物理学(Physics)とは、自然界のあらゆる現象を包括的に理解するための理論(4つの相互作用;電磁相互作用・弱い相互作用・強い相互作用・重力)を構築する自然科学のひとつ。
その性質上強力な論理的言語が必要とされる。そのため数学との関係が深く、物理学を理解するためには後述の通りある程度の数学的知識が必要となる。
概要
その研究対象は非常に幅広く、目には見えない素粒子から宇宙全体の成立ちまでバラエティに富んでいる。特に量子力学をはじめとする微視的立場と、熱力学をはじめとする巨視的立場のふたつの面に分けられる。また成立順に古典物理学と現代物理学に分類される。古典物理学(巨視的立場)は古代からの哲学をそのまま反映した領域で物体の運動とは何か、熱源をどのように認識すればよいか、色の違う光は何が違うのかなど素朴な疑問に統一的に解を与える。現代物理学(主に微視的立場)は量子場(粒子)の振る舞い・時空構造を考察することが使命とされている。この観点で特に重要な問題が重力をどのように量子化するかというもので後述の通り宇宙物理学もそのターゲットとして含まれている。最終的にはまだ見ぬ大統一理論を通じて時空から量子場が、量子場から時空が生成されるような現象を知ることが最終目標である。
おおまかに「実験、観測、理論、コンピュータシミュレーション、データ解析」が相互に適切に組み合わさっている。
主な体系
- 古典力学
- 樹から落ちる林檎について研究する。占いに使うホロスコープを精密に作製するために、いつ自分の頭上に注目してる星が現れるかを知ることが当時の研究理由。これにより天上の星の運動が大雑把に地上の物体の運動と同じ法則に従っていることが明らかになった。3つの運動の法則があり、特に第2法則であるニュートンの運動方程式が学生にとって最初の関門として立ちはだかる。人類が大昔から素朴に哲学として考えていた「空間/時間/運動/質量」を「アフィン空間/発展パラメータ/アフィン空間内の曲線/アフィン空間上の測度」で処理する物理模型と現在では認識されている。この数学構成を崩すことで相対性理論に到達できる。ざっくりと言えば量子力学的影響を無視できる巨視的状態、かつ光の速度に比べてはるかにゆっくりと動く物体の運動を取り扱うことができる。物理学の源流でもある。
- 解析力学
- 物体の運動をより一般的に表そうという試み。「大学の物理は数学」とよく言われる理由はおそらくこれ。変分原理→正準変数→断熱不変量→量子力学への応用 というのが一連の流れ。特に最小作用の原理を受け入れることができるか否かで脳が物理理論を受け入れることができるかどうかを左右する。この分野を発展させまくったものに力学系(カオスを含む)やシンプレティック幾何学などがある。
- 熱力学
- 窓を開け閉めする悪魔について研究する。革新的偉業になるかもしれないマクスウェルの悪魔……であるが、今のところ試行錯誤が続く方向性となっている。初期にはカルノーサイクルなど熱機関などの研究が行われ、その後エントロピーなど、統計力学に繋がる研究課題が現れ、統計力学と共に熱統計力学という分野を形成している。また、後述の天体物理の世界なんかでもブラックホールの熱力学なんていうものがあったりする。
- 電磁気学
- 琥珀を擦って静電気が生じることから生まれた分野。マクスウェル方程式が指導原理なのだが、古典力学がニュートンの運動方程式から出発したのと対照的に、マクスウェル方程式が完成したのは結構後だったりする。他に有名なのはマイケル・ファラデーなど。また量子場の理論におけるゲージ変換を適応することで自然と電磁場が導かれる。ここの電磁波分野やベクトル解析あたりが、ガチで物理を志す学部生にとって最初の試練となる。名前からは予想できないが、光が電磁場の一種であることがマクスウェルによって理論的に示され、後にフィッツジェラルドやローレンツがマクスウェル方程式で遊び倒したことで、この分野に於ける研究がアインシュタインによる特殊相対性理論に繋がった。
- 物理数学
- 物理学で用いる数学について、その数学的手法を記述する分野。主に、線形代数やベクトル解析、(非斉次、連立、非線形)微分方程式、複素解析、特殊関数、微分幾何学、群論などを学ぶ。数学と物理学の交流はニュートンの微分積分学以来から、ずっと続いている。数学は物理学を厳密に作り上げ、物理学は数学の新しい考え方を生む。例えば、「経路積分」は粒子がある時間でaからbに動くとき、粒子を記述するラグラジアンLを用いて計算される作用S[b,a]が書き下せる。しかし、厳密な数学では「測度」という概念が存在して、単純な経路積分は数学的に定義が不十分になる。微分幾何では、厳密には微分可能多様体の定義が必要になる。プログラミングによる数値計算法もこの分野に含まれるかも。応用数学や数理科学とも関連がある。
- 相対性理論
- 年齢の異なる双子について研究する。アインシュタインが有名だが、実はアインシュタインは相対性理論ではノーベル賞を受賞してはいない(前期量子論に於いて光電効果で受賞)。ぶっちゃけ、特殊相対性理論の方は当時の物理学の発展の順序からして「いつかは誰かがやるだろうな」という理論ではあった。現在の物理の基本的な考えの一つである相対性原理(見方を変えても物理法則は同じというルール)の源流を造った。多くの学生が苦しめられるテンソル計算が出てくるのもここ。一般相対性理論は友人に「そんな研究やめたほうがいいよ」とかいわれながらも苦心して完成させた。一般相対性理論では曲がった時空の計算が要請され、導かれた驚くべき成果はブラックホールの古典的模型や宇宙の膨張などがあげられる。
- 量子力学
- 箱に閉じ込められた猫について研究する。オスの三毛猫はとても珍しいが、もっと珍しいかもしれないシュレーディンガーの猫が登場する。もともとは真空空洞内に於ける黒体輻射が古典力学では矛盾することを回避するために作られた理論であったが、気づけば20世紀および21世紀物理学の中心的分野となった(前期量子論)。その後、リチャード・ファインマン、朝永振一郎などの数々の天才によって発展し、後々の素粒子物理学・物性物理学へ繋がることになる。ちなみに良く知られているシュレディンガーの量子化、ハイゼンベルグの量子化のほかにも、いくつか等価なファインマンの経路積分やネルソンの確率量子化など、ある程度等価な量子力学の構成方法があったりする。
- 量子場の理論
- 時空を満たす"海"について探求する。相対性理論と量子力学の成立と同時に2つの理論の統合を目論んだ一派が創始者し、量子力学の枠組み(ヒルベルト空間)では取り扱えない粒子の発生・消滅現象をフォック空間を用いて整備した点が最大の特徴。前述のリチャード・ファインマンはこの計算の簡略化(ファインマン・ダイアグラム)を、朝永振一郎は計算で登場する困難を観測の仕方を改めることで回避する方法(くりこみ)を提案してノーベル賞を受賞した。質量の起源と言われているヒッグス機構もこの枠組みに含まれる。この理論を使えば下記の統計力学・素粒子物理学・物性物理学の原理を導けるので現代物理の基本的な言語とされ、これを学ぶことは世界中の大学生・大学院生がプロ学者になるための登竜門とみなされている。日本では学部の最終学年か大学院に入学後に初めて触れることが多い。
- 統計力学
- 熱力学、量子力学などいろいろな分野に現れる。もともとはボルツマンが気体分子の運動から熱力学第二法則を導いてやると野望を抱いて始めたのだが、結果的には熱平衡にある系の性質を導く理論として確立した。非平衡系についてはまだよく分かっていないことが多い。この分野を学ぶにはひと通りの解析力学の知識が無いと話にならないので学部の後半で学ばれることが多い。量子場の理論を使うと半導体計算でも使用されるのフェルミ分布やレーザーの強度計算で考慮されるべきボーズ分布が導かれる(量子統計力学)。
- 連続体力学
- 変形と流動を扱う、古典力学の一分野。流体力学と弾性体力学に分けて学ぶが、本来は統一的に扱えるように目指したもの。その歴史は当然古く、「場」や「テンソル」の概念は実はこの分野に起源があったりする。シミュレーションでガリガリ、というか解析的には解けない場合が圧倒的に多い。その例として衝撃波の物理(非線形波動)がある。現在は体系がかなり完成してきているので、工学や地球科学の方が需要ありそう。
- 宇宙物理学
- 万物がどこから来たのかを探求する分野。古典力学の成立以前から人々は宇宙にロマンを馳せていたが、一般相対性理論の成立後に、重力とは時空が曲がった効果であることが示されて宇宙観が一変した。というのも、宇宙が膨張していることを(古典論的)一般相対性理論のアインシュタイン方程式が主張したために、時間をさかのぼれば宇宙のサイズは点まで圧縮される。このサイズ0の点から時空が広がる模型がいわゆるビッグバン理論であり、凝縮されたエネルギーが時空内で粒子を作り元素合成を経て今の宇宙を形作っていると考えられているため、これぞ物の理と考える学者が多い。このため最近は後述の素粒子物理学と一緒に考察されることが多く近寄りがたい分野である。他にも特殊な天体現象なども興味の範囲で、例えばブラックホールの蒸発(ホーキング輻射)だとかガンマ線バーストだとか、白色矮星、8×M_{太陽}より大きい恒星が鉄のコアまで元素合成が進み中心付近が中性子化を始め、最後にはコアの外にある物質を吹き飛ばす超新星爆発(スーパーノヴァ)だとか、自然現象の壮大な深淵を連想させるネーミングが多数存在する。
- 素粒子物理学
- 物理学界の博物学。この世界の住人の使用言語は上述の量子場の理論であり、これを用いて素粒子と呼ばれる宇宙を形作る最小単位の粒子がコレクションボックスに入るべきもので、これらの振る舞いを理論・実験的に調べる。特に実験は時代を追うごとに高出力の加速器が登場しそのたびに新種の粒子が発見された。現在最大規模の加速器はシュタインズ・ゲートでおなじみCERNのLarge Hadron Collider (LHC)。 現在は質量を生み出すヒッグス粒子まで実験的に確認されており、電磁相互作用の量子電磁力学(QED)と弱い相互作用と強い相互作用を表現する量子色力学(QCD、非可換ゲージ)をまとめた標準理論が物理の基礎とされている。現在は標準理論以後の時代であり、最大の興味は「4つの力の最後の一つの重力をいかにして量子化して粒子と扱うか」と「実験的に標準理論で説明できない相互作用を発見する」ことを目指している。理論的にはそれが見つかったときの候補として超ひも理論などの余剰次元を導入した模型やら超多体系で非線形・非摂動の物理の研究が主か。実験研究は基本的に超大型研究になるためよっぽど何かないと新しい装置が導入できないのが難点。
- 物性物理学
- 量子力学のおかげで個々の物質の性質について解明が進んでいった結果できた分野。現代物理の主要な研究分野の一つ。なぜ磁石は鉄を引き付ける?というような古代からの疑問にも量子力学なしでは答えることはできない。鉄の精錬方法はヒッタイト人が発見したが、そのくらい昔に古代人は疑問に思ったかもしれない。例えば磁性体は強磁性体や反強磁性体、フェリ磁性体、ヘリカル磁性体などの種類があり、電子のスピンの量子化が関係して、相互に作用する複数の要因が考えられる世界は、さながら複雑系科学である。「半導体」では電子のトンネル効果、「超伝導」の理論は相転移などが理論的にも未完であり、「ナノ」の世界には量子コンピューターの名のもとに量子通信の研究が進んでいる。また統計力学の次の非平衡統計力学が学べる。何か聞こえの良いキーワードが並ぶため研究費が取りやすいという理由があったりなかったりする。実験系、理論系で分かれるが、実験装置は素粒子の加速器実験と比べて規模が小さいので、チームメンバーは少数である。高エネルギー実験系などでも物性研究は必要になる。物性をデザインするのにスーパーコンピュータでパワフルに計算することもしばしば。
- 原子核物理学
- 自然界には「強い力」「弱い力」「電磁気力」「重力」という相互作用があるが、粒子間に相互作用する強い力が働く原子核を研究する分野。ハドロン物理学とも言う。α線やβ線やクーロン相互作用による粒子間の散乱により原子核の構造に道標をつけたラザフォード散乱などが有名である。例えば、陽子の質量はm_p c^2=938.28MeV、中性子の質量はm_n c^2=939.57MeVであるが、陽子と中性子が結合すると重陽子になり、m_d c^2=1875.61MeVであり、陽子質量と中性子質量の和より小さくなる。つまり、結合した前後で、質量の和が違っている。その差は、2.24MeVであり、これは結合エネルギーと呼ばれる。陽子や中性子を結び付けている相互作用である。このような世界を量子力学や統計力学などを用いて解き明かす。陽子数や中性子数で分類する核図表で見ると分かりやすいかもしれない。平均場理論や中性子過剰核、マジックナンバー、ラジオアイソトープビーム(RIビーム)などの言葉がある。この力は宇宙における元素合成の基本的作用である。ほぼ中性子でできている中性子星の近距離の潮汐力を概算で計算すると、凄く強い力学的な力であることがわかる。核力を伝える新しい粒子を予言したのは湯川秀樹である。
関連項目
物理学関連用語の一覧
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