皆川博子

皆川博子（みながわ ひろこ）とは、日本ミステリー界の誇る高性能おばあちゃんである。

概要

1929年12月、朝鮮・京城に生まれる（数え年の関係で、出生届は翌年1月に出された。そのため1930年生まれとされることもある）。東京女子大学英文科中退。1970年に児童文学の賞を受賞し、1972年に児童小説『海と十字架』でデビュー。翌年、「アルカディアの夏」で小説現代新人賞を受賞しミステリー作家としてデビューすると、同年には短編「トマト・ゲーム」で直木賞候補になった。

1985年、『壁・旅芝居殺人事件』で日本推理作家協会賞を受賞。1986年、『恋紅』で直木賞を受賞する。しかしこの頃は得意の幻想小説・耽美ミステリーが商業的には全く振るわず（初期作品は未だ文庫化されていないものも多い）、編集者から2時間ドラマ的なミステリーをノベルスで書くことを求められたりしていた。

1990年、『薔薇忌』で柴田錬三郎賞を受賞し、幻想小説路線が再評価される。また80年代後半から90年代前半は、『恋紅』で直木賞を獲った影響もあって歴史・時代小説方面の作品が増えた（が、この時期の作品も商業的には振るわなかったようで、文庫化されていないものが多い）。

1997年、大作『死の泉』で吉川英治文学賞を受賞。これが「このミステリーがすごい！」3位、「週刊文春ミステリーベスト10」1位などミステリー界隈でも非常に高く評価され、ミステリー界に返り咲く。

以降、80歳を超えてからもコンスタントにハイクオリティな作品を発表し続け、90歳を超えた現在もバリバリの現役作家を続けている妖怪高性能おばあちゃん。2012年には82歳にして『開かせていただき光栄です』で「このミス」「週刊文春」「本格ミステリ・ベスト10」で全て3位に入り、本格ミステリ大賞を受賞。また日本ミステリー文学大賞も受賞した。
2015年、文化功労者に選出。2018年には皆川博子読本『皆川博子の辺境薔薇館』が刊行された。
2024年、『風配図 WIND ROSE』で第34回紫式部文学賞受賞。

作風は時代により変遷しているが、現在入手できるのは、幻想小説の短編集と、壮大で耽美的な本格ミステリーが主。90年代以前の作品はほとんどが元の形では手に入らないが、いくつかは近年復刊され、また文庫化されていない作品が2013年から出版芸術社で刊行されている『皆川博子コレクション』全10巻に順次まとめられた。2020年からは80年代のミステリー作品をまとめた『皆川博子長篇推理コレクション』全4巻が柏書房から刊行。

初めて読む人は、現在なら幻想小説方面では『薔薇忌』『猫舌男爵』、ミステリー方面では『開かせていただき光栄です』『倒立する塔の殺人』あたりから入るのがいいだろう。

作品リスト（小説のみ・刊行順・作品集系は除く）

小説

赤太字は2025年4月現在新品で入手可能なもの。青太字は品切れだが電子書籍で読めるもの、緑太字は出版芸術社『皆川博子コレクション』（全10巻）で読めるもの、ピンク太字は柏書房『皆川博子長篇推理コレクション』（全4巻）で読めるもの。

1. 海と十字架 （1972年、偕成社→1983年、偕成社文庫）
2. トマト・ゲーム （1974年、講談社→1981年、講談社文庫→2015年、ハヤカワ文庫JA^[1]）
3. ライダーは闇に消えた （1975年、講談社）
4. 水底の祭り （1976年、文藝春秋→1986年、文春文庫）
5. 夏至祭の果て （1976年、講談社）
6. 祝婚歌 （1977年、立風書房）^[2]
7. 薔薇の血を流して （1977年、講談社→1986年、徳間文庫→1996年、講談社文庫）
8. 光の廃墟 （1978年、文藝春秋→1998年、文春文庫）
9. 冬の雅歌 （1978年、徳間書店）
10. 花の旅夜の旅 （1979年、講談社→2001年、扶桑社文庫^[3]）
    →　奪われた死の物語 （1986年、講談社文庫、改題）
11. 彼方の微笑 （1980年、集英社→2003年、創元推理文庫）
12. 虹の悲劇 （1982年、トクマノベルズ→1987年、徳間文庫）
13. 炎のように鳥のように （1982年、偕成社→1993年、偕成社文庫）
14. 霧の悲劇 （1982年、トクマノベルズ→1989年、徳間文庫）
15. 巫女の棲む家 （1983年、C★NOVELS→1985年、中公文庫）
16. 知床岬殺人事件 （1984年、講談社ノベルス→1987年、講談社文庫）
17. 相馬野馬追い殺人事件 （1984年、トクマノベルズ→1990年、徳間文庫）
18. 壁・旅芝居殺人事件 （1984年、白水社→1998年、双葉文庫）
    →　旅芝居殺人事件 （1987年、文春文庫^[4]）
19. 愛と髑髏と （1984年、光風社出版→1991年、集英社文庫→2020年、角川文庫）
20. 光源氏殺人事件 （1985年、講談社ノベルス→1992年、講談社文庫）
21. 恋紅 （1986年、新潮社→1989年、新潮文庫→2024年、春陽文庫）
22. 世阿弥殺人事件 （1986年、トクマノベルズ→1994年、徳間文庫）
23. 妖かし蔵殺人事件 （1986年、C★NOVELS→1989年、中公文庫）
24. 会津恋い鷹 （1986年、講談社→1993年、講談社文庫→2024年、春陽文庫）
25. 忠臣蔵殺人事件 （1986年、トクマノベルズ→1993年、徳間文庫）
26. 殺意の軽井沢・冬 （1987年、祥伝社文庫）
27. 花闇 （1987年、中央公論社→1992年、中公文庫→2002年、集英社文庫→2016年、河出文庫）
28. 変相能楽集 （1988年、中央公論新社）
29. 北の椿は死を歌う （1988年、カッパ・ノベルス）
    →　闇椿 （1998年、光文社文庫）
30. 聖女の島 （1988年、講談社ノベルス→1994年、講談社文庫→2007年、講談社ノベルス）
31. 二人阿国 （1988年、新潮社）
32. みだら英泉 （1989年、新潮社→1991年、新潮文庫→2017年、河出文庫）
33. 顔師・連太郎と五つの謎 （1989年、中央公論社）
34. 秘め絵燈籠 （1989年、読売新聞社）
35. 散りしきる花 恋紅・第二部 （1990年、新潮文庫→2024年、春陽文庫）
36. 薔薇忌 （1990年、実業之日本社→1993年、集英社文庫→2014年、実業之日本社文庫）
37. 乱世玉響 蓮如と女たち （1990年、読売新聞社→1995年、講談社文庫→2025年、春陽文庫）
38. 鶴屋南北冥府巡 （1991年、新潮社）
39. たまご猫 （1991年、中央公論社→1998年、ハヤカワ文庫JA）
40. 絵双紙妖綺譚 朱鱗の家 （1991年、角川書店）
    →　うろこの家 （1993年、角川ホラー文庫）
41. 幻夏祭 （1991年、読売新聞社）
42. 化蝶記 （1992年、読売新聞社）
43. 妖櫻記 （1993年、文藝春秋[上下巻]→1997年、文春文庫[上下巻]→2017年、河出文庫[上下巻]）
44. 骨笛 （1993年、集英社→1996年、集英社文庫）
45. 瀧夜叉 （1993年、毎日新聞社→1998年、文春文庫）
46. 妖笛 （1993年、読売新聞社）
47. あの紫は わらべ唄幻想 （1994年、実業之日本社）
48. 悦楽園 （1994年、出版芸術社）
49. 巫子 （1994年、学研ホラーノベルス→2000年、学研M文庫）
50. 写楽 （1994年、角川書店→2020年、角川文庫）
51. みだれ絵双紙 金瓶梅 （1995年、講談社）
52. 新・今川記 戦国幻野 （1995年、講談社→1998年、講談社文庫）
53. 雪女郎 （1995年、読売新聞社）
54. 花櫓 （1996年、毎日新聞社→1999年、講談社文庫）
55. 笑い姫 （1997年、朝日新聞社→2000年、文春文庫）
56. 妖恋 男と女の不可思議な七章 （1997年、PHP研究所）
    →　妖恋 （2012年、PHP文芸文庫）
57. 死の泉 （1997年、早川書房→2001年、ハヤカワ文庫JA）
58. ゆめこ縮緬 （1998年、集英社→2001年、集英社文庫→2019年、角川文庫）
59. 結ぶ （1998年、文藝春秋→2013年、創元推理文庫）
60. 朱紋様 （1998年、朝日新聞社）
61. 鳥少年 （1999年、徳間書店→2013年、創元推理文庫）
62. 溶ける薔薇 （2000年、青谷社）
63. ジャムの真昼 （2000年、集英社）
64. 冬の旅人 （2002年、講談社→2005年、講談社文庫[上下巻]）
65. 総統の子ら （2003年、集英社→2006年、集英社文庫[上中下巻]）
66. 猫舌男爵 （2004年、講談社→2014年、ハヤカワ文庫JA）
67. 薔薇密室 （2004年、講談社→2012年、ハヤカワ文庫JA）
68. 蝶 （2005年、文藝春秋→2008年、文春文庫）
69. 絵小説 （2006年、集英社）
70. 伯林蝋人形館 （2006年、文藝春秋→2009年、文春文庫）
71. 聖餐城 （2007年、光文社→2010年、光文社文庫）
72. 倒立する塔の殺人 （2007年、理論社→2011年、PHP文芸文庫）
73. 少女外道 （2010年、文藝春秋→2013年、文春文庫）
74. 開かせていただき光栄です （2011年、早川書房→2013年、ハヤカワ文庫JA）
75. 双頭のバビロン （2012年、東京創元社→2015年、創元推理文庫[上下巻]）
76. ペガサスの挽歌 （2012年、烏有書林）
77. 少年十字軍 （2013年、ポプラ社→2015年、ポプラ文庫）
78. 海賊女王 （2013年、光文社[上下巻]→2016年、光文社文庫[上下巻]）
79. 影を買う店 （2013年、河出書房新社→2024年、河出書房新社[新装版]）
80. アルモニカ・ディアボリカ （2013年、早川書房→2016年、ハヤカワ文庫JA）
81. クロコダイル路地 （2016年、講談社[全2巻]→2019年、講談社文庫）
82. 鎖と罠 皆川博子傑作短篇集 （2017年、中公文庫）^[5]
83. U （2017年、文藝春秋→2020年、文春文庫）
84. 夜のリフレーン （2018年、KADOKAWA→2021年、角川文庫）
85. 夜のアポロン （2019年、早川書房）
86. インタヴュー・ウィズ・ザ・プリズナー （2021年、早川書房→2023年、ハヤカワ文庫JA）
87. 風配図 WILD ROSE （2023年、河出書房新社）

エッセイ・その他

1. マイマイとナイナイ （2011年、岩崎書店） ※絵本
2. 辺境図書館 （2017年、講談社）
3. 皆川博子の辺境薔薇館 Fragments of Hiroko Minagawa （2018年、河出書房新社） ※読本
4. 彗星図書館 （2019年、講談社）
5. 皆川博子随筆精華 書物の森を旅して （2020年、河出書房新社）
6. 皆川博子随筆精華2 書物の森への招待 （2021年、河出書房新社）
7. 皆川博子随筆精華3 書物の森の思い出 （2022年、河出書房新社）
8. 天涯図書館 （2023年、講談社）

関連項目

• 小説家の一覧
• ミステリー
• 幻想小説
• 日本推理作家協会賞 / 直木賞 / 本格ミステリ大賞

脚注

1. *単行本は5編収録、講談社文庫版は2編を削除し3編を追加した6編収録、ハヤカワ文庫版は削除された2作を復活させた8編収録。
2. *収録5編のうち「魔術師の指」「海の耀き」「祝婚歌」の3編が『皆川博子コレクション3 冬の雅歌』に収録。
3. *扶桑社文庫版は『聖女の島』を併録。
4. *文春文庫版のみ短編6編を併録。
5. *『水底の祭り』収録の5編に、『悦楽園』から「まどろみの檻」「疫病船」「風狩り人」「聖夜」「反聖域」の5編を追加したもの。