するとどうなる?
みんな他人の夢が許せなくなる。
他人の贅沢、他人の美貌、他人の幸福が許せなくなる。
やがて人と人、国と国とが争い合い、君たちの言う絆は簡単に壊れる。
ウルトラマントレギアとは、ウルトラシリーズに登場する悪のウルトラマンである。
『劇場版ウルトラマンR/B セレクト!絆のクリスタル』で初登場。青と黒を基調とした容姿をしており、目元にはオペラ風の仮面、胸にはX字型の拘束具でカラータイマーを覆う等、既存のウルトラマン像からかけ離れた容姿をしている。トレラアルティガイザーという光線技の他、怪獣を暴走させるイスキュロス・ダイナミス、魔法陣を介して単独で多元宇宙(マルチバース)を行き来するトレラ・スラーといった呪術まで扱える模様。
後に地上波で放送される『ウルトラマンタイガ』では主人公のライバルとして暗躍し、前日談でもある『ウルトラギャラクシーファイト』ではウルトラ戦士への復讐を志すウルトラダークキラーに影ながら協力していた。
口調は至って紳士的で、表面上は物腰柔らかな態度を取っているが、その本性は狡猾にして残忍。数多の宇宙を行き来しつつ、突如として異空間から姿を現し、夢破れて行き詰ったり悩み事を抱えたりしている人間を言葉巧みに誘惑し悪や絶望に誘い込み破滅に追いやっている。最終的には相手に見合った二択の選択肢を突き付け、どちらを選ぶか相手に決めさせるまでが手口。
一例として戦いを終えて皆が各々の進路を見出す中自分だけ何の進路を見い出せず、夢破れた友人の力になれない無力感に打ちひがれる湊カツミの前に現れ、「ウルトラマンとして宇宙に旅立ち救いを求める者達の力になるか、このまま何も出来ない青年として生きていくか」の二択を突き付けている。
一方物事が自分の思い通りに行かないと気に召さない性格でもあり、湊アサヒがウルトラウーマングリージョに覚醒した際、タイガがヒロユキ達との絆で新たな力を手に入れた際には普段の態度からは一変して癇癪を起こしている。相手から敵対心を向けられようとやる事を済ませたらそそくさと帰る気分屋でもある。
劇場版のシナリオを作成する担当した中野貴雄曰く、「ベリアルが帝国を率いる魔王ならトレギアは人々の心に隙入る悪魔」「現代社会において誰もが抱える不満や鬱憤を募らせた者の前に現れ、そいつの欲望を解放させる事に悦を見出す悪人」と新しい悪トラマンを生み出す上でウルトラマンベリアルとの区別化も踏まえたキャラ付けを意識しているらしい。
ウルトラマンロッソ・湊カツミの親友でもある戸井ゆきおに干渉し、自身の能力でスネークダークネスという怪獣に変えさせた。
かつての戸井は皆に夢を与えられるゲームを創る事を志し、ゲームクリエイターとして専門企業に就職したが雑用ばかり押し付けられ、思うように働けない環境からやがて退職。親に養われながら挫折と後悔に苛まれる戸井の心の弱みに漬け込み、いずれ世に出そうとしていたクリーチャーデザインを現実に具現化させ、自分を認めてくれない世界そのものへ報復をするように唆した。“暗闇の蛇”という意味から名付けた戸井のセンスには「中々の厨二病」と評している。
それ以外にもベリアルの息子である朝倉リクことウルトラマンジードに目を付け、彼の親友であるペガ(ペガッサ星人)を怪獣の中に取り込ませ「大罪人の息子として産まれた彼が親友を失った時、父のように闇に魅入られるか否か」を確かめるために怪獣ごとペガをリクに殺させようと目論んだ(※ライハやAIBの助けが得られないシチュエーションにするために、サイドスペースからウルトラマンが存在していないと思われていた宇宙にある綾香市までリクとペガを連れ出した)。
湊兄妹の絆によって誕生したウルトラマングルーブとウルトラマンジード・ウルティメイトファイナルによって倒されたが、EDによって生存していた事が判明。その際カメラ目線で観客に話しかける、第4の壁を意識しているかのような演出がなされている。
後に発売されたR/B超全集ではラスボスにして元は宇宙の白血球と呼ばれていたルーゴサイトの遺伝子を弄り、暴走させた原因である事が明かされた。
煮え湯を飲まされたグルーブへの対策も兼ねてウルトラダークキラーにウルトラウーマングリージョを人質に取り、ウルトラマン達を誘い込むように唆した模様。異空間で魔法陣を通してギンガ達新世代ウルトラマンの戦いを見物していたが、居場所を特定したウルトラマンリブットと交戦した後、退却した。その後ギンガ達の前に現れ、自身を闇のウルトラマンと評すジードに対して「そうやってお前達は片方の側面からしか物事を見ない」と反論。その後光の国を壊すしかないと宣戦布告する。
今作で出身地がM78星雲・光の国である事、主人公・タイガの父でもあるウルトラマンタロウの親友であった事が明かされた。ベリアルに次ぎ、光の国における二人目の悪トラマンである。公式のTwitterによると闇に堕ちる前はウルトラマンヒカリ同様ブルー族の科学技術局・局員として宇宙の平和のため尽力していた(ヒカリの辞職からしばらく経った頃、当時の技術局長官から次期副長官就任の相談をもちかけられるほどの業績を出していた)が、やがて正義と悪、光と闇について研究を続けていく内に国から出奔してしまった(後に明かされた媒体ではメビウスが地球防衛任務を任される前と思われる時期には既に姿を消していたらしい)とのこと。
タロウとは学生時代からの仲であり、かつてタロウが好きな女子(ウルトラウーマン)にラブレターを出す際に内容を添削してあげた程の仲らしいが、光の国を攻める直前(『第一話』)にタロウと対峙した際には普段の飄々した態度を一変させ、『ウルトラヒーローズEXPO 2020』ではタイガの危機に駆け付けたタロウに「会いたかったよ」と腹部を右腕で貫き、その後突き刺した腕を顔に擦り付けた後、愛おしそうに抱き締めるなど、相当歪んだ感情を抱いている模様(なおウルトラ心臓は無事だったおかげでタロウは復活した)。
地球で潜伏するに辺り、「霧崎(演:七瀬公)」という青年の姿に擬態しており、元の姿に戻る際には専用アイテム・トレギアアイで変身を行う。
宇宙人が影ながら生活している地球に目を付け、滞在している宇宙人を唆す、怪獣を無理矢理暴走させる、親密になれた宇宙人を目の前で殺す等、あらゆる手でタイガとヒロユキ達を追い詰める。特にヒロユキが幼い頃生き別れてしまったチビスケ(キングゲスラ)を無事大人しくさせたにも関わらず、タイガとヒロユキを絶望させるため目の前でチビスケを痛めつけ最後にはタイガを庇わせる形で殺害した際はあまりの後味の悪さに視聴者に濃い印象を残した。犯罪者とマフィアで構成された異星人組織・ヴィランギルドからも「厄介な存在」として危険視されている模様。
タロウという偉大な父親の息子としてのプレッシャー、誰もが「タロウの息子」としてしか評価してくれない不安と焦りを抱くタイガには闇に堕とせられる素質を感じたようで、自身の傘下にある怪獣を倒す事で手に入れられる指輪を敢えて渡し続けた。それは怪獣達の力を扱える反面、使えば使うほどタイガの意識を闇で侵食していき、最終的にはヒロユキの声が届かなくなるまで闇に蝕まれたタイガは意識すら奪われてしまい、自分の意のままに動く人形と化したタイガをタロウ達が待つ光の国へ向かわせようと目論んだ。
もう地球人がいなくても変身できる。新しい相棒は闇のエネルギーというわけだ。
君と僕とでバディゴー
しかしタイガとの絆を諦めなかったヒロユキ達とタイタス、フーマの手によりタイガは闇から開放された。タロウの息子としてではない、タイガ個人として向き合ってくれる相棒と仲間達の存在を再確認し、自らのコンプレックスからも脱却したタイガ達は新たな力・トライストリウムへと覚醒する。自らの計画が狂った事、それも地球人如きとの絆で形勢逆転されたトレギアは憤慨する。
まだ絆を語るのか、反吐がでる!
余裕を無くしたトレギアの攻撃は全ていなされ、新たな技・トライストリウムバーストによってタイガ達の前に敗れた。
何が光だ…!
貴様らに私の何が分かるッ…!!
この時の戦いで地球人でありながらタイガを救ったヒロユキの方にも付け狙うようになり、隙を見ては彼の仲間や身近な者達を何度も目の前で死に至らしめる嫌がらせを続け、「自分が狙われている以上皆に被害が及ぶ」という認識を植え付けさせ絶望の淵に落とす事を目論んだ。
※この項にはウルトラマンタイガ第24話・25話(最終話)のネタバレが含まれています。
最終決戦
ゴース星人の地底ミサイルを利用し、惑星を構成する元素・エーテルを刺激する事で、あらゆる物質やエネルギーを食い尽くす宇宙爆触怪獣ウーラーをトレギアは地球に呼び寄せた。
まるで打つ手のないタイガが苦戦する様子を嗤いながら見ていたが、「体内にあるブラックホールによりどれだけ食べても消滅されてしまう生態のせいで決して満たされない空腹から、自らが起こし続ける悲劇を止めたい」と願うウーラーの真意を知ったピリカ、E.G.I.S.、トライスクワッド、ヴィラン・ギルドが共同作戦『バディ・ステディ・ゴー』を開始すると、計画の妨害に動いた。宇宙人を忌避する地球人が同じ宇宙人のウルトラマンに応援するという矛盾を混沌と評しながら現れ、タイガを後一歩の所まで追い詰めるも、自身を救おうとしている事を悟ったウーラーにとどめを刺すのを阻まれる。表面上の余裕は崩さなかったが、その事態に怒るようにウーラーを痛めつけ、激昂したタイガに今度こそ仕留めようとトレラアルディガイザーを放つ。
しかしタイガはそれを受け止め、自身の光線とそれを合わせるようにウーラーに向けて発射。 E.G.I.Sとヴィランギルドの協力により、体内のブラックホールをすでに無効化されていたウーラーは、二人のウルトラマンの光線を喰らい、空腹が満たされた歓喜とともに爆散する。
決して満たされないまま宇宙を彷徨い、望まぬ悲劇を繰り返してきたその心がやっと救われた。
守るべきものを持たないはずの自分が、ただ傷付ける為に放った光線が、ウーラーの命と思いを救ってしまう事実にトレギアは呆然する。
浄化された後に現れたオーロラのような光に見惚れ、温かいとすら感じてしまった。
そんなトレギアにこれまで苦痛を味合わされたタイガとヒロユキは言い放つ。
どれだけ運命を狂わし、絆を弄ぶ悪魔に成り果てようが、お前の本質は光の国のウルトラマン。
命と心を救える可能性を秘めた守護者なのだと。
「もう一度光の守護者として歩みたいなら!」とタイガは手を差し伸べる。 これまでの所業を許した訳でも無い。しかし少しでも彼の中に光が残っているとしたら。
トレギアはそんなタイガに対して、乾いた笑い声を上げる。
何度も言わせるな…
そんな救いなんて要らないとばかりに、光線を放つトレギア。
それでも光を信じるタイガはトレギアとの攻防を繰り広げ、やがて天高く飛び上がる。
上空を見上げ、視界に映ったのは太陽の光を背に佇む光の勇者の姿。
逆光がシルエットとなったその光景にトレギアは共に青春の日々をおくった一人の男の名を呟く。
タロウ…
ウルトラマンタイガだ!!
タイガ、ヒロユキ、タイタス、フーマ。四人の絆を集結させたクワトロスクワッドブラスターが放たれる。 完全敗北を悟ったトレギアは、自分の身に降りかかる光線を笑いながら受け入れていた。
デビュー作で闇墜ちした経緯が描かれたベリアルとは異なり、トレギアが闇に魅入られた原因・経緯はタイガ本編でも不明なまま幕を閉じたが、放送終了後に発刊されたウルトラマンタイガ超全集の書き下ろしストーリーにてその全貌が明かされた。
第1章 青い彼
狂おしいほどの好奇心。
そんな意味を込めて親からは「トレギア」と名付けられた。七つの宇宙では「禁忌」「厄災」「誘惑」を表す事もあり、光の国でも変わった名前だった。
幼い頃からトレギアは知的好奇心旺盛な性格だった。
ウルトラアーカイブ(図書館)であらゆる惑星の文化や生命体の情報を閲覧し、空を見上げてはゆっくり思索に耽る日々を送る。探れば探るほど自分の知識が広がり、クラスメイトと遊ぶよりも一人で過ごす時間を好んでいた。
そんなある日声をかけてきた男が居た。
宇宙警備隊初代隊長と銀十字軍隊長との間に生まれたサラブレッドだ。
天真爛漫で友達を大事にする人柄ゆえに多くの者達を惹き付ける。
“勇気があり、正義を愛する者”という名を冠するに相応しい男だった。
何時も隅で思索に耽る様が気になったのか、君と友達になりたいと言ってくるタロウ。
レッド族である彼ならば以前から気になっていた立ち入り禁止区域の檻を破れるかもしれない。
自分は偉大な両親のご子息である君しか知らない
肩書きなんて関係ない、君自身をちゃんと知った上で友達になりたいんだ
そんな言葉にタロウはしばらく考えた後、トレギアの誘いに乗った。
檻を破った先にあるのはシルバーグラスの茂み、クリスタルの花、ホログラムの川が流れる美しい世界。そこは数々の石碑が建てられたウルトラ大戦争で亡くなった戦士達を弔う戦没者記念碑だった。未知の場所に目を輝かせるタロウと共にしばらく探検していた翌日、担任の教師に二人は呼び出された。戦士達が安らかに眠る場所に勝手に立ち入った件についてだった。
僕です。僕が最初にトレギアを誘ったんです。叱るなら僕を叱ってください。
タロウはトレギアを庇った。目を丸くするトレギアだったが、正直に告白したと判断された教師から許して貰った。一緒に帰る途中タロウは話し掛ける。
また明日も一緒に遊んでくれる?
え?……うん
満面の笑みを浮かべるタロウはぴょんと飛び上がる。
プラズマスパークの逆光となったタロウのシルエット。
日差しのような暖かささえ感じるその光景はトレギアの脳裏に焼き尽いた。
タロウ…
第2章 冒険の日々
親友になった2人は数々の惑星を冒険する青春の日々を過ごした。
過酷な環境や危険な原始生物と鉢合わす事もあったが、隣に居る明るいタロウの姿を見るとトレギアは不思議と安心した。
昔では考えられなかった温かい気持ち。彼となら自分は何処へだって行けると信じていた。
高等部に進学してからも、トレギアはアーカイブで研究と思索を続けていた。
ウルトラ族と対を成す暗黒皇帝・エンペラ星人の存在。
光と影の関係。恐怖。孤独。虚無。闇。
光の国には無い概念にトレギアの興味と探究心が尽きる事は無く、トレギア本人ですらそれは止められなかった。
何を暗い顔してるんだよ、冒険に行こうぜ!
そんなトレギアを掬い上げたのは常にタロウだった。
彼と共に居る時間は胸に渦巻く悩みや疑問から開放される。
無意識に近くにあったメモにトレギアはペンを走らせていた。
長い長い夜がやってきて
星の明かりすら見えなくても
太陽のような君がそばにいてくれたら
僕は怖くない
だからそばにいておくれ
覗き込んできたタロウに音読された上に詩人の才能があると褒められた時は、さすがのトレギアも肝が冷えていた。
古代遺跡の探索中、思わぬアクシデントに見舞われた。
遺跡に生息する原始生物にトレギアは捕らわれた。もう一体の個体を相手にしていたタロウも近くにいる原住民を護りながら戦うが体力も限界に近づいてくる。
友人の命と住民達の命。
どちらを助けるかの二択に迫られる中、トレギアはウルトラ族である自分ならある程度丈夫な肉体である以上、死ぬ確率は低い事を見越し自分の事よりも先に住民達の救出するよう、タロウを急かす。
同時に二つを助けられない時、どちらを助けるか選択する時が来るんだよ!どちらも駄目にしてしまう前に!
しかし、タロウはそれを払い除けた。
それって大きな犠牲を出さない為に小さな犠牲を見過ごすってことだろう!?
そんな事は僕にはできない。両方とも助けるんだよ!
曲がった事を許さず、自分の身が犠牲になろうとも皆を守るため戦う。
タロウとはそういう男だった。
決死の思いで発動したウルトラダイナマイトで原始生物を焼き倒し、タロウは親友と住民達両方を救い出した。自分には出来ない所業にトレギアは感服と、彼のような選択が出来なかった自分に対する情けなさが込み上げてくる。
では私はどうなんだ?
私はヒーローたる資質を持っているのか。
気絶したタロウを担いでる間、トレギアは自問自答を繰り返していた。
やがて青春の日々は終わりを告げる。
二人はそれぞれの進路を考えていた。
タロウは父と同じ宇宙警備隊、トレギアもタロウと同じ進路を望んだ。
元々ブルー族は技術者や文学者などのインテリ系の職業に向いており、その中でもフィジカルが低いトレギアにはハードルが高かった。
私もなれるかな、光の使者に。
なれるとも、夢を諦めなければ!
入隊試験に向けて、自身の体力面の低さを改善するためトレギアは血の滲むような特訓を始めた。
適正が無い事実は承知だった。それでもなりたかった。
親友として、ヒーローとしても眩しいあのタロウの隣に立っていたい。苦しくても辛くても、タロウと同じ光の使者になる夢を、叶えるための努力だけは諦めたくはなかった。
結果、トレギアはギリギリ点数が足りず不採用。タロウは問題無く入隊が決まった。
プライドの高いトレギアにとって初の挫折。
自分の至らなさに悲観するトレギアにタロウは科学技術局を薦めた。
前線で戦うだけが光の使者じゃない、科学や調査で平和に貢献するのも立派な戦いなのだ、と。
彼の慰めにトレギアは笑みを零す。
自分はタロウのようにはなれない。
タロウとの冒険の日々はここで終わったのだ。
技術局員のトレギアはウルトラマンヒカリが配属する技術・開発顧問で働いていた。
入局して間もない頃、上司だったウルトラマンヒカリから科学者としての才能と資質を見抜かれ、この部署に抜擢された。
スターマークシンボルを授けられるほどの功績を残したブルー族の誇り。
そんな彼の期待に応えるためにトレギアは働き続け、多元宇宙での長期活動を可能にするためのデバイスも開発していた。
警備隊員になったタロウも様々な任務をこなす日々をおくっていた。ウルトラ兄弟やウルトラの父母が応援に向かう事態になっても傍観するしか無かったが、それでもタロウなら必ず生きて帰ってくる事を信じ続けた。
バット星人によるゼットン軍団の侵略を対処してからしばらく経った日、ヒカリは辞職してしまった。敵とはいえ自身の軽率な判断と対応から戦争を引き起こした責任を感じ、今は命の惑星アーブで民達の平和を護っていた。
恩師として、上司としても尊敬していたヒカリですらリタイヤしてしまう事実にトレギアは気を落としていた。
やがて地球の防衛任務を終えたタロウが帰還してきた。一段と成長し、久し振りに会う姿にトレギアの心は明るくなり、彼の地球での思い出話を聞いていた。
ZATという防衛組織で同じ志を持つ仲間達と共に戦った事、何度脅威に見舞われても折れずに立ち向かう地球人の素晴らしさにタロウは感動していた。
昔アーカイブで調べた時、犯罪件数の多さ、国同士の戦争、自然環境の汚染や破壊などの暗部を事前に知っていたトレギアは共感こそできなかったが、物事や相手の明るい面を常に信じるのもタロウの良さであると一人納得していた。
タロウが地球で得てきた情報をデータにして纏める事で新型デバイス・タイガスパークが完成して(※下記参照)しばらくした後、ヤプール人の暗躍を嗅ぎ付けた警備隊の任務によりタロウは再び国から離れる事になった。
遠くなっていくタロウの背中をトレギアは見送った。
昔の頃よりも落ち着きがあり、光の国からも地球からも認められる太陽の子。
成長を続けるその姿に親友として喜ばしい反面、胸の奥に痛みを感じていた。
帰宅の準備を進めながら、昔タロウが褒めてくれた詩の一部をトレギアは口ずさんだ。
闇が宇宙を覆ったとしても
太陽のような君がそばにいてくれたら
僕は怖くない
だからそばにいておくれ
第4章 光と闇の向こう側
タロウが居ない光の国が段々精彩の欠けたぼんやりとした世界に見えてきたトレギアだったが、落ち着く余裕など無かった。
バット星人以降も新たな敵勢力が国を攻めてきており、科学技術局もその対応に追われていた。
何度防御力を上げても、何度新しい武器を開発しても敵は更に力を強め攻めてくる。
激しさを増す戦いにトレギアは焦りを感じるも、光の使者として闇に打ち勝ってみせる、光こそ正義なのだと鼓舞するが、ふとある事を思い付く。
それは幼い頃からの疑問でもあった。
光とは本来暗い場所で点滅したり、何かに反射する事で視認できる現象を指す。
要は闇があるからこそ光は眩しく見える。
プラズマスパークから放射されるディファレーター光線で惑星全域を包んだこの国は日中明るい状態で夜という風習が無い。一点の闇さえ無いなら、何が我々ウルトラマンを光とたらしめるのか。
光を名乗るにはそれを知る必要がある。闇に向き合わなければ、光の事だって解らない筈だ。
トレギアはアーカイブに引き籠もり、日々を光の国の歴史研究に費やすようになった。国の暗部を調べる中ある記録がトレギアの目を引いた。
ウルトラマンベリアル。光の国の唯一の犯罪者として有名な男。
戦友のケンと肩を並べられる実力がありながら更なる力を求め、国の法を犯した後追放。その後レイブラッド星人と融合する事でその力を光の国への復讐へと利用し、駆け付けたウルトラマンキングによって宇宙牢獄に幽閉されたと記されている。
絶対的な光である筈のウルトラ族から犯罪者が出た事実をトレギアは噛み締めた。
超人的能力も闇に魅入られれば、正義や平和とは真逆の使い方をされ、脅威になりえてしまう。
ベリアルのように道を踏み外す可能性が微塵でもあるのなら、我々ウルトラマンは宇宙にとって一点の曇りなき正義と呼べるのだろうか。
トレギアは更にベリアル周辺の情報を調べた。彼が法を犯してまで力を求めた動機や深層心理まで考察しなければ真に理解したとは言えない、そう思った。
暗い面や悪い面ばかり見るのは良くない、というタロウの言葉を思い出すトレギア。
しかし見てはいけない、と言っても闇は厳然とそこにある。
何故そこから見てはいけないのか。
未知の領域を知りたくはないのか。トレギアは研究を進めた。
光や正義に対する疑惑が膨らむ中、技術局内にある報告が入る。
高次元捕食体ボガールによる惑星アーブ襲撃事件。
民達は皆食い殺され、怒りに燃えるヒカリだがボガールには逃亡されてしまい、何も救えなかった不甲斐なさと復讐心にアーブの鎧が応えた。
ハンターナイトツルギと名を変えたヒカリはボガールを打ち倒す責任感から、周囲の被害を顧みない戦い方をする復讐鬼へと変わった。
知的で理知的で、同じブルー族としても尊敬していた上司の変貌にトレギアは愕然とした。
ウルトラマンは神ではない。
神ではないが、善と悪、光と闇、宇宙のバランスを取る仕事をしている。
ベリアルとヒカリの存在は光の国に走った亀裂だ。ウルトラマンに生まれ、強大な力を持ちながら、欲望や復讐という闇に魅入られてしまう者がいる。
我々はただ図体がでかいだけで地球人同様、過ちを犯す可能性を秘めた未成熟な生き物だったのではないか。
ただ力を持っているという理由だけで、偉そうに正義という拳を振るっていただけなら、それは宇宙にとって明らかに危険な事だ。
結局光と闇は表裏の存在に過ぎず、延々と終わりのない戦いを続けていくだけなのでは。は。
元々物事の暗い面に執着してしまうトレギアの思考は疑惑と恐怖で埋め尽くされた。
茫然自失・発狂しながらトレギアは光の国から姿を消した。
トレギアは惑星チュツオラに行き着いた。
星間連盟の管理下にあるこの星は彼らが出したゴミを受け入れる場所でもあった。
辺り一面に広がる廃棄物の山。何も信じられず、使い物にならなくなった自分にふさわしい場所だと住み着こうとした時、ある物を見つける。
それは廃棄物の中に含まれた有機物。原始生命のプールになりうる存在だった。
遺伝子学も学んだ自分ならこの有機物が持つ情報をDNA化できる。新たな生命を産みだす事ができる。生命倫理の根源に触れる事は理解していた。
しかし神では無いが、神と同等とも言える生命体であるウルトラマンがゴミに命を宿した時、その先に何があるのか。それはトレギアの興味をひいた。
「決してやってはいけない」は「やって確かめろ」というのが幼い頃からの彼のルールだった。
DNA化した有機物はやがてナメクジに似た怪獣に成長した。
トレギアは「スナーク」と名付け、スナークはトレギアにとてもよく懐いた。
自分が産み出した命の愛しさにトレギアの心は満たされていく。そんな幸せが続くと思っていた。
ある日星間連盟が無限に出す大量のゴミをスナークは取り込んでしまい、急速に成長した巨体のまま都市と住民を襲い始めた。
トレギアは食い止めようとするが戦闘能力の低さも相まって侵攻を止められない。
自分への無力感を痛感しつつ、制作時仕込んでいたDNA情報のバグを作動させる事でスナークの暴走を止めた。目の前で悲鳴を上げながら配列したDNAを組み換え、様々な生物に姿を変えるスナークはやがて一輪の花になった。
花は枯れ、トレギアの手の中で塵になった。
自分が産み出した命さえ救う事ができない無念を背負い、チュツオラを後にした。
冷たい暗闇と点々と並ぶ星を見つめながら、トレギアは彷徨っていた。
風の噂でタロウに息子が産まれた事を知った。名はタイガ。
かつてタロウと共に作ったタイガスパークから肖って付けたものだと察し、トレギアは笑みを零した。ウルトラ兄弟No.6として目まぐるしい活躍を成した彼も遂に一児の父になった。
眩しいあの姿を思い出すトレギアは一つの考えに至る。
光と闇に上下は無く、表と裏の関係。
ならば闇を極める事は光を極める事と同義なのではないか。
たとえ見え方が違ったとしても、彼とまた隣に居られる日が来るかもしれない。
そんな淡い希望を胸に、トレギアは宇宙に深淵に佇む遺跡へと向かった。
第5章 遺跡の惑星
深淵へと続く暗闇、長い長い孤独の旅でトレギアは正気を失い、やがて「光も闇も等しく価値が無い」という幻想まで抱き始めた。
かつて光や闇が生まれる前、全てが混沌の渦で構成されていた時代から生息していた太古の邪神。
遺跡に閉じ込められていた邪神の封印をトレギアは解いた。
数百体の邪神はトレギアの肉体に入り込み、彼に様々な力を与えた。
光の国では得られない光線と切断技、あらゆる生命体を狂暴化させる呪術、多次元宇宙を自由自在に超えられる魔術。更に何度肉体が滅ぼされても、別の多元宇宙に居るトレギアに記憶と能力を移す事で生きながえるバックアップ機能。
もうディファレーター光線も要らず、カラータイマーも鳴る事はない。
光も闇も超越する混沌の力を手に入れたトレギアは内なる邪神が囁くまま、その力で別の宇宙へと赴いた。
年老いて、夢も生きる意味も無くした老婆には全てを美しい宝石に変え、保存する能力を与えた。
宇宙の白血球として生を受けたコスモイーターの遺伝子を弄くり、各惑星を除菌するように暴走させてみた。
ベリアルの息子として産まれた彼が親友を自分の手で殺した時、父と同じ闇に魅入られるか否かを確かめてみた。
一家の長男という理由から夢を妥協し、自分自身の進路が見い出せない火のクリスタルを使う青年には、星々を救うウルトラマンとして生きるか否かの二択を出した。
ゲームクリエイターになれず挫折した青年には世界を滅ぼすほどの力を授け、ウルトラマンの力を使う親友に差し向けた。ゴアファングだのワールドエンダーだの、熱心に怪獣のネーミングを考える様は少々呆れた。
そんな運命や宿命に関するちょっとした悪戯を好奇心の赴くまま、数々の宇宙でやってきた。
夢や希望という甘味を与え、絶望と破滅という悲劇や喜劇に導く。
夢を尊重し、絆を重んじるあのタロウの陰になるために。
自分は確実に彼に近付いている。
タロウ、私は君が生きられなかった反面だ
ようやく私は君の影になれたんだ
技術局員当時、トレギアが開発していたウルトラ戦士専用デバイス。宇宙の平和と秩序を統括するには量子構造の異なる多元宇宙でも長期で活動する必要があると設計・開発されたもの。ウルトラ族の肉体をアストラル体に変化させ、その星の生物のインナースペースに定着させる事ができる。当初は様々な宇宙に進出しているウルトラ戦士の情報が不十分だった事、情報保管庫の使用許可を貰おうにも技術局の要であったヒカリが辞職してしまった不都合が重なった事で完成には至らなかった。
その後1986年の地球から帰還したタロウ(メビウス&ウルトラ兄弟)から、「今後活躍するであろう若きウルトラ戦士と地球人との絆の象徴となりえる素晴らしい発明」とその生命体との信頼関係もとい絆をエネルギー源にするアイデアを貰い、技術局長官からの認可も下りた事で開発を再開。最終的にはキーホルダー型の端末にアストラル粒子化したウルトラ戦士の情報を組み込み、それをデバイスで読み込む事で量子構造の異なる生命体の肉体を借りて一定時間戦えるシステムとして完成に至った。
完成した際、名前が長ったらしくて呼び辛いという理由から新しい名称を考える際、二人が初めて友人になった日に見たプラズマスパークに照らされたタロウの輝かしい姿を思い出したトレギアの「タロウスパーク」というアイデアからアレンジして、光の国の原語で「太陽を抱く勇気ある者」という意味を持つ“タイガ”から、タイガスパークと名付けられた。
『ウルトラギャラクシーファイト 大いなる陰謀』にて闇に墜ちる前のトレギアの姿が公開。
ベリアル同様トレギアにもアーリースタイルと呼ばれる姿があるのでは?とファンからも予想されていたが、過去編にて「青い彼」と呼ばれていた通り青色のツリ目(※同じM78星雲出身で青目だとウルトラマンパワードが居る)と水色と銀色が基調の容姿だった。
アブソリュートタルタロスがベリアルの闇墜ち√を変えた影響により大筋こそ上述のトレギア物語やヒカリサーガと同じだが若干誤差が生じた時間軸で、タルタロスから自身の配下に下るよう勧誘される。
プロデューサーの鶴田幸伸によるとトレギアは古代ギリシャ語で「狂った好奇心(τρέλα(トゥレラ)+περιέργεια(テリエルギア))」という意味らしい。(母国でもある光の国では「狂おしいほどの好奇心」という意味。)
掲示板
296 ななしのよっしん
2022/11/26(土) 12:31:12 ID: 1tFDklcG1M
「私の先祖も似た様な奴に執着されたものよ..」(後に息子にNO6に似た名前をつけるプロレスラーK.Sさんのコメント)
297 ななしのよっしん
2023/09/23(土) 22:27:07 ID: Kaf/9mdgcW
ゼットのキャラ造形はトレギアへのアンチテーゼも含まれていたんかなと思う
お勉強は出来るが宇宙警備隊に入れなかったトレギアとお勉強は苦手だが宇宙警備隊に入れたゼットって時点で対比になるわけだが
平行同位体もタロウやタイガに執着しているがゼットの来歴や人となりについて知ったら「何故お前ごときが栄光の宇宙警備隊に入れた!」とか言いながら攻撃してくるのだろうか
298 ななしのよっしん
2023/11/18(土) 23:57:21 ID: TedROcN9yt
アニマックスミュージックスにて
タイガ(寺島拓篤さん)が歌ってた「Nameless Story」をトレギア(内田雄馬さん)がカバーした件。
急上昇ワード改
最終更新:2025/01/13(月) 13:00
最終更新:2025/01/13(月) 13:00
ウォッチリストに追加しました!
すでにウォッチリストに
入っています。
追加に失敗しました。
ほめた!
ほめるを取消しました。
ほめるに失敗しました。
ほめるの取消しに失敗しました。