曖昧さ回避
- 「アップルシード」 士郎正宗による漫画作品。本項にて解説。
- 「アップルシードXⅢ」 上記漫画作品を原作として作られネット配信されたアニメシリーズ。該当記事参照。
- 「ジョニー・アップルシード物語」 上記漫画作品のタイトルの元ネタとなった伝記。
概要
「アップルシード」は、漫画家・士郎正宗の商業デビュー作となったSFサイバーパンク漫画である。雑誌連載を経ずに描きおろし単行本という形で関西の出版社である青心社から発行されたにも関わらず、ポリスアクション、SF設定、政治劇、その他雑学も含めてハイレベルな内容によって読者の支持を集め、士郎正宗の名を一躍全国に知らしめた作品として名高い。
青心社から本編4巻とデータブック1巻、コミックガイア連載版1巻(これを5巻と称する場合がある)が出版され、のちにメディアファクトリーから本編4巻が文庫版として、講談社から本編1&2巻を一冊にまとめた大型の合本1巻が発売されている。世界情勢の変化などから士郎本人が続編を凍結していることもあり、新作が出る目途はたっていない。
しかしながらアニメーションがOVA1本、ショートフィルム1本、CG映画3本、シリーズ作品1本(アップルシードXⅢ全13話)まで製作され、CDドラマ化、ゲーム化もされるなど、士郎作品の中では「攻殻機動隊」に次いで人気は高い。
その攻殻機動隊(原作漫画版)とは共通世界であることが「データブック」において明かされており、攻殻機動隊の結成は2029年、アップルシード1巻は2127年の出来事であると記されている。サイボーグの皮膚組織が無くなっていること、電脳がほとんど使われていないことなどから、技術的に退化しているようにも見えるが、これに関して士郎自身が「電脳のデメリット問題から普及していない(ガイア連載版)」「BC兵器などの影響により、人工皮膚が使われなくなったのかも(文庫版あとがき)」と発言している。
アップルシードの漫画には別の著者による「XⅢ(サーティーン)」や「α(アルファ)」も存在するが、これらは同名アニメのコミカライズで、士郎自身が著したシリーズとは設定面で異なる部分もあり、続編というわけではないことを留意されたい。
ストーリー
2125年に起こった世界規模の武力紛争(第5次大戦と呼ばれる場合もある)によって、世界の情報網は寸断され、かつての国家体制は崩壊してしまっていた。元ロサンゼルス市警SWAT隊員のデュナン・ナッツは、全身サイボーグの相棒にして恋人のブリアレオスとともに廃墟と化した街でサバイバル生活を続けていた。
そんなある日、ヒトミと名乗る少女が二人のもとに現れて戦争が終わったことを告げ、地球全土を統合した総合管理局こと巨大人工都市オリュンポスへと導き入れる。一見、平和な社会に安堵する二人だが、しだいにそこで蠢く陰謀へと巻き込まれていくのだった。
主な登場人物
デュナン・ナッツ
主人公。2105年生まれ。一見して白人だが、黒人の血筋も入ったかなり複雑な混血。SWAT指揮官だった父カールから年齢に見合わぬ戦闘技術を叩き込まれている。オリュンポスでもSWATに就職するが、その腕前の高さから早々に腕利きの集まるESWAT(エスワット)へと配置換えされた。しかし年齢層の高いESWATではガキ呼ばわりされることもしばしばである。利き腕、利き目は右で、ニケに「右肩が長いからすぐに分かった」と看破される場面があるが、左でも使えるよう訓練されている。ほかには循環、神経系の防御として体内に数種のプラントが埋め込まれている。ブリアレオス以外の人物となかなか信頼関係を結べないため、実力が発揮できなかったりトラブルメーカーになりやすい。特に父の影響でグリーンベレーを見下している面(ウシガエルやガールスカウトなどと言う)があり、このことから同僚のパニとは相性が悪い。買ったばかりのランドメイト、借りた車両、戦場となった家屋まで彼女の身の回りではよく器物が壊れるので、マグスからは壊し屋と呼ばれる。
ブリアレオス・ヘカトンケイレス
デュナンの相棒にして恋人。2096年生まれ。アップルシード世界では数百人に一人と言われる、トータルバランスに優れた全身サイボーグ。映像作品では機械化前は白人の場合があるが、漫画では黒人とされている。ソ連のKGBにスカウトされたのち、非道なテロを計る作戦将校を殺して逃亡。2116年にデュナンの父カールと出会い、そのチームに入る。サイボーグ化したのは2122年の爆発事故がきっかけ。無限にタコ足配線できるヘカトンケイレス・システムを搭載した高機能サイボーグで、脳の増量もされている。頭部には8つの目があり、4つが顔面、2つが後頭部、残り2つが耳のようなセンサーの先端に配置されている。顔面中央にある大きな円型部分は目ではなく鼻である。サイボーグとしての高い性能と慎重な性格には、ESWAT隊内で厚い信頼を寄せられており、重要任務に選抜されることが多い。
ヒトミ
遺伝子操作により人為的に作られた人間(バイオロイド)で、日系の遺伝子を持つ。漢字では「人美」と書く。一見してデュナンより年下で子供っぽい性格をしているが、生年は2074年とブリアレオスより上である。これはバイオロイドの年齢調整によって延命しているため。総合管理局の立法院を運営する7人の老人の秘書のような仕事をしているほか、オリュンポスのメインコンピュータ・ガイアの停止DNAを持っているが、そういった重要な立場にあることをあまり自覚していない。副業として、オリュンポスへの移住者や訪問者の面倒を見るコンパニオンをしている。
義経
宮本義経。ヒトミのボーイフレンドのバイオロイドで、明智モータースのメカニックとして働く一般市民。彼も日系の血が流れている。かなりのメカマニアで、プロテクタやランドメイト、あるいはそのプラモデルなどを多数所持。2巻で着ているバイクへ変形するプロテクタも彼の私物である。ただしメカニックとしての腕は並。
アテナ・アレイアス
オリュンポス総合管理局の行政総監(行政局長官)。女性のバイオロイド。日本で言うと首相のような立場にあたる。見た目にも分かる硬骨な切れ者で、時に非道な作戦も立てるが、人類の未来を真剣に憂いている。ESWATや警察などの治安維持機構は行政院の指揮下にあることから、ESWATの実質上トップといえる。
ニケ
内務大臣を務める女性のバイオロイド。美人で有能なアテナの右腕。ESWATは警察と別の枠組みで組織された軍隊に準ずる法執行機関で、彼女の直属部隊であることから、ランス班長へじかに指示を出すこともある。
局長
オリュンポス司法省長官。男性のバイオロイド。アテナや立法院の七人の老人とならぶ、オリュンポス最高責任者のひとりで、FBIなどを下部機関に持つ。アテナとの会話シーンを見る限りでは、彼女より優位にいるようである。
アルゲス
本名ヴェルンド。オリュンポスFBI指揮官のひとりで、ブリアレオスとは旧知の間柄。表向きはバイオロイドを装っているが都市企画班(オリュンポス総合管理局を企画設計した機関)が監視のために潜り込ませた人間。FBIには彼が指揮する隊のほかブロンテス隊、ステロベス隊がある。
七人の老人
オリュンポス立法院の主要運営メンバーであるバイオロイド。オリュンポスを管理運営するコンピュータ・ガイアの補助ユニットとしての役割を持つためサイボーグ化している。彼らの傘下にオリュンポス議会がある。2巻でエルビス(人類適正化)計画を発案するが、これが大きな事件の引き金になる。
コットス
オリュンポス製のロボットポリスで、爆弾処理などの危険任務のために開発された「歩く弾よけ」。外装は意外と軟らかく、跳弾を起こして周囲に被害を与えないよう配慮されている。言葉をしゃべることはないが、人間が与えた高度な指令も理解できる。
マシュー博士
ドクトル・マシュー。2062年生まれのサイバネ医師。士郎作品では世界観を異にする「ドミニオン」やアマチュア時代の「ブラックマジック」にも登場する常連で、クセのある発言をするユニークな人物。著書に「Human is Alien」などがある。腕は確かなはずだが発言が怪しいためか、重傷を負ったESWAT隊員が「それ(ドクトルマシューの治療)だけはやめてくれ」と懇願していた。
マグス
メアガスとも呼ばれる。言葉のはしばしから豊富な経験と優れた能力を感じさせるESWAT隊員。女好きで3巻ではあちこちでモーションをかけており、4巻ではパニとつきあっている。特注のグリップをつけたピストルを愛銃としているらしく、ベゼクリク襲撃グループの傭兵隊長はそれでマグスを見分けていた。ムンマ教国とは浅からぬ因縁があり、彼らの手口に詳しいようで、コミックガイア連載版ではブリアレオスが「宗教がらみはマグスのオハコ」とつぶやいている。
モートン
マグスの相棒。元旧アメリカ海兵隊に所属し、第五次大戦後に米ソ連合へ編入。そこで問題を起こして除隊となり、シカゴへ帰ったが家は全焼。オリュンポス派遣医隊の看護婦と知りあったことがきっかけでオリュンポスへと移り、ESWATに入隊した。アルテミスの仕掛けた警報罠に気づかなかったり、ベゼクリク襲撃事件の捜査メンバーから外されたことに激昂したりと、いくつかの不手際が目を引く。
ファング
戦闘用バイオロイドA-10タイプの通称。正式名称はファング・ブラックボーン・ベリル・A10-F。3体いるA-10タイプはオリュンポス戦闘バイオロイド史に残る傑作のひとつと言われ、常に一人以上がESWATのランス班長に貸し出され警察犬的な役割を果たしている。白い服を着たジャンク、黒い服を着たボルトの二人が登場しているが、残る一人は不明。感情に惑わされない合理的な判断力の持ち主で、ジャンクはトラブルメーカーのデュナンを「いい部品じゃない」とブリアレオスへ忠告した。
スドー
スドー・シヘイ。スドオとも。身体的な問題でESWATの格闘教官をしていたが、オリュンポスの医療技術の発達によって現場復帰した。古武士のような雰囲気を持つ日本(日系)人で、ブリアレオスのような技量と経験に優れる兵士ですら軽くあしらってしまうほど高い腕前を誇る。
ドリス
ポセイドン(大日本技研)のスパイで「吉野」という名前を持っているが、こちらも本名かどうかは不明。アルゲス、ランスや都市企画班とのつながりもあり、どうやら二重スパイらしい。
パニ
メディオン・ラ・パニ。黒人女性のESWAT隊員、28歳。アメリカグリーンベレー隊員だったが、人種差別的なアメリカ帝国に反発してオリュンポスへ亡命した。「射的」は上手いが「射撃」のセンスに欠けるらしい。
ランス班長
ESWAT総指揮官である大佐(治安局長)の部下として、作戦に参加する人選、現場での指揮、また戦闘訓練などを担う。ニケとの直接的なつながりもあり、その信頼は絶大であるという。「ヒットは飛ばすがホームランはない」と言われる堅実派のため、時に作戦を完遂しきれないこともある。
アルテミス
ネコ目鹿耳の獣人タイプのバイオロイドで、都市企画班からオリュンポスへ重大な情報を届けるために創られた。戦闘用バイオロイドに匹敵する身体能力、コンピュータや銃器を使えるほどの知能はあるが、言葉も喋れず常識もないことから廃墟生活の間に人間を食料にしていた。単性生殖機能を持っており、3巻と4巻の間に三人の娘を産んでいる。
双角(ソーカク)
多々良双角。金に汚いがひょうきんな性格をしている憎めない傭兵。トラップマニアで特に爆発物に関してはスペシャリスト。デュナンに「金が欲しいなら植物屋(毒殺)か水屋(溺死)でもやれ」と言われても「華がねえ」と一蹴するほど爆発にこだわりがある。実は元SASサイボーグ部隊の軍曹で、アジアで戦ったあと金剛羅漢眼水(こんごうらかんがんすい)らと出会って傭兵チームを結成したという優秀な経歴の持ち主。ハードボイルドを気取ることもあるが、基本的にはギャグメーカーである。日本製の多機能視覚が自慢。
ES.W.A.T
デュナンやブリアレオスが所属する、オリュンポスの治安維持部隊。正式名称は「ESpesialy Weapon And Tactics」で、略称からS.W.A.T(Special Weapons And Tactics)の単なる上位チームのように聞こえるが、実態は警察から独立した行政院直属の執行機関である。組織系統図を示すと以下のようになる。
「行政院」(アテナ行政総監)
└「内務省」(ニケ参長)
│ └「ESWAT」(総指揮官:大佐)
│ └ ランス班長
│ └隊員(デュナン、ブリアレオスら)
└「警察」
├「本庁特捜部」
├「SWAT」
└「エアポリス」
デュナンのような優秀な元SWAT隊員や軍特殊部隊経験者など厳選された少数精鋭で構成され、その任務は単なる警察活動だけではなく、カウンターテロや軍事色の強い特殊任務も含まれる。全地球で197名(普通4個中隊)おり、うちオリュンポスには87人が所属する。
ESWATはオリュンポス移民者の中から、ヘッドハンティング形式などにより選抜されるため、あぶれた人材で構成されるオリュンポスSWATは質が低いというのが現状である。そのメンバーは殺し屋、傭兵、経歴詐称の軍人であることに加え、多国籍であることが災いし「使命感がないうえにチームがバラバラ」と2巻でデュナンが嘆いている。それから1年半ほど経て(ガイア連載版)もこの状況は変わっておらず、オリュンポスSWATにはいろいろと不手際が目立つ。
国際勢力
オリュンポス
アゾレスとカナリアの辺り(大まかに言ってスペインとアフリカ大陸の西側)に浮かぶ人工島に作られた都市で、国家ではなく総合管理局。したがってここの住民は国民ではなく局員という扱いになる。バイオロイドなどのハイテクで運営されるこの機関は、地球の統一管理保全を目的とし、いかなる民族にも属さぬ情報網化、富の再分配、環境保全などをグローバルに推し進める組織である。その発足は謎に包まれ、単なる理想主義以外の大きな要因があると思われる。島の総面積は727370平方キロでグリーンランド、ニューギニア、カリマンタンに次ぐ巨大な人工島である。
ポセイドン
大日本技研。巨大な海上都市群からなる企業連合国家で、高い技術力と資本を背景に産業複合体となった日本のこと。アップルシードの世界では、オリュンポスと並び世界中にネットワークを持つ強力な政治、経済勢力として描かれているほか、ポセイドン製マシンの性能の良さを褒める場面がいくつも見られる。データブックの地図には南東に巨大な分子ロボット本巣プラントが浮かんでいる。
米ソ連合
アメリカ東海岸(ボストン、フィラデルフィア)と西海岸(カリフォルニア)を中心とした地域を支配する国家で、アメリカのリベラル派とソ連の推進派が手を結んで生まれた。オリュンポスとは友好的な関係を結んでおり、南部を支配するアメリカ帝国と対立している。
アメリカ帝国
アメリカ合衆国の南部を中心に軍需産業や保守派などによって構成された右翼的国家。米帝と略される。アップルシード世界で1997年にEC議長となったヘンリー将軍の支持層が組織した軍隊を持つ。米ソ連合と敵対しており、オリュンポスとの関係もあまりよくない。
ムンマ教国
中東で2本のナイフ(イスラエルとイラン)に代わる新たな剣として生まれた過激な宗教国家。第5次大戦の傷が少なく、勢力の拡大を図って各地で暗躍している。米ソ連合、米帝、イスラエルだけでなくイスラム諸国までムンマ教に反対する勢力を「悪魔」と蔑視し、周辺のイランやパキスタンの緊張を高めている。
メカニック
ヘカトンケイル・システム
ギリシア神話の百手巨人になぞらえた多重情報処理システム。通称、無限タコ足配線システム。その開発には長い年月と多大な努力がはらわれ、2048年にはこのシステムを搭載したサイボーグ15人のうち14人が発狂する事件も起きた。ブリアレオスはこれを完全に使いこなせる数少ないサイボーグのひとりであり、4巻では増設した計4本の腕をバラバラに動かして状況に対処するシーンがある。
ランドメイト
アップルシードを代表するメカニックのひとつで、いわゆるパワードスーツ。LMと略される。着るというよりは乗り込むといった感じの装着感になっており、胸部に露出した内腕に人間の腕を通し、それをトレースする形で外腕が動く一種のマスタースレイブ操縦方式をとっている。脚にはそのまま人間の脚を通すが、関節の関係から縦方向だけ二倍の感度で反応する。ギュゲス、ギュゲスMM、ギュゲスD、グレーハウンド、パーン、HUMSなど多数の型がある。
プロテクタ
パワーアシストのついた簡易防護服。2巻で逃げるヒトミと義経が着ているものや、3巻でベナンダンティ作戦に参加したESWATが着ているオーク、4巻でギュゲスを降りたデュナンが着ているK-2ガーシムなどがそれ。現実に開発が進められているエクソスケルトンスーツに近い。
ダミュソス
超伝導と静電斥力を利用した重力制御式浮遊装置。実用1号が2125年にできたばかりの最新鋭テクノロジーである。作中でプロペラも翼もなく飛行しているものには、もれなくこのダミュソスが搭載されているらしい。
多脚砲台
士郎作品ではお馴染みのクモ型ロボット。オリュンポス防衛用かつ対ランドメイト用として数十メートルもの大きさがあり、中枢コンピュータ・ガイアの指令によって動作する。ダミュソスを搭載しているため、その巨大さにも関わらず浮遊移動もできる。オリュンポスにはこのほかにも多脚銃座など、クモ型防衛ロボットた多数配備されている。
ガイア
オリュンポスの都市機能を司る巨大コンピュータ。名前はギリシャ神話の大地の母から。非常に強力かつ有能で、単なる管理者としての立場以上の機能もある。ハッカーや災害による被害を防ぐため、内部に多くの階層やブロックを持つと思われる。
関連動画
関連項目
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