兄をはじめとする一族は
華やかな成功を収めた。
追いかけてくる相手との
ライバル関係はこの先も続く。
でもそんな
誰かが作ったストーリーなど
気にすることはない。
ダイワスカーレットとは、2004年産の栗東・松田国英厩舎所属の競走馬である。主戦騎手は安藤勝己。『ダスカ』と書かれる場合が多い。
通算12戦8勝[8-4-0-0]
主な勝ち鞍
2007年:桜花賞(JpnI)、秋華賞(JpnI)、エリザベス女王杯(GI)、ローズステークス(JpnII)
2008年:有馬記念(GI)、産経大阪杯(GII)
この記事では実在の競走馬について記述しています。 この馬を元にした『ウマ娘 プリティーダービー』に登場するウマ娘については 「ダイワスカーレット(ウマ娘)」を参照して下さい。 |
概要
通算12戦8勝、2着4回。12戦してのパーフェクト連対は中央競馬においてシンザンに次ぐ史上2位の記録である。
好スタート(騎手は何もしていないのに勝手に飛び出していたらしい)から前でレースを作り、直線で息の長い末脚を使うのがレーススタイル。08年天皇賞(秋)では一旦脚が止まったと思われたところを、さらに差し返すなど勝負根性も一級品。しかもそのレースは怪我明けであるなど、バイタリティの高さも評価が高い。ただ一点、安藤が「前向きすぎる」と評したように気性には若干の難を抱えていた。
同期でGI7勝の牝馬ウオッカとはいわゆるライバル関係のようなものであり、フジテレビ系列「ドリーム競馬」では永遠の宿敵と称された。ちなみにウオッカとは5度対戦してダイワスカーレットが3度先着している。競走馬としての性質も、ダイワスカーレットは安定度抜群で、先行して押し切るを得意とし、距離適性はマイルはこなすが中距離がベストであったのに対し、ウオッカは競走成績にムラがあり、中団からの末脚を武器とし、距離適性は中距離もできるが特にマイルで好成績を残すなど、両者の性質が微妙に異なる点も興味深い。
血統背景
父アグネスタキオン、母スカーレットブーケ、母父ノーザンテーストという血統。父は無敗で皐月賞を制したがその後故障で引退した「幻の三冠馬」の筆頭格。種牡馬としても本馬やディープスカイなどの活躍で2008年にリーディングサイアーを獲得する活躍を見せた。母は一大牝系を築き上げたスカーレットインクの血を引く良血で、自信も重賞4勝の活躍馬。母父は80年代の日本競馬を支配した大種牡馬ノーザンテースト。半兄(血量的には75%兄)にGI5勝のダイワメジャーがおり、近親にもヴァーミリアンやサカラートらがいる超良血。コッテコテの社台配合でもある。
2歳 令嬢の黎明
血統背景だけでなく育成段階から図抜けた能力を見せ大きな期待を集めていたダイワスカーレット。一方でデビュー前から前向きすぎる面があったという。当初は武豊とのコンビでデビューする予定だったのだが、登録した新馬戦で武に先約があったため安藤勝己が騎乗。以降も安藤が引退までダイワスカーレットの手綱を取ることとなった。
そのデビューは2歳11月の京都芝2000m。気性面から短距離向きとの見方もあったが、管理する松田師の方針でこのレースが選ばれた。このとき松田師には二つの思惑があった。一つはこの馬をスプリント専門にはしないという方針の明確化。そしてもう一つは、兄ダイワメジャーが同日のGIマイルチャンピオンシップに出走予定であり、この馬の強さも話題に取り上げてもらおうというものであった。
この思惑は大当たりで、自身は2番手から3コーナー手前で先頭に立ち、直線で悠々と突き放す余裕たっぷりの競馬で完勝。そして兄ダイワメジャーもマイルCSを勝ち、兄妹で同日勝利を果たしたことが大きな話題となった。なお自身が新馬戦で破った馬の中にはサンライズマックス、トーホウレーサーと翌年重賞を勝つ馬が2頭おり、後々から考えれば決して弱い相手と戦っての勝利ではなかった。
次走はOP中京2歳Sを選択。ここでは同じアグネスタキオン産駒でビワハイジを母に持つ、自身に劣らぬ良血馬アドマイヤオーラと対決。しかしここも2番手から直線であっさりと抜け出し、アドマイヤオーラの追撃も半馬身退け勝利。デビュー2連勝を飾る。
3歳春 宿敵との邂逅
3歳初戦は年始の名物重賞シンザン記念。ここも1番人気に支持される。安藤は将来を見据え後ろからの競馬を試そうとしており、実際スタート直後は中団にいたのだが、馬の行きっぷりが良すぎて抑えきれず、結局は道中で3番手に押し上げる展開。それでも直線で一度先頭には立ったが、背後でダイワスカーレットをマークしていたアドマイヤオーラが繰り出した33秒3という末脚の前にキレ負けしての2着。初黒星を喫する。
次走のGIIIチューリップ賞は2番人気。このレースで断然人気に推された馬こそ、阪神JFを2歳日本レコードで勝利した2歳女王にして、終生のライバルとなるウオッカである。
このレースでは初めての逃げる競馬。手応えは悪くなく、直線半ばまで持ったまま先頭をキープしていたのだが、外から伸びてきたウオッカとの追い比べでは敵わずクビ差2着。初対戦は完敗に終わる。しかし鞍上の安藤は、このレースで確かに逆転の糸口を掴んでいた。
迎えた桜花賞。ウオッカが単勝1.4倍の断然人気に推され、阪神JF2着からGIIフィリーズレビューを圧勝してきたアストンマーチャンが5.2倍の2番人気。ダイワスカーレットは5.9倍の3番人気であった。オッズ一桁台はこの3頭のみで、4番人気ショウナンタレントが34.7倍という三強ムードとなった。
大外18番枠からスタートしたダイワスカーレット。当初は中団にいたが、暴走気味に進出したアストンマーチャンを追いかけるように先団に向かい、3角手前でやっぱり3番手の競馬になる。ここまでガッチリと手綱を抑えていた安藤は、4角手前からじわりと仕掛け始め、4角でウオッカが追いついてくる前にトップギアに入れた。
これこそ安藤がはじき出した逆転の一手。前走でウオッカが並ぶまで待って仕掛けるという競馬をしたことで、安藤は「キレ味ではウオッカに及ばないが持続力ではスカーレットが上」と分析していた。そこで桜花賞ではウオッカより先に仕掛けることでなし崩しに脚を使わせ、自身の領分である持続力勝負に持ち込もうと考えたのである。
果たしてダイワスカーレットは早仕掛けにバテるどころかグイグイと脚を伸ばしていく。直線半ばまではウオッカも差を詰めていたが、ダイワスカーレットは残り1ハロンでさらに加速に乗ってウオッカを振り払い差を開いていく。最後まで脚は止まらず、ウオッカに永遠に詰められないかのような1馬身半差をつけてゴールイン。チューリップ賞ではウオッカとコンマ4秒の差があった上がり3ハロンのタイムは、桜花賞では同じ33秒6。目論み通りウオッカに自分の競馬をさせず武器を封じ込めた、安藤の作戦勝ちというべき勝利でクラシック兄妹制覇を遂げた、
このあとはオークスに出走する予定だったのだが、レース直前に熱発し無念の回避。牝馬三冠の可能性は潰えた。その1週後、桜花賞の敗戦からダービーに挑んだウオッカが3馬身半差の完勝。64年ぶりのダービー牝馬となり、再び世代最強牝馬の座を奪い返そうとしていた。
3歳秋 統一女王
夏はこのまま休養し、秋華賞トライアルのGIIローズSで復帰。強烈な差し脚を持つオークス2着馬ベッラレイアとの初顔合わせとなる。5ヶ月の休み明けではあったが単勝1.6倍の断然人気に推され、その通りに逃げて直線でもしっかりと伸び、最内を突いてきたベッラレイアの末脚を半馬身封じ込めて復帰戦を勝利。秋華賞へ向けて万全をアピールする。なお、このレースからトレードマークの青いメンコをレースでも装着するようになった。
秋華賞ではウオッカと再戦。ダービー後宝塚記念の惨敗、軽い故障による凱旋門賞回避など紆余曲折を経てこのレースに出走してきたウオッカに対し秋は予定通りに運んでいたダイワスカーレットだったが、ダービーのインパクトは強烈すぎたかウオッカが1番人気。しかし単勝オッズは0.1倍の差でしかなく、実質的に1番人気が2頭いるような状況だった。
レースは好スタートからハナを切っていったが、向こう正面手前で1頭を前に行かせ2番手の競馬になる。安藤はガッチリと手綱を絞っていたのだが、3角でもう抑えきれないという勢いで進出し、凄まじい手応えのまま直線に入る。外で伸びあぐねるウオッカを後目に最後まで脚は衰えず、伏兵レインダンスに1馬身1/4差で勝利。再びウオッカを完封し牝馬二冠を達成した。
次走は初の古馬対決となるエリザベス女王杯。ウオッカが跛行のために出走直前で取り消しとなり、ダイワスカーレットが1.9倍の一本被りになった。とはいえフサイチパンドラ、スイープトウショウと前二代の女王杯勝ち馬も出走するなど、史上最多のGI馬5頭が集結する豪華メンバーには違いなかった。
しかし古馬相手でもダイワスカーレットは自分の競馬で圧倒。抜群のスタートダッシュで先手を取り、道中も淀みないペースで逃げ、4角で仕掛けられたらもう止まらない。外からフサイチパンドラが必死に詰めてきたが、3/4馬身の着差以上の実力差を見せつけて快勝。統一女王の座に就いた。なおこの翌週には兄ダイワメジャーがマイルCS連覇を果たし、兄妹で2週連続GI勝利という珍しい記録を作っている。
さらに陣営はグランプリ有馬記念への出走を決定。エリ女回避後JCで4着に敗れたウオッカとの再戦となった。3歳世代からはこの2頭くらいしか有力馬が出なかったが、古馬戦線からは天皇賞春秋連覇のメイショウサムソン、JC2着のポップロックなどが参戦。そして引退レースにグランプリを選んだダイワメジャーと生涯一度だけの兄妹対決が実現した。
気性面からくる距離不安もあってか5番人気での出走。いつも通りゲートを完璧に決めたが、外から猛然と押してきたチョウサンを見て安藤はハナを譲る構えを見せた。しかしダイワスカーレットは先頭は渡さないとばかりに行きたがり、ややなだめるのに苦労するシーンが見られた。その後はいつも通りのレースをしたが、序盤の引っ掛かりと4角でやや外を回ったことが仇となり、3番手から内をぬるりと抜け出した9番人気の伏兵マツリダゴッホに直線突き放されてしまった。それでも兄ダイワメジャーの追撃は退けて2着に粘っており、3着以下が軒並み差し馬だったことを考えれば悲観する内容ではなかった。
この年はGI3勝含む7戦4勝2着3回という成績を残し、最優秀3歳牝馬・最優秀父内国産馬を受賞した。なお最優秀父内国産馬の表彰はこの年限りで廃止されており、ダイワスカーレットが最後の受賞馬となった。
4歳春 挫折に次ぐ挫折
迎えた4歳シーズンの春は第一目標をドバイワールドカップに定め、ダート適性を見るためにフェブラリーSに出走するという予定が立てられた。ところが調教中に跳ねたウッドチップで目を負傷してしまい、フェブラリーS出走が流れたことでドバイ遠征も中止になってしまう。
改めて春の国内GIを目標とし、GII大阪杯に出走。メイショウサムソンに加え同期の皐月賞馬ヴィクトリーと菊花賞馬アサクサキングスなどが参戦。しかしダイワスカーレットがオッズ2倍の1番人気。中間もたついても、もはやこの馬の実力は誰もが信頼するところとなっていた。
そしてレースもいつも通り先手を取って淀みなく逃げ、4角でアサクサキングスが迫ってきたところでゴーサイン。菊花賞馬を叩き合いで完封し、最内を伸びてきたエイシンデピュティをこともなげに振り切って勝利。4歳初戦もきっちり勝利する。
この後はヴィクトリアマイルが候補に挙がっていたが、大阪杯を頑張りすぎたか管骨に骨瘤を発症。調教が出来ない状態に陥り、春は全休となってしまった。
4歳秋 緋色の女王は伝説へ
骨瘤は3ヶ月ほどで治り、7月末から運動を再開。この時点で陣営は前年と同じエリザベス女王杯から有馬記念という2戦でローテーションを組んでいた。しかし調整が予想以上に順調に進んだため復帰予定を前倒すプランも上がっていた。
帰厩後は放牧で増えた体重も絞れ、松田師は予定を早めても問題ないと判断。エリザベス女王杯の2週前、天皇賞(秋)への出走を決定した。調整自体は順調だったのだが、走りたくて仕方がない馬が半年も休まされたせいか、調教段階からかつてないほどテンションが高く、安藤は不安を感じていた。
天皇賞(秋) 最後の死闘
迎えた天皇賞(秋)。ここにはダイワスカーレットがいない間にドバイで惨敗、ヴィクトリアマイル2着、安田記念圧勝といろいろあったウオッカが出走。さらに前述のアサクサキングス、復調していた同期の2歳王者ドリームジャーニー、そして3歳世代から史上2頭目の変則二冠を制したディープスカイが出走。メイショウサムソンこそ回避してしまったが強力なメンバーが揃った。
1番人気は2.7倍のウオッカで、ダイワスカーレットは3.6倍の2番人気。長期休養明けながらここまでの安定感が買われた形となった。ディープスカイも4.1倍に接近しており、オッズは三強の様相であった。
4枠7番からいつも通りハナを切ったダイワスカーレット。しかし安藤の不安は的中し、レース前からイレ込んでいたうえに道中後続馬に絡まれたこともあって序盤から一気に飛ばしていってしまう。1000mは58秒7の猛時計。常識的には休み明けでこのラップは自爆に等しいもので、安藤も「今日は飛ぶな」と惨敗を覚悟していたという。
それでもハイペースに付き合わされ揃いも揃ってガス欠していた先行馬を後目に直線半ばまで先頭をキープしたが、ここで道中6,7番手で並び、直線も揃って外から仕掛けたウオッカとディープスカイが満を持して並びかけてきた。ダイワスカーレットは抗いきれず残り200mで2頭にかわされ、脚色も断然不利。勝利は前の2頭に絞られた・・・はずだった。
しかしここから誰もが信じられない展開が起こる。なんとダイワスカーレットが最内から差し返してきたのである。
超ハイペースに付き合わされたのは差し馬も同じことで、ダービー馬2頭も100%自分の土俵に持ち込めたわけではなかった。加えてウオッカには差し切ると気を抜く面があり、このレースもディープスカイを競り落として先頭に立ったことで目標を見失い気が抜けてしまったのだという。
こうした要因が重なり、ダイワスカーレットは内からウオッカに食らいつく。ウオッカ鞍上の武豊も必死に追うがその差は詰まり、完全に並んだ状態で大接戦ドゴーン!!!のままゴール板を通過した。勝ち時計は1分57秒2。シンボリクリスエスが持っていた記録を実にコンマ8秒も更新する圧巻のコースレコードであった。
見た目には完全にダイワスカーレットが体勢有利で、検量室の掲示板にも(7,14)と記された。基本的に先に書かれた馬番が勝っている場合が多く、陣営は勝利を確信した。しかし鞍上の安藤だけは騎手としての感覚から「これ負けてるんじゃないか?」と感じていたという。
入線から実に13分後、長い写真判定の末に着順掲示板に掲げられた1着の馬番は14。安藤の感覚通り、ダイワスカーレットはハナ差、僅か2cm差で敗れていたのである。それもゴール前後はダイワスカーレットが前で、決勝線の瞬間だけウオッカが首の上下で前に出ていたのであった。
一度は勝ったと思った陣営の落胆は相当なものだったが、一部でダイワスカーレットを「勝ち馬よりもすごい競馬をした」と評価する声もあった。いくらハイペースで後続に脚を使わせたとはいえ、そのペースを刻んだのが誰あろう自分自身。道中の掛かり具合を鑑みても並の馬なら真っ先に潰れるはずで、安藤も「ひどい競馬をしてしまった」と振り返っていた。しかしダイワスカーレットは止まらないどころか後半1000mで58秒5とさらにペースを上げ、最後は2頭のダービー馬相手に1頭を競り潰しもう1頭も差し返しにいくというあり得ないことをやってのけたのである。ある意味、得意なコースで自分の競馬をして勝ち切ったウオッカ以上に常識外れな競馬をやったことには間違いなかった。
確定後、ファンのみならず関係者からもこのレースのレベルの高さを称賛する声が寄せられた。後の活躍も含めて2頭は稀代のライバル関係と認知され、その2頭が2cm差で競り合ったこのレースも競馬史に残る名勝負として語り継がれている。
なお、結果的にウオッカとはこれが現役最後の直接対決。5度対戦してダイワスカーレットが3度先着という戦績だった。
有馬記念 夢の扉
この2着から約2ヵ月後、予定通り第53回有馬記念に出走。前年覇者マツリダゴッホ、ジャパンカップでウオッカとディープスカイを破ったスクリーンヒーロー、そして引退レースとなるメイショウサムソンなどが揃った。
1戦使ったことでガスも抜け、順調に調教を積んだダイワスカーレット。前年敗れた舞台ではあったが単勝2.6倍の1番人気に支持される。
8枠13番と有馬記念では不利な外枠からスタート。しかし例によって二の脚が速く、先行しにきたカワカミプリンセスやアサクサキングスを寄せ付けず早々と単騎の逃げに持ち込む。1000m通過は59秒6。中山2500mでは決して楽なペースではないのだが、馬自身は秋天と違い過度に力むこともなく自分のペースで追走できていた。
3コーナーで先行馬がダイワスカーレットを潰しにかかったが、ダイワスカーレットと安藤は持ったまま先頭をキープ。直線で悠然と追い出されると後続を一気に突き放す。先行していた天皇賞馬メイショウサムソン、菊花賞馬アサクサキングスなど並み居るスタミナ自慢は軒並みガス欠を起こし、直線を待たずに撃沈。大外を回されたマツリダゴッホも上位争いに加われず、真ん中から抜け出したスクリーンヒーローも伸びを欠く。そして後方から上がってきた伏兵陣の末脚も全く相手にならず、1馬身3/4差で逃げ切りゴールイン。前年ちぐはぐな競馬で2着に甘んじた雪辱を堂々たるレースぶりで果たし、悔しさに満ちた1年の最後を圧倒的な勝利で締めくくった。
牝馬のグランプリ制覇はトウメイ以来37年ぶり4頭目。四半世紀以上閉ざされていた夢の扉を開いた。この数年後、ダイワスカーレットがこじ開けた扉に飛び込むように牝馬が続々と有馬記念を制する時代が来るのだが、それはまた別のお話である。
ちなみに有馬記念の逃げ切り勝ちは1995年のマヤノトップガン以来13年ぶり。そのトップガンは1000m62秒1というスローの逃げであった。1992年のメジロパーマーは62秒6、この後2017年に有馬記念を逃げ切ったキタサンブラックも61秒6のスロー。有馬記念の歴史において1000m60秒を切るペースで逃げ切った馬は現状ダイワスカーレットのほかに存在しない。というか、有馬記念を逃げて勝った馬自体が他にタニノチカラとテンポイントくらいしかいない。ダイワスカーレットは歴代グランプリホースの中でも特筆すべきパフォーマンスで勝利したのである。
有馬記念後のレーティング(格付け)では119ポンドとされ、牝馬に加味されるセックスアローワンス4ポンドを考慮すると、05年に同レースを制覇したハーツクライ(122ポンド)、07年の勝者マツリダゴッホ(121ポンド)よりも高い評価を受けたことになる。
なお、天皇賞(秋)でウオッカが受けたレーティングは118ポンドであったが、これは2着馬との着差によるものと考えられる。レーティングはあくまでレース内容に対する評価で、一概にどちらのほうが強いかといったものの指標にはなりにくい。
なおこの年の年度代表馬と最優秀4歳上牝馬はGI2勝2着2回のウオッカ。ダイワスカーレットは年間3戦しかできなかったこともあって表彰なしに終わっている。
5歳~ 引退、それから
09年は前年果たせなかった海外遠征を計画。フェブラリーSでダート適性を見た後、GOサインが出ればドバイ→フランス→アメリカと世界中を転戦する見通しが立てられた。当初、オーナーサイドは「国内のファンの皆様にもっとダイワスカーレットをお見せしたいという気持ちもある」と、明言を避けていたが、後日正式に発表されダートGI、さらに海外GI制覇への期待が膨らんだ。しかしフェブラリーS二週前の追いきりで浅屈腱炎を発症(正確にはその前週に前兆はあった)。惜しくも引退の道を歩むこととなった。
繁殖牝馬としての初年度は新種牡馬チチカステナンゴと交配。翌年無事に芦毛の牝馬(ダイワレーヌ)が誕生した。ダイワレーヌは未勝利のまま引退してしまったが、2頭目のダイワレジェンド(父キングカメハメハ)は中央4勝、3頭目のダイワミランダ(父ハービンジャー)は新馬勝ちを収めている。ちなみに初仔から2020年までに生まれた産駒まで10頭連続で牝馬を産むという非常に珍しい繁殖実績であった。牝系を繋げという神のお告げだろうか。結果的に最後の仔になった2021年産まれの11番仔・グランスカーレットだけが唯一の牡駒である。
2023年12月31日、社台ファームより同年限りでのダイワスカーレットの繁殖引退が告知された。
春に桜、秋に大輪の華を咲かせ、さらに女王としての戴冠劇。
速く、強く、鮮やかに。世代を超え、雌雄の壁も超えた最強馬へ。
ターフには、明日もスカーレット〈緋色〉の風が吹き抜けていく。
繁殖成績
年 | 馬名 | 性 | 父 | 成績 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
2010 | ダイワレーヌ | 牝 | チチカステナンゴ | 中央4戦0勝 | 繁殖入りするも2017年に死亡 エスカルラータが後継として繁殖入り |
2011 | ダイワレジェンド | 牝 | キングカメハメハ | 中央22戦4勝 | 繁殖入り スカーレットテイルが後継として繁殖入り なおスカーレットテイルの初年度の相手はタニノフランケル(母ウオッカ) |
2012 | ダイワミランダ | 牝 | ハービンジャー | 中央14戦2勝 | 繁殖入り |
2013 | ダイワウィズミー | 牝 | キングカメハメハ | 中央21戦2勝 | 繁殖入り |
2014 | ダイワエトワール | 牝 | エンパイアメーカー | 中央11戦3勝 | 繁殖入り |
2015 | ダイワメモリー | 牝 | ノヴェリスト | 中央16戦3勝 | 2020年テレビユー福島賞(3歳上3勝クラス)にて急性心不全、死亡 |
2016 | (産駒なし) | 不受胎 | |||
2017 | ダイワクンナナ | 牝 | ノヴェリスト | 中央14戦3勝 地方2戦0勝 |
繁殖入り |
2018 | アンブレラデート | 牝 | エイシンフラッシュ | 中央11戦2勝 | 繁殖入り |
2019 | スカーレットオーラ | 牝 | ロードカナロア | 中央3戦0勝 | 繁殖入り |
2020 | スカーレットアリア | 牝 | ロードカナロア | 中央2戦0勝 | 繁殖入りの予定 |
2021 | グランスカーレット | 牡 | ロードカナロア | 中央3戦0勝 地方3戦0勝 |
引退後は乗馬とのこと |
2022 | (産駒なし) | 不受胎 | |||
2023 | (産駒なし) | 死産 |
余談
逃げ馬になったことからも分かる通り、非常に前進気勢の強い馬。主戦騎手だった安藤勝己はこの手のタイプを苦手にしていたらしく、上手く乗ったと思えたレースは少ないという。そのため、逃げ馬を得意とする武豊に対して「この馬ユタカちゃんが乗った方が走るで」と伝えたことがある[1]。
血統表
アグネスタキオン 1998 栗毛 |
*サンデーサイレンス 1986 青鹿毛 |
Halo | Hail to Reason |
Cosmah | |||
Wishing Well | Understanding | ||
Mountain Flower | |||
アグネスフローラ 1987 鹿毛 |
*ロイヤルスキー | Raja Baba | |
Coz o' Nijinsky | |||
アグネスレディー | *リマンド | ||
イコマエイカン | |||
スカーレットブーケ 1988 栗毛 FNo.4-d |
*ノーザンテースト 1971 栗毛 |
Northern Dancer | Nearctic |
Natalma | |||
Lady Victoria | Victoria Park | ||
Lady Angela | |||
*スカーレットインク 1971 栗毛 |
Crimson Satan | Spy Song | |
Papila | |||
Consentida | Beau Max | ||
La Menina | |||
競走馬の4代血統表 |
クロス:Lady Angela 5×4(9.38%)、Almahmoud 5×5(6.25%)
関連動画
関連コミュニティ
関連項目
JRA賞最優秀父内国産馬 | ||
優駿賞時代 | 1982 メジロティターン | 1983 ミスターシービー | 1984 ミスターシービー | 1985 ミホシンザン | 1986 ミホシンザン |
|
JRA賞時代 | 1980年代 | 1987 ミホシンザン | 1988 タマモクロス | 1989 バンブービギン |
---|---|---|
1990年代 | 1990 ヤエノムテキ | 1991 トウカイテイオー | 1992 メジロパーマー | 1993 ヤマニンゼファー |1994 ネーハイシーザー | 1995 フジヤマケンザン | 1996 フラワーパーク | 1997 メジロドーベル |1998 メジロブライト | 1999 エアジハード |
|
2000年代 | 2000 ダイタクヤマト | 2001 該当馬無し※1 | 2002 トウカイポイント | 2003 ヒシミラクル | 2004 デルタブルース | 2005 シーザリオ | 2006 カワカミプリンセス | 2007 ダイワスカーレット |
|
※1.該当馬無しを除く最多得票馬はナリタトップロード。 | ||
競馬テンプレート |
脚注
親記事
子記事
- なし
兄弟記事
- ウオッカ
- クィーンスプマンテ
- ドリームジャーニー
- アストンマーチャン
- フリオーソ
- スリープレスナイト
- エイジアンウインズ
- ピンクカメオ
- ローレルゲレイロ
- ヒカルアヤノヒメ
- カノヤザクラ
- アドマイヤオーラ
- ベッラレイア
- アサクサキングス
- ヴィクトリー(競走馬)
- ロックドゥカンブ
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