日本国憲法は、大日本帝国のポツダム宣言受諾による第二次世界大戦降伏後、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の被占領下にあった第90回帝国議会で可決され、1946年(昭和21年)11月3日に公布、1947年(昭和22年)5月3日に施行された。
以後、65年以上に亘って一度も改正されず、日本の法体系の頂点として機能している。
なお、1890年(明治23年)11月29日から日本国憲法施行前までの57年間は、大日本帝国憲法が日本の憲法であった。それ以前の日本に近代憲法は存在しなかった。
余談ではあるが、日本国憲法は1992年(平成4年)2月、東京理科大学の奥乃博教授(現:京都大学教授)が日本で初めてHTMLを記述する際に用いられた。そのページがこちら。
概要
日本国憲法は、日本国における全ての法の頂点、基本に当たる法律で、これを元にあらゆる法律、条例が作られることが原則とされる。
憲法は国家の概要、国民に与えられる権利の定義がメインとなっていて、国家が国民に対して権力をみだりに使えないように制限をかけることが大原則となっている。
一方で国民が秩序を乱す行為に制限をかける法としては刑法が基本となり、国民同士での関係、行為を定義する法は民法が基本となる。いずれも憲法をもとに定義されている。
日本国憲法の成立過程
1945年(昭和20年)、ポツダム宣言受諾による日本の第二次世界大戦(大東亜戦争、太平洋戦争)降伏後、日本を占領統治することになったマッカーサー率いるGHQは、ポツダム宣言の履行のためには「憲法の自由主義化」が必要であると日本政府に通告、大日本帝国憲法の改正を要求した。
それまで日本において運用されていた大日本帝国憲法に対するアメリカの見解は、「プロシア(プロイセン)の専制主義を父に、イギリスの議会政治を母に持つ、両性具有の生き物」というものであった。
改正の要求はしたものの、当初、GHQは憲法改正にあたって政府に過度の干渉をする予定はなかったとされる。
しかしながら1946年(昭和21年)2月1日に毎日新聞が「松本委員会案」として、憲法改正のため政府が発足させた松本委員会に所属する宮澤委員が提出した「宮澤甲案」の内容のスクープ記事を載せると、ホイットニー民政局長はこれを松本委員会の案であると判断、その内容が極めて保守的であり、2月後半に会議が開始され、GHQをその管理下に置く予定となっていた極東委員会において、ソ連・オーストラリアなどが要求する天皇廃位論を勢いづけるものになると懸念した。
GHQでは時間が限られる中、国際世論的に受け入れがたい松本委員会の案が正式に提出された後、それに対して作り直しを強要するよりは、提出前に具体的な改正指針を政府に伝えるほうが戦略的によいと判断し、民政局内に密かに憲法改正草案を作る運営委員会を発足させた。
そのメンバー25名の中には、弁護士経験があるものこそいたものの、憲法学を専攻したものはおらず、草案作成にあたっては日本の民間草案、更には諸外国の憲法が参考とされた。特に、1945年(昭和20年)12月末に憲法研究会が発表した「憲法草案要綱」は、象徴天皇制と国民主権、直接民主制的な諸制度を盛り込んでいるものとして、この委員会が注目したとされている。
1946年(昭和21年)2月8日に政府の憲法改正要綱(松本案)がGHQに提出されるが、それに対してGHQは2月13日、上述の委員会が作成したマッカーサー草案を政府に提示。2月18日、政府は松本案の説明補充を提出してGHQに再考を求めるが、ホイットニー局長はこれを拒絶、48時間以内にマッカーサー草案を受け入れるか否かの解答を要求した。
21日、幣原首相はマッカーサーと会見し、翌22日の閣議でマッカーサー草案の受け入れを決定、26日にはマッカーサー草案に基づいての日本政府案起草を閣議決定した。
マッカーサー草案に基づく日本政府案作成の過程においても、その草案の内容に相違点があるとして一悶着が生じたが、3月5日にGHQとの折衝を終えて確定案が完成、6日に「憲法改正草案要綱」(3月6日案)として一般に発表した。
4月10日、第22回衆議院総選挙が実施された。これは、終戦後初となるものであり、なおかつ男女普通選挙による最初で最後となる帝国憲法のもとでの選挙であった。
6月8日、枢密院本会議に草案が提出され、可決。なお「全会一致での可決」とされることもあるが、出席者のうち美濃部達吉が反対の意見を、そして三笠宮崇仁親王が賛成・反対双方混在した意見を述べた上で、この2名が採決から棄権している。
この可決を経て、大日本帝国憲法第73条の改正手続きに従い、草案は帝国議会に提出された。
衆議院・貴族院での若干の修正を経て10月7日までに可決し、憲法改正草案は通過した。この時、衆議院内に設けられた帝国憲法改正小委員会では第9条を初めとして、委員長の芦田均の名をとった「芦田修正」と呼ばれる文面の修正が行われている。
帝国議会通過後、再度の枢密院本会議での可決を経て、草案は11月3日に日本国憲法として公布され、翌1947年(昭和22年)5月3日に施行された。
日本国憲法成立の法理
成立過程の項で述べられている通り、日本国憲法がGHQの占領下において、GHQの主導で成立したこと・・・・・・と言うよりは(もちろんこれもあるが)改正前と改正後の憲法に根本的違いがあることから(主権の移動など)、その大日本帝国憲法との連続性等が日本の憲法学では論議となっている。
いわゆる八月革命説はこれを説明するために生まれた論理であり、また日本国憲法無効論はこれを問題点の一つとして唱えられたものである。
この点について、これが無効であるかそうでないかは最早問題ではないと言うのが、学問上の通説である。戦後60年を超えて今なお改正されることなく日本の法体系の頂点に君臨し、持続的に実効的に妥当している以上、憲法の正当性はもはや否定されるべくもない、ということである。
実際、この点をいかに構成するにしても、それ自体は憲法解釈の内容を確定するものではない。
日本国憲法の基本原理
日本国憲法3原理
ここでいう「基本原理」とは、日本国憲法が掲げる自身の根本原則のことである。この原則を変えることは基本的に許されないものとされる。日本国憲法は、その原理として「国民主権」「永久平和主義」「基本的人権の尊重」(前文)を掲げる。これらを総じて「民主主義」とすることもできるとされる。
しかし、論者によって日本国憲法はなにを基本原理としているかについては多少のずれがある。たとえば、
日本国憲法7原則
とされることもある。しかし、7.の原則的分け方に関しては、日本国憲法の「根本」原理、すなわち改正不能の条項であるかどうかという観点からみた場合、非常に疑わしい。また、原則とそこから導かれる要請との区別が出来ていないという指摘もできる。現状、無用に原則を増やす必要はないだろう。したがって、3原則を基本として各々の条文で個別具体的に判断することが望ましいと言えよう。
日本国憲法の上諭・前文
上諭
朕は、日本國民の總意に基いて、新日本建設の礎が、定まるに至つたことを、深くよろこび、樞密顧問の諮詢及び帝國憲法第七十三條による帝國議會の議決を經た帝國憲法の改正を裁可し、ここにこれを公布せしめる。
(以下、各国務大臣名が入る)
前文
日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないようにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであって、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基づくものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。
日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであって、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思う。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
われらは、いずれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであって、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従うことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。
日本国憲法につけられた「上諭」は、大日本帝国憲法のそれとは異なり、あくまで公布文であって、憲法の一部を構成するものではないとみなされている。一方、「前文」は日本国憲法の一部をなすとみなされており、第1条と共に「国民主権」の根拠規定と考えられている。
また上諭が「朕は(中略)帝國憲法の改正を裁可し、ここにこれを公布せしめる」と、欽定憲法の形をとっているのに対し、前文は「日本国民は(中略)ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する」と民定憲法の形をとっており、ここに齟齬があるように見えることから、憲法の制定主体については、議論の対象となったことがある。
日本国憲法の条文
ニコニコ大百科に記事がある条文は太字で記載。
各条の説明は『現行法規総覧』(衆議院法制局・参議院法制局編集)に概ね従う。
第1章 天皇 |
日本国憲法第1条 | 天皇の地位 主権在民(国民主権) |
---|---|---|
日本国憲法第2条 | 皇位の世襲 | |
日本国憲法第3条 | 内閣の助言と承認及び責任 | |
日本国憲法第4条 | 天皇の権能と権能行使の委任 | |
日本国憲法第5条 | 摂政 | |
日本国憲法第6条 | 天皇の任命行為 | |
日本国憲法第7条 | 天皇の国事行為 | |
日本国憲法第8条 | 財産授受の制限 | |
第2章 戦争の放棄 |
日本国憲法第9条 | 戦争の放棄 戦力及び交戦権の否認 |
第3章 国民の権利及び義務 |
日本国憲法第10条 | 国民たる要件 |
日本国憲法第11条 | 基本的人権 | |
日本国憲法第12条 | 自由及び権利の保持義務と公共福祉性 | |
日本国憲法第13条 | 個人の尊重と公共の福祉 幸福追求権 |
|
日本国憲法第14条 | 平等原則 貴族制度の否認及び栄典の限界 |
|
日本国憲法第15条 | 公務員の選定罷免権 公務員の本質 普通選挙の保障及び投票秘密の保障 |
|
日本国憲法第16条 | 請願権 | |
日本国憲法第17条 | 公務員の不法行為による損害の賠償 | |
日本国憲法第18条 | 奴隷的拘束及び苦役の禁止 | |
日本国憲法第19条 | 思想及び良心の自由 | |
日本国憲法第20条 | 信教の自由 政教分離原則 |
|
日本国憲法第21条 | 集会・結社及び表現の自由 通信秘密の保護 |
|
日本国憲法第22条 | 居住・移転・職業選択・外国移住及び国籍離脱の自由 | |
日本国憲法第23条 | 学問の自由 | |
日本国憲法第24条 | 家族関係における個人の尊厳 両性の本質的平等 |
|
日本国憲法第25条 | 生存権 国民生活の社会的進歩向上に努める国の義務 |
|
日本国憲法第26条 | 教育を受ける権利と受けさせる義務 | |
日本国憲法第27条 | 勤労の権利と義務 勤労条件の基準及び児童酷使の禁止 |
|
日本国憲法第28条 | 勤労者の団結権及び団体行動権 | |
日本国憲法第29条 | 財産権 | |
日本国憲法第30条 | 納税の義務 | |
日本国憲法第31条 | 生命及び自由の保障と科刑の制約 | |
日本国憲法第32条 | 裁判を受ける権利 | |
日本国憲法第33条 | 逮捕の制約 | |
日本国憲法第34条 | 抑留及び拘禁の制約 | |
日本国憲法第35条 | 侵入・捜索及び押収の制約 | |
日本国憲法第36条 | 拷問及び残虐な刑罰の禁止 | |
日本国憲法第37条 | 刑事被告人の権利 | |
日本国憲法第38条 | 自白強要の禁止と自白の証拠能力の限界 | |
日本国憲法第39条 | 遡及処罰・二重処罰等の禁止 | |
日本国憲法第40条 | 刑事補償 | |
第4章 国会 |
日本国憲法第41条 | 国会の地位 |
日本国憲法第42条 | 二院制 | |
日本国憲法第43条 | 両議院の組織 | |
日本国憲法第44条 | 議員及び選挙人の資格 | |
日本国憲法第45条 | 衆議院議員の任期 | |
日本国憲法第46条 | 参議院議員の任期 | |
日本国憲法第47条 | 議員の選挙 | |
日本国憲法第48条 | 両議院議員相互兼職の禁止 | |
日本国憲法第49条 | 議員の歳費 | |
日本国憲法第50条 | 議員の不逮捕特権 | |
日本国憲法第51条 | 議員の発言表決の無答責 | |
日本国憲法第52条 | 常会 | |
日本国憲法第53条 | 臨時会 | |
日本国憲法第54条 | 総選挙 特別会及び緊急集会 |
|
日本国憲法第55条 | 資格争訟 | |
日本国憲法第56条 | 議事の定足数と過半数議決 | |
日本国憲法第57条 | 会議の公開と会議録 | |
日本国憲法第58条 | 役員の選任及び議院の自律権 | |
日本国憲法第59条 | 法律の成立 | |
日本国憲法第60条 | 衆議院の予算先議権及び予算の議決 | |
日本国憲法第61条 | 条約締結の承認 | |
日本国憲法第62条 | 議院の国政調査権 | |
日本国憲法第63条 | 国務大臣の出席 | |
日本国憲法第64条 | 弾劾裁判所 | |
第5章 内閣 |
日本国憲法第65条 | 行政権の帰属 |
日本国憲法第66条 | 内閣の組織と責任 | |
日本国憲法第67条 | 内閣総理大臣の指名 | |
日本国憲法第68条 | 国務大臣の任免 | |
日本国憲法第69条 | 不信任決議と衆議院解散又は総辞職 | |
日本国憲法第70条 | 内閣総理大臣の欠缺又は総選挙施行による総辞職 | |
日本国憲法第71条 | 総辞職後の職務続行 | |
日本国憲法第72条 | 内閣総理大臣の職務権限 | |
日本国憲法第73条 | 内閣の職務権限 | |
日本国憲法第74条 | 法律及び政令への署名と連署 | |
日本国憲法第75条 | 国務大臣訴追の制約 | |
第6章 司法 |
日本国憲法第76条 | 司法権の機関と裁判官の職務上の独立 |
日本国憲法第77条 | 最高裁判所の規則制定権 | |
日本国憲法第78条 | 裁判官の身分の保障 | |
日本国憲法第79条 | 最高裁判所の構成及び裁判官任命の国民審査 | |
日本国憲法第80条 | 下級裁判所の裁判官 | |
日本国憲法第81条 | 最高裁判所の法令審査権 | |
日本国憲法第82条 | 対審及び判決の公開 | |
第7章 財政 |
日本国憲法第83条 | 財政処理の要件 |
日本国憲法第84条 | 課税の要件 | |
日本国憲法第85条 | 国費支出及び債務負担の要件 | |
日本国憲法第86条 | 予算の作成 | |
日本国憲法第87条 | 予備費 | |
日本国憲法第88条 | 皇室財産及び皇室費用 | |
日本国憲法第89条 | 公の財産の用途制限 | |
日本国憲法第90条 | 会計検査 | |
日本国憲法第91条 | 財政状況の報告 | |
第8章 地方自治 |
日本国憲法第92条 | 地方自治の本旨の確保 |
日本国憲法第93条 | 地方公共団体の機関 | |
日本国憲法第94条 | 地方公共団体の権能 | |
日本国憲法第95条 | 一の地方公共団体のみに適用される特別法 | |
第9章 改正 |
日本国憲法第96条 | 憲法改正の発議 国民投票及び公布 |
第10章 最高法規 |
日本国憲法第97条 | 基本的人権の由来特質 |
日本国憲法第98条 | 憲法の最高性と条約及び国際法規の遵守 | |
日本国憲法第99条 | 憲法尊重擁護の義務 | |
第11章 補則 |
日本国憲法第100条 | 施行期日と施行前の準備行為 |
日本国憲法第101条 | 参議院成立前の国会 | |
日本国憲法第102条 | 参議院議員の任期の経過的特例 | |
日本国憲法第103条 | 公務員の地位に関する経過規定 |
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全文は日本国憲法(全文)を参照のこと。
- 第十二条
- この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。[1]
- 第十三条
- すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
- 第十九条
- 思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。
- 第二十条
- 信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。
- 2.何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
- 3.国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。
- 第二十一条
- 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
- 2.検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
- 第二十九条
- 財産権は、これを侵してはならない。
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関連項目
脚注
親記事
子記事
- 日本国憲法第9条
- 日本国憲法第25条
- 日本国憲法第29条
- 日本国憲法第23条
- 日本国憲法第22条
- 日本国憲法第18条
- 日本国憲法第26条
- 日本国憲法第30条
- 日本国憲法第27条
- 日本国憲法第28条
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