『TS衛生兵さんの戦場日記』とは、まさきたまによるライトノベル作品である。
概要
Web版はハーメルンと小説家になろうにおいて『TS衛生兵さんの成り上がり』というタイトルで連載中。ファンアートがハーメルン版には掲載されている。
作者のまさきたま(旧名:サンキューカッス)が過去の作品はTS作品も多く、TS的なお約束を踏襲しておりシリアスながらコメディに傾向に振っている作品も多かったが、当該小説ではお約束やコメディ要素は抑制的となっている。
2023年7月にファミ通文庫(エンターブレイン/KADOKAWA)より商業書籍化された。文庫といっても新書サイズの四六判である。書籍版に際してタイトルを『TS衛生兵さんの戦場日記』に改題の上加筆されている。書籍版のイラストはクレタが担当。
公式サイト開設時に、同じKADOKAWAから刊行している幼女戦記の作者のカルロ・ゼンからの推薦文が掲載され、一部文が帯にも使用されている。
書籍版は2024年1月現在、既刊2巻。2023年11月発表のライトノベル賞レースのこのライトノベルがすごい!2024の単行本ノベルス部門で24位にランクインした。
2024年2月25日に発表されたキミラノ主催の各社横断型かつ新作向けのライトノベル賞レースである、次にくるライトノベル大賞2023においては単行本部門で大賞かつ、1位を獲得した。10代〜40代と男性に幅広く支持されているようである。大賞記念に発表会において孤児院を離れる際のエピソードを描いたオリジナル朗読劇が制作された。(トウリ役:長谷川育美、アイザック役:井上麻里奈、男役:石谷春貴)
書籍化と同時にコミカライズも発表され、Webコミックレーベル『電撃コミックレグルス』(KADOKAWA)のレーベルにおいてニコニコ漫画やComicWalkerにおいて2023年8月25日から連載開始した。作者は耳式。2024年3月現在既刊1巻。
あらすじ
FPS廃人で世界大会にも出演経験もあったが亡くなってしまい、魔法があるファンタジーの世界の女の子トウリに転生した。
両親は戦争で亡くなり孤児院で育てられる。徴兵年齢の15歳になった際、回復魔法の適性があることがわかり、志願することでお世話になった孤児院へ資金援助があるということでオースティン軍に志願する。
オースティン軍は隣国サバト連邦との戦争を十年間続けており、トウリは適性の通り衛生兵に配属されるが、通常前線には出陣しないにも関わらず回復魔法の訓練も無しに、最前線の塹壕の、泥や血、銃や弾丸に塗れるガーバック小隊に配属されてしまう。
隊長のガーバックはエースと呼ばれ戦果も著しい英傑な一方、軍規に厳しい上に報告を怠る一方折檻も辞さない、部下の犠牲を問わず突撃する等苛烈な一面を持っておりトウリもその洗礼を受ける。
20年後の1938年、戦争が終わって暫くした後、オースティン帝国の国境沿いの戦場跡地で休暇を利用して戦死者の遺骨や遺品探しのボランティアをしていた男は戦場日記を発見する。まずは持ち帰り読み進めるが…。
登場人物
ガーバック小隊
- トウリ・ノエル
- 西部戦線の最前線部隊であるガーバック小隊に二等衛生兵として配属された新人衛生兵。15歳。両親は戦争の砲撃で死亡し、ノエルにある孤児院に引き取られた。治癒魔法を使える適性を見出され、孤児院へ援助金が出ることと自身が死亡した際の死亡弔慰金で孤児院に恩返しをするために軍に志願する。戦場てのストレスにより無表情になることが多くなっている。特技は腹話術で、合唱ができるほど。容姿は小柄。入隊後半年近くになる9月には一等衛生兵に昇進している。
- 前世は男性で世界大会にも出たことがあるプロFPSゲームプレイヤーだった。
- マシュデュール到着後は命令により、唯一の残存衛生兵であることから、医療本部の軍側の責任者となる。その後提案し前線に医療本部を設置し治療に当たるにがマシュデュールは陥落する。レンヴェルとともに最後までマシュデュールに残るが落伍してしまう。合流するためにゲリラ活動などFPS知識を活用しつつ生き残るが、ガーバック小隊に救出され首都ウィンへの撤退に成功する。
- ガーバック
- ガーバック小隊の隊長で階級は軍曹。エースと呼ばれるほどの英雄。銃弾を持っている軍刀で切れる。軍規にも厳しい上に自身が生き残る事が帝国にとって有益と判断しているためケガで落伍する兵は見捨てたり、ミスや未報告など軽微なミスに対しても重傷になるほど折檻を行う。トウリが『守』の魔法を使う事ができると知り、自分も『守』の魔法を使う事ができることからトウリにスパルタで実践的な『守』の魔法を教え込む。
- マシュデュール撤退後もマシュデュールの防衛の最前線で活躍しており、マシュデュールを撤退する際には殿を務める。サバト軍が進軍止めないため首都目前の砦に時間稼ぎの死兵として指揮を取る。
- サルサ
- トウリと同時期に補充配属された新人兵。大怪我を負い戦場で倒れたがトウリに治療され生き残る事ができた。トウリに対して恩義を感じている。
- アレン
- ガーバック小隊の偵察隊長を務めるベテラン偵察兵。元防衛隊員で、塹壕の中で常に待機する防衛隊員より、突撃部隊にする今のほうがよほど良いとトウリに話す。
- レンドル
- ガーバック小隊の偵察兵、4月8日攻勢で死亡する。
- マリュー
- 小隊内の分隊長を務めるベテラン歩兵。階級は上等歩兵。
- グレー
- ちゃらい先輩だが、後輩を見守る頼れる先輩としての一面を持つ。階級は一等歩兵。
- ロドリー・ロウ
- 補充兵として他部隊から異動してきた若年兵。転属してきた直後周囲と仲良くしない態度を取り殺人狂のような態度を取る。
- ヴェルディ
- 階級は伍長。士官学校卒のエリートで補充としてナリドメやロドリーと同時に配属される。兵科は偵察兵。階級はガーバックに次いで高いが分隊の指揮は先任であるマリューに委任している。実はレンヴェル少佐の甥でもあり、ゲールからの抗議を受けて付けられたお目付け役でもある。
- ナリドメ
- 階級は二等歩兵。ロドリーとともに配属された補充兵。小隊の軍規を乱す行動に出る。
- ゾイド
- 階級は二等歩兵。9月に補充された補充兵。トウリに対しても丁寧に応対する。
- ケルビン
- 階級は二等歩兵。ゾイドと同時に配属された補充兵。トウリにナメた対応を取る。
オースティン帝国関係者
- ゲール
- 西部戦線の野戦病院(中央医療本部)の女性衛生部長。階級は衛生少尉。トウリについて気にかける。弟がガーバック隊に所属してガーバックの突撃で死亡したことでガーバックに恨みを持っている。トウリにも懇切丁寧に衛生兵の技術や治癒魔法の他に守護魔法を教える。
- レンヴェル
- 西部戦線に配属されたオースティン帝国軍少佐の1人で西部戦線百キロのうちの、北部から中央部の戦線数十キロを受け持つガーバック軍曹の直属の上官。斧を振るう十年前の東西戦争開戦の前から活躍していた老兵。ガーバック曰く自分が指揮下にいた際のレンヴェルの若い頃に理不尽な暴力を振るわれていたため、反面教師にしたという。
- マシュデュールまで撤退した後は中央部の現地指揮官として講和するまでの遅滞戦の指揮を取る。マシュデュール撤退時には最後まで指揮を取ったが、トウリを放置して撤退するハメになる。
- 娘は魔導兵のアリア少尉、甥はヴェルディ伍長と軍人一家だが、身内優遇の姿勢がある。
- アリア
- レンヴェル少佐の娘で魔導中隊の中隊長の少尉。士官学校出身で次席のエリート。看護兵志望だったが、希少な魔導兵の適性を見出され魔導兵になった。トウリが到着するまで、マシュデュールの臨時医療本部の責任者を務めていたが トウリが到着後は補助に回る。普段は統率のため当たりをキツくしているというが、トウリに対しては柔く応対している。マシュデュール戦でボーイフレンドの部下を失う事になる。
- クマさん
- 本名はタクマだがクマさんの呼ばれているマシュデュールの医学の第一人者。医学博士の称号を持っている。マシュデュール戦の際は臨時医療本部で治療にあたった。
- ケイル
- マシュデュールで医療本部に参加した若手癒者。指導医から教えを受けた経験があるため医者であると見られる。トウリと看護師ともに前線医療本部に赴く。元はフットボールの選手であったという。
- アンリ大佐
- 南部戦線の指揮官。シルフ攻勢の後にベルンに謝罪し、策を求める。
- ベルン・ヴァロウ
- オースティン軍の南部戦線の参謀将校。シルフ攻勢の前にシルフ攻勢と同様の作戦計画を提出していたが却下され、事務作業を宛行われ冷遇されていた。シルフ攻勢の後にそれを覆す作戦計画の提出を求められ提出し、サバト軍を壊滅状態に追い込み、オースティン中央部を脅かしているサバト軍への補給路を攻撃し撤退に追い込んだ。
- ゴムージ
- トウリがマシュデュールで出会ったオースティン軍の落伍兵。実はあまりの暴力に耐えかねて、ガーバック小隊から落伍したという。マシュデュールの衛兵をしていた所、問答無用で徴兵されたらしく国家に対しても不満を持っている。自分や家族が生き残るためにはどのような手段も取る主義だが、命を救ってくれたトウリに感謝している。妻はクーシャといい美人であっけらかんとした性格で外国出身。セドルの父親である。
- アイザック・フェン
- オースティン帝国のノエルにあるノエル孤児院の院長。トウリに手帳を贈り、言葉を贈っている。当時孤児院の子供だった修道女の話では亡くなっているという。
- バーニー・ノエル
- トウリと同じ孤児院で育った幼馴染みの男子でトウリと同時期に軍に志願入隊した。しかし配属された初日の4月1日の攻勢で死亡してしまう。家族同然だったため対面が叶ったもののトウリは大いに嘆いた。
- ノエル孤児院の修道女
- 孤児院の責任者。セドルが世界大戦の後に戦場日記を元にノエル孤児院を訪ねた際に出会った女性。サバト軍に孤児院が襲撃された際の唯一の生き残り。ノエルのことをノエル姉と呼ぶことから後輩であったようでノエルが優しかったこと、生き残る知恵を教えてくれたことをセドルに打ち明ける。
- セドル・ウェーバー
- 書籍版の語り部。世界大戦の20年後、休暇でオースティン帝国の国境付近で戦場で遺品、遺骨探しの旅行に出て戦場跡で掘り返していたところ戦場日記を発見する。思わず読み耽るがホテルで居合わせオースティン人に諌められて役所に届け出る。日記を読むうちに倒れてしまい、休暇を延長してもらう。ノエル孤児院やマシュデュールの各所に足を運ぶ。日記を読み進めるうちに幼少期にいた自身の父親や母親の人となりを知ることになる。
サバト連邦関係者
- 雷槍鬼(カミキリ)
- サバト連邦軍のエースの1人。金髪が特徴。小槍と雷魔法を用いてオースティン軍陣地に攻め掛かるが、ガーバックに撃退される。
- アレックス・エーフェルト
- サバト連邦軍の前線司令官。4月攻勢までの司令官だったが政府の現場を理解しない攻勢命令に拒否し続け数ヶ月後に更迭される。戦略方針は戦力差を元に時間を掛けての徐々に圧迫していく方針だった。
- ブルスタフ・ノーヴァ
- アレックスの後任のサバト連邦軍の前線司令官。兵からの信頼も熱い将軍。任命の際、政府から オースティン帝国へ半年以内の勝利という無理難題を求められる。追い詰められたブルスタフは優秀だった娘の作戦の案を使えると判断し、手直しして採用する。その後軍の方針となりシルフ攻勢と呼ばれた攻勢を実行する。
- シルフ・ノーヴァ
- サバト連邦の若き女性参謀将校。士官学校を首席で卒業した、ブルスタフの娘。全戦線一斉浸透作戦を考案するが却下される。しかし追い詰められたブルスタフが娘の案を読み採用したためシルフも前線に派遣される。
- ニヴェル
- オースティン南軍と相対するサバト軍指揮官。シルフ攻勢を行わなかったエーヴェムに代わり任官した好戦的な指揮官。シルフ攻勢の成功を見て自軍も同様の戦法を取り、オースティン軍南軍を攻撃する。
用語集
- オースティン帝国
- 内陸国で貴族がおり君主が頂く国家。首都はウィン。政治体制は不明だが民主主義ではなく貴族が政府の主な役職を務めている。連邦とは十年戦争しており西部戦線と南部戦線ともに現在押し込まれている。将官は貴族が任命されているが、実務は平民出身である佐官に委任されているらしい。
- ノエル
- オースティン北西部にある村で、トウリの出身地。蒲公英(タンポポ)の葉が特産。近くの都市はマシュデール城塞都市。
- 東西戦争
- オースティン帝国とサバト連邦の10年以上続く戦争。西部戦線と南部戦線で戦域が別れている。また西部戦線内でも北部軍、中央軍、南部軍と戦闘序列が分かれている
- サバト連邦
- オースティンの西部にある敵国。寒冷な国であるらしい。人口が多くオースティン帝国へ侵略して有利になっているが長期に渡る戦いで国民が戦争と政府に対して不満を持っているという。
- エース
- 特異な戦果を持つ小隊指揮官や突撃兵のことを指す。エースほどになれば銃への対処の答えを持っているらしい。
- 魔導兵
- 魔法を用いて砲兵のように砲撃して活躍する兵種。衛生兵と同じく人口に対して発現する割合が小さいらしく貴重らしい。高価な魔石を大量に消費するので金食い虫でもあるが強力である。
- 衛生兵
- 人口の1万分の一桁あたりで発現する貴重な治癒魔法使いが軍隊に任官される際に配属される兵種。西部戦線全体で数十人しかいない貴重な人材で武装することは禁じられている。なお治癒魔法の回数は個人差もあるが平均的に1日5回程度しか使えない。そのため秘薬と呼ばれる回復薬(魔力ポーション)を使い必死で治癒に励んでいる。治癒魔法を発現する人物は心優しい人が多いらしい。軍に協力する巷の医師も治療魔法を使用出来る。
- 秘薬
- 魔力ポーション。成分は不明だが(トウリはあえて聞かなかった)服用し過ぎると身体に害があるらしい。トウリは前世で服用したらアウトな成分が含まれていると確信しているが結果、魔力が即効で回復する。副作用として中毒性がありハイテンションになり眠気が飛びいわゆるキマった状態になるらしい。使用は身体的影響を加味し、規則により1日1本に限定されているが、慢性的な人材不足の衛生兵が決まりを破り負傷兵が多く出た修羅場の際に兵を救うため秘薬を多用し服用している。
関連静画
書籍版・Web版対照
なお、書籍版では加筆改稿されておりびったり当てはまらない場合もある。
書籍版 巻数 |
Web版話数 | 書籍版 書き下ろしエピソード |
漫画版 | 備考 |
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1巻 | 第一章『西部戦線』1話〜21話 第二章『マシュデュール撤退戦』22話~23話 |
1938年夏1〜5 | 1話〜 | |
2巻 | 第ニ章『マシュデュール撤退戦』24話〜39話 第三章『冬季行軍』40話 |
1938年夏6〜10 | ||
3巻? | 第三章『冬季行軍』41話〜 | |||
第四章『北部決戦』 第五章『サバト革命』 第六章『ヨゼグラード攻略戦』 第七章『フラメール国境攻防戦』 間章 第八章『アルガリアの奇跡』 間章 |
||||
2023年12月21日現在、Web版は本編第八章の163話まで連載。他番外編3話がある。 |
書籍版店舗特典ショートストーリー
巻数 | 店舗別 | サブタイトル | 備考 |
---|---|---|---|
1巻 | メロンブックス | ロドリーの宴会大作戦 | |
ゲーマーズ | 現代パロディ、あるいはトウリ・ノエルの夢 | ||
2巻 | メロンブックス | 軍人少女と若手癒者 | 有償特典 |
トウリ先輩は着替えたい | |||
ゲーマーズ | 修道女から見たヒーロー | 有償特典 | |
偽乳衛生兵 | |||
BOOK☆WALKER | ガーバックのグルメ | ||
漫画1巻 | メロンブックス | サルサの戦場 | 店舗有償特典SS |
巻末特典SS | 母親想いの新兵 |
関連リンク
- Web版連載サイト(ハーメルン)
- Web版連載サイト(小説家になろう)
- 書籍版特設サイト(ファミ通文庫/KADOKAWA)
- 漫画版公式連載サイト(ニコニコ漫画/電撃コミックレグルス)
- 漫画版公式連載サイト(ComicWalke/電撃コミックレグルス)
関連項目
- 1
- 0pt