イゼルローン要塞は、銀河英雄伝説に登場する軍事要塞。直径60kmの人工天体。
地理
銀河帝国領と自由惑星同盟領の間は、星々の重力場やらのせいで、技術的に航行可能な宙域が限られている。安全なルートは2つあるが、一方はフェザーン自治領が存在する政治的中立地帯のため軍事行動には使用できず、必然としてもう一方のルートが軍事的要所となる。そのルートに、帝国軍によって建設されたのがイゼルローン要塞であり、もってこの宙域をイゼルローン回廊と呼ぶ。
帝国首都星からの距離6250光年。恒星アルテナを太陽としている。
軍事機能
表面は、レーザービーム対策に鏡面処理をほどこした超硬度鋼やスーパーセラミックでコーティングされており、無数の対空砲台が設置されている。石黒監督版アニメでは、液体金属が表面を覆っており、外部からの攻撃に対する緩衝材となっているほか、無数の浮遊砲台を有している。
要塞主砲は雷神(トゥール)のハンマー(トール・ハンマー/トゥール・ハンマー)と呼ばれ、出力9億2400万メガワット、一撃の威力としては作中最強の超火力(一度の砲撃で1000隻以上の軍艦を消滅させる)をもつ兵器である。これを撃ったらだいたい勝つ。なお、原作においては、この主砲の詳細について、「主砲群」「光の束」とする場合や「巨大な光の円柱」と表現される場合があり、複数砲門の一斉集中射撃であるのか、あるいは巨大な砲門であるのか明確にはなっていない。
このようにイゼルローン自体が巨大な兵器であることに加え、宇宙港に収容できる艦艇数2万隻、病院のベッド数は20万床、1時間あたりに生産できる核融合ミサイルの数7500本、穀物貯蔵庫の容量700万トン以上などなど、戦闘から補給や整備まで、戦略基地としての機能はすべて備わっている。
まさに難攻不落の要塞であって、同盟軍が攻略作戦をしかけるたびにボロボロに敗退してきた。帝国軍はイゼルローンの無敵ぶりを誇り、「イゼルローン回廊は叛乱軍兵士の死屍をもって舗装されたり」と豪語した。
しかし本編開始以降、ヤンが台頭してからは所有者がコロコロ変わる。
要塞の上級将校
要塞における上級将校を時系列順で列挙する。()内は、その人物の本来の職務の内に実質的に要塞における職務が含まれている場合の本来の立場、および属する国家・政治勢力。
要塞建設責任者
要塞司令官
ゴールデンバウム王朝におけるイゼルローン要塞司令官は、大将をもってこれに充てるとされる。
本編以前
本編開始後
- トーマ・フォン・シュトックハウゼン大将(銀河帝国ゴールデンバウム王朝)
- ラザール・ロボス元帥(宇宙艦隊司令長官、帝国領侵攻作戦遠征軍総司令官/自由惑星同盟)
- ヤン・ウェンリー大将(自由惑星同盟)
- ヤン・ウェンリー元帥(自由惑星同盟)……要塞放棄後ながら、解任されないままの元帥昇進による
- コルネリアス・ルッツ大将(銀河帝国ゴールデンバウム王朝)
- コルネリアス・ルッツ上級大将(銀河帝国ローエングラム王朝)
- ヤン・ウェンリー元帥(革命予備軍司令官/エル・ファシル独立政府)
- ユリアン・ミンツ中尉(共和政府軍事司令官/イゼルローン共和政府)
要塞駐留艦隊司令官
ゴールデンバウム王朝では、駐留艦隊司令官も要塞司令官と同じく大将をもって充てる。そのため両司令官の不仲が度々問題視されたが、ポスト数の問題もあり解決されないまま奪取されることとなる。
本編以前
本編開始後
ヤン要塞司令官時代の要塞指揮系統
都市機能
内部は数千の階層構造になっており、そこには居住施設、学校、病院、公園、娯楽施設、給水システムなどの都市機能が備わっており、500万人が要塞内で生活できる。エネルギーは中枢の核融合炉から供給され、植物園や水耕農場もあるので酸素や植物性栄養素も自給自足できる。
同盟軍が支配していた時期は、軍人200万人と民間人300万人がイゼルローンで生活していた。民間人のうち多くは軍人の家族だが、各施設の経営を軍部から委託されたものもいる。人口でいえば日本の福岡県と同規模。そんな大都市だが政治家はいなかったようすで、要塞司令官のヤンが最高権力者であった。また気候を制御し、四季はハイネセン北半球と合わせていた。
軍事行動
イゼルローン要塞の関わる軍事衝突、軍事行動を時系列順に挙げる。
第一次~第四次イゼルローン要塞攻防戦
詳細不明。同盟軍がさんざ轢き潰されて痛い目を見た時期。
第五次イゼルローン要塞攻防戦
792/483年、同盟軍によるイゼルローン要塞攻略作戦。総司令官シドニー・シトレ大将。
要塞主砲・雷神のハンマーの射程に呼びこもうとする帝国軍の動きにつけこみ、同盟軍は一挙に突進し、敵味方が入り乱れる乱戦に引きずり込んだ。その状態で雷神のハンマーを放つと帝国軍まで巻き込んでしまうということで、戦術的に雷神のハンマーを封じる作戦であった。
この作戦は途中まではうまくいき帝国軍を脅かしたものの、最終的には、要塞の防衛が最優先という判断から雷神のハンマーが放たれ、味方もろとも同盟軍を吹き飛ばした。結局失敗に終わったが、「イゼルローンの厚化粧の一部をを引き剥がした」ことでシトレへの評価は上がった。またこの戦術はその後なにかと参考にされることになる。
第六次イゼルローン要塞攻防戦
794/485年、同盟軍によるイゼルローン要塞攻略作戦。総司令官ラザール・ロボス大将。
ウィレム・ホーランド少将率いるミサイル艦部隊が局地的に画期的な戦果を上げるなどしたものの、結果はいつもどおり同盟の敗退。ラインハルトが戦術的戦果をおさめ、ヤンは参謀としてそこそこ腕前を見せる。
第七次イゼルローン要塞攻防戦
同盟軍第13艦隊によるイゼルローン要塞奪取作戦。総司令官ヤン・ウェンリー少将。
同盟軍兵士を、帝国軍兵士になりすませてイゼルローン要塞に送り込み、駐留艦隊をおびき出した隙に要塞内部から制圧した。白兵戦では最強と名高い”薔薇の騎士”連隊のあっさりと司令部を制圧し、駐留艦隊は”雷神のハンマー”で瞬殺。ヤンは味方の血を一滴も流すことなく、難攻不落と謳われた要塞の奪取に成功した。
帝国領侵攻作戦
同盟による大規模な帝国領侵攻作戦。
総司令部をイゼルローンにおき、遠征軍総司令官ロボス元帥が要塞司令官を兼任。昼寝などに活用された。
捕虜交換式
交換式は、帝国軍キルヒアイス上級大将と同盟軍ヤン大将の名のもとで、イゼルローン要塞にて執り行われた。
要塞対要塞
帝国軍によるイゼルローン攻略作戦。総司令官カール・グスタフ・ケンプ大将、副司令官ナイトハルト・ミュラー大将。
ガイエスブルグ要塞に航行エンジンをとりつけ、要塞ごとイゼルローン回廊に侵攻した。壮大で華々しく軍事ロマン的には胸熱な作戦にみえるが、帝国軍内部では無用の出兵と批判されていた。
同盟上層部のお馬鹿によってヤンが不在のためやや帝国軍優位に推移するが、援軍を引き連れ戻ってきたヤンと駐留艦隊を率いるメルカッツとの挟み撃ちにあい艦隊が壊滅。最終的にはガイエスブルグをイゼルローンに体当たりさせる自爆戦法を決行するも、ヤンによって阻止され、全軍の9割を失って敗走する。
結果的には大した影響がなかったと見える第八次であったが、実は作品における重大な問題点を露呈させる作戦になった、というのは後述。
神々の黄昏
帝国軍による同盟領侵攻作戦(”神々の黄昏”作戦)の最初の一手として、三個艦隊がイゼルローンに侵攻した。帝国軍本体がフェザーン回廊を抜けるまでのあいだ、同盟の注意をイゼルローンに惹きつけることを目的とした陽動作戦である。総司令官はオスカー・フォン・ロイエンタール上級大将、副司令官にコルネリアス・ルッツ、ヘルムート・レンネンカンプ両大将。
陽動であることはヤンも見抜いていたが迎撃しないわけにも行かず防衛戦が開始。双璧の片割れ相手に流石のヤンも攻めあぐね、いっぽうロイエンタールも陽動故に積極策に出ない膠着状態。レンネンカンプだけ痛い目を見た。
しかしフェザーン回廊より帝国軍が侵攻したとの報が入り、「善処を期待」されたヤンは、同盟本土の防衛にあたるためにイゼルローンを放棄した。民間人300万人をかかえての離脱であり、ロイエンタールもこれを追撃するを潔しとしなかっため、戦闘はこれにて終結。イゼルローン要塞は帝国の手に戻った。
このときヤンは要塞内に時限爆弾を設置していたが、爆発前に帝国軍によって発見、処理される。しかしこの爆弾は、別の罠の存在に気づかせないための囮であった。
健康と美容のために、食後に一杯の紅茶
エル・ファシル独立政府革命予備軍によるイゼルローン要塞奪取作戦。
司令官ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ上級大将。
皇帝ラインハルトの名を騙った通信を乱発してルッツを混乱させ、駐留艦隊を要塞からおびき出すことに成功。さらに、かつてイゼルローンを離れる前にコンピュータに仕込んでおいたトラップを起動させ、要塞の防衛システムを無力化し、その隙に要塞に侵入し占拠した。ルッツ艦隊は雷神のハンマーを受けて撤退。
回廊の戦い
帝国によるヤン艦隊討伐作戦。総司令官は銀河帝国皇帝ラインハルト・フォン・ローエングラム。
銀河の完全統一を目的とするが、それと同時にラインハルトの覇気を満足させる意味が大きい。そのためロイエンタール、ミッターマイヤー、オーベルシュタイン、ヒルダなどは出兵に反対しており、とくにオーベルシュタインは後にこの皇帝の態度を痛烈に批判している。
兵力が違いすぎるため、ヤン艦隊が勝つ可能性はまずない。戦術的優位を保ち続けてラインハルトの妥協を引き出し、民主主義の芽を守るのがヤン艦隊の戦略目的であった。そしてラインハルトが講和を提案したために戦いは終局した。
戦いの中でファーレンハイト、シュタインメッツ、フィッシャーといった多くの名将が斃れたうえ、戦後の会談に向かう道中でヤンまでも暗殺され、みんなのトラウマとなる。
ロイエンタール元帥叛逆事件
反逆したロイエンタールを討伐するために、メックリンガーがイゼルローン回廊航行の許可を申請し、ユリアンはこれを承諾した。ラインハルト側、ロイエンタール側共に「戦略的に正しい判断」と評価している。
皇帝のむこうずねに蹴りをいれてやった
イゼルローンは元同盟領の共和主義者にとって最後の希望であった。しかし先の第二次ランテマリオ会戦の際に帝国に協力的だったことから、イゼルローンに対して不信が生じる。イゼルローンは自己の保守だけが目的で、共和主義を守る気はないのではないか、という噂が広まり、それはイゼルローンまで届いていた。
事態を深刻と見たユリアンは、自分たちの立場を示すために帝国軍に一戦を仕掛ける。
仕掛けた相手は、回廊の旧帝国領側で警備にあたっていたヴァーゲンザイル大将が率いる艦隊であったが、本当の狙いは旧同盟側に駐在するワーレン艦隊であった。ヴァーゲンザイル艦隊を救援に来たワーレン艦隊を雷神のハンマーの射程にひきずりこみ、撃退に成功した。
シヴァ星域会戦
民間船「新世紀」号の亡命に端を発する戦い。元々の設定が曖昧なため、イゼルローン~ハイネセン間のイゼルローン側で起きたことは確かだが、はたして回廊内だったのか外だったのか、どのくらい離れていたのかが判然としない。
帝国の支配下から逃げ出した新世紀号が、動力故障のためにイゼルローンに救助を依頼した。この通信が帝国軍にもひっかかり遭遇戦となり、牽制のために互いに戦力を投入した結果、大きな戦いへと発展してしまった。
この戦いには皇帝ラインハルトが出陣するも、病に倒れ意識不明となる。帝国軍は動揺し、それにつけこんでユリアンらは帝国軍総旗艦ブリュンヒルトへの侵入を果たす。
最終的には、ラインハルトが司令室までたどりついたユリアンの勇気と意地を認め、和平にて戦いは終結する。
イゼルローン要塞の作品における問題点
イゼルローンの最大の武器、それはトゥールハンマーや堅牢な要塞外壁ではなく、完全な自給自足が可能な補給能力である。過去の戦史において堅牢な要塞というのは籠城戦に持ち込まれて降伏に至るというのがセオリーで、特に物語後半ではイゼルローンは孤立していたのだから、いくらヤンであっても封鎖されて、補給が断たれれば、戦艦を動かすエネルギーも食料も尽きて降伏せざるおえない、はずなのに作中では籠城中にも関わらず補給に困っている描写はなく、最後まで耐えきっている。
これだけならツッコミどころだけだったのだが、第八次イゼルローン攻略戦において、シャフトがガイエスブルク要塞を転移させることを思いつき、それが成功すると、読者の間からはこのようなツッコミが生まれることになる。
いくら包囲されてもワープで逃げてしまえばいいだけではなく、強大な火力と装甲を持った補給基地ごとゲリラ戦を展開されるのは帝国から悪夢。シャフトの発案は実は戦争概念を根底から覆すほどの大発見であるにも関わらず、ラインハルトもヤンも顧みることがなかったとのはおかしいということで、考察系サイトではこの件に関する論争が勃発することになった。
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