漫画村 とは、東京都新宿区の男性(ハンドルネーム:lichiro ebisu)が運営していたウェブ型クローンサイトである。
2016年1月に開設したオンラインの海賊版サイト。ネット上に落ちている漫画の画像を収集して公開していた「無料で漫画が読めてしまう」サイトで漫画以外に小説や一般雑誌も扱っていた。
幅広い年齢層のユーザーに利用されているが、各出版社や漫画家からの了承は一切得ていない上にタダで漫画が読めてしまうという怪しさしかないサイトであり、2018年の初頭からその問題性がSNS上でたびたび話題に上るようになった。ニュース番組や国会でも取り上げられたことにより多くの層に問題が認識されるようになったが、皮肉にも話題になった結果漫画村へのアクセス数はさらに増加し、3月には「漫画村プロ」なる有料版サービスも発表された。
国会での質問やテレビ・新聞報道などで注目が大きくなり[1] [2]、政府も反応するようになった2018年4月以降は漫画村にはアクセスできなくなり、[3]実質的に閉鎖。運営者はフィリピンに出国したが翌2019年に逮捕された。
運営者に対しては追徴金を含む懲役3年の有罪判決が確定、損害賠償を求める民事訴訟も元運営に約17億円の支払いを命じる判決が確定している。
漫画村は2017年12月に1億アクセスを突破して以降、右肩上がりでアクセスを伸ばしていった[4]。2018年1月時点では、国内アクセスランキングで31位で、1億5000万アクセスを超えている[5]。niconicoはちなみに同時期の2018年3月期第3四半期(2017年10月~12月)で、月間アクティブユーザーは910万人から897万人と減っている[6]。
コンテンツ海外流通促進機構(CODA)の集計によれば、2017年9月からの半年で述べ人数は6億2000万人、被害金額は流通額ベースの試算として3200億円である[7][8]。比較で電子書籍全体の市場規模は、2016年度時点で約2000億円であり[9]、CODAの推定が正しければ漫画村は1つのサイトで全電子書籍を上回っていると言える。
漫画村からの見解では、「自身が画像をアップロードしているわけではなく、また国交のない・著作権が保護されない国で運営している」ので違法ではないとしているが、いずれにせよ限りなくアウトに近いアウトであることには違いない。
そもそも違法かどうか以前にこのようなサイトで無料で漫画を読まれることは漫画の売り上げ低下につながり、ゆくゆくは漫画業界全体の縮小、そして漫画文化そのものの崩壊になってしまうのではないかと危惧する声も多い。出版社の中には公式で無料で漫画を読めるWebサービスを提供しているものもあるので、そちらを利用してほしい。本当は本屋でお金を払って実際に漫画を買うのが一番なのだが。
大手出版社の1つである講談社は、インタビューの中で「刑事告訴の手続きは完了している」、「漫画村、サーバー、プロバイダにそれぞれ開示請求・警告を出し、削除要請もしている」と答えている 。また広告収入が漫画村の資金源のうち大きい割合を占めるとされることから、広告代理店との連携も模索している[10]。
また後述する政府審議会では、出版社団体などの権利者らがブロッキングを含めた強制力を行使するように、プロバイダ側に求める意見を出している。
「漫画村」は、後述する「技術的・刑事訴訟上の問題」から、問題が顕在化したあとも通常の「著作権法違反」による捜査・起訴が始まっていないと見られる状況が続いていたが、報道によれば2018年5月14日の時点で講談社など権利者・権利団体が告訴していたことが明らかになっている[11]。また福岡県警察や大分県警察が捜査している事が明らかになっているが[12][13]、告訴の時期や捜査の進捗状況は詳らかになっていない。
別の報道では、「(2017年)秋から冬の段階で、漫画村を年末年始には、立件する」段階まで捜査は行なわれていたが、「(2018年)2〜3月頃」には警察の動きは分からなくなっている[14]、とされる。
また、報道の中で出版社などが告訴したとされる時期より後に「政府がブロッキングを検討した」時期が来ているため、後述する「通常の刑事捜査手法が取れないゆえに、ブロッキングを行う正当性が存在する」という議論に疑義の可能性が生じる。
漫画村にあるコンテンツを配信しているとされる「クラウドフレア(所在地:アメリカ)」への訴訟手続は、講談社によれば半年以上かかるとされ、企業による自主努力では限界があるとされる[15]。
NHKの調べでは、漫画村のサーバーは「クラウドフレアによれば、ウクライナにある」という。なお当のウクライナの会社は、コメントを控えている。そして漫画村の運営者は、スウェーデンのプロバイダーを通してウクライナのサーバーと契約しているという。
また、そのスウェーデンのプロバイダーは、「防弾ホスティング」というサービスを提供しており、秘匿性が高く、契約者個人までたどり着くのを困難にしていた[16]。
しかしその後、クラウドフレアは訴訟の過程において原告の要求に応じてログを開示し、その情報に基づいて運営者が特定された(下記「犯人は誰?」の節を参照)。
NHKの調べにより、利用者に一見して分からない「裏広告」が仕込まれていた事が確認されている。掲載されていたのはいずれも有名企業のもので、広告代理店の下請け・孫請け体制による丸投げなど業界の体質が[17]、犯罪行為への加担を生んだと見られている[18]。
また、株式会社ジーニーは同社が開発した広告配信システムが「漫画村」で使われていたことを受けて、広告配信の停止措置を行なった[19]。
漫画村は、利用者から「仮想通貨の強制マイニング」の疑いが指摘されている。これが事実ならば、「サイト利用者の了解をとらずに他人の端末を利用したということで、不正指令電磁的記録供用罪に問われる可能性」がある[20]。
作家・山本一郎による試算では、「2017年11月時点で月間6000万円前後の売上」と「利用者データの販売」が別にあるという[21]。
ただ、経済合理性自体は、違法性をただちに阻却するものではないが、利用者がアクセスする事による「経費」が売上を上回っている可能性が指摘されている[22]。
また漫画村問題を扱った政府審議会の委員・川上量生氏も、「被害額に比べて海賊版サイトの収入は極めて小さい」と見ている[23]。
日本の漫画雑誌のアップロードの速さ、漫画ジャンルの分類の正確さから「日本漫画に馴染んでいるおよそ日本人に限りなく近い人」という推測がなされていた。[24][25]。
2018年5月の朝日新聞の報道では、「漫画村が昨年まで使っていたURLの所有者情報の検索で、インド洋の島国セーシェル共和国を所在地とするウェブ制作会社との記載が見つか」り、「その会社のサイト(閉鎖)を復元し、関連情報をたどったところ、動画やネット掲示板の情報をまとめた複数のサイトを運営していた形跡が判明」「そのサイトに、運営者として都内の会社代表を務める20代の日本人男性が記載されていた」としている[26]。
その後、漫画村がサービスを運営するうえで利用していたIT企業「クラウドフレア」に対して、同サイトに権利を侵害された漫画家が原告となって2018年6月に米国連邦地裁における司法手続きを開始。これを受けて「クラウドフレア」は漫画村管理者の氏名・住所・メールアドレス・携帯電話番号を開示した[27]。
さらに、日本での訴訟においてもクラウドフレアは原告の求めに応じて2018年8月にアクセスログを開示。そのアクセスログを元にした調査が効を奏し、ついに漫画村の運営者が特定された[28]。
2018年11月に「ねとらぼ」が掲載した、特定に成功した弁護士の中島博之氏へのインタビュー記事においては特定に至った経緯が語られており、その訴訟の原告である漫画家のたまきちひろ氏による漫画も掲載されている[29]。
2019年7月9日、「漫画村」の運営者だった星野路実容疑者が、フィリピン入国管理局に拘束されていることがわかった。著作権法違反容疑で捜査している福岡県警察などが送還後、逮捕する方針[30]。10日には、星野容疑者の友人とされる藤崎孝太、伊藤志穂が違法アップロードをしたとして著作権法違反で逮捕された[31]。
あくまでも小規模のアンケートではあるが、若者の半数以上は「口コミ」等を通して認知しており、知っているうちの半数は実際に利用し、利用している人の殆どは罪悪感を持っていない事が確認されている。但し、知っている人の殆どは漫画を何らかの形で購入しているとアンケートでは示されている[32]。
サイトタイトルに冠しているように売りは、「漫画」が読めることにある。漫画村以前にもP2Pやインターネット上にリンク先を貼ることで漫画を共有する、一部違法性の高い事は起きていた[33]。警察による摘発がなかなか進まない一方で、利用者にとってもデータ閲覧に時間などのコストがかかることで一般に広く普及しているとは言えなかった。
一般に漫画は広く国民から支持を集めていることもあり[34][35]、潜在的に「手軽に」「たくさん」読みたい需要はあったと言える。近年電子書籍サービスが普及し消費者のニーズも特に漫画作品で一定数あるが[36][37]、ネットサービス最大手Amazonでは、電子書籍サービス「Kindle」で漫画作品を当初から多く揃え実績を上げたり漫画専用リーダーを開発がなされたり[38] [39]、2017年には紙の売上を電子書籍が上回るなど[40]、その需要は客観的に確認されている。そこで「インターネット上で手軽に幅広い作品が読めるサイト」として認知されたのが、漫画村である。一部アンケートでは「漫画村は他のサイトに比べて利便性が高い」というデザイン性への支持が現れている[41]。
日本では、「再販売価格維持制度」や「委託販売制度」など出版社自体が抱える業界慣行や出版社同士の垣根[42][43]、漫画家の「紙媒体へのこだわり」といった[44][45] [46]、日本特有の慣行・暗黙の了解などがあり、2018年現在までの所は、音楽業界にとってのiTunesのような、出版社の垣根を越えた国内の作品がほとんど網羅された漫画配信サービスは実現・普及していない[47]。そこに犯罪行為に当たる恐れが限りなく高いが、漫画村が無料であらゆる作品が網羅されている風に一見して思えるサイトとして利用されるのは、合法性がありかつ利便性の高いサイトが少ない現状では、消費者としては合理性のある現象といえる[48]。
元講談社・週刊モーニングの編集者であった佐渡島庸平は、漫画村について「話すのも不愉快になる」としながらも、「今までは所有権を売ることによって課金するのが当たり前だったのが、インターネット、シェアリングエコノミーの普及で、若者の感覚が変化している。しかし、その感覚に合わせた課金の仕組みがまだ整備されていない。」と現行の出版業界のビジネスモデルを批判している[49]。
出版社や漫画家の中からも、漫画家の間口を広げたり編集を介さない試み、出版社の垣根を越えたネットでの流通整備への必要性の声は出ている[50][51] [52]。
漫画村問題以前では、再販売価格維持制度などをめぐり、大手古書店チェーンや漫画喫茶をめぐり権利者らが店側に抗議をしたことがある[53][54] [55]。この後の顛末については、漫画家の佐藤秀峰は「出版社は今やブックオフの株主だ」と批判している[56]。他の動産では一般には価格維持制度や利用形態の指示に相当するものは、私的所有権絶対の原則・私的自治の原則に反する故に公益性のない限り認められていないが、出版業界では業界ルールとして不透明なものが続いてきた。漫画村は現在違法に作品がアップロードされているものを利用するものであるが、他に営業の自由を重視したサービスが広まらない事には歴史的に出版業界が閉鎖的だったことも関係がある。
ニコニコ動画の記事も参照。
漫画ではないが、サービス開始当初はニコニコ動画も漫画村同様に、YouTubeのリンク集として機能していたり、ニコニコ動画のサーバーに多数のアニメやテレビ番組、音楽が違法にアップロードされていたりと、違法な状態が放置されておりそのPVで広告費を稼ぐサイトであった。その後、著作権侵害状態からの脱却が宣言され[57][58][59]、動画削除がなされたり著作権管理団体と契約を結ぶなどして、100%ではないが著作者に利益が還元され、文化発展と矛盾しない形での動画配信サイトとなっている。
現在漫画村は多数の漫画作品が、著作者への利益還元や権利処理のないまま著作権法違反の恐れが高い状態で置かれている。2018年2月13日には、漫画家らで作る公益社団法人「日本漫画家協会」が公式声明として「全く創作の努力に加わっていない海賊版サイトなどが、利益をむさぼっている現実があります」「このままの状態が続けば、日本のいろいろな文化が体力を削られてしまい、ついには滅びてしまうことでしょう」というメッセージを出している[60]。出版社団体らが参加した政府の知的財産戦略本部・犯罪対策閣僚会議の審議会の中で、「法制化によらない迅速なサイトブロッキング導入の必要性」を政府に求めた[61]。但し、議論の詳細は非公開である[62]。このブロッキング要請自体は、各国政府や日本でも児童ポルノコンテンツに対して必要性・緊急性が高いとして行なわれている[63]。日本での場合、児童ポルノに対してブロッキング要請を行なっているのは、児童ポルノは一度拡散されると被害が回復困難だということが理由に挙がっている。
日本の児童ポルノコンテンツへのブロッキングでは、刑法の「緊急避難の法理」が採用されている(「緊急避難」の記事も参照)。一般に刑法では、個人、社会の利益を守るために、他の者へ害をなした場合に刑罰を科す。しかし、その害が自己又は他人の財産に対する危難を避けるため、やむを得ずにした場合は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない事を認める。これが緊急避難である[64]。漫画村の場合は、インターネットプロバイダがブロッキングを行い、ユーザーの通信の秘密を侵害した場合に憲法違反の恐れが生じる[65]。そこで、日本政府がブロッキングが著作権者の財産権保護のための緊急避難に当たると判断し、自主的なブロッキングを促している[66]。
そもそも、政府がブロッキングを容認したところで、司法・裁判所の場で「緊急避難の法理」を採用するかという問題があり[67]、実際にブロッキングを行なった場合は事業者にリスクが行く恐れが高い[68]。
なお諸外国でのブロッキングでも、児童ポルノコンテンツや著作権侵害へのブロッキングの例はあるが[69]、議会など公の場で立法・裁判所による審判などにより[70]、客観的な公平性を担保した上でなされている。ブロッキング要請への反対意見でも多くは、「財産権保護のためという必要性は理解するが、立法措置など他に正当性のある方法がある」というものである。
主にであるが、出版・漫画家による団体が「立法を待たずにブロッキングをすべし」という立場、インターネット関連団体が「直ちにブロッキングを行うことは違法性が高いので、まずは立法を」をいう立場である。但し漫画家個人の中には、表現の自由や政府による検閲の危険性を指摘し、拙速なブロッキングに憂慮を示す人もいる(下の一覧を参照)。
2018年現在、政府は漫画村のような著作者の権利を著しく侵害する類のリーチサイト(まとめサイト)を規制できる根拠法の整備を行なっている[71][72]。但し、今回の意見を取りまとめた内閣府・知的財産戦略本部の事務局長は、「早急の法整備は無理がある」と答えており[73]、政府答弁との整合性に疑義が生じている。
世界42カ国で、現状何らかのサイトブロッキングが行なわれているとされているが、その対応は大きく司法型と行政型に分かれる。但し、それらの例はインターネットプロバイダーへの無過失アプローチが取られており[75]、今回の政府の対応は、プロバイダーに責任を負わせている点で、対応を擁護しづらくしている。
今回の政府によるブロッキング要請に至るまでの経緯としては、知的財産戦略本部の検証・評価・企画委員会の第3回会合(2014年11月26日)での、知的財産戦略本部の事務局・田口参事官から「権利者がISPに対してサイトブロッキング等を裁判所に請求できる仕組み等が効果的」という発言が最初に確認される[76]。但し、この段階ではヨーロッパの例同様「裁判所に請求出来る」という穏やかなものであった。
政府委員である川上量生氏は、2014年から2015年のある時期において、「ブロッキングの必要性を主張していた」としている[77]。
2016年2月8日に行なわれた、知的財産戦略本部の第5回次世代知財システム検討委員会の中でも、サイトブロッキングについての資料が提出されているが、そこでは「サイトブロッキングの要請」と同時に「サイトブロッキングによる重大な権利侵害」についても併記されており、他国の例として裁判例を引用し、司法による判断が必要とされているなど、今回の「政府による判断が優先する」かのような議論はなされた形跡は議事録においてもなかった[78][79]。
2017年4月26日、知的財産戦略本部の検証・評価・企画委員会のうち、コンテンツ分野・産業財産権分野の合同会合で、川上量生委員が「サイトブロッキングは重要であり、ドイツの例でもサイトブロッキングの正当性が認められた」という発言がある[80]。但し、ドイツの例は2016年に行なわれた前述の次世代知財システム検討委員会で示された資料の中で、「ブロッキングの正当性が阻却された事例」として紹介されており、審議会の中で認識が一致していない可能性が高い。
同年10月には、川上氏により「NTTへの訴訟を通じて、ブロッキング以外に有効な代替策が無いと判決文で示してもらう」ことを企図した動きがあったとされるが、川上氏によれば「政府の知的財産戦略本部でブロッキングの議論が急展開し、訴える必要が無くなった」[81]。この「NTTへの訴訟」については、NTT社長の鵜浦博夫氏も認めている[82]。
ここまでの議論がどう反映されたかは、議事録が非公開なので検証不可能であるが、2018年2月16日には、前述の通り「法制化によらない迅速なサイトブロッキング導入の必要性」が出された。これを受けて、政府は「自主的なブロッキングをプロバイダーに求める」結果となっている。審議会を非公開にした理由として、事務局からは「ポジショントークを防ぐため」という理由を挙げている[83]。
川上氏によれば、この会合を機に、知財本部などで「緊急避難によるブロッキングが児童ポルノ画像には適用でき、著作権には適用できない、という議論自体がおかしいのでは」との意見が相次ぎ出たという[84]。
最終的に政府は、2018年4月3日の自民党政務調査会 知財戦略調査会などでの議論、総務省によるISPへのヒアリングを経て、4月13日に知的財産戦略本部・犯罪対策閣僚会議を開催し[85]、前述の「ブロッキング要請」となった。
この2018年の審議は、非公開でなされたこと、委員の声の中には「漫画村への対策がとれない状況で世の中に情報をだしても、さらに漫画村が有名になって被害が増えるだけなので、出版業界はこれまで情報を出してい」なかったなど[86]、一般市民の議論の参加を拒むものがあったなど、通信の秘密の侵害という大きい法益侵害が少数・非公開でなされたことが問題となっている。インターネット事業者の団体・JAIPAも今回の事態は「寝耳に水」と驚いている[87]。この一連の動きを取りまとめたのは、自民党の知的財産戦略調査会の会長を務める甘利明衆院議員と、内閣総理大臣補佐官の和泉洋人氏であったと言われる[88]。
なお、公式には2018年4月13日の政府決定でもって「ブロッキングの要請」がなされていることとなっているが、報道では「書面による正式な要請」はなく、「知的財産戦略本部・犯罪対策閣僚会議が方針を決める前の4月9日の週に鈴木茂樹総務審議官が(NTT、KDDI、ソフトバンクの)通信大手3社の経営幹部を訪れ、直々に要請」「サイトブロッキングを実施しても行政指導することはなく、通信の秘密の侵害で訴えられても政府が責任を負う旨」の説明がなされていたという。
4月13日より前の時点では、ブロッキング実施による訴訟リスクについては「(ブロッキング実施について)総務相の署名で要請を出しても構わない」と審議官は述べていたが、4月13日のリリースではそれがなく、通信事業者らは「後ろ盾がなく、言わば、はしごを外された状態。経営幹部だけでなく、法務担当や渉外担当、技術担当などを交えて大議論となった」という[89]。
前述した川上氏が提示した「権利者がISP(インターネット接続業者)を訴える形での提訴」の可能性については、「(著作権法112条の差止請求を使うと想定すると)ISPが著作権侵害コンテンツにアクセスさせる行為は、著作権侵害に該当せず、差し止め請求の対象にはならないと考えられる」という指摘がある[90]。
また、著作権侵害を訴えること自体の正当性を減じるものではないが、2015年1月に施行された改正著作権法で“電子出版権”が設定できるようになったにも関わらず、いまだに『出版社は権利者ではない』『権利者ではないためあくまで要請』といった記述が残っており、出版メディアとして権利侵害の正当性を訴えることへの内容としての適切さは問われる[91]。
作家の山本一郎は、「今回の騒動の中で出版社が、被害届提出など通常の刑事手法を取っていない可能性」を指摘している。もし正しければ、政府審議会で「現場対策が手詰まり」という今回のブロッキング要請の根拠が崩れる[92][93]。この中で非難された集英社は「誤情報」であると事実を否定している[94]。また同じく大手出版社である講談社は「数え切れないほどのテイクダウン要請・削除要請を行ってきた」と否定、[95]、出版広報センターも「ここ数年、削除要請は多い出版社では、DMCAルールで月に4万件ほど。また、Googleに対する削除要請も一社あたり月6万件くらい」と否定している[96]。
刑事告訴やその後の捜査については、出版社や警察側が告訴の時期までも詳らかにしていないため、事態把握をし辛い状態となっているが、一部報道で出ている「福岡県警察が捜査している」ということの妥当性、「出版社は真には権利者ではない故に、出版社の説明が正しければ非弁行為ではないか」という疑念の声がある[97]。
2018年4月23日、政府からのブロッキング要請を受けて、NTTコミュニケーションズ株式会社、株式会社NTTドコモ、株式会社NTTぷららの3社は、「サイトブロッキングに関する法制度が整備されるまでの短期的な緊急措置」として、漫画村など3つの海賊版サイトへとブロッキングを行うと発表した。同業他社である、KDDIとソフトバンクはこの時点では検討中としており、ブロッキングには踏み込んでいない。またNTTは日本インターネットプロバイダー協会会員であるが、協会とは意見が異なっている[98] [99][100][101][102][103]。NTTは「政府や総務省から見解が示されれば、それに従う」として、法的解釈については積極的に見解を示していない[104][105]。NTT・鵜浦社長はブロッキング実施を公表した理由について「ネット社会の自由やオープン性を守り、ネットの無法地帯を放置しない、との強い思いがあった」「サイトを閉じたから(海賊版サイトの)不法行為が清算できたわけではない。今後、同じ行為が繰り返されるのを防止するため」「私も政府の検閲は大嫌いだが、(著作権侵害の)被害を防ぎ、創作のインセンティブを保つため、何らかの形での取り組みを宣言する必要はあった」「政府がブロッキングを『命令』する形はおかしい。ただ、政府が3つのサイトを認定し、かつ民間の自主的な取り組みを促したことで、(民間企業として自主的にブロッキングを実施する)最低限の要件が整ったと受け止めた」としている[106]。
この件に対して、ニコニコ動画などインターネットサービスを手がける株式会社ドワンゴの取締役CTO(最高技術責任者)・川上量生は[107]、自らのブロマガで「極的な姿勢を示した政府の決定を支持」を表明した[108]。
また、事業者の「自主的な取り組み」となった今回のブロッキングであるが、政府側のカウンターパートである内閣府・知的財産戦略推進事務局の事務局長は、NTTのブロッキング表明に対して「事務局は関知していない」「ブロッキングをやってくれという人が多数派になるとは、知財本部の誰一人として考えていない。」と答えている 。但し、「法制度化には無理もある」とも答えており[109]、“法整備までの緊急措置”という正当性については疑義が生じるコメントを残している。
NTTグループのブロッキング表明に対して、以前から憲法違反の恐れやブロッキングの合理性について疑問を呈していた、日本インターネットプロバイダー協会(JAIPA)、全国地域婦人団体連絡協議会と主婦連合会は、従来からの考えに則ってNTTのブロッキング表明に対して反対している[110][111]。また東京の弁護士は、2018年4月26日に海賊版サイトへのブロッキングを巡り、「電気通信事業法に違反して、『通信の秘密』を侵害するもの」だとして、全国初の提訴を行なった[112][113][114][115]。
niconicoのアンケートでは、ブロッキング自体に「賛成」52.7%、「反対」19.0%。今回の「ブロッキングしつつ、法整備」という政府の対応について「賛成」42.8%、「反対」18.2%。インターネットプロバイダーは政府に「協力すべき」55.0%、「する必要はない」15.3%である[116]。
インターネットユーザーの過半数がブロッキングに賛成している現状については、「多くのユーザーがブロッキングを自分の権利への侵害だと思っていない」という指摘がある[117]。
立法よりまずブロッキングを
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立法など慎重な措置を
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ブロッキングは、現状でも児童ポルノコンテンツに対して行なわれているが、一般社団法人インターネットコンテンツセーフティ協会 (ICSA)によれば、これには「年間二千数百万円のコストがかかっている」という。これは、サイトをブロッキングするにしてもリスト化をして、適切なブロッキングを行なわないとオーバーブロッキングやブロッキング漏れなどが起きるからだという[140]。
カーネギー・メロン大学の調査によると、著作権侵害サイトをブロックすることにより、侵害サイトへのアクセス率が90%減少。ブロックされていない海賊版サイトについても、そのアクセス率に増加は見られず、ブロックによる影響を受けた全ユーザによる海賊行為は合計で22%減少し、合法的なストリーミング・サイトへのアクセス率は10%増加したという。[141]
海賊版サイトへの対策手法と考えられるのは、①侵害者の摘発、②侵害サイトを削除する、③侵害者が経済的な利益を得られなくする、④侵害サイトへの到達を難しくするの4つが主にある。このうちサイトブロッキングは④である。①は侵害サイト運営者が不明な場合であっても、訴追が可能な形に司法手続きを変える、②はWebサイトのデータセンターに対する削除申請以外に、ドメインの差し押さえ、「Cloudflare」のようなコンテンツデリバリネットワーク(CDN:content delivery network)の利用停止申請、③は、侵害サイトに掲載している広告主、代理店、アドネットワークに対する働きかけ、売買を行っているのであれば、クレジットカード会社に対し決済停止を依頼する、④はサイトブロッキング以外に、検索エンジン(主にGoogle)に対するDMCA侵害申告、利用者端末でのフィルタリングが考えられる[142]。
そもそも日本政府によるブロッキング議論の始まりは、「漫画村は国境を越えた犯罪行為故に通常の刑事手法では立件しづらい」というのが根拠であった[143]。しかし漫画村の配信サービスが日本国内の設備を通して行なわれている事が捜査の結果で確認された。なのでブロッキングの根拠自体が揺らいでおり、通常の刑事手法により閉鎖出来る可能性が高まっている[144]。また前述した通り、日本の警察が捜査に動いているという報道情報もある。
漫画村の主な収益源としてネット広告が挙がっており、ネット広告を段階によっては規制することで、収益源を断ち、漫画村のようなリーチサイトを規制できるという議論もある[145]。出版社もこの「広告料が犯罪収益に繋がる」という現状を受けて、広告業界との協力関係を模索している[146]。なお広告代理店自体の意識は必ずしも高いとは言えない[147]。広告代理店の責任については、今回の漫画村への広告出稿問題について直接問える法律は現在までのところ判明していないが、「違法性のある収益をあげる組織に繋がる恐れのある広告を出稿する事の違憲性・違法性」を問うた裁判例は存在する[148]。
著作権法113条には「みなし侵害」が設けられており、同条1項1号では「外国で作成された海賊版を販売目的で「輸入」すること。」、2号では「海賊版を海賊版と知っていながら、販売すること。また、販売目的で、コピーされたものを所持すること。」が禁止されてる[149]。この「みなし侵害」を用いて、「権利を侵害する目的で(インターネットリンクを)貼ったものは、アウトにできる」という主張がある[150]。
なお「頒布」については、近年の判例で刑法175条のいう「頒布」について、「不特定の者である顧客によるダウンロード操作を契機とするものであっても,その操作に応じて自動的にデータを送信する機能を備えた配信サイトを利用して送信する方法によってわいせつな動画等のデータファイルを当該顧客のパーソナルコンピュータ等の記録媒体上に記録,保存させることは,刑法175条1項後段にいうわいせつな電磁的記録の「頒布」に当たる」というものがある[151]。
出版社側からは、サイトブロッキングの法制化の他に、前述した広告規制、海賊版サイトからのコンテンツのダウンロード違法化、リーチサイト規制を立法化することが考えとして挙がっている[152][153]。
ブロッキングについては、「対象は、日本の法執行力が及ばず、削除依頼や発信者情報の開示請求を無視し続けている海外のホスティング事業者に限」った上で、「DNSブロッキングだけでなく、IPブロッキングまで検討するべき」という意見がある[154]。
「漫画村」問題は、現代社会でのインターネット普及率やそれと同時進行しているグローバル化と無関係ではないが、この「社会のネット化・グローバル化」に対して、「損害賠償命令があっても海外にいてずっと払わずにいる」例など司法制度が追いついていない事が被害を拡大させているという指摘がある[155]。
「自らはキュレーションサイト」であると主張する漫画村のようなサイトの責任を直接問うことについては、同じようにDeNAがキュレーションサイトの運営についての責任が問われた事件について、専門家からプロバイダ責任制限法の不備が指摘されている[156]。
前述した通り、ブロッキング問題では、憲法に保障された「通信の秘密」が重要な法益として争われている。同様のことは電気通信事業法にも規定されている。
しかしながら、電気通信事業法の対象であるインターネットサービスプロバイダが業務の中で触れる恐れのある「通信の秘密の侵害」には、帯域制限・「通信の最適化」と呼ばれるものがある。これについては、「全般的な帯域制御を緊急避難的に 実施することは社会的に許容される」[157]、 「犯罪構成要件ではあるが、正当業務行為に該当するので違法性が阻却される」という枠組みを日本は採っている[158]。
この事は、通信政策を扱う総務省や通信と法律学を扱う専門家などには了解されていることだが、「この問題に長年向き合ってきた専門家は理解できても、閣僚や国会議員、非IT専門家は納得しにくい」のではという指摘がある[159]。
倫理的には勿論海賊版だと疑われるものを利用することは望ましくないが、「今の著作権法でも、漫画村でタダで読んでいる子供を逮捕するというのは、可能」という意見に対しては[160]、「著作権法上、ダウンロードは『複製』」「原則として、自分で楽しむために、マンガをダウンロードすることは、『私的複製』として認められている範囲内(著作権法30条1項柱書)」だと弁護士は解しており[161]、漫画村を閲覧したことによってのみでは立件できる可能性はないとされる。
但し、出版社など権利団体から求められている「ダウンロード違法化」が著作権法に盛り込まれれば、漫画村のようなサイトを利用した場合は、何らかの罪に問われる可能性は出てくる。
掲示板
1228 ななしのよっしん
2025/01/24(金) 19:02:13 ID: ygkOs6tkW6
>>1225
ちょっと調べたけど 10年経過したら支払いは無効になる、強制労働も可能だけど1日5000円で最長2年間しか働かせられないらしい
ちょろっとググって見つけた記事の引用だから正確には分からないけど このままだと本当に一切払わずにやり過ごすかもしれない
払えない上に、払う気一切無く、償う姿勢ゼロのこいつは追加で30年ぐらい刑務所に入るべきだろ ネットでここまで堂々と反省してない態度取ってお咎め無しじゃ刑罰が機能してない
1229 ななしのよっしん
2025/01/24(金) 19:08:08 ID: qpNOAi9tXP
>>1228
時効の10年については債務を承認するなり、一部でも支払えば永久に更新され続けるので正確ではない。
すくなくとも払わないとずっとSNS上でいってるなら永久に時効にはかからないよ。債務の承認だからねそれ。
あと、苛立ちはもっともだけど反省してないからって理由で刑務所に打ち込めるようになればそれはそれで別の問題がおきるので……
1230 ななしのよっしん
2025/01/25(土) 09:55:02 ID: 3MpmkY9uZf
金だけ海外に逃がしても身柄が自由にならなけりゃ意味がないからな
少なくとも日本で暮らすにあたって賠償と前科を抱えるのは有形無形の不自由が生じる
払えるなら払って素寒貧になった方がマシなくらいにはね
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最終更新:2025/03/21(金) 15:00
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