イギリスの料理は不味いと評判であるが、料理の名を冠した科学実験であるのだから仕方がない。
可能な限り人力を排除し、科学の力(爆発とか破裂とかexplosionとか)を活用し調理する。
ただし朝食とお菓子に関してはその限りではなく、「イギリスでおいしい料理を食べたいのなら、朝食を一日三回食べよ」(サマセット・モーム 1874-1965)と言ったりする感じらしい。
概要
「不味い」と他国の観光客等から悪い評判が付き纏うデンジャラスな料理である。曰く「オウムの餌(ただ茹でたり焼いたり揚げただけな為)」「ロマノフ朝の暗殺技術顔負けの毒物(調味料のかける量が尋常でない為)」「大英帝国の発展はイギリス料理のおかげ(不味過ぎて他国に探索を始めた)」等々。その評判をイギリス人自ら自虐ネタでジョークにする位お墨付き(ウィンストン・チャーチル等が実際に三つ目を発言している他、フランスのシラク前大統領がイギリス料理をけなした際に当時のイギリス外相が賛同して話題になった、など)。
何故ここまで悪評が定着してしまったかというと、色々と理由はある。
- 気候が寒冷で土地が痩せており、食材に乏しかった。特に緑黄色野菜は近代に移入されるまで皆無だった。
そのせいで、一般層には野菜なんぞ動物の餌などと考えて食べようとしない層もいるようだ。 - 良質な水資源に乏しかった。生水は大抵不味くて不衛生な上、近代以降は工業用水に回されて量自体も不足した。
- ノルマン・コンクエストで王・貴族がフランス系となったため、地元の料理が宮廷に取り入れられず洗練が遅れた。
- 二度の英仏百年戦争など大陸国家と度々敵対したため、他国の食材と食文化が入ってこなかった。
- 産業革命によって自給自足の農民が職場に長時間拘束される都市労働者に取って代わり、家庭料理・郷土料理の伝統と余裕が失われた。
- 植民地などの料理を独自に発展させたものも多い(例:カレー)が、「イギリス風○○料理」と線引きして区別してしまい、自国料理に取り込むことができなかった。
- その後も労働者層は禁欲主義的な清教徒思想(メシに凝る暇があるなら働け)、中流層は上流趣味(不味くても使用人を雇って作らせた方がカッコイイ)が支配的で、家庭料理を復興する動きがなかなか起きなかった。
といった感じである。
これらの要因により、イギリス料理は「質の悪い食材を適当に火を通して食えるようにし、調味料を掛けて味を誤魔化す」が主流となってしまった。
最近では伝統食の復興・改良や現代的料理の創作も盛んになってきてはいるものの、 伝統的に粗雑な料理に慣れてしまったのと、ジャンクフードやインスタントの氾濫もあって、一般国民の底上げは中々難しいようだ。
まあティータイムの国ということもあり菓子は比較的美味い(日本人には慣れない味のものも多数あるが)。
肉料理もそれなりに豊富で、味も安定している。
最後に付け加えれば、イギリス料理は北の貧しい小さな島国が、色々と苦労して食えるモノを作ろうと魔改造努力して出来上がったものである。決してマズいのではない。独特と言いたまえ。
まあ、とある漫画の台詞ではないが、「大体3日も食続ければ慣れる」というのが実態のようだし。
代表的なイギリス料理
いずれも薄味だったり端から味が無かったりするが、まあ、基本的に数多の種類があるテーブル調味料を使って個々で好みの味に調整しろというのが英国スタイルという事でOK
といっても定番として日本人の醤油の如くモルツビネガーが大活躍なのではあるが。
- イングリッシュ・ブレックファスト
定番。一日三食これを食えとはよく言ったもの。
ごく普通の卵焼きや、ベーコン、ソーセージ、焼きトマトなどに見える。が、見た目に騙されてそのまま食べる旅行者は痛い目を見るであろう。
野菜はそのままでは全く味がしないか薄いことが多く、これは他の料理の場合を含めて英国料理の基本である。自分でお好みの調味料を掛けて食べよう。
サマセット・モームさんの言葉も壮大な釣りの一種ではないかと疑いたくなる。 - ロースト・ビーフ
定番。まだ他国の人間が理解できる味がする。
イングリッシュ・ブレックファスト同様、付け合わせの野菜は味が付いていないか薄いことが多い。
完成された味付けがしてあるという他国の常識にとらわれてはいけない。ちゃんとグレーヴィーソースなどを付けて自分で調整するように。 - アフタヌーンティー
定番。お金に余裕のある旅行者はイングリッシュ・ブレックファストよりこっちを食べたほうが幸せになれる。日本で食べられるのと内容も味も値段もほとんど変わりはない。
数種のサンドイッチ・スコーン・ケーキに紅茶が基本。元々は上流階級の社交の場としての食事スタイルだが、現在は高級ホテルからお洒落なカフェまで色んな所で食べられる。ちなみに生キュウリしか入っていないサンドイッチが定番だが、これはイギリス国内で栽培できなかったためキュウリが使えることが貴族のステータスとされたのが由来。 -
スコーン(スコン)
サクッとカリッと美味しいコイケヤのスナックとは関係ない。菓子パンの一種で、日本ではケンタッキーフライドチキンで「ビスケット」として売られているアレとちょっと似ている。またスタバに売っているスコーンはアメリカ式で、某ゲームのイギリス人キャラの絵にアメリカ式が描かれていた時にちょっと話題になった。
アフタヌーンティーには欠かせないお菓子で、スコーンとお茶のセットのクリームティーと呼ばれるものも家庭のおやつやカフェの軽食メニューの定番。高級ホテルや有名ベーカリー製だと柔らか食感になるが、ホームメイドのザクザク食感を好む層も多い。ジャムやクロテッドクリーム(塩気が強めの濃厚クリーム)を塗って食べるが、ジャムとクロテッドのどっちを先に塗るかできのこたけのこ戦争並みにイギリス国民は割れている。「どっちでもええやん」と言ってしまった元首相が国民からブーイングを受けたレベルでマジな話。なおエリザベス二世はジャムが先であると判明しており、最近はジャム先勢のほうが優勢である。紅茶ないと口の中パッサパサだよ!つか基本お茶菓子だし。 - フィッシュ・アンド・チップス
ご存じ英国名物のタラのフライ(大抵半身丸ごと)とフライドポテト(チップス)の盛り合わせで、伝統的なファストフード。ポテチは「クリスプ」と呼ぶので注意。
サンドイッチ同様、屋台など作り置きを売る店で食うのはリスクが大きい。ただしスコットランドでは揚げハギスも扱っていて普通に質が高い。 - ポットヌードル
イギリスのカップラーメン製品。1977年に販売開始されて以来、同国のカップヌードルの代表的な存在であり続けている。
食べてみた日本人からは概ね「ダシが全く効いておらず平板な味のスープ、ボソボソした麺」と酷評を受けがち。ただしこれは「日本人の味覚に合わない」という面も大きいようで、イギリス人の中には美味しいと評価する人も少なからずいる。まあそうでなければ何十年も販売され続けないだろう。
とはいえイギリスでもだいたい「安っぽいジャンクフード」扱いはされている。 - キッパー
ニシンの塩漬けを乾燥させ、燻製にした英国料理、基本的に日本人にとっては干物の燻製のようで美味しい。
(英国人以外の欧米人にとってはゲテモノの極致、英国でも日本のくさやみたいな扱いをされるらしく、良いホテルではあっても言わないと出てこないことも多いらしい。異文化理解は難しいものである)
軽く炙ってライムをかけていただくか、目玉焼きと一緒にパンに挟んで食べる。 - ウナギのゼリー寄せ
ウナギをぶつ切りにした上で塩ゆでした後に冷やすことでコラーゲン質でゼリー状に固めたもの。
見た目はググれば分かるが絶妙にグロい。味のほうだが臭み消しなどもしていないためにそのまま食うような代物ではなくビネガー(酢)なりチリビネガー(唐辛子風味の酢)なりをぶっかけて食うのが基本。 - ハギス
羊の内臓の挽肉にスパイスなり玉ねぎなりを混ぜ、羊の胃袋に詰め込んだ料理。
フランス・ドイツ・ロシアの会談中にフランス大統領に名指しで「あんな不味いものを食う国は信用ならない」という国際問題になりかねない発言をさせ、イギリスの外務大臣が「ハギスに関しての意見はもっともだ」とフォローをしたことで事なきを得たという逸話を持つ代物。
なお正確に言うとスコットランドの伝統料理であり、国が違うのでそもそもロンドンのレストランで当たり前に出てくるようなものではない。上記の「あんな不味いものを食う『国』」という部分で指されているのがどこのことなのかを詳しく考えると英連邦内のゴタゴタも混じり面倒なことに。
そのままでは苦味で食べにくいが、同じく好みの分かれるピートの香り豊かなスコッチウィスキー(特にアイラモルト)と一緒に食べると途端に日本人でも行ける味になる。酒飲みの方はお試しあれ。 - スターゲイジー・パイ
飢えに苦しむ村を救うために、冬の危険な漁に出た勇敢な漁師が振る舞ったとされるパイ。
・・・とここまではいいのだが、魚を使っていることを示すために魚の頭部がパイから顔を出しているという何ともダイナミックな見た目をしている。星をみるさかな。
日常的に食べるようなものでは無く、日本の七草粥のように縁起物として特定の日にだけ作って振舞われる。漁村の風習なので内地の人は知らないことも。
イギリス料理をネタ扱いしている人へ
この記事を開いたあなたも、それからイギリス料理という言葉を聞いた人は大抵「ウナギのゼリー寄せwwwスターゲイジーパイwwwそんなのを毎日食べるからイギリス人はメシマズwwww」とこの二大ヘンテコ料理の名前を上げてイギリス料理のことを笑うだろう。
しかしそもそもどちらも現在は一地方のゲテモノや珍しい料理という位置付けである。日本で例えるならば「くさやwww蜂の子wwwそんなのを毎日食べるから日本人はメシマズwwww」と無茶苦茶な難癖をつけているようなもんである。毎日食べるような人もいるかもしれないが国民全体としては超少数派であり、そもそも食べずに一生を終えたり存在すら知らないままな方が多かったりするのだ。
様々な歴史上の問題が積み重なり料理文化が花開かなかったこと、それでも現代では世界的に有名で人気なシェフやレストランが生まれていること、日本同様に外国の料理をアレンジして自国の食文化として取り入れ成功していること、そして上記にもあるがそもそもお茶菓子の美味しさは文句のつけようが無いことを是非とも理解してほしい。
実際に行けば分かることだが、きちんとお金を出せば美味しい料理が出てくる国なのである。それがイギリスの伝統料理なのかはともかく。
そしてイギリス人の側も、メシマズをエスニックジョークとしてわざと強調していることも現在は非常に多い。日本人が外国人にやる「俺実はニンジャの末裔なんだぜ」「オーニンジャ!クール!」というやつの逆バージョンである。つまりはあんまり本気しすぎると逆にイギリス人側からからかわれるということも留意しよう。
関連動画
関連項目
- 料理
- イギリス
- アフタヌーンティー
- ローストビーフ
- スコン
- フィッシュ&チップス
- スターゲイジーパイ
- マーマイト
- Pot Noodle
- 英国面
- ジェイミー・オリヴァー
- セシリア・オルk####この項目は狙撃されました####
関連リンク
- A Taste of Britain:駐日イギリス大使館がイギリス料理を広めるキャンペーン
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