火の鳥とは、手塚治虫がライフワークとした漫画作品である。またそれに登場する永遠の命を持つ炎をまとった鳥。
概要
“火の鳥”と呼ばれる不老不死の存在を通して、様々な時代の人間たちの苦悩と運命を描いた作品。
漫画の神様と言われる手塚治虫が漫画を描き始めたあたりから没するまで(1954年~1988年)描き続けた作品。
舞台劇用のシナリオを含めるなら、本当に死ぬ直前の病院のベットでも作品が作られていた。
彼の作品の代表作の一つでもあり、またライフワークでもある。アニメ化や映画化OVA、ゲーム化、舞台劇などにもなったことのある作品である。
作品自体は、作品ごとに独立したストーリーになっているが、全編を通して読むと「物凄く過去→物凄く未来→凄く過去→凄く未来→少し過去→少し未来→…」と振り子のように過去と未来を行き来してだんだん現代に近づく構図となっており、すべてを通して見ると見えてくる内容も出てくる。
作者である手塚治虫が死亡した瞬間にすべてが完結する構想で描かれていた。
また、巻数表記が無い単行本においては、順番を入れ替えて読むと今まで過去だと思っていた話が全て未来になり、今まで未来だと思っていた話が全て過去になるようになっている。
漫画家である浦沢直樹は本作に莫大な衝撃を受け、『下手な紹介はできない。一生に一度とりあえず読め』と語っている。また、ネット上では、『あなたにとって最高の漫画は?』との質問が出ると高確率でこの作品の名前が登場することが多い。それだけ、漫画の神様・手塚治虫が漫画家人生の黎明期からその晩年まで、数十年以上に渡り、言いたかった内容を詰め込んでいるとも言える。
過去も未来も、正義も悪も、光も闇も、生も死も、男も女も、約束も裏切りも、美しさも醜さも、快楽も苦痛も、全てが詰まった作品である。
この作品で『永遠の命』を手に入れた人、『永遠の命』を手に入れようとした人達が幸せだったのかどうか作品を読んだ事ない人は是非読んで欲しい…。
エピソード紹介
簡単にそれぞれのエピソードを説明すると以下のようになる。
黎明編 | 3世紀の日本が舞台。 邪馬台国の「卑弥呼」が永遠の命を求め火の鳥を手に入れようとする。 だが、そこへニニギ率いる高天原族の侵攻が始まり… |
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未来編 | 西暦3404年が舞台。 永遠の命を手に入れた主人公「山之辺マサト」以外、電子頭脳のコンピューターが起こした核戦争で、全ての生命が滅びる。 |
ヤマト編 | 古墳時代の日本が舞台。大和武尊の神話がモチーフ。 真実の歴史書を作ろうとする者と嘘の歴史書を作ろうとする者の対立。 |
宇宙編 | 西暦2577年の宇宙が舞台。 宇宙船が事故に会い、4人が広い宇宙空間に投げ出される。 |
鳳凰編 | 奈良時代の日本が舞台。 片目と片腕を失った男「伏見の我王」と、本来何不自由なく生きていた男、「大和茜丸」の運命の交錯。後に何故かゲーム化した。 |
復活編 | 西暦2482年から始まる物語。 上空のエアカーからの転落事故によって再生ドックでの手術を施されたために、人間が無機物に見え、ロボットが人間のように見えるようになった男「レオナ」とロボット「チヒロ」の話。 |
羽衣編 | 10世紀の日本が舞台。 未来から来た女が10世紀の男と結婚。子供も授かったが・・・。 |
望郷編 | 未来が舞台。八丈島の「丹那婆伝説」がモチーフ。 悪徳業者に騙されて大地震が頻発する見捨てられた惑星「エデン17」に連れてこられた「ジョージ」と「ロミ」の二人。間もなくジョージが事故で溺死、ロミはコールドスリープを使い息子と子孫繁栄する禁じ手を選択する…。 |
乱世編 | 平安時代の日本が舞台。木こりをしていた弁太はある日、京の街で櫛を拾い、恋人のおぶうにプレゼントする。だが、そのせいで弁太とおぶうの両親は平家の侍に殺され、おぶうは誘拐されていった。弁太は生き残るため、仕方なく源氏の御曹司牛若丸の仲間になる。 平家物語を中心に源義経、頼朝、烏天狗、さまざな歴史上の人物が登場。 作中に挿入される猿の赤兵衛と犬の白兵衛のエピソードは有名。 |
生命編 | 西暦2155年が舞台。 主人公が大量のクローン人間になってしまう。クローン人間は殺されてもいいのか? |
異形編 | 15世紀末、戦国時代の日本が舞台。 男として育てられた女の侍が、尼僧を殺し、その罪を償う話。 |
太陽編 | 過去と未来が舞台。 7世紀にいる狼の生首をかぶせられ頭から取れなくなった男性「ハリマ(後、犬上宿禰と名乗る)」と、西暦2009年の未来に住む、犬の顔の形をした洗脳器具を頭に付けられた男性「坂東スグル」が夢で交錯する話。 |
・・・本作は作品ごとに独立した話になっており、どの作品から読んでも楽しむことができる。
初めて読む人はどの作品からでもいいので気軽に読んでください。
出版社によって、どの編を1巻とするかは異なっているが、だいたい雑誌COM版の黎明編から始まることが多い。
巻数表記が無い単行本の順番を入れ替えて読む場合は、この中のどれかの編が第一巻として、読むこともできるし、同じ編が最終巻として読むこともできる。(どの編かは自分で確かめて下さい。)
つまり単行本を過去から未来まで入れ替えて、始めて物語が完結する。
この他に、『少女クラブ』に描かれた「エジプト編」「ギリシャ編」「ローマ編」の3作品の内容が連続した作品がある。内容は天国で飼われていた火の鳥がある日脱出に成功したことから物語が始まっている。
主要登場人物
- 火の鳥
- その血を飲めば不老不死になれると言われている、人語を話す、体を火に包まれた鳥。そのために各時代で火の鳥を狙う者が後を絶たない。
- 未来を舞台にした章においては、宇宙生命(コスモゾーン)などとも呼ばれ、宇宙空間を飛翔し、多数の生命をその身の内に宿しているなどの生物としての枠を超えた存在として描かれている。
編によっては人間と子供を作っていたりする。 - 猿田(猿田彦・猿田博士・我王)
- ほとんどの章に登場する、最終的に巨大な醜い鼻(イチゴ鼻)を持つ事となる人間達の総称。時代によっては天狗と呼ばれることもある。
それぞれの猿田達は「黎明編」の猿田彦の子孫であったり、猿田本人が転生した姿だったりと関係は深い。
基本的に猿田姓である事が多いが、それ以外の姓である事も多く、ブラックジャックの本間丈太郎などの様に火の鳥以外の作品でも同様の役割を持って登場することがある。また、火の鳥に限らず猿田の姿のキャラは時にプロの中のプロとしてその道の権威ある人物と設定されている事が多い他に、晩年の我王のように達観者として俗世を離れた仙人のような域に達した者もいる。基本は人間の業を鋭く突いた発言、そして孤独な人生を送る者が非常に多い。 - 「鉄腕アトム」のお茶の水博士と深いつながりがあり、雑誌連載版の「太陽編」にはお茶の水博士が彼の類縁として登場する。
バージョン違い
本作は手塚治虫本人により仕掛けが施されており、沢山のバージョン違いが存在する。
始めて読む人はあまり気にせず、どれでも好きな作品を好きな順番から読むことをおすすめする。
- 黎明編(漫画少年版)- イザ・ナギとイザ・ナミの二人が主人公。父親がムシャムシャ食われる。兄妹は東南アジアの出身で村ぐるみの移民の最中に嵐に巻き込まれ、日本に漂着、原住民から攻撃を受けるも、致命傷を負ったはずのナミが復活したことからナミに「天照大御神」の神名を与えられる。雑誌休刊のため、途中で打ち切られた。
- 羽衣編(COM版)-未来世界で受けた放射能のせいで奇形を抱えて産まれた子供を、母親が殺そうとする話。話はそのままCOM版望郷編に繋がる。
- 望郷編(COM版)-上記の羽衣編の続編。タイムマシンで未来へ行った奇形児の少年「コム」が主人公。雑誌廃刊のため途中で打ち切られた。
- 乱世編(COM版)-主人公のまきじと妹のおぶうが、兄妹なのに肉体関係を持っている。犬と猿の名前が違う。
- 乱世編(朝日ソノラマ版)-犬と猿の話はラストに。犬と猿が義経と清盛の生まれ変わり。
- 乱世編(角川書店版)-犬と猿の話は冒頭に。ラストシーンの大幅加筆。弁太とヒノエはどうなったか。最後に唄。
- 望郷編(マンガ少年版) - 物語後半のロミがはっきりと老婆として描かれている。(他の版では中年くらいに見えるように描かれている。)ラストにロミは牧村に撃ち殺される。
- 望郷編(朝日ソノラマ版) - ブラック・ジャックの亜種が登場するなど大幅加筆。最後に死んだロミとジョージの声が。
- 望郷編(角川書店版)-ノルヴァという異星人が登場するシーンを全カット。ロミとジョージの出会いをプロローグに。
- 生命編(マンガ少年版) -主人公がテレビ番組内で殺される。最後に鳥女から主人公はクローンと告げられる。
- 生命編(朝日ソノラマ版) -火の鳥の子孫の顔が火の鳥じゃなくなった。主人公が工場爆破。
- 異形編(マンガ少年版)-左近介が治療していたのは宇宙人。火の鳥が「宇宙の偉大なお方」と謎めいたセリフ。
- 異形編(朝日ソノラマ版)-最後に老いた左近介が若き左近介に切られるシーンの追加。左近介が治療したのは妖怪に。
- 太陽編(野性時代版)-お茶の水博士が猿田の類縁として登場する。過去と未来の順番が違う。
その他の編
- 東洋編-手塚治虫の漫画「ブッダ」の企画時の名前。ブッタには火の鳥から猿田彦の亜種も登場。「乱世編」の弁太とタッタ、義経とダイバダッタがそっくりなのは企画時の名残。
- 大地編-日中戦争が舞台。プロットがいくつかの書籍に収録。
- 再生編-鉄腕アトムが登場する話。二階堂黎人の小説「火の鳥アトム編」として再利用。「アトム編」は小説の名前。
- 火の鳥2772-手塚治虫による映画作品。火の鳥の結末の1つが描かれている。
- 火の鳥第2部-シナリオのみ存在する映画用の編。火の鳥の結末の1つが描かれている。
- 火の鳥休憩-現代編の伏線が貼られたエッセイ漫画。2種類存在する。
- 舞台劇火の鳥-手塚治虫が死ぬ前に病院のベットで描いた演劇。手塚治虫の死亡の前日に公演。西暦2001年。
- 現代編-たった1コマの物語。とある人物が死ぬ瞬間を「現代」と設定し、とある人物がその瞬間に描く構想だった。とある人物は死亡したため、とある人物の最後の言葉は「頼むから仕事をさせてくれ」になった。たった1コマではとある人物の死体から火の鳥が誕生し、とある人物は猿田の生まれ変わりであったとも推測されている。たった1コマで火の鳥の世界の始まりと終わり、誕生と死亡、最初と最後が同時に描かれる構想であったとも語られる。
アニメ
何度かアニメ化されているが、原作自体が非常に壮大な物語となっているため、原作の最初から最後まで一息にはアニメ化できていない。また、原作にないアニメオリジナルストーリーのものもある。
火の鳥2772 愛のコスモゾーン
本来は1978年に公開された実写映画『火の鳥』と前後編になるはずだったが、実写映画の評判が良くなかったことから独立した作品として作られた。
手塚治虫本人も脚本として参加している。
角川春樹事務所版
劇場版1本とOVA2本を製作。キャラクターデザインは原作からかなり変更されている。
火の鳥・鳳凰編
火の鳥・ヤマト編
火の鳥・宇宙編
火の鳥・羽衣編
京都の駅ビルにかつてあった手塚治虫ワールド内のシアターで上映されていた短編アニメ。
テレビアニメ
2004年4月からNHK総合などで放送。全13話。アニメ化されたのは黎明編・復活編・異形編・太陽編・未来編。
PHOENIX: EDEN17
2022年11月30日にアニメ化が発表された発表された2023年にディズニー+で配信予定の作品。制作はSTUDIO4℃。
お絵カキコ
関連動画
音楽やMAD
ロビタ
ゲーム化作品
火の鳥再生編と関係ある作品
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関連項目
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- 0pt