んで来た丞上に撃たれ倒れた。
その他の登場人物
- 異逢アカネ
- 転校初日のソラと出会った大きな丸メガネが特徴の男子生徒。3年生。
- 後にソラがカリンを探しているところで再会し、その際に名前が判明する。
- ソラがカリンと話しているところを偶然目撃した事がきっかけでソラに仲間に引き入れられ、陰ながらソラが救った女子の所有者になるなどして協力していた。エグザクランに関して腕が無く、全くかかわっていない。
- 実はかけている眼鏡は伊達メガネで、優しそうな顔付きから女子に頼られることのないように眼鏡で顔を誤魔化す為にかけていた。
- 生徒会の梶原と御手洗の同級生であり、ソラが丞上に敗れて仲間たちを失ったときは生徒会長に直訴する為自分から接触した。
- ソラの事が好きで、本編完結後もカリンと共に2人に付き添っている。
- 異逢ユウヒ
- アカネの父。作中では故人。
- かつて学園物語についての解釈本「学園物語を読み解く」の作者。
- カリンはこの解釈本の流れに沿ってソラをエグザクランに参加させ、生徒会のメンバーをソラに差し向けていた。
- ソラがツキとの決着をどうつけるか悩んでいた所にアカネがこの本の解釈を伝えてソラの後押しをした。
- 後にカリンからは一番の功労者と称されている。
用語
- エグザクラン
- 作品の舞台となる私立ユートピア学園で行われているVR対戦ゲーム。岩聖グループが開発した。
- 学園の男子生徒は女子生徒の所有者となり、その女子生徒が提供する武器を手に相手と戦う。勝った方が相手の女子生徒の所有権を奪うことが出来る。また仮想現実とはいうものの女子生徒が出した武器にダメージが入ると女子の方にその痛みがフィードバックされ、武器が完全に破壊されると昏睡状態になったりリハビリが必要になってしまうこともある。
- 優秀な成績を収めた男子は岩聖の上役になれるとされているものの、内実は管理側のツキやカリンにより私物化されており、プレイヤーになれないはずの女子生徒がプレイヤーになる、武器を出す際に紋章が現れる場合があるなど、意図しないバグが頻発していた。
- またゲームで優秀な成績の男子を財閥の重役にすることについては作中でも疑問視する男子が多かった。
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